ライラの苦悩
ギルドへ着き、俺たちは扉を開け、早速入っていった。
中は賑やかで、それがなんだか落ち着く。
・・・ただ、俺はあるものを見てしまった。
「・・・なあ、あそこにいるのって。」
失礼だが、俺は遠くにいる女性を指さした。
安物の鎧を身に着けて、独りで席に座っていた女性。
だが、その顔は間違いなく"彼女"だった。
「ライラ・・・。」
リースが不思議そうにそう言った。
それもそのはずだろう。
ライラの顔はとても寂しそうな感じだった。
「なにかあったんかな?」
ジェラルドが腕を組みながらそう言った。
「・・・はぁ、仕方ないな。」
マックが溜息をつきながら、ライラの元へ向かっていった。
俺らもマックの後に続いた。
「おい、ライラ。」
「あ、マック様・・・。」
元気がない声でライラが喋る。
今にも泣きそうであった。
「どうした? 元気がないようだが・・・?」
マックがそういうと、ライラは俯いた。
そして少しの間を置いて喋り出した。
「・・・足手纏いだと言われました。 前に一緒に依頼を受けた人に・・・。」
ライラの話を、マックは黙って聞いている。
「私、体力が全く無いので、迷惑ばかりかけてしまって・・・。」
喋れば喋るほど、ライラの元気は無くなっていく。
ついに体から震えまで出てきた。
「ふむ・・・。 ・・・で、お前はどうしたいんだ?」
マックが腕を組みながら、そうライラに言い放った。
その言葉を聞いたライラは「え?」と言いながら顔を上げた。
少しの間を置いてから、マックは話し始めた。
「お前は、どうしたい?」
再び同じ言葉を発するマック。
横から覗けば、その目線は鋭くライラを見つめていた。
ライラも、マックの目から視線を一切逸らさずに、頑張って言葉を出そうとしていた。
そして数秒後、ついに言葉を出した。
「強く・・・なりたいです・・・。」
ライラの目は真っ直ぐと、マックを見つめた。
そしてその言葉を聞いて、マックは「フンッ」と軽く笑った。
するとマックは後ろに振り返った。
「今日は俺が依頼を選んでいいか?」
「え? ・・・い、いいですけど。」
後ろにいたリースに許可をもらうと、マックは依頼が張り出されているボード目掛けて歩き出した。
俺らは『シーアン』から離れたところにある「森」へやってきた。
いつものメンバーに加え、仕方なくヴァニラも同行させている。
そして今回は、先程ギルドで会ったライラもいる。
「いいかライラ。 お前に足りないのは沢山あるが、とりあえず最優先すべきものは『体力』だ。」
「はい・・・!」
マックとライラは並行して先を歩いている。
まるで部活のコーチと生徒のようだ。
その後ろを俺たちは歩いている。
マックが選んだ依頼は≪バレルボア討伐≫。
今回はあくまでライラの特訓が目的らしく、俺らはサポートのようだ。
モンスターが数匹でた際に、ライラが一対一になれるようにするのが仕事だ。
・・・つまり、仕事が無い可能性もある。
「マスター、あの方は一体誰ですか?」
そういえば、ヴァニラに話していなかったな。
逆に、ライラにもヴァニラのことは話していない。
・・・いや、ヴァニラのことを話していいのか?
う~む・・・。
「マスターったら!」
「ん? ああ。 あの人は友人のライラだ。」
考え事をして、説明するのが遅れてしまった。
・・・そういえば、未だに疑問がある。
なぜライラは普段着ている"豪華な鎧"ではなく、"安物の鎧"を着ているのだろうか?
前に聞いたときは「依頼によって武器を変える」と言っていたが、あの時の仕草はまるで何かを隠しているような感じだったな。
「よし、まずは駆け足だ!」
「はい!」
そう言うと、二人は先にある木々の中に消えていった。
「・・・なぁ、あれって本当に特訓になるのか?」
「さぁ・・・。」
俺とジェラルドは肩を竦めた。
一瞬、二人を見失ったが、なんとか追いつくことができた。
そこには中腰になってバテているライラの姿があった。
そして、そのライラを呆れた顔で見つめるマックの姿もあった。
「もうバテたのか・・・。」
「す・・・すみ・・・ません・・・。」
息を切らしながら、ライラは謝った。
体全体が、特に膝がガクガクしている。
「なあ、最初から飛ばしすぎじゃねえか?」
さすがにジェラルドが止めに入った。
「どのくらいの体力かを改めて調べただけだ。 だが、ここまでとは・・・。」
マックが困ったような感じで言い、腕を組んで考え込んだ。
どうやら計画を改めて立て直しているのだろう。
「この森に来るまでにも結構な距離があっただろう。 それも含まれてるんだろう。」
ジェラルドがおそらくフォローのつもりでそう言ったのだった。
「大丈夫か?」
とりあえず、俺はライラを気遣った。
すると彼女は顔を上げて「はいっ・・・!」と言って、無理に笑顔を作ってきた。
「辛かったら辛いと言っていいんすよ? 何事も無理はダメっすからね。」
「はい・・・、すみません・・・。」
息を切らしながら、ライラは返事をした。
思えば、初めて会った時からライラは謝りまくっているな。
それが彼女の性格の良さを表しているが、同時に彼女の悪いところでもある。
・・・まあ、俺は嫌いじゃないからいいが。
いきなりマックが手を「パンッ!」と叩いた。
「しゃーない。 少し休憩するぞ。」
そう言って、その場に腰を下ろした。
まあ、ライラがこれでは仕方ないだろう。
俺も従って、その場に腰を下ろした。
すると、俺の隣にヴァニラが座ってきた。
「街の外にいる間は服を脱いでもよかったかもな。」
普通の服と帽子を身に着けているヴァニラに話しかけた。
町の外なら騒がれる必要はないし、脱いでもいいかもな。
「いえ、せっかく選んでもらったのですから、今日だけはこの格好でいたいです。」
ヴァニラの返答は意外なものだった。
てっきり文句の一つでもいうのかと思ったら、気を遣ってくれた。
コイツ、普通に良い子なんだな。
「あの、タカヤさん。 その子は一体・・・。」
ライラが中腰で、俺の正面に立っていた。
・・・そういえば、まだヴァニラのことを紹介してなかったな。
まあ、ライラには本当のことを話してもいいか。
俺はライラに、ヴァニラや魔剣のことを話し始めた。
「魔剣・・・使い魔・・・呪い・・・。」
「まあ、そんな反応になるよな・・・。」
やはりライラは混乱していた。
まあ、仕方ない。
俺自身も当初はめちゃくちゃ混乱してたからな・・・。
「ま、まあ、世界にはまだまだ不思議があると言いますし・・・。」
「変なフォローはいいです・・・。」
元々別の世界にいた俺からしてみれば、モンスター退治をしている時点で既に不思議なことだがな。
今となってはすっかり慣れてしまっているが・・・。
「ところで、ライラがいつもの鎧を装備していない本当の理由を教えてくれないか?」
「え?」
俺は先程も脳裏に浮かべていた疑問を聞いた。
せっかくだから、この際聞いておこう。
「ま、前も話したじゃないですか。 あ、あれは・・・。」
「どうせ嘘か表向きの理由だろ? ライラは仕草を見てれば隠し事をしてることが丸分かりだぞ。」
「え・・・?」
ライラは驚愕していた。
おそらく、自分は気付いていなかったのだろうな。
しばらく黙り込んでいたが、数十分の沈黙の末、彼女の口は開いた。
「じ、実は・・・、私は倹約家な一面がありまして、あの鎧を使うのは勿体ないと思って依頼などでは使ってないんです・・・。」
「・・・え?」
意外な返答だった。
てっきり、もっと言えないようなことだと思ったからだ。
「でも、資産家の娘としての立場もございますので、普段は父から貰ったあの鎧を身に着けているのです。」
「・・・なるほど、そういうことか。」
謎が解けた。
安物の鎧を身に着ける理由は「もったいないから」。
豪華な鎧を普段身に着けているのは「資産家令嬢としての身嗜み」。
そういうことだったのか。
「笑えますよね・・・。 資産家の娘が"倹約家"だなんて・・・。」
ライラが辛そうに笑いながら、そう言った。
正直、俺は資産家の在り方などは全く知らん。
・・・だが、これだけは言える。
「俺は、「金をバラまく奴」より、「金を大事にする奴」の方が圧倒的に尊敬できる。」
「・・・え?」
ライラが何か言いたそうな顔をしていたが、俺は話を続けた。
「俺はライラを尊敬する。 決して笑ったりはしない。」
元いた世界の言葉では「もったいない精神」と言っただろうか。
この言葉は、世界を善くする言葉だとずっと思っている。
そして、ここにいるライラも、この精神を持っている者の一人だ。
「まさか、そのようなことを言ってもらえますとは・・・。 て、てっきり私は・・・。」
ライラは戸惑っている。
言いかけた言葉を唇を噛んで抑えていた。
「・・・休憩終わりだ。 そろそろ行くぞ。」
「あ、はいっ・・・!」
マックが近寄ってきた。
その言葉と共にライラは立ち上がった。
そして、俺の方へ体を回転させた。
「あ、あの、ありがとうございました・・・!!」
そして綺麗に整ったお辞儀をし、やや遠くで既に待っているリース達のもとへ歩き出した。
俺も同様に立ち上がり、リース達がいるところへ歩き出した。
・・・だが、「おい、タカヤ」とマックに呼び止められた。
俺はマックの方を振り向いた。
するとマックは俺の肩を「ポンッ」と叩いた。
「その、ありがとな・・・。」
そう言うと俺の肩から手を退けて、マックもリース達のもとへ歩き出した。
・・・一体なにに対しての御礼だったのか。
俺はしばらく考えたが、結局理解はできなかった。
ヴァニラも立ち上がり、俺の後をついてくる。
俺たちも、待っているリース達のもとへ歩き出した。




