女剣士リース
「『パーティ』って?」
正直、意味はわかっていた。
だが一応聞いてみた。
「つまり、私の主な仕事仲間になってください!!」
俺の両腕と繋いでいた両腕を上下に振りながら、リースさんは答えた。
甲冑の金属音が ガシャン ガシャン と鳴り響く。
「なぜ俺を仲間に・・・?」
「あなたは私を助けてくれました。 今度は私があなたを助ける番です!!」
あの時の3人のことか。
まあ、正直なところ冒険者のやり方を知らないから好都合かもしれんな。
だが、利用しているようで良心が痛むな。
「わかりました。 よろしくお願いいたします。」
「こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いいたします!!」
声の感じでわかるが、嬉し泣きをしているな。
そこまで喜ばれると、なんだか照れ臭いな。
「自己紹介がまだでしたね。 私の名前は「リース」と申します。 職業は『剣士』です。」
「「小板橋鷹哉」、"タカヤ"とでも呼んでください。」
なんだろう。なんか懐かしい感じがするな。
そういえば、初めて友達と話したのもこんな感じだったな。
・・・なんか、涙が出そうだ。
だがここは堪えろ。もう第二の人生は始まってるんだ。
「さて、早速行きますか?」
「えっ・・・。 リースさん、先程依頼が終わったばかりじゃないですか・・・。 休まないんですか?」
「あっ・・・。 そういえばそうでしたね。」
リースさんは、兜の頬の辺りをポリポリかいた。
おそらく「えへへ」というジェスチャーだろう。
「では、明日にしましょう。 今日は明日のための準備にしましょう。」
「普通、まずはそうするだろ・・・。」と頭の中では思っていたが、俺のために一生懸命になってくれている彼女を困らすわけにはいかないので、普通に「そうですね。」と返事をした。
いわゆる道具屋にやってきた。
「こんにちは!」
「おお、リースちゃんかい。」
奥にはまるで、童話に出てきそうなローブを被ったオバサンがいた。
おそらく彼女が道具屋さんだろう。
「おや、そちらの男性は?」
「今日から私の仕事仲間になったタカヤさんです!!」
「おおっ! ついに仲間ができたのか。」
ついに・・・?
なかなか仲間ができなかったのか?
「こりゃ、めでたいねえ。 じゃあ、お祝いに回復薬を安くしとくよ。」
「本当ですか!! ありがとうございます!」
良好な関係を築いてるようだな。
まるで祖母と孫のようだ。
リースさんは、回復薬と呼ばれる物を数個買っていった。
その後、店に並んでいるものを眺め始めた。
あの兜、見た目よりも視界が見やすいのかな?
「ありがとうね。」
リースさんを眺めていた俺の後ろから、道具屋さんが言ってきた。
「あの子ね。 戦いの腕は中の中ぐらいで悪くは無いんだけど、あまりにも純真でね・・・。」
「純真のどこが悪いんですか?」
俺が反論すると、道具屋さんは手招きをした。
俺が耳を近づけると、道具屋さんは小声で言った。
「悪く言うと、あの子はおバカなんだよ。」
なるほど。純真無垢ということか・・・。
正直、いままでの行動で少しだけ思ったことがあった。
だからすぐに納得した。
「でも、本当に助かったよ。 あの子はとてもいい子だからね。 誰かが支えてくれることを願ってたんだ。」
「果たして、俺にその役割ができるんでしょうか。」
俺はまだ、自分の「力」がこの世界で、どこまで通用するのかを知らない。
さらに、パルフェから授かった「力」すら、まだ判明していない。
俺がそう色々と考えていたら、後ろから道具屋さんが、優しい声で言ってきた。
「できなくてもいいから、とりあえずやってみてくれないか?」
「と、言いますと?」
「あの子の側に居てやってくれ。」
・・・ん?
もしかして、道具屋さんはなにか誤解をしているんじゃないか?
「勘違いすんなよ。 あの子は全く汚れてない純真さを持っているんだ。 軽い気持ちで手を出そうなんて思うなよ。」
ああ・・・。
誤解はしてないみたいだな。
とりあえず、安心はした・・・。
「はい、やってみます。」
「頼んだよ、ナイスガイ。」
買い物を終え、リースさんと共に道具屋を後にした。
外は夕陽で赤く染まっていた。
「もう夕方か・・・。 そろそろ宿を取ったほうがいいですね。」
そういうと、リースさんは宿屋に向かって歩き出し、俺もその後をついて行く。
宿屋は案外すぐ近くにあった。
ギルドと同じくらいの大きさだった。
「でも、俺金持ってませんが・・・。」
「大丈夫です。 今日は私が払います。」
本当に良い子なんだな。
初めて会ったのが彼女で、俺は幸運だったんだな。
宿に入り、彼女が受付で予約を取っている。
それを、俺は隅にある椅子に座りながら眺めている。
とりあえず、今日のところはどうにかなりそうだ。
だが、問題は明日だろう・・・。
明日からは本格的に、異世界での生活を始めることになるだろう。
この第二の人生を、俺はうまくやっていけるのだろうか・・・。
「お待たせしました。」
「いえ。」
「では、お部屋を見に行きましょう!」
そういうと、俺の腕を引っ張って階段を上がった。
そして2階に上がり、3つ目の扉に入って行った。
「ここが私たちが止まる部屋です。 なかなかに良いでしょう。」
「そうですね。」
正直、ボロボロな部屋とかを想像していたが、とてもしっかりした部屋だったので驚いた。
これならリースさんの仕事疲れなどを癒してくれそうだな。
・・・待て。
今なんつった・・・?
「えっ? 私"たち"・・・?」
「はい。 丁度2つベッドがありますし。」
ベッドに座ってる甲冑が、軽く飛び跳ねながら言った。
・・・って、そんなことを真面目に解説してる場合じゃないだろ!!!
「ちょ、ちょっと待ってください! さすがにコレはヤバいですって!!」
「え? どうしてですか・・・?」
「「どうしてですか」って・・・。 それくらい分か・・・」
ここで俺は、先程の道具屋さんの言葉を思い出した。
(あの子は全く汚れてない純真さを持っているんだ。)
そういうことかぁー・・・!!
・・・って汚れてないにも程があるだろう!!
まぁ・・・。チン○ンを知らないくらいだからそうか・・・。
俺は自己完結をした。
この人は「純真無垢」。悪く言えば「おバカ」。
それを忘れないでおこう・・・。
「普通は、女性が男性と一緒の個室で寝ることを嫌うんですよ。」
「私は大丈夫ですよ?」
「いや、えっと・・・。」
なんとかして説得しないと!
しかし、彼女の純白な心も守らなければ・・・!!
色々と悩んでいたら、彼女の方から話してきた。
「もしかして、私と一緒では嫌ですか・・・?」
「え?」
あ、あかん・・・!
これマズいパターンだ・・・。
「い、いえ・・・。 そういうわけでは・・・。」
「お気遣いをしなくていいです・・・。」
最悪だ。
今にも泣きそうな声だ・・・。
この人を傷つけたら、俺は一生後悔するぞ・・・!
しかし、このままでは・・・。
「だ、大丈夫です・・・。 わ、私、別のへ、部屋に行きますから・・・。」
あーくっそぉ!!
もう、どうにでもなれぇー!!!
「いえ、実は俺、もしかしたら鼾がうるさいかもしれませんから、リースさんに迷惑がかかるかなと思いまして・・・。」
「え? わ、私と一緒がい、嫌とかではな、ないんですか・・・?」
「そんなわけないじゃないですか。」
咄嗟にそんなことを思い付けるとは・・・。
いわゆる「火事場の馬鹿力」というところか。
・・・使い方あってるかコレ?
「よ、良かったぁ・・・。」
リースさんは兜のバイザーを上げ、涙を拭いた。
本当に泣いてやがった・・・。
というか、バイザーを上げれるのなら、普段から上げておけばいいのに。
それはともかく、結局一緒の部屋で泊まることになってしまった。
まあ、幸い別々のベッドで寝れるし、大丈夫かなぁ・・・。
「さて、では夜になるまで少し休憩しましょう。」
「夜・・・? 夜になにかあるのですか?」
俺の質問に、リースさんは満面の笑みで答えた。
「はい、ギルドで飲み会です!」