ある1日の終わり
その大男はただただ俺らの方へ近づいて来ていた。
傷だらけでボロボロになりながらも近づいてくるその姿は、正しく「怪物」と呼ぶのに相応しかった。
俺らはその姿に恐怖し、崖際から離れることしかできなかった。
数秒後、その「怪物」が崖から上がってきた。
先程の男と一緒だが、どこか雰囲気が違う。
まるで“殺意しか感情を持たない機械“のようだ。
そんな気を感じ取った。
「キ、キサマラ・・・、コ、コロ、コロシテヤル・・・。」
とてつもない殺気の迫力に俺らは押されていた。
俺やリースさんだけでなく、ジェラルドさんとマックさんもだ・・・。
ゆっくりと一歩一歩俺らに近づいてきている。
俺らも武器などを構えようとするが、明らかに足が震えている。
そうか、これが本当の「恐怖」という感情なのか・・・。
負けじと俺らも構えて威圧する。
だが目の前の「怪物」は気にせず、ただ近づいてくるだけであった。
だが、いくら殺意を持っていたとしても、相手は満身創痍。
先程の強さは残ってないだろう。
俺らは覚悟を決め、ボスに突撃しようとした。
だが、ボスは横に吹っ飛んだ。
しばらく転がっていった末、仰向けで動かなくなった。
目の前には頑丈そうな茶色の鎧を身に着け、赤いマントが風になびき、茶色いフルフェイスの兜を身に着けた男がボスに突撃した。
背中にある大型の斧を使わずに。
一瞬誰だか分からなかったが、鎧の形状や背中の斧で、誰かはすぐわかった。
それと同時に男は兜を外し、俺の予想は確実に当たっていた。
兜をとると、その下にあったさっぱりしたスキンヘッドと、男らしい髭が出てきた。
そう、グリフォスさんだ。
「グリフォスさん!!」
真っ先に名前を叫んだのはリースさんだった。
彼女はさっさと彼に近づいた。
「よっ! 遅くなってすまなかったな。」
グリフォスさんはリースさんの被っている兜の天辺をポンポンと叩きながらそう言った。
よく見ると他にも2人の冒険者がいた。
名前は知らないが。
「あとは俺らに任せておけ。 お前らは町に戻って、この事を報告しろ。」
「はい!」
リースさんは先程のことが嘘のように、元気を取り戻していた。
それほど彼のことを信頼しているのだろう・・・。
いつか、俺もあんな風に思われてえな。
俺らは何も言わずに帰路へ向かった。
正直、とても疲れた・・・。
それに、あんな「怪物」を見ちまったらな・・・。
俺らが帰路へと行こうとすると、後ろから声をかけられた。
「ああ、言い忘れてた!」
グリフォスさんがそういうと、俺らは一斉に後ろに顔を向けた。
「ここまで頑張ってくれて、ありがとうな!」
グリフォスさんがニヤけながら、俺たちに向けてそう言ってくれた。
俺たちは笑顔で一礼をして、帰路を歩いて町へ向かって行った。
「おかえりなさい!!」
受付嬢さんが笑顔で、俺たちの帰還を喜んでくれていた。
そして、俺たちに向けて頭を下げた。
「本当に、本当に、ありがとうございました!!」
受付嬢さんは、やや泣きそうになりながら俺たちにお礼を言ってくれた。
その姿を見て、俺たちはなんだか照れ臭くなってしまった。
「ギルドは大丈夫なのですか?」
リースさんが真っ先にそう言った。
ギルドがあった場所は綺麗に片付けられていた。
「また新しく建て直すつもりです。」
「そうなのですか・・・。」
受付嬢さんは平然とそう言った。
この人は強い人なんだな・・・。
「あ、そうでした。 宿を取っておきましたので、ゆっくり休んでください!」
「え、本当ですか?」
「はい!」
受付嬢さんは笑顔で答えてくれた。
その笑顔は営業スマイルではなく、本当の笑顔だ。
「ありがとうございます!」
俺らは一気に力が抜けた。
今日の激戦はモンスターの大群と戦ったときより疲れた。
仕事仲間しかいなかったからだろう。
俺らは遠慮せずに、宿へと向かって行った。
宿の部屋に入ると、俺は真っ先にベッドに倒れこんだ。
ジェラルドさん達が報告に行ってくれており、俺たち二人は先に宿の部屋に入っていた。
「タカヤさん、お疲れ様です。」
リースさんは鎧を脱ぎながらそう言った。
そう、当然ながら彼女と相部屋だ。
「リースさんも、お疲れ様です。」
俺は体を起こして、そう言い返した。
リースさんは上から順に装備を外していた。
「私なんて、あまり活躍しませんでしたし・・・。」
「いえ、リースさんは十分活躍しましたよ。」
俺はすぐにそう反論した。
実際、一人でも欠けていたら、勝利できなかっただろうな。
俺は首の後ろで手を組みながら、後方に倒れた。
ふかふかのベッドが俺を受け止めてくれた。
俺はベッドに身を任し、そのまま瞳を閉じた。
今日一日は随分と濃い一日だった。
未だにあの「怪物」の姿が目に焼き付いている。
殺意のみに縛られた、あの怪物を・・・。
もし、あの時グリフォスさんが助けに来てくれなかったら、俺たちはどうなっていたんだろうな・・・。
果たして勝っていたんだろうか・・・。
そんなことを考えていた。
だが、それとは別に気になっていたことがあった。
あの時、山賊団のボスが言っていたことが気掛かりだった。
鉄砲がもう一つ作られていたことだった。
ボスの話からして、失くしてしまったようだが、果たしてその行方は・・・。
それに、もう一つ。
前に戦った時には、若いイケメンが居たはずだ。
今回、アイツの姿が無かった。
アイツも捕まったのだろうか・・・。
謎だ・・・。
「タカヤさん・・・。」
リースさんが話しかけてきた。
俺は閉じてた瞼を開き、横目でリースさんを見た。
インナー姿のリースさんがそこにいた。
「明日からどうします?」
リースさんは何か言いたそうに質問してきた。
俺は再び瞼を閉じて、言い返した。
「リースさんはどうしたいですか?」
俺がそういうと、リースさんはしばらく黙った。
そして口を開いた。
「私はギルドの依頼をして、人々を助けたいです。 ですから、他の町へ行きたいです・・・。」
リースさんは正直に話してくれた。
彼女らしい意見だと俺は思った。
「なら、そうしましょうかね。」
俺はサラッとそう言い返した。
するとすぐにリースさんも言ってきた。
「この町を離れたくないのでしたら、私もそうしますが・・・。」
やや早口で喋ってきた。
リースさんがそれを望んでいないことはお見通しだった。
だが、俺は優しい人だとしか思わなかった。
「俺だって、このまま依頼をせずに暮らしたくないですよ。 だから正直、俺も同意見です。」
俺はそう答えた。
あくまで、これはちゃんとした本心である。
「そう、ですか・・・。 それを聞いてホッとしました・・・。」
リースさんは微笑みながら言った。
今日という一日は、忘れられない日になるだろうな・・・。
「おう、元気にやっているようじゃな。」
目の前にはあの女神・パルフェがいた。
「なんで夢の中でアンタに会うんかね?」
「わしがそうしたからじゃ。」
なんて奴だ。
人の夢の中に入ってきやがって・・・。
「お前も随分と成長したようじゃな。」
「そうか?」
「生卵からゆで卵になったくらいに。」
「どういう表現だ!?」
もはや訳が分からん。
コイツに関わるのは面倒だ。
「なかなかに男らしい面構えになって素敵じゃぞ?」
「そりゃどうも・・・。」
「冗談じゃないんじゃがなぁ・・・。」
パルフェはつまらなそうに言った。
「で、何の用なんだ?」
俺はさっさと話を終わらせたかった。
「まあ、ちょっとした忠告をしに来たんじゃ。」
「忠告?」
「ああ、そうじゃ。」
すると、パルフェは立ち上がり、俺のそばに寄ってきた。
「今回お前たちはあの大男に苦戦していたが、この世界にはもっと強い奴らが沢山いるんじゃ。 そのことを絶対に忘れないでくれよ?」
「そうなのか。」
正直それは分かっていた。
ファンタジーとかならドラゴンとかも普通にいるだろう。
ソイツらの方が山賊団のボスなんかより、絶対強いだろう。
「まあ、それだけじゃ。 今後も頑張るのじゃぞ!」
そう言ってパルフェは一瞬で姿を消した。
相変わらずな奴だ・・・。




