甲冑
「たくっ、なにが女神だよ・・・。」
気が付くと草原に投げ出されていた。
周りの風景は、ファンタジーとかで見る大草原そのものであった。
俺は文句を垂らしながらも、砂利道をとにかく歩いた。
また、着ている服が変わっていた。
さっきまで着ていた学生服から、ゲームなどで最初に着るような布の服を着させられていた。
最悪だ・・・。
パルフェから授かった「力」の正体もまだわからない。
本当に、この先大丈夫だろうか・・・。
しばらく歩いていると、道の端っこに看板が立っていた。
看板には「メガスリトスまで、あと2km」と書いてあった。
道の先を見ると、確かに町らしき場所があった。
行く当てがないので、とりあえず『メガスリトス』の町まで歩くことにした。
数分間あまり変わらない風景を見ながら歩き続けた。
すると、道の隅で4つの人影が見えた。
一人は全身を甲冑で包み込んでおり、他の3人はそれぞれ、胸当、肩当、籠手を部分的に服の上から身に着けていた。
いよいよ非現実的になってきた。
「やめてください!」
甲冑の人はビクビクしながら叫んだ。
この状況からして、甲冑の人がカツアゲかなんかで3人に絡まれているのだろう。
しかし、明らかに防具では圧倒的に勝っているはずの甲冑の人が追い詰められているとは・・・。
1対3の状況だからだろうか?
だが、そんなことはどうでもいい。
(とりあえず、関わったら面倒なことになりそうだ。無視してこのまま通り過ぎよう。)
そう俺は考えた。
しかし、頭ではそう考えていたが、身体は俺の意思とは逆に4人の方向へと動いていた。
俺の悪い癖だ。
「お前ら! なにがあったか知らねえがやめろ!!」
やっちまった。
俺のバカ!!
「あん? 誰だてめえは?」
3人が俺の方を向いて、ガンを飛ばしてきた。
だが正直、全然怖くなかった。
元の世界にいた不良の方が圧倒的に怖かった。
「誰だか知らねえが、邪魔すると痛い目を見るぞ。」
そう言って一人が腰に刺さっていた剣・・・ではなく、木の棒を俺に向けてきた。
・・・へあ?
なぜに木の棒?
ここは剣を向けて脅したりするところじゃないのか?
「なんだその顔は? ぶっ殺すぞ!」
俺は唖然していた。
そりゃーこんな顔になりますよ。
だって剣じゃなくて木の棒だぜ?
しかもそんなに大きくねえし・・・。それに鋭くもねえし・・・。
甲冑の人は、一体なにがそんなに怖かったんだ?
木の棒じゃせいぜい頑張って、甲冑が少しヘコむくらいだぜ?
「よし、殺す!!」
そう言って俺に木の棒を振り下ろした。
そして俺は木の棒を掴んでいる手目掛けて、思い切り蹴りを放った。
かなりの手応えを感じ、木の棒は遠くへ飛んで行った。
そして目の前の男はあまりの痛さに、もがき苦しんでいる。
相当打ち所が悪かったんだろうな。
すげえ泣きながら、言葉になってない言葉を叫んでいる。
「てめえ! なにしやがる!!」
今度は別の奴が前に出てきた。
そして腰に刺してた剣・・・ではなく、木の棒を俺に向けてきた。
だから、なんでだよ!!!
なんで木の棒なんだよ!
お前らは芸人かなんかか?
「どりゃー!!」
さっきの奴とは違い、バットのようにフルスイングしてきた。
向かってきた木の棒を、俺は素手で掴んだ。
「なっ!?」
なに驚いてやがんだよ。
お前らさっきから振る力が弱いじゃねえかよ。
俺が喧嘩した不良のほうが何倍も強かったわ。
俺は相手の腹目掛けて蹴りを入れた。
さすがに手加減はしたが、コイツらにはこれくらいが十分だ。
やはり地面に倒れて、もがき苦しんでいる。
よく三本の矢は折れにくいというが、コイツらは三本でも簡単に折れそうだ。
「お前も来るか?」
俺は最後の一人に聞いた。
すると、
「上等だコラ!!」
と言い、腰に刺さっていた剣・・・ではなく、やはり木の棒を俺に向けてきた。
もうここまで来るとわかっていた。
面倒くさいので、今度は俺の方から仕掛けた。
すると、目の前の男は「ひっ!」という声を上げ、持ってた木の棒を落とした。
まじかよ。あの威勢も上辺だけかよ・・・。
ここまで来ると可哀想になってきた。
だが、人に迷惑をかけた事実は変わらん。
反省しろ!
俺は目の前の男の顔目掛けて、裏拳を放った。
ただ初めて使ったため、正直上手くはなかった。
だが、こいつらには十分だ。
「おぼえてろー!!」
3人はそのままスタコラサッサと消えていった。
防具も不十分だったのを見ると、多分アイツら金なかったんだろうな・・・。
ともかく、少しは戦えて本当に良かったと思ってる。
本来ならパルフェが言ってた「力」の使い所だったんだろうが、それが現在わからない以上は、俺の元々の力で戦わなければならないな・・・。
今回は人間が相手だったからよかったが、モンスターなどが相手になった場合は大丈夫だろうか・・・。
友人の話だと、異世界にはモンスターが出ると言っていたからな。ここも例外ではないかもしれない。
「あの、ありがとうございました。」
後ろにいた甲冑の人がお礼を言ってきた。
さっきの奴らに夢中ですっかり忘れていた。
思えば、この人のために戦ったようなものなのにな。
「あんな奴ら、全然大したことなかったぞ。 本当に大丈夫か・・・?」
どうしてもまず言いたいことがそれだった。
その甲冑は何のためにあるんだよ。
「でも・・・本当に怖くて・・・。」
木の棒を武器にするような奴らが・・・?
どんだけ臆病なんだよ。
「おいおい・・・。 それでも本当にチン○ンついてんのか?」
俺はちょっと雰囲気を変えるために、そう言った。
こうすれば少しはコイツも明るくなるだろ。
しかし、俺の予想に反した言葉を言ってきた。
「・・・チン○ンってなんですか?」
・・・!?
ええ!!?
いくらなんでもその返答はねえだろ!!?
「おい、お前一体なに言って・・・」
ふと、疑問に思ったことがあった・・・。
一つは、甲冑の人の声が、男にしては高いように聞こえた。
もちろん、そういう人もいるのはわかっている。
もう一つは、甲冑の胸元が、意外と出っ張っていることがわかった。
これももちろん、そういうデザインの甲冑があることもわかっている。
もう一つは、甲冑の人の身長が、俺の胸の辺りだということだ。
これももちろん、そのぐらいの背の男性がいることもわかっている。
「なあ、あんた一回だけ兜を外してくれないか?」
俺はある一つの出された答えを確かめるために、甲冑の人に頼んだ。
「え? いいですけど・・・。」
そういうと甲冑の人は兜を外し始めた。
兜が外されると同時に、赤くて長い髪が出てきて、なかなかの女性の顔が見えた。
やっぱり、女だったのか・・・。