救出任務
それはある日のことだった。
朝のトレーニングを終えて、俺はギルドに向かっていた。
すると、ギルドの扉を開けようと頑張っている一匹の犬がいた。
おそらく前にマーガレットさんに紹介された冒険者の "スレイダー"さん の相棒である犬 "クリス" であろう。
ギルドの扉は引いて開けるため、普通なら犬では開けられないだろう。
俺はクリスのために扉を開けてやった。
するとクリスは一直線に受付まで走って行った。
俺はクリスの後を追うように受付に近づいた。
途中リースさんとジェラルドさんが俺に気付き近寄ってきた。
クリスは受付の机の上に飛び乗った。
「クリスどうしたの? スレイダーさんと依頼に向かったはずじゃ?」
動物相手のため、砕けた口調で接する受付嬢さん。
すると、クリスは受付嬢さんに背中を向けた。
クリスは鞍のような装備を着けており、後ろの方にはポーチに似た鞄が付いている。
そこには、巻かれて入っていた手紙があった。
受付嬢さんは手紙を受け取り、静かに読み始めた。
すると、「え!?」という声を上げた。
「どうしたんですか?」
俺も思わずそう言葉が出た。
すると受付嬢さんが深刻な顔をして、俺らを見て言った。
「スレイダーさんが、怪我で動けない状態になっているそうです!」
「え!?」
俺らも同じように声が出た。
そうか、クリスを使って助けを呼んだわけか・・・。
「なんですって!?」
少し遠くにいたマーガレットさんが早歩きで近づいてきた。
そう言えば、マーガレットはスレイダーさんと仲が悪いんだっけ?
「なにが「依頼を失敗したことがない」よ。 あのバカ・・・。」
マーガレットさんはボソッと言った。
なんだかんだ言って心配なのだろうな。
「場所はどこなんですか?」
俺の後ろにいたリースさんが、早速場所を聞いた。
「場所は書いてませんね。 ただクリスが案内するとしか・・・。」
そう言うと、クリスが扉の方へ走って行った。
そして扉の前で止まり、頭だけこちらを向かせ、舌を出しながら尻尾を振って待っている。
どうやら俺らを待っているようだ。
「行きましょう!」
そう言ってリースさんが走って行った。
俺とジェラルドさんも釣られて後を追った。
まあ、リースさんならそうするだろうと最初から思っていたさ。
洞窟に着いた。
リースさんはランタンを点けた。
そしてクリスはずんずんと洞窟の中を進んでいる。
おそらく匂いを頼りに進んでいるのだろう。
洞窟の中は何もなく、モンスターが全く現れない。
おそらくスレイダーさんが倒したのだろう。
洞窟を進んでいると、大きな場所に出た。
どうやら俺らが立っている場所より下があるらしい。
すると、クリスが下に飛び降りた。
「おお、クリス来たか!」
下から声が聞こえた。
リースさんが下に手を伸ばし、ランタンで照らした。
すると、クリスが乗っている岩の隙間から人の姿が見えた。
前に一度だけしか会ってないが、スレイダーさんで間違いない。
リースさん、俺、ジェラルドさんの順番で下に降りた。
「リースとその仲間たちか。 すまねえが、この岩を退けてくれねえか・・・?」
どうやら無事のようだ。
俺とジェラルドさんで手分けして岩を退かした。
スレイダーさんは脚を怪我していたが、重傷ではなかったようだ。
「ありがとうな。」
スレイダーさんはお礼を言いながら立ち上がろうとする。
だがすぐに倒れそうになり、座り込んだ。
「ちぇっ! これじゃあしばらくは仕事できねえな・・・。」
スレイダーさんは脚を擦りながらそう言った。
クリスはその脚を舐めて、心配そうだった。
「大丈夫だってクリス。 ほんの2、3日休むだけだ。」
クリスを撫でながらスレイダーさんは言った。
たぶんクリスは、その事を心配したわけじゃなさそうだがな・・・。
「とりあえず、無事で良かったです。」
リースさんはスレイダーさんを起こそうとした。
しかしスレイダーさんは意外と重かったらしく、結局持ち上げることができず、何も無かったかのように再び座らせた。
「悪いが、まだ無事と決まったわけじゃねえ・・・。」
スレイダーさんはさっきの光景に触れず、俺らの後ろを指差した。
俺らはすぐに振り返った。
奥の方から何かが近付いてくる音が聞こえてきた。
「実は、まだ依頼を終えてなかったんだ・・・。」
俺らは何も言わずに構えた。
奥の方からは獣の群れが出てきた。
「ギャングレオの群れだ。 たてがみが生えてる奴がボスだ。」
確かにたてがみが生えてる奴は一体しかいない。
ライオンと同じように、オスライオンとメスライオンたちみたいなものか。
俺らはスレイダーさんを守るように、ギャングレオたちに立ち塞がった。
奴らも攻撃の態勢をとっている。
やる気だな。
ギャングレオたちはこちらに走ってきている。
俺らも前に出て、奴らを迎え撃つ。
ジェラルドさんは安定のストレートを放ち、一匹吹っ飛ばす。
凄い音を立てながら、地面を転がっていく。
ありゃ死んだな。
俺は向かってきた一匹をしゃがんで避け、頭上を跳んでいるギャングレオの腹にアッパーカットを放った。
ギャングレオは上に吹っ飛んだ。
そして落ちてきたギャングレオを、リースさんが切り裂いた。
ギャングレオは真っ二つになり、地面に落ちた。
そうしている間に、ジェラルドさんは2匹目を吹っ飛ばしていた。
さすが、仕事が早い。
俺も回し蹴りで一匹吹っ飛ばしたが、ジェラルドさんと違い殺すことはできなかった。
リースさんがすぐに向かい、トドメを刺してくれた。
そして当然のようにジェラルドさんが3匹目をぶっ殺してた。
我ながら情けない。
すると、隙を見て俺らの間を全速力で通過する一匹のギャングレオがいた。
俺は「しまった!」と思い振り返る。
すると、ギャングレオはスレイダーさんの目の前で倒れていた。
よく見ると、身体に矢が刺さっていた。
倒れているギャングレオに、スレイダーさんが武器を突き刺した。
スレイダーさんの武器は、柄の両端に刃が付いている「剣」だった。
例えるなら、バトンと剣を合体させたような・・・。
それにしても、なぜ矢が刺さっているのだろう・・・?
スレイダーさんはギャングレオの死体から矢を引き抜いた。
しばらく矢を見つめていたが、近くに投げ捨てた。
一体なんだろうか・・・?
ギャングレオがいる方向に向き直したら、ジェラルドさんがボスを除いた最後のギャングレオを倒していた。
さすがだ。
すると、ギャングレオのボスは仲間が全滅するのを見て、一人だけ逃走を図った。
なんて奴だ。
「そうはさせるか!!」
後ろからスレイダーさんが怒鳴った。
スレイダーさんは近くにいたクリスに自分の両剣を咥えさせた。
すると、クリスはギャングレオのボスを後ろから追いかけた。
そしてギャングレオのボスの近くで思いっきり首を横に振った。
ギャングレオのボスは吹っ飛び、身体に大きな傷が付いた。
再びクリスが両剣でギャングレオのボスを斬り、そのままこちらへ戻ってきた。
クリスはスレイダーさんに両剣を返した。
俺らは洞窟の入口に戻ることができた。
スレイダーさんは俺が肩を貸して出口まで運んだ。
ジェラルドさんに証明書を貰うことを任せ、俺らはギルドに戻った。
途中、後ろから誰かの気配を感じたが、たぶん気のせいだろう。
そしてギルドに戻り、ジェラルドさんの帰りを待っていた。
すると、マーガレットさんが近付いてきた。
「スレイダー。 依頼中に事故ったって?」
「笑いに来たのか?」
「ええ。」
相変わらず仲が悪いことで。
「だけど、笑いを通り越して呆れちゃったわ。」
「そうかい。」
スレイダーさんは反論しない。
おそらく、今回の件は何を言われても仕方ないのだと思っているんだろう。
すると、マーガレットさんが鞄から薬ビンのような物を取り出した。
そしてスレイダーさんが座っている席のテーブルに置いた。
「これ間違えて買っちゃったからアンタにあげるわ。 じゃあね。」
そう言って、マーガレットさんはギルドを出て行った。
スレイダーさんはテーブルに置かれた薬ビンを手に取った。
「これ、「大回復薬」じゃねえか・・・。」
「大回復薬」・・・。
よく回復しそうな薬だ。
「マーガレットさんは、スレイダーさんのために「大回復薬」を買ってくださったんですよ!!」
リースさんは嬉しそうな声で言った。
「フンッ、アイツに限ってありえねえな。 だが、貰い物はありがたく貰う主義だ。」
そう言ってスレイダーさんは大回復薬を飲んだ。
心成しか、少し元気になったように見えた。
そうか・・・。
あの時、スレイダーさんを狙っていたギャングレオを矢で撃ったのは・・・。
俺は、自然と鼻で笑った。
どっちも素直じゃねえんだな。
ジェラルドさんが到着した後、証明書をスレイダーさんに渡した。
さっきまで不自由だった足が元気になり、立ち上がったスレイダーさんは受付で報酬を貰った。
そして報酬の8割を俺たちにくれた。
救助のお礼らしい。
今回は普通に、報酬は喜んで貰った。
ただし6割に変更してもらった。




