最強の冒険者
俺らは海岸の洞窟に来た。
今回の依頼は≪エレキジェル退治≫だ。
名前だけじゃ、なにかわかんねえよ。
「磯の香りがしますね。」
リースさんは今日の朝に剣の修理が終わったので、今日から再び依頼をすることができる。
もちろんジェラルドさんもいる。
「この洞窟の奥に海水が溜まっている場所があるとされているからだろうな。 そうでなくても海の近くだからだろうな。」
そして、今回もう一人同行者がいる。
プロレスラーのような体格で、頭はスキンヘッドで髭面、背中には大きな戦斧を背負っているAランク冒険者。
そう、グリフォスさんだ。
時は数時間前。
俺たちは≪エレキジェル退治≫の依頼を受けようとしていた。
すると、グリフォスさんも同行したいと申し出てきた。
なんでも、目的地の海岸の洞窟を調べたかったらしく、丁度良かったかららしい。
俺らは何の問題もなかったため、快く了承した。
そして現在に至る。
「すまねえな、無理言っちまってよ。」
グリフォスさんは軽く謝罪した。
その姿に俺は、居酒屋のおっちゃんを連想した。
「いえ、こちらこそギルド最強の冒険者の方と同行で来て光栄です。」
ジェラルドさんは逆にお礼を言った。
「え、ギルド最強? 俺が?」
「『メガスリトス』では最強なんですよね?」
驚いているグリフォスさんに、リースさんが答えた。
だがグリフォスさんの返答は違った。
「いや、俺よりルークやマッケンジーの方が強いよ。」
そう答えた。
ルークさんはBランクで、マッケンジーさんはCランク。
明らかにグリフォスさんの方が上じゃないのか?
「あの二人はグリフォスさんより下のランクじゃないですか。」
リースさんが代わりに言ってくれた。
するとグリフォスさんは笑いながら言った。
「ああ、そういえばリースも知らなかったっけ。 あの二人、ランク降格してるんだぜ。」
衝撃の事実だった。
「降格!?」
「ああそうなんだ。」
グリフォスさんは顔を正面にして、語り始めた。
「ルークは元Aランク冒険者だったんだ。 職業も元々は魔法戦士だったらしい。 だが老いには勝てず魔法使いに転職したんだ。 実力はAランク相当だが、念のため自ら降格を要請したんだ。」
「そうだったのですか・・・。」
なるほど、ルークさんにはそんな過去が・・・。
「マッケンジーの奴もAランク相当の実力を持っている。 だがアイツは行動に謎が多くて少々評判が悪くてね・・・。 ギルドが降格させて、一向に上がろうともしない。」
それにも納得だ。
アルラウネの件も未だに不明だしな・・・。
「正直「ランク=実力の高さ」と思うことは間違いさ。 AランクであれGランクであれ、実力が高い低いと簡単に決めることはできないんだ。」
「そうなんですか・・・。」
俺はグリフォスさんの言葉を胸に刻んだ。
エレキジェルが3体現れた。
エレキジェルとはクラゲの事だったのか・・・。
「どりゃあああぁぁぁー!!!」
グリフォスさんが戦斧を横に振り回すことによって、3体のエレキジェルの上半身が斬り飛ばされた。
強い、強すぎる・・・。
なんて強さだ。
これでギルド最強ではないのか・・・。
「片付いたか。」
はい。
あなたが片付けたんです。
リースさんが武器を構えたまま止まっている。
戦う気満々だったんだろうな・・・。
その後も「グリフォス無双」が続いた。
その光景は本当にギルド最強ではないのかと思える光景だった。
もう全部グリフォスさん一人でいいんじゃないかな・・・。
俺ら三人は完全にそう思っていた。
あっという間に最深部っぽいところに着いた。
そこにいたエレキジェルたちも、グリフォス無双の生贄となった。
本当にグリフォスさん一人で片付けてしまった。
俺らは呆然としていた。
グリフォスさんは周りを見渡している。
そして、持っていた戦斧を背中に戻した。
「ここでも無かったか・・・。」
グリフォスさんはボソッと言った。
すると俺らの方に歩み寄ってきた。
「すまん、言ってなかったな。 俺がここに来た理由は『シーサーペント』の捜索だ。」
「シーサーペント?」
・・・巨大な海蛇か。
「Bランク以上になるとな、2種類の依頼を受けることになるんだよ。
一つはお前らもやっている『通常の依頼』。
もう一つは、強制で受けることになる『特殊な依頼』だ。
この『特殊な依頼』は、Bランク以上の冒険者全員に知らされ、強制的に受けさせられる。
まあ強制と言っても参加するかは自由だから、嫌なら無視すればいいだけだ。」
「そんな依頼があるのですか・・・。」
リースさんとジェラルドさんも知らなかったようだ。
当然俺もだ。
上級ランクになると、そういう大規模な依頼があるんだな。
「もしかしたら、この洞窟にいるんじゃないかと思ったんだが、どうやらハズレのようだな。」
そう言ってグリフォスさんは「やれやれ」という感じで頭をかいた。
「さて、エレキジェルも全滅したし、そろそろ帰るか。」
そう言ってグリフォスさんは洞窟の出口を目指して、歩き出した。
果たして俺たちはなんのために来たのだろうか・・・。
「いいっていいって、貰ってくれよ。」
「そんなこと申しても・・・。」
グリフォスさんとリースさんが言い争ってる。
グリフォスさんは報酬はいらないと俺ら三人に全部渡そうとした。
しかし当然ながら一切仕事をしてない俺らに報酬を貰う権利は無いため、特にそういうところはキッチリしているリースさんが逆にグリフォスさんに渡そうとする。
するとグリフォスさんは情報料として受け取ってくれと、自分込みの報酬として渡してきた。
御二方は一歩も引かないようだ。
前に俺がマーガレットさんとやったことと同じだ。
となれば結果も分かっている。
その結果は、ギルドへ寄付であった。
受付嬢さんは笑っていた。
微笑みではなく、爆笑を抑えている笑いだ。
時刻は夜。
俺らはいつも通り宿屋で寝る準備をしていた時だ。
「あの、少し気になったことがあるのですが・・・。」
リースさんが話しかけてきた。
もちろん寝る直前なので、甲冑を脱いであのキャミソールワンピース姿だ。
「≪スライム退治≫の依頼の際に助けてくださったマックさんは、もしかして・・・。」
「降格されたんじゃないかって?」
リースさんが言おうとしたことを、ジェラルドさんが先に言った。
正直俺もそうなんじゃないかと思っていた。
「やっぱりそうなのでしょうか・・・。」
「あの強さだ。 そう考えても可笑しくは無い。」
ジェラルドさんはベッドのシーツを伸ばしながら言った。
「問題は、降格した理由ですね。」
俺も思わず言葉にして話した。
「・・・。」
「もしかしたら、悪いことでもして降格したんじゃないかとでも思っているのか?」
何か言いたそうに黙っているリースさんに対して、ジェラルドさんが言った。
まあ、その可能性もあるかもしれないしな・・・。
「ですが・・・。 彼は私たちを助けてくれました・・・。」
リースさんとしては、彼が善人であることを願っているのだろう。
その気持ちは俺も分かる。
「彼がどうであれ、俺らの命の恩人に変わりはありません。」
「そうですが・・・。」
俺はフォローをしたが、リースさんはまだ深刻な顔をしている。
するとジェラルドさんが俺の肩を叩いて、小声で話しかけてきた。
「タカヤ、そうじゃない。 もしマックが悪人だったら、リースは一生複雑な気持ちを引きずることになるだろう・・・。」
俺は改めて思い出した。
彼女は純真な女性だ。
助けてもらったら、お礼を必ず言い相手を敬う。
反対に悪人は絶対に許さず、自分が弱くても進んで成敗する。
そんな彼女が、悪人に助けられたという事実を突きつけられたら・・・。
・・・考えただけで大変だ。
「・・・リースさん、俺はマックさんが善人だと思います。 悪人ならスライムを倒す理由が無いじゃないですか!」
「そ、そうですよね・・・。」
正直、悪人でも倒す理由は意外と出てくる・・・。
だがここは、リースさんを安心させるために嘘を言わなくては・・・。
「今日はもう寝ようぜ。」
そう言って、ジェラルドさんはベッドで横になった。
リースさんも黙って、ベッドで横になる。
確かに変なことを考える前に寝た方が良いな。
そう思って俺はリースさんの隣で横になって、寝るのであった。
・・・って、寝れるわけねえよ!!
別々のベッドで寝てたときはすぐに慣れたが、これは未だに慣れんよ!
というか慣れちゃあかんよ!!
めっちゃ良い匂いするよ!
背中に柔らかい感触が当たってるよ!!
俺はまた、寝るための闘いを一人でするのであった・・・。




