令嬢聖騎士
俺たちは≪ハンマーベア討伐≫の依頼を受けていた。
そして、目的地の山に来ていた。
「『ファッティグリズリー』と、どちらが強いですか?」
「『ハンマーベア』の方が確実に強いな。」
ジェラルドさんが即答した。
俺が前にマーガレットさんとの依頼で倒した『ファッティグリズリー』より強いか・・・。
まあアイツは太ってたし、二足歩行だったしな。
「ところで、大丈夫ですか・・・?」
俺らの後ろから、少し辛そうに山を登っている女性冒険者がいた。
前にマーガレットさんに紹介してもらった、上流階級の令嬢である "ライラ"さん である。
「だ、大丈夫、です・・・。」
うん。
大丈夫じゃねえな。
俺とジェラルドさんは止まってライラさんを待った。
「ご、ごめんなさい・・・。」
「まあ歩きっぱなしだし、少し休みましょうか。」
正直、俺とジェラルドさんは全く疲れていない。
これくらい普通だからな。
だが、とりあえずライラさんに気を遣わせないようにそう言った。
時は数時間前に戻る。
俺はいつも通りトレーニングを終え、ギルドに戻った。
ちなみに昨日の夜はリースさんより先に寝て、一昨日のような困難は防いだ。
今後そうするつもりだ。
すると、ギルドの中でリースさんが甲冑姿で席に座って、肘をついて頭を抱えていた。
見るからに不機嫌そうだった。
近くにいたジェラルドさんに聞くと、昨日リアルスライムに剣を溶かされたため、修理のため一日依頼ができないようだ。
またですか。
仕方なく俺とジェラルドさんで仕事に行こうとしたが、リースさんが代わりに友達のライラさんを依頼に同行させてきた。
地味に初めて知ったが、どうやら二人は冒険者になる前からの友達だったらしい。
まさかリースさんに、貴族の友達がいたとは・・・。
ここにきて新事実が突然判明した。
時は戻って現在。
こうしてライラさんと俺たちは、依頼に来たわけだ。
「もう大丈夫です。」
ライラさんがまっすぐした瞳で俺たちに言った。
俺とジェラルドさんも立ち上がり、歩き始めた。
そういえば、さっきから気になっていたことがある。
「ライラさん。 ギルドで着ていた鎧じゃないようですが・・・。」
「え!?」
ギルドにいたときは、豪華な装飾が施された鎧を着ていたが、今は安物の皮の鎧を身に着けている。
さらに言うと、持っていた剣と盾も明らかに変わっている。
「わ、私は依頼によって武器を変えるんですよ・・・。」
「そ、そうなんですか・・・。」
ライラさんは何か隠してそうな言い方で答えた。
まあ、俺は特に興味が無かったので、聞かないことにした。
山の自然は豊かだった。
たしかにこういうところにクマが現れてもおかしくはないな。
「綺麗な所ですね・・・。」
ライラさんがボソッと言った。
なんだかリースさんと似てるな。
「だが、そうと言ってる暇はないかもな。」
ジェラルドさんがそう言うと、目の前にモンスターが飛び出してきた。
見た目はそれぞれ、鼻息が荒いウサギ、足が長いトリ、一本角が生えたキツネ、という感じだった。
まずはウサギが飛びかかってきたが、ジェラルドさんが顔面にストレートを放ったため、一撃で死んだ。
俺はトリの足を掴み、全力で木に何度もぶつけた。
トリもその内、息を引き取った。
ライラさんも盾を構えてキツネに突撃した。
キツネの角に注意しながら、持っていた剣でキツネを斬った。
結果は傷を付けただけだったが、再びライラさんが攻撃を仕掛けた。
今度は突き刺したため、キツネも重傷じゃ済まなかった。
キツネは背中から血を流しながら、息を引き取った。
「や、やりましたね・・・。」
ライラさんはフラフラになっていた。
今のでまた疲れたのだろうか・・・。
だが、ライラさんは何も言わない。
「大丈夫ですか・・・?」
「だ、大丈夫です。」
おそらく痩せ我慢をしているな。
そういうところもリースさんそっくりだな。
その後も山を探索した。
山には動物に似たモンスターばっかりで、今まで未知の生物だったこともあり、新鮮な気持ちになった。
まあ似てるだけのモンスターなら、今までに会ったことはあったが・・・。
よく見ると、またライラさん疲れてるし・・・。
「ライラさんは何故冒険者に?」
気分を変えるために、俺は無理矢理話を振った。
本当にいきなりだったんでジェラルドさんは驚いていた。
だが、ライラさんは普通に答えてくれた。
「私、元々は超貧乏だったんですよ・・・。」
「え!?」
予想外の言葉が出てきた。
元貧乏人が上流階級になったということか・・・。
・・・とりあえず黙って話を最後まで聞こう。
「超貧乏だった私は、毎日お腹を空かせて町を歩いていました。 でも誰も助けてくれませんでした。」
「それは酷い・・・。」
「別にいいのです。 世の中、自分一人でも精一杯な人が多いのですから。」
ライラさんは笑顔で答えた。
そして、話を続けた。
「ある日、私に食べ物をくれた冒険者さんがいました。 その冒険者さんは私を家族のもとへ運んでくれて、一週間分の食糧を恵んでくれました。」
「そんな人が・・・。」
ジェラルドさんは驚いていた。
確かに常人では考えられない行動だ。
ライラさん一人はともかく、家族全員を助けるとは・・・。
「冒険者さんは言いました。 「俺が助けたのは一週間だけだ。それ以降は自分たちの力で生き抜け。」と・・・。 そして、少々体力が付いた父は家族のために冒険者となりました。」
「それが後の、『飛竜殺し(ワイバーン キラー)』と呼ばれた "グリムロッド" か・・・。」
グリムロッド・・・?
ジェラルドさんがなにか言ってきた。
しかし、ライラさんは話を続ける。
「知っての通り、私の父がワイバーンを倒し続けたことにより、私たち家族は一気に上流階級となりました。」
「すげえ話だな。」
ジェラルドさんは話に夢中だった。
俺は少し置いてかれているが、一応真剣に聞いた。
「それもこれも、あの冒険者さんのおかげなのです。 だから、私はあの人のように冒険者になって、貧しい人々を助けたいと思いました。」
「そうだったのか・・・。」
結構ちゃんとした理由だったんだな。
冒険者には、色々な人がいるんだな。
「だが、ライラさんのようなお金持ちなら、貧しい人をすぐに助けることができるんじゃないか?」
ジェラルドさんは言った。
確かにそうだな。
わざわざ冒険者にならなくても、お金持ちなんだからできるんじゃないのか?
「・・・私の父は、貧乏人だったときの心を完全に失っています。」
「そうか・・・。」
ジェラルドさんは察して、そう返事をした。
人は簡単に変わってしまうんだな・・・。
それはこの世界でも同じことなのか。
俺は少し、嫌な気持ちになった。
「いました! ハンマーベアです!!」
少し遠い所に、クマがいた。
どうやらあれが『ハンマーベア』のようだな。
するとハンマーベアもこちらに気付いたようで、四足歩行で近づいてくる。
四足歩行のクマだ!
奴は絶対強い!!
ジェラルドさんは向かってきたハンマーベアの顔面にドロップキックを放った。
ハンマーベアは反動でひっくり返り、仰向けで倒れた。
俺は仰向けのハンマーベアに「フット・スタンプ(相手の腹部にジャンプして両足または片足を叩き込むプロレス技)」を放つ。
ハンマーベアは悲痛な雄叫びを上げた。
俺はすぐに離れた。
予想通り、ハンマーベアは前足をジタバタしている。
それはまるでフックを放っているようだった。
すぐにハンマーベアは起き上がり、ライラさん目掛けて突進した。
俺はすぐにハンマーベアの横腹目掛けて突進した。
ハンマーベアはバランスを崩して、ライラさんの目の前で俯せで倒れた。
そして、ライラさんはハンマーベアの頭に剣を突き刺した。
ハンマーベアの頭から血が出てきた。
ハンマーベアはあまりの痛さに暴れている。
さらに流血によって視界が悪いらしく、目を瞑っている。
今ハンマーベアに近づいたら危ない。
誰もがそう思っていた。
しかし、ライラさんは盾を構えて近付いている。
「危険です!!」
俺はライラさんに向けて叫んだが、ライラさんは無反応だった。
ライラさんは少しずつ距離を縮めていく。
そして、盾を構えた状態でハンマーベアに突進をした。
ハンマーベアはよろけた。
次の瞬間、ジャンプしたライラさんはハンマーベアの頭に刺さった剣のグリップを握った。
すると剣が光を発して、ライラさんはハンマーベアを縦に切り裂いた。
ハンマーベアは切り裂かれた状態で倒れ、動かなくなった。
「や、やり・・・ました・・・。」
ライラさんは剣を地面に刺して、膝をついた。
すると、剣の刃が折れてしまった。
俺は駆け寄り、倒れそうになるライラさんを受け止め、肩を貸した。
「今のが『聖剣技』か?」
「ええ・・・。」
ジェラルドさんの質問にライラさんは答えた。
とても疲れている声だった。
正直「聖剣技」について聞きたかったが、とりあえず俺らは先に帰路を歩いた。
帰路の道中の戦闘や、村での証明書の授与はジェラルドさんに任せ、俺はライラさんと共にギルドを目指した。
数分後、ギルドに無事に帰ることができ、あとはジェラルドさんを待つだけだった。
俺とライラさんはギルドのイスに座った。
「大丈夫ですか・・・?」
俺の左側に座っているライラさんの顔色が悪くなっていた。
とても気分が悪そうだ。
「ごめんなさい・・・。 実は私は、体力を犠牲にして『聖剣技』を使うのです・・・。」
「なんだって・・・!?」
「聖剣技」が何か知らないが、体力を犠牲にする技なんて危険だ!
元々体力が無いライラさんなら尚更だ。
俺はポケットからハンカチの代わりに入れておいた布を取り出して、ライラさんの汗ばんだ顔を拭く。
「す、すみませ・・・。」
すると、ライラさんは気を失った。
倒れそうになったライラさんを俺は慌てて受け止め、ギルドのイスに寝かせた。
「大丈夫ですか・・・?」
受付嬢さんが心配して、受付から来てくれた。
「二階に無料で使用可能なベッドがいくつかあります。 使ってください。」
「ありがとうございます。」
俺はライラさんをお姫様抱っこで抱きかかえ、二階に運んだ。
そして五つあるベッドの内の一つにライラさんを寝かせた。
もちろん装備は全部外した。
「あとは私たちが見ておきますので、タカヤさんは自分のことをしていいですよ。」
受付嬢さんが二階に来てそう言ってくれた。
俺は受付嬢さんに礼をして、一回に戻った。
受付には別の受付嬢さんが座っている。
他にもいたんだな。
「タカヤさん、何があったんですか?」
ギルドにいたリースさんが心配してきた。
俺は今日の出来事をリースさんに話しながら、ジェラルドさんを待つことにした。




