リアルスライム
崩れた壁の向こうには、数匹のスライム。
そして奥には大型のスライムがいた。
よくみると、大型のスライムの体から小さいスライムが生まれている。
例えるなら、大きな粘土から千切って小さい粘土を作るように・・・。
「なるほど。 アイツが本体か・・・。」
ジェラルドさんは即座に理解した。
いままで戦ったスライムは、奴の欠片だったのか・・・。
とりあえず道にいるスライムを薙ぎ倒し、大型のスライムに近付いた。
近付くにつれて大型のスライムはどんどん大きくなってくる。
そして、目の前には巨大なスライムが立っていた。
俺とリースさんは疎か、ジェラルドさんよりも大きなスライムだった。
「初めて見たぜ・・・。 こんなに大きなスライムは・・・。」
ジェラルドさんは驚きを隠せないでいる。
リースさんも同様だった。
俺もゲームぐらいでしか見たことなく、実物を見るのは初めてだ。
ただ、じっくりと眺めている暇はない。
ぐずぐずしていると、また新たに小さいスライムが生まれてしまう。
リースさんは大型のスライムを剣で斬り裂いた。
しかしスライムには傷跡を付けただけで、平気そうだった。
しかも傷はすぐに治った。
自然治癒能力を持っているのか・・・。
「あー!!!」
リースさんが叫んだ。
見ると、リースさんの剣の刃が無くなっていた。
「おい、見ろよ・・・。」
ジェラルドさんが大型のスライムを指差していた。
スライムの中にはリースさんの剣の刃が浮いていた。
すると、剣の刃が溶解された。
「剣を、喰いやがった・・・。」
そうか・・・。
コイツは強い方のスライムだ・・・。
最悪だ・・・。
ジェラルドさんが俺の肩を叩いた。
見ると、ジェラルドさんがアイコンタクトをしてきた。
そうか・・・。
そうだよな・・・。
俺はスライムを見張りながら、横歩きでジェラルドさんに道を譲った。
そしてジェラルドさんはリースさんを抱え上げて、後方に走った。
俺も続いて走り出した。
・・・つまり逃走だ。
昨日と同様に依頼未達成なのは悔しいが、仕方ない。
あんなのと戦ったら死んでしまう。
俺とジェラルドさんは必死で逃げる。
抱えられていたリースさんは、後方を見ていた。
「追ってきています! 気を付けてください!!」
どうやら、あの大型のスライムも動けるようだな。
生物だから普通そうか。
確かめたいが、昨日はそれで死にかけたので今回は一切見ないことにした。
すると、後方から小さなスライムが飛んできた。
そして床に強く叩きつけられ、小さいスライムは液体となった。
どうやら小さいスライムを「弾丸」代わりに飛ばしてきたようだ。
次々とマシンガンの如く、スライムを撃ってきた。
そして俺の背中に直撃した。
痛くは無かったが、バランスを崩しそうになった。
ジェラルドさんも同様だった。
しかし連続で当たったら、さすがにバランスを崩してしまった。
俺は地面に倒れちまった。
その後ジェラルドさんも倒れた。
なんとかリースさんを軽く前方に投げ飛ばし、下敷きにはしなかった。
「大丈夫ですか!!?」
リースさんが駆け寄ってきた。
・・・どう考えても大丈夫ではないだろう。
だが、そういうことも言ってられない。
俺は何とか立ち上がろうとしたが、続くスライムの凶弾に再び倒れる。
もはや、起き上がる余裕もない。
リースさんも倒れてしまった。
・・・もうダメかもしれない。
俺らはそう思ってしまった。
「ごめんなさい・・・。 私がこの依頼を選ばなければ・・・。」
リースさんが謝罪をしてきた。
「いや、大型のスライムなんて情報に無かっただろ。 俺たちはただ、運が悪かっただけだ・・・。」
ジェラルドさんが続いて言ってきた。
「運が悪かった」か・・・。
俺はさっきまで、若干だがスライムを舐めていた。
その報いを受けたのかもしれない・・・。
もしかしたら、俺のせいかもしれないな・・・。
俯せに倒れている俺の背後で、スライムが次々と飛んでいる音が聞こえる。
今立っても、再び倒れるだろう。
もはや立つことは不可能であろう・・・。
最悪だ・・・。
俺はただ、倒れたまま瞼を閉じた。
「<火炎放射>」
声がしたと思ったら、なんだか無性に熱かった。
と思ったら、すぐに熱さは消えた。
すると、さっきまでマシンガンの連射の如く飛んでいたスライムたちの音が止んだ。
一体なにが起こったんだ・・・?
俺は身体を起こし、後ろを見た。
すると、大型のスライムは炎に包まれ燃えていた。
・・・一体どういうことだ?
リースさんとジェラルドさんも起き上がった。
二人の仕業ではない・・・。
じゃあ一体・・・。
すると、俺らが向かっていた道の先で、光の球を飛ばしている人影が見えた。
いや、人なのだろうか・・・?
なんだか少し丸い感じだが・・・。
「あ、あなたが助けてくださったんですか・・・?」
リースさんが話しかけた。
すると、返事が来た。
「またお前らか。 昨日の大蛇といい、厄介なことに巻き込まれてるな。」
声の低さからして男性であろう。
・・・というか昨日の大蛇って!?
「もしかして、昨日大蛇がいなくなったのって・・・。」
「ああ、そうだ。 俺が燃やして倒した。」
そうだったのか・・・。
だから大蛇の姿が消えたのか・・・。
「あ、あの・・・。 二度も助けてくださって、ありがとうございました!!!」
リースさんが真っ先に言ったことはそれだった。
俺とジェラルドさんも、自然と頭を下げた。
「いや、俺はモンスターを殺しただけだ。 助けるつもりは正直無かった。」
そう言われたが、俺らにとっては命の恩人に変わりはない。
俺らは立ち上がり、男に近づいた。
すると、いままで暗くて分からなかったが、男の姿は言っては悪いが人間とは思えないほどに醜かった。
首が分からないほど太ってており、顔はモンスターのような感じだった。
凄く失礼だが、本当に人間なのかと思ってしまった。
リースさんとジェラルドさんも思ったらしく、リースさんは明らかに歩みが遅くなり、ジェラルドさんも若干驚いていた。
俺は元々いた世界で、酷い顔の奴らを見たことがあるので、そこまで驚かなかった。
よく見ると、男は魔法使いが被るような帽子を被っており、手には本を持っている。
明らかに魔法職の人だろう。
リースさんは改めてお辞儀した。
たぶん、今の謝罪も込めてだろう。
「なぜ、あなたはここに・・・?」
ジェラルドさんが質問をした。
たぶん誤魔化したのだろう。
「依頼さ。 『リアルスライム』を倒すためにね。」
「リアルスライム・・・?」
「アイツのことさ。 と言っても、もう溶けているけどな。」
男が指差した方向は、先程まで大型スライムがいた方向だった。
そこには巨大な液体があり、それが大型スライムだったものだとすぐにわかった。
そうか、『リアルスライム』というのか・・・。
「普通のスライムは、リアルスライムが生み出した欠片だ。 本来はアイツのことをスライムと呼ぶのが正しいんだが、欠片の方が有名でな。 結果的にアイツはリアルスライムという名前になったのさ。」
なるほど、そういうことだったのか・・・。
昔テレビ見た、「レッサーパンダ」と「ジャイアントパンダ」の関係のようだ。
「詳しいんですね。」
「まあ、ちょっとした雑学だ。」
男は帽子のつばを持って、直した。
よく見ると、腕に黄色のバンダナが付いていた。
あの実力で、リースさんと同じ「Eランク冒険者」なのか・・・。
そして男は、出口の方向に歩き出した。
「じゃあ、俺は早くこのことを報告しなきゃいけないんで、先に行きますよ。」
「私たちも出口まで行きます。」
男の後ろに付いて行くように、俺たちは出口に向かった。
出口に着くと、空は既に夕日で赤くなっている。
夕方になっていた。
「やべっ、アイツら大丈夫かな・・・。」
男がボソッと言った。
家族でもいるのかな?
「悪いが、急ぎの用事なのでこの辺で!」
そう言って、男は走って行った。
俺たちは男の姿が見えなくなるまで、見送った。
そして、ギルドへ帰って行った。
ギルドに帰ってまず行ったことは、あの人が誰なのか調べることだった。
俺は早速、受付嬢さんに『冒険者名簿』で調べてもらっていた。
ちなみに≪スライム退治≫は一応多数のスライムを倒してたので、依頼者さんが依頼達成ということにしてくれた。
「なるほど・・・。 だからタカヤはあの時、教えてもいないのに俺の名前を知っていたのか。」
「ご、ごめんなさい・・・。」
ジェラルドさんが後ろから話しかけてきた。
怒ってはいなかったが、納得はしてくれたようだ。
よかった。
「本来、こういうのはプライバシーに関わることなのですからね。 ちゃんと理解してくださいよ。」
受付嬢さんが名簿をめくりながら、俺に注意してきた。
まあ、少なからずは分かっているつもりだ。
「まあ、今回は俺らも知りたいから同罪だな。」
ジェラルドさんがフォローをしてくれた。
この人、器が大きいなぁ・・・。
そして、どうやら見つけたようだ。
「この人ですね。」
「ああ、そうです。」
写真には間違いなく、あの印象に残りやすい容姿が写されていた。
見れば見るほど・・・。
いや、この話はやめよう・・・。
「"マクシミリアン・ディアボロス"さんですね。 Eランクの冒険者です。 よく他の人からは「マック」さんと呼ばれてますね。」
また凄い名前だな・・・。
やっぱりEランクか。
間違いではなかったか。
「Eランクの冒険者!? 冗談だろ?」
ジェラルドさんは疑った。
そりゃ疑いたくもなる。
あんな大きなスライムを焼き殺す呪文を持っているからだ。
「実は、一つ気になることがあるんです・・・。」
受付嬢さんは少し深刻な顔をして言った。
「実は、今日はマックさんが依頼を受けたという報告は、他のどのギルドからも無いんですよ。」
「え?」
依頼を受けていない・・・?
マックさんはあの時、確かに「依頼」と言っていたのに・・・。
「偶然通りかかってモンスターを倒すということをよくしていたと聞きますが、確証が無いため不明なんですよ・・・。」
聞けば聞くほど、謎な人だな・・・。
「依頼」と確かに言っていたが、あれは嘘だったのだろうか・・・。




