廃村に潜む恐怖
いわゆる廃村にやってきた。
依頼した人は、この廃村から山を越えたところにある村の住民。
依頼者さんの話だと、ここは昔はちゃんとした村だったが、山と山に挟まれて日の辺りが悪かったため住民全員が捨てたらしい。
今ではモンスターたちの住処になっている。
これだけ聞くと特に問題はなさそうだが、中には世に出てきたら危険なモンスターも生息していることがあるらしい。
実際にこの近くを通った依頼者さんの話だと、大きな体を持った蛇がいたらしく、これ以上成長したら危険な大蛇になる可能性があるかもしれないため、依頼を出してきたらしい。
なんとも危険な話だ。
周りを見れば苔だらけで、建物はボロボロだ。
当然と言えば当然だ。
それから、さっきから俺のすぐ後ろに隠れるようにリースさんが付いて来ている。
「どうしたんですか?」
俺は今更だが、リースさんに話しかけた。
すると、リースさんが勢いよく兜の正面をコチラに向けてきた。
「オ、オバケが出そうですね・・・。」
確かに廃村や廃墟はオバケの巣窟であるイメージだが、この世界でもそういうイメージが付いているのか。
というかリースさんって、オバケも苦手だったんだな。
虫も嫌いで、オバケも嫌い・・・。
完全に普通の女性だな。
「モンスターは平気なのに、オバケは嫌いなのですか?」
「だ、だって・・・。」
リースさんは何も答えられなかった。
確かに俺もそういうときがある。
苦手な物の苦手な理由を答えようとするが、なぜ苦手なのかがわからない。
おそらくリースさんもそうなのであろう。
「オバケ型モンスターとかはどうなんだ?」
ジェラルドさんがリースさんに質問してきた。
モンスターの中にはオバケのモンスターもいるんだな・・・。
「に、苦手かもです・・・。」
リースさんは暗い声で返答した。
ハームワームのときを思い出す。
だが、今回は"嫌ってる"と言うより「怖がっている」感じだな。
「前から聞きたかったんですが、ジェラルドさんって背中の槍は使うんですか?」
リースさんを落ち着かせるため、無理やり話題を変えた。
そして、俺が本気で気になっていた話題をジェラルドさんに聞いた。
「ああ、たまに使うぞ。 遠くの敵に投げつけたりしてな。」
なるほど、「やり投」か・・・。
確かに肉体派のジェラルドさんにはピッタリだな。
そういえばもう一つ聞きたいことがあったな。
「そういえば、ジェラルドさんの職業はなんですか?」
そう。
前から聞きたかった。
聖職者って魔法とか使うひ弱なイメージだったからな。
「俺か? 俺は「僧侶」だ。」
「僧侶?」
ああそうか、"僧侶"って「モンク」とも読むっけか・・・。
モンクといえば確かに肉体派のイメージだわ。
どうも僧侶って回復魔法メインのイメージが付いてたわ・・・。
「と言っても、知らねえかな? 『東の国』の職業だからな。」
「東の国・・・?」
また新たなワードが出てきたぞ。
『東の国』・・・。
"東洋"ってことか・・・?
「俺は元々『神殿』で「神官」になるために育ってたんだが、東の国の職業である「僧侶」に憧れちまってな。」
「ジェラルドさんって、神殿で育ったのですか・・・。」
リースさんが俺の後ろからひょっこり顔を出し、聞いていた。
俺も『神殿』ぐらいは知っている。
「まあその辺の話は思い出したくねえから、聞かないでくれ。」
「は、はぁ・・・。」
そう言われると、俺とリースさんは黙った。
まあ、誰にだって思い出したくない過去はあるはずだしな。
仕方ないだろう。
「あれ、そういえばタカヤって東の国辺りの名前じゃねえか・・・?」
あ、マズい・・・。
「ああ・・・。 俺にも色々あるんですよ。」
「そ、そうなのか・・・。」
上手く誤魔化せたかな・・・?
モンスターの住処というには、モンスターが全く出ねえんだが・・・。
本当にモンスターがいるのか?
「な、なにも出てきませんね・・・。」
震え声でリースさんが代わりに発言してくれた。
せめて小さい奴が一体ぐらい出ても、いいくらいなんだがなぁ・・・。
「もしかしたら・・・、「奴」の仕業か?」
「「奴」・・・と言うと、討伐対象の大型蛇ですか?」
「ああ。」
ジェラルドさんは立ち止って俺らの方を向いた。
俺とリースさんも同じく立ち止った。
「最悪の場合に備えて、逃げる準備もしておけよ。」
「逃げる準備・・・ですか?」
ジェラルドさんは真剣な表情で忠告した。
最悪の場合・・・。
俺は少し予想できたが、そうはならないでほしいな・・・。
ジェラルドさんは来た道を戻り始めた。
俺はリースさんの腕を握った。
「タ、タカヤさん・・・?」
リースさんは困惑していた。
だが俺は何も言わず、リースさんの腕を引っ張りながらジェラルドさんに付いて行った。
ふと、周りの雰囲気が変わったような気がした。
まるで何かに見られているような感じだ・・・。
ジェラルドさんも察したようで、汗をかいている。
リースさんも気配だけは感じるようで、少し怖がっている。
・・・たぶん怖がっている理由は、オバケと勘違いしているだけだろう。
かなり戻ってきたな。
無事に廃村の入口まで戻ってこれた。
あとはこの山を登って向こう側に行けば安全だ・・・。
だが、俺たちが山に入ろうとした瞬間、なにかが素早い動きで動いているのがわかった。
すると突然、ジェラルドさんが怒鳴った。
「マズい! 走れー!!」
その言葉を聞いた瞬間に、俺はリースさんの腕を引っ張りながら全速力で走りだした。
同じくジェラルドさんも走っているが、おそらく俺たちのスピードに合わせてくれている。
「ジェラルドさん! リースさんをお願いします!!」
「お、おう! 任せろ!!」
俺はジェラルドさんにリースさんを預けた。
リースさんは何も分かってなさそうな反応をしていたが、ジェラルドさんに抱き抱えられた。
そして俺とジェラルドさんは山に入り込んだ。
斜面はそれほど酷くないが、走って登って行くにはとても辛い。
それに道ではないため、自然の障害物などで溢れている。
だが、後ろから恐怖が迫っていることを考えれば自然と身体が動いてくれていた。
ジェラルドさんも、リースさんを落とさないように注意しながら斜面を登っている。
後ろから何が迫っているかは大体わかる。
だが一度も振り返ってはいないため、どうなっているかはわからない。
途中ジェラルドさんが足を怪我したように見えた。
だが心配をしている暇はない。
というかできない。
喋る余裕もない。
そんな状況に追い込まれていた。
その後も、ただ俺らは山を登っていた。
後ろから迫ってくる死の恐怖に怯えながら・・・。
さすがに俺もジェラルドさんもペースが落ちてきていた。
仕方ないが、危険な状況だった・・・。
そして、ついに俺は後ろから迫ってきている恐怖の正体を見てしまった・・・。
遠くにいるが明らかに大きい身体を持ち、肌は暗い灰色で、鮮やかな赤色を放つ口、そして漆黒の瞳を持った、巨大な大蛇だった。
そう、俺たちの討伐対象は既に他のモンスターを喰らって成長してしまっていたのだ。
巨大な大蛇に・・・。
俺はすぐに前を向き直し、山を登り続けた。
しかし最初のときのような速さではなかった。
というかもう、速いと呼べるペースではなかった。
すると、大蛇が今までとは違う速さでこちらに向かってきた。
あの野郎・・・、俺たちがバテるまで遊んでやがったな!!
なんて生意気な奴だ!!
すごい速さで俺たちに迫ってきた。
途中違う方向に行って、また元の場所に戻ってきた。
完全に遊んでやがる・・・!!
俺はとてつもなく悔しかった・・・。
諦めずに登り続ける俺とジェラルドさんだったが、大蛇も本気になったようで、コチラに一直線に向かってきた。
もうダメだと思い、俺はせめて迎え撃つ体制を取った。
その時、変な方向からまるで衝撃波のようなものが大蛇に直撃し、大蛇は山を転がって下って行き、見えなくなった。
一体なんだ・・・!!?
俺は今のがなんだったのか気になったが、他の二人はどうやら見てなかったらしく、ジェラルドさんは登り続けていた。
俺もとりあえず、山を越えてから考えることにした。
「さっき衝撃波みたいなのが、大蛇を吹っ飛ばしました!!」
山を越え終わり、俺たちはギルドへ戻るため歩いていた。
討伐対象の蛇の危険度が上がっていたため、そのことを報告し、他の人に依頼をやってもらうためにだ。
その途中で俺は、さっきの光景を二人に言った。
「じゃあ、俺たち以外にも山にいたということか?」
「それはわかりませんが・・・。」
あくまで衝撃波しか見てないため、本当に俺たち以外にも人がいたかは分からん。
だが、自然現象であの衝撃波が出たとは、とても考えられない。
「いずれにしろ、それのおかげで俺たちが助かったわけだな・・・。」
「そうですね・・・。」
俺とジェラルドさんは、滅茶苦茶クタクタだったため、あまり考え事ができない状況だった。
少し休みたいと思ったが、あんな化け物を残しておくわけにはいかねえしな・・・。
「お二人共、ギルドへは私が報告しておきますので、どこかでお休みになったほうがいいのでは・・・?」
「いや、大丈夫ですよ・・・。」
リースさんは心配してくれていた。
だが俺は一刻も早くギルドに戻りたかった・・・。
「・・・ということです。」
ギルドに戻り、一部始終を受付嬢さんに報告した。
受付嬢さんは了承してくれて、依頼も取り消してくれた。
受付嬢さんはあえて触れないでくれたが、つまり「依頼未達成」ってことだな。
最悪だ・・・。
数時間後、依頼に行ってくれた冒険者が戻ってきたが、なにやら不思議そうだった。
その冒険者の中にはAランク冒険者のグリフォスさんがいたため、俺はグリフォスさんに何があったか聞いた。
「いや、大蛇なんていなかったぞ?」
「ええ!!?」
他の冒険者も、「大蛇なんていなかった」と言っており、俺たちは困惑していた。
グリフォスさん達は、リースさんの性格を理解していたため、信じてはくれていた。
そしたら、受付嬢さんが口を開いた。
「実は、前に討伐依頼に出た冒険者から、討伐対象が見つからなかったという報告を受けたことがあります。 それに似ていますね・・・。」
どういうことだ・・・?
あんな大きい大蛇が姿を消すなんて・・・。
今日のギルドは「消えた大蛇の事件」で盛り上がった。




