オークとの戦い
依頼の目的地に着いた。
「今回はハームワームとは違い、リトルオークを殲滅することが目的です。」
「殲滅ですか・・・。」
「はい、洞窟内に住み付いたリトルオークを退治するのです。」
つまり、洞窟の中を空にすればいいんだな。
簡単な説明だ。
「ただ、リトルオークは道具を持っている場合もありますので、気を付けてください。」
「ハームワームのときと、差が結構ありそうなんですが・・・。」
「大丈夫です。 ・・・たぶん。」
たぶん!!?
たぶんって何よ!?
リースさんのことだから、また簡単な依頼だと思ったんだけど・・・。
いや、「リトル」って付いてるし、弱いとは思うが・・・。
でも『オーク』ってあのオークのことだよな・・・。
「では、入りましょう。」
リースさんはランタンを鞄から取り出し、明かりをつけた。
そして洞窟に入って行った。
洞窟の中は結構暗く、明かりが無いとあんまり見えない感じだった。
「あの、これ駆け出しの冒険者には結構危険な仕事だと思いますが・・・。」
「私が付いていますので、安心してください!」
「そ、そうですか・・・。」
まあ、リースさんは自分とは違い、結構な実力者だろうから安心だと思うが・・・。
・・・ちょっと待て、そういえば俺、リースさんの実力を知らない・・・。
「あ、あのリースさんって、冒険者ランクはいくつなんですか?」
「え、Eランクですけど?」
Eランク・・・。
俺がGランクだから2つ上か・・・。
まあ、1ランクの差はデカいと思うし彼女もそこそこ強いんだろうな。
「黄色いバンダナはEランク」ということを覚えておこう。
「ところで、グリフォスさんやマーガレットさんはどのくらいなんですか?」
「グリフォスさんはAランクで、マーガレットさんはDランクですね。」
やっぱりグリフォスさんは凄い人だったんだな・・・。
マーガレットさんも中々・・・。
確かグリフォスさんは赤いバンダナで、マーガレットさんは紫色のバンダナだったな。
ということは「Aランク=赤」で、「Dランク=紫」か。
で、俺はGランクの白バンダナだ。
そんなことを考えていたら、リースさんが急に立ち止まった。
どうしたんだろう・・・?
声をかけようと思ったが、瞬時に状況を把握した。
何かいる・・・。
暗闇の中から小さな怪物が現れた。
まるで鬼か豚のような・・・。
「あれがリトルオークです。」
なるほど、確かにオークの名に相応しい容姿だわ。
すると、リトルオークはリースさんに向かって突撃してきた。
だがリースさんは剣を振り、リトルオークを切り裂いた。
リトルオークは地面に倒れ、すぐさまリースさんは剣で突き刺した。
そしてリトルオークは動かなくなった。
「トドメはしっかり刺す。 油断しないでください。」
リトルオークを殺すリースさんの姿は、正しく『女剣士』だった。
全身に甲冑を身に纏っているのを除けば。
すると、リースさんが向いている方向の反対側からリトルオークが攻めてきた。
「危ねえ!!」
咄嗟に前に出て、リトルオークの顔面にゲンコツを食らわせ、そのまま殴り飛ばした。
リトルオークは壁に壁に強く叩きつけられた。
「あれ? 俺ってこんなに殴る力が強かったっけ?」
精々吹っ飛んで地面に倒れるぐらいかと思ったが、壁まで吹っ飛んで行った。
相当体が軽いのだろうか?
「まだ生きてます!」
リースさんが壁にいるリトルオークに向かって、剣を突き刺した。
今度こそ死んだだろう。
「トドメは無理ですが、ダウンはさせることができます。」
「わかりました。 後ろを頼みます!」
リースさんの後ろを守るように歩む。
しばらくは何も現れなかった。
「果たしてリトルオークだけなんですか?」
「依頼によってはたまに違うモンスターが現れる場合もあります。」
そういう会話をしていたら、リースさんはランタンを地面に置いた。
さすがに俺でも、その理由は察した。
明かりにリトルオークが近づいてきた。
姿を現したリトルオークに、リースさんが剣を向ける。
近付いてきたリトルオークをリースさんが切り払い、倒れたリトルオークの胸を剣で貫く。
別の方向から来たリトルオークの頭に、俺は「ダブル・スレッジ・ハンマー(上方で両手を組んで、そのまま振り下ろし、組んだ手の部分で相手を殴打する プロレス技)」を放った。
リトルオークは地面に倒れ込み、俺は落ちていた硬い石を使って、リトルオークの頭を何度も叩いた。
そしてリトルオークは動かなくなった。
「トドメもできるようになりました。 自分だけに集中してください!」
「わかりました。」
さっきまで現れなかったのが嘘のように、リトルオークがどんどん襲いかかってきた。
リースさんは次々と斬り殺し、俺も殴り飛ばして石でトドメを刺した。
周りは死屍累々となっている。
数匹倒したところで、リトルオークは現れなくなった。
俺の服には返り血が染み込んでいた。
「洗えば落ちるかな・・・。」という冗談をいつもなら考えるところだが・・・。
さっきは夢中で考える暇がなかったが、モンスターとはいえ、人の形をした生き物を殺すのは、かなり辛い気分だ・・・。
「進みましょう。」
リースさんは再びランタンを持ち、歩き始めた。
その後も幾度となくリトルオークとの戦闘を重ね、ついに洞窟を抜けた。
しかし、リースさんは引き返した。
その理由は俺も分かっている。
ここに来るまで一直線に進んだが、途中に幾つもの横穴があったからだ。
横穴にもリトルオークがいたり、いなかったりした。
捜索を続けていると、ついに現れた。
「あのリトルオーク、棍棒を持ってますね。」
ついに道具を持っているリトルオークが現れた。
殺傷武器ではないだけマシだな。
武器を使っていても、所詮はリトルオーク。
リースさんは一直線に剣を突き刺し、息の根を止めた。
「この棍棒、要ります?」
「まあ、一応持っておくよ。」
俺はリトルオークから棍棒を奪った。
中々丈夫な感じだ。
その後もリトルオークを駆除し続けた。
さっきのように、棍棒を持ったリトルオークも現れた。
しかしリースさんの迅速な対応で、無傷で乗り切った。
俺の服は既に変色していた。
「これ、帰るまえに川かなんかで洗った方がいいですかね?」
「まあ、完全に落ちはしないと思いますが、洗った方が良いですね。」
もう、リトルオークの殺傷に慣れてしまったな。
こんな話をするようになっちまったもん・・・。
話をしている間に、次の横穴に入っていた。
しかし、この横穴は他の横穴と違い、かなり深く掘られていた。
「なんか今までより、穴が深くありませんか?」
「・・・念のために、用心はしていた方がいいですね。」
リースさんがそういうと、さっきより慎重な歩き方になった。
まあ、俺も少しは思ったさ。
ただ単に長いだけの穴か、もしくは・・・。
・・・どうやら、その考えは当たっていたようだ。
穴の終着点に、大きな影が座っていた。
リトルオークよりも遥かに大きい。
例えるなら、バスケットボールの外国人選手並みだ。
つまり、リースさんはもちろん、俺よりも大きい。
さらに、ガタイも良いようだ。
「アレって・・・。」
「はい・・・。 どうやらリトルオーク達の親玉ですね。 つまり、『オーク』です。」
いままでのが小さかっただけで、アレが普通のオークか・・・。
オークのいるところには、壁に松明があるため明るく、姿がハッキリ見えた。
よくファンタジー作品などで、「ガタイが良く力持ちの怪物」だということは散々理解してきた。
それが目の前に・・・。
「倒せるんですか・・・?」
「戦ったことはありません・・・。」
まじかよ・・・。
とんだハプニングじゃねえか。
「アイツも倒さなくちゃならないんですか?」
「依頼には≪リトルオーク退治≫としか書いてませんので、別に倒さなくてもいいです。」
なんだそうなのか。
俺はホッとした。
だが、リースさんは話を続けた。
「ですが、アレをほっとくと危険です。 ボランティアとして倒すべきです。」
リースさんは剣を構えた。
最悪だ・・・。
リースさんの良い人すぎるところは、長所でもあり短所でもあるな・・・。
正直逃げたい気分だったが、リースさんはただオークの方をじっと見ていた。
そして、一気にオークの近くまで走り、剣を突き刺した。
やったか?
なんで俺はそんなことを思ってしまったんだろう・・・。
「やったか?」なんて言葉を使った後は、大体やってないというのがお決まりのパターンだろ。
オークは唸り声を上げ、背後にいるリースさんを確認した。
そしてリースさん目掛けて殴りかかった。
その拳は見事にリースさんの兜に当たり、衝撃でリースさんは吹き飛んだ。
かなりの腕力を持っているようだ。
「リースさん、大丈夫ですか!!?」
「・・・え、ええ。 兜が無ければ危なかったわ・・・。」
兜は少しヘコんでいた。
鉄をヘコますとは・・・。
オークは背中に刺さった剣を抜き、その場に捨てた。
すると、どうやら戦闘態勢に入ったようで、こちらに走ってきた。
「まずい・・・!」
オークがこちらに突進してきた。
恐らく、俺はともかくリースさんは今の状況で避けるのは不可能だろう・・・。
俺は一か八か、オークに正面から立ち向かった。
突進してくるオークの顔面に、ドロップキックを放った。
衝撃で俺は宙を舞い、地面に背中から落ちた。
オークはどうなった・・・?
固い地面に倒れた衝撃で、体が動かない。
「タカヤさん!」
「リースさん、オークは?」
リースさんが、体を起こしてくれた。
「タカヤさんの攻撃で、地面に倒れてます!」
どうやら、効いたようだ。
俺の視界には、地面に倒れているオークがいる。
「俺に構わず、今の内にトドメを・・・。」
リースさんは頷き、優しく俺を寝かせ、オークの方向に走って行った。
俺は天井しか見えてなかったが、リースさんが剣を拾った音が聞こえた。
しかし、同時に「キャー!!」という悲鳴と衝撃音が聞こえた。
「リースさん・・・!!?」
一体なにが起きているんだ。
俺は無理に身体を動かし始めた。
体が悲鳴を上げながらも、俺は体を起こした。
目の前では、壁にもたれているリースさんをオークが追い詰めている。
そしてオークは何度も何度も殴りかかっている。
その度に、リースさんは痛々しい悲鳴を上げている。
甲冑に身を守られていても、衝撃が体に伝わっているのだろう・・・。
「や、やめろぉ!!」
俺は近くにあった石をオーク目掛けて投げた。
それと同時に、俺は俯せに倒れた。
無理して体を起こしたからだろう。
オークはこちらに気付き、近寄ってくる。
石を投げられたという侮辱にキレたのだろう・・・。
俺の体は動かない。
もはやここまでだろう・・・。
『第二の人生』・・・呆気なかったなぁ・・・。
俺は静かに目を閉じた。
そして、洞窟内に凄い衝撃音が響いた。
なぜだろう・・・。
衝撃音が聞こえたのに、俺はまだ地面で寝そべっている・・・。
俺は閉じてた瞼を開けた。
そして、ある物が目に入った。
「ア、アフロ・・・?」