閑話1
少し聞いてくれない?私の大事な大事な親友の話を。
誰もが羨む腰辺りまで伸びた濡れ羽色の髪。自身と希望に満ち溢れた何時でもキラキラと輝く鮮やかな紅色の瞳。白く儚い白肌に薄らと浮かび上がる甘い頬の色。同性であっても思わずキスしたくなるような唇。洗礼されたプロポーション。童話の世界から間違えて飛び出してきてしまった、と言われても納得してしまうような女の子。それが私の親友、安心院新愛。
頭が良い。性格が良い。顔が良い。挙げ出せばキリがない。それに加えて仕草の1つ1つまで計算されているようなまるで非の打ち所がない完璧人間。誰もが彼女を尊敬して盲信して信仰して心から愛す。そういう風にこの世界は出来ていた
私が彼女を知ったのは小学校に入ってから。それまでは彼女の名前さえ知らなかった。けれど学校に入って過ごしていくうちに安心院新愛という名前を1日だって聞かない日はなかった。誰もが安心院さんは、新愛ちゃんが、と話をしている。私にはそれが怖くて仕方がなかった。安心院新愛って何なんだろう。もしかすると宇宙人かもしれない。皆洗脳されてるんだ。そうに違いない。私もそのうち洗脳されて安心院さん安心院さんって言わされるんだ。あの時の私にとって一番のトラウマだったと思う。
そしてある日安心院新愛と出会う。
きっかけは何だったんだのか覚えていない。でも廊下ですれ違ったとか、落し物を拾ってもらったとか、知らないうちに隣にいたとかそんな何処でもあるようなシチュエーションだった。たまたま、偶然。本当に記憶に残らないワンシーンだった。それから何の縁なのか私と安心院新愛は共に行動する事が多くなった。私としては不本意だった。だっていつ洗脳されるか分かんないんだから。でも一緒にいた。それは小学校を卒業してもそうだった。小学校を卒業しても私は洗脳されないように気を張っていた。
中学校へ入った時、私にとって大事件が起きた。その名も反抗期。あの時は色んなものが積み重なって私は相当グレた。それはもう例えられない程酷い荒れようだった。いつの間にか私の周りには誰もいなくなっていた。1人を除いて。勿論、安心院新愛だ
私が髪を染めて親にぶん殴られて家を飛び出した時、自分の家にあげてくれて殴られた部分の治療をして「美人が台無し!」と怒っていた。私に虐められたと嘘泣きする女に「泣かないでもいいから証拠を出して」と言って場を凍らせた。どうしても感情が抑えきれなくて目の前で大泣きした時には黙って抱きしめてくれた。
好きだって本気で言ったら「私も」って笑ってた。
認めざるおえなかった。私は洗脳されている。それはいつからだったか分からないけれど私が思っていたよりもずっとずっと幸せな洗脳だった。私の好きと彼女の好きが別の物だって事は分かってしまったけれど全然苦じゃなかった。寧ろ私は彼女の大事な親友という席をゲットした。それだけで充分だった
中学を卒業しても私と安心院新愛はずっと一緒にいた。だって親友だから。
洗脳されたことを認めた頃から私は気づいた。彼女の洗脳の正体を。それは簡単であるようにみせて最も難しい『他人を絶対に肯定する事』だった。誰であれど否定しない。それが洗脳の正体だった。それは聖人のようで恐ろしい行為でもある。どれだけ間違った行動でも否定しないのだから。彼女は自分の気づかない間に人を救いながら、駄目人間を製造している。そのせいでトラブルに巻き込まれたりもするけれど……。まあそれはまた別の機会に話すわ。
まあ何が言いたいって安心院新愛はチートだって事。それだけ。あの子だったらどんな所へ行っても大丈夫。それはどんな劣悪な環境であっても、今の世界と全く違う別の世界だったとしても。
……と戯言はこんなもんにしておかないと。次は新愛の挨拶だ。今日で最後になるんだからちゃんと聞いておかないと。それにしても本当にあのポエム読むのかが一番気になるわ。読んでくれたら最高だったの意味を込めて駄菓子の一個でもプレゼントしよう。
ある女の子の盲信的な言葉
どこまで真実かは分からない