知らない世界6
その高い女の子の声が聞こえたのはあの花の方からだった。ビックリしてそちらを見ると金色のポニーテールをしたオレンジ色の瞳の、小さな女の子が羽で飛んでいた。
「ええーーーーー!?」
「っニナ!?」
「っもう何よお!大きな声出すとビックリするでしょ!」
怒られた
「ご、ごめんなさい。だってびっくりしたの…」
「…貴方私がみえるの?」
「?みえます…」
「…………すっっごーい!私初めて見た!」
「はなびらが!」
「ルシフェル様!1度お下がり下さい!」
「っニナ!君は誰と話しているんだ?」
「なにって、みえないの?」
目の前の女の子だ。所謂手のひらサイズな彼女は花の上で飛び跳ねながら両手を高く掲げるとハニーレディの花弁が空へと舞った。これも魔法なのか、と呑気に見ていると周りの皆はそれどころじゃあないみたいだった。何か焦ったように辺りを見回している。どうやら皆にはこの女の子が見えていないようだ。
「普通の人間に私達は見えないのよ」
あっさり女の子がそう言ったけれどそれでは困る!既に私は「ルシフェルおにいちゃんに光がいっぱいついてたのー」と私にしてみれば見たまま事実を伝えただけなんだけれど、付き人2人にコイツはやべーぞと思われているんだから!その一心で私は必死に伝えた
「ここにいるよ!おんなのこがいるの!きんいろのかみのけのおんなのこ!いまのはなびらもね、このおんなのこがだしたんだよ!ほんとうだよ!」
「だからー私のことは見えないんだって」
「……妖精?」
ルシフェルさんが呟いた
「……みえるの?私が?」
「……信じられないけれどみえるよ」
見えたみたいだ!良かった!これで私は正しかったって分かってもらえたよね!
「私のセリフよ!こんな事が……貴方」
「は、はい」
「…………貴方巫ね」
「かんなぎ……?」
初めて聞く言葉だった。ルシフェルさんに助けを求めるよう視線を向けると困ったように微笑まれた。彼にもわからないらしい。
「私たちと人間を結ぶ唯一の存在のことよ。ながーい歴史の中でも殆どいなくて幻なんて言われているわ。……成程。貴方が私とルシフェル達を繋いだのね。それにしても私も初めて見るのよね、巫。へー。ふーん」
「…教えてくれてありがとう。よければ今度は君の事を聞かせてくれるかな?」
「ルシフェル様!」
「この子は悪い子じゃないよ」
「私はフィオーレ。大地を司る妖精よ」
私たちと人間を結ぶ……?幻……?今日魔法の存在を認識した私にそんな話をされても困ります。そんな中でも冷静に対応するルシフェルさんは流石といえる。何が起こるか分からないからあくまで下手にでた。考えて言葉を選んでいるんだとすればこの歳で(といっても実年齢しらないけれど)かなり頭が切れる
「やっぱり妖精……本当にいたんだね」
「まあそう思われてもしょうがないわね。私達は人間の目にうつらないんだから。うつらないだけで結構近くにいるのよ?……そうね。こんな機会もうないかもしれないんだから……ルシフェル!」
「!はい」
「……お花、大事に育ててくれてありがとう。最近、魔力のある人は花を育てたりしなくなって魔力なしじゃ咲くことが出来ない花はどんどん数を減らしてたの。貴方のお陰でどの花も絶滅せずに済みそうよ。これからも良ければいろんな花を育ててね……いつもお礼を言ってるのに全然聞いてないんだから!今日はきこえたでしょ!返事は!」
「…はい。これからも沢山咲かせてみせます。フィオーレ様。後、いつも返事が出来なくてごめんなさい。いつも見守ってくれてありがとうございます」
「そ、そんなんじゃないわよ!見守ってなんかないんだから!声が聞こえないのもしょうがないの!はい!もうこの話はおしまい!!」
暖かい雰囲気に包まれてとても居心地がいい。フィオーレ様とルシフェルさんお話し出来て良かった。良かったって心の底から思っているけれど私は完全に置き去りですよ。空気読んで何も言わなかったけれどね!フィオーレ様まじツンデレ!とか口が裂けてもこの場じゃあ言わないよ!だって見た目は子供でも中身大人だもん
「さてと、貴方名前は?」
「…あ、ニナです」
完全に不意をつかれた
「ニナ、ね。これから長い付き合いになりそうだからよろしくね」
「そうなんですか…?」
「巫について詳しい事は知られていないけれど私達にとっても人間にとってもニナが重要になってくる事は間違いないわ。貴方がいなければ私がこうやってルシフェルと話せなかったように2つの世界が交われないの。……嗚呼、2つじゃない。4つね」
「4つ?」
「私としては人間とよりそっちとの仲を取り持って欲しいわね……ふわぁねむくなってきた」
「え?あのフィオーレ様」
「いきなり起こされたからまだ寝足りないのよ……話はまた今度にしてちょうだい……それと次に会う時は様ってつけないで。あと敬語もなし。子供なんだからそれ相応でいいのよ……じゃあおやすみー」
言うが早い。フィオーレ、は大きな黄色のハニーレディの中へと戻って行ってしまった。言い逃げだ。結局巫って言うのが何か全然分からなかった。というかもしかするとフィオーレも知らないのかもしれない。その辺の話はまた出会った時にしよう
「……おにいちゃん」
「びっくりしたね。でも妖精様は僕達の御加護をもたらしてくれる聖なる存在だから大丈夫。僕がこうやって魔法が使えるのも妖精様のお陰なんだよ。…少し疲れたね。部屋に戻って飲み物でも飲もうか」
「はい」
「お花はこの赤色にしようか。……レン?」
そういえば先程から妙に静かなレンドール。私と一緒にルシフェルおにいちゃんに抱き締められてはいるんだけれど……そっと顔を覗き込み固まってしまった。このこ、寝てる
「っレンには退屈だったみたいだね」
ルシフェルおにいちゃんが肩を震わせている。笑いどころですかおにいちゃん。何処から寝ていたのかは知らないけれど寝れるような状況ではなかったと思う。尊敬する兄の腕の中だから安心して寝てしまった、だったらいいけれど私は心配ですよ。
「レンドール様は私がお部屋にお連れ致します」
「任せたよユリヤ」
ルシフェルさんからユリヤさんへとレンドールが渡される。その間も起きる気配は全くない。熟睡ですか…
「じゃあ僕の部屋に行ってお茶でもしようか」
「わかりました、おにいちゃん」
「あ、そうだニナ。僕も敬語じゃないニナの方が可愛いと思うな」
「…………はーい」