知らない世界3
モエが私のチョコケーキを見つめながら呟いた。
「…じゃあ交換する?」
モエの目の前にあるショートケーキはもう殆どが食べられて残っていない。だけど目をキラキラさせながらケーキを一心不乱に見つめる姿はとても愛らしい。特にお腹が空いているわけでもないからあげるのはいいんだけれど、ケーキを2つも食べてしまえば晩ご飯が食べられなくなってしまうかもしれない。そう思って提案したけれど
「これはモエのケーキだよ!」
怒られてしまった。食べかけのショートケーキを私の目から隠すように覆っている。それはごめんなさい。
だけどこのままでは確実に晩ご飯が……と悩んでいた時モエとは反対側から視線を感じた……あ。
「じゃあはんぶんあげるね」
「えー」
「いやならあげない」
「えー!うーん…まあいいよ」
「ありがとう。おねえさんもういちまいおさらください」
渋々だけどOKをもらえた。よかった。ケーキを持ってきてくれたお姉さんにお皿を頼む。頼まれたお姉さんはキョトンとした。驚きの眼差しをこちらに向けて動かない。それさっきみたよ。アリスさんとおんなじ。しばらくしてからアリスさんに肩を叩かれ慌てて頭を下げて部屋を出ていった。それを見たアリスさんが小さく溜息を零していた。確かに小さい子達の前でバタバタと走って行く姿はお行儀がいいとは言えない。でも何か慌てていたようだから許してあげてください。
お姉さんが戻ってきた。手には勿論頼んだお皿があった。
「ニナお嬢様……こちらで宜しかったですか?」
「はい。ありがとうございます」
子供が使うにはあまりにも豪華なお皿を受け取る。私は目の前にあったチョコケーキをなんとなーくで半分に切り分けた。そして半分のチョコケーキを受け取ったお皿へとのせた
「じゃあこれはモエにあげる」
「やったー!」
「もうはんぶんはレンドールにあげる」
「え」
「いらない?いらないならたべちゃうけど」
「ほ、ほしいけど、いいの……?」
「いいよーニナはおねえちゃんだからモエとレンドール、ふたりにやさしくするの。だっておねえちゃんだからね!」
大事な事なので2回言った!私は元々1人っ子だから兄弟との接し方が分からない。でも妹、弟は年下なんだから優しくしてあげないといけないことはわかる。反対側から感じた視線はレンドールのものだった。欲しいのかな?と思い渡してみる。渡したケーキをじーーっと見つめて動かないレンドール。レンドールの周りだけ時間止まってない?と疑問に思うほど動かない
「レンドール?」
「……おねえちゃんありがとー」
やっと顔をあげてくれた弟のなんて可愛いこと!へにゃりと笑うその姿はまるで天使!やっぱり私は間違っていなかった…!!私の弟妹やべぇ!本当に幸せそうに笑うその顔に私はノックアウトです。チョコケーキは食べられなかったけどお腹いっぱいだ。
「どういたしまして。よろこんでくれたならよかった。」
「うん。ニナおねえちゃんからもらったケーキ……えへへ」
ケーキを見つめて嬉しそうに笑うからいつでもケーキぐらいあげるよおおって暴走しかけた。私は悪くない。悪いのは可愛いすぎる私の弟妹だ。衝動を抑えながらレンドールの頭を撫でる。私とは真逆と言ってもいいのホワイトブロンドはサラサラでずっと梳いていたくなる呪いがかかっていました。
「きょうのおねえちゃんやさしいからすき」
「いつもはきらい?」
「きらい、じゃないけど…やだ」
「じゃあきょうからやさしくなるね」
「!うん!」
「モエもケーキくれるおねえちゃんがすきー!」
「あげるのはいいけどちゃんとごはんもたべなきゃだめだよ」
「はあい」
おねえちゃんおねえちゃんと言われるのがこんなに嬉しいなんて知らなかった!ここは何処だろうとか色々考えてたけどもうやめた!いつかどうにかなるだろう!今はこの天使達と戯れるのが先決だ!
「おねえちゃんどこいくの?」
可愛い下二人がケーキを食べ終えるまでを(舐めるように)眺めて食堂をあとにした。すると後からレンドールがひょこひょこ駆け寄ってくる。更に後ろを背の高いお兄さんがついて歩いていた。レンドールのお世話係さんかな
「わかんない。おさんぽしようとおもって」
「そっかあ…あのね、ぼくもいっしょにいっちゃだめ?」
「いいよ!いっしょにいこ!」
「うん!」
私の横へと並びさりげなく手を握られた。やだレンドールったら私がただの幼女だったら惚れてたよ。
「レンドールはどこかいきたいところある?」
「うーん……あ!あるよ!こっち!」
繋いだ手を引っ張りながらどこかへと走って向かうレンドール。
「どこにいくの?」
「おにわ!ルーおにいちゃんがだいじにそだててるおはながいっぱいあってきょうはおはなさく日だってルーおにいちゃんがいってた!」
「そうなんだ。おはなたのしみ」
レンドールのいう『ルーおにいちゃん』は多分私のおにいちゃんでもあるんだよね。記憶喪失(仮)の私にはそのルーおにいちゃんが本当に私のおにいちゃんなのか、親戚のおにいちゃんなのか分からない。でもそんな事をレンドールに言ってしまえば混乱させてしまうのは目に見えている。仕方ないので黙ってレンドールについて行き出会った『ルーおにいちゃん』をみて判断するしかないと諦めた。それにしてもお花が咲く日?そんな日があるの?
「ついた!」
レンドールにつれられて辿り着いだそこには、視界いっぱいに色んな種類のお花が広がっていた。
「すごい!おはながいっぱい!」
「ルーおにいちゃんがだいじにしてるの!」
一番近くにある花に近寄ってしゃがみ込み見てみるとガーベラの花が咲いていた。
「ぼくこのおはなのしろいろがすきなんだ」
「わたしもすき!ガーベラのしろは」
「『希望』って意味が込められているんだよ」
お庭の奥からゆっくりと歩いてきた人。歳は9、10歳といったところかな。手には花束を抱えている。その人の髪はレンドールと同じホワイトブロンドで太陽の光にあてられてキラキラと輝いていた。それを見れば一目瞭然。この人がルーおにいちゃんでレンドールと私のおにいちゃんだ