知らない世界12
コンコンコンッ
勉強会がそこそこに盛り上がり本来の目的を忘れてしまいそうになっていた頃、扉を叩く音が響いた。ルシフェルおにいちゃんがどうぞ、と声をかけると一息おいて扉の向こうから声がした
「失礼致します。旦那様奥様がお帰りになられました」
「わかったよ。ありがとう」
「ここまでですね。ニナ様ご準備を」
「はい。おにいちゃんおべんきょうみてくれてありがとう」
「ニナが優秀過ぎて本当に見てただけだから気にしなくていいよ。レンドール達を起こさなきゃね」
アリスさんからもこもこの羽織を渡されたと思い手を伸ばすと「後ろを向いてください」と言われる。素直に後ろを向くと右腕左腕と通され羽織を着せてくれた。羽織ぐらい自分で着られるのにな
「うーん起きないね。抱っこしていこうか」
そう言ってルシフェルおにいちゃんがモエを抱っこする
「ノワールはレンドールをお願い」
「……アリス」
「弟を抱っこすることも出来ないのおにいちゃん?」
「起きた時に俺の顔が見えたらレンドールが泣く」
そう言ってノワールおにいちゃんは先に扉を出ていってしまった。何でも無いように見せてレンドールに泣かれたっていう過去が心にきているのかもしれない。
「…言いすぎたかな」
「アリスさんレンドールおねがいします」
ノワールおにいちゃんを追いかけて扉をあけ、ようとしたけれど届かない。正確に言うなら回さなければ開かないドアノブでドアノブにはギリギリ手が届いているけれど回せない。何で5歳児の届かない様な高い位置にドアノブがあるんだ。背後でルシフェルおにいちゃんがクスクス笑っているのが聞こえる。おにいちゃん聞こえてるから!怒るよ!何度も背伸びをして飛んでを繰り返してガチャガチャガチャガチャ
「……何してるの」
「ノワールおにいちゃん!あのねドアノブとどかなかったの。でもルシフェルおにいちゃんたすけてくれなくてがんばってたの」
「え!いや違うよニナ!」
「……ほら」
あまりにもガチャガチャ五月蝿かったのか扉の向こうにいたノワールおにいちゃんが開けてくれた。悪意がないのは分かっているけれど笑って助けてくれなかったルシフェルおにいちゃんに囁かな仕返しをする。頬を膨らませる私を見てノワールおにいちゃんが何かを考える仕草をする。少しして言葉と共に手を出してきてくれたのでその手のしがみつく。ノワールおにいちゃんは驚いたように目を開くと少しだけ目元を緩めて私を扉の外へと連れ出してくれた。
「ルシフェルおにいちゃんがいじわるしたんだよ!」
「分かってる」
頭を優しく撫でられるとそのまま手を引かれて廊下を進み出す。アリスさんやルシフェルおにいちゃん達は置いていく方向なんだね。薄暗い廊下を二人で進んでいく。その間に会話はない。ルシフェルおにいちゃんと違って話すのが得意という訳ではなさそうなノワールおにいちゃん。無口、というのも何だか違う気がするけれど
「ノワールおにいちゃんおはなしして?」
「お話…何がいい」
「なんでもいいよ」
「それが一番困る…今日妖精に会ったんだろ?どうだった」
「かわいかったよ!あとねーツンデレだった」
「つんでれ…?」
「おにいちゃんも妖精様みたい?」
「ん。でも俺は妖精よりも精霊が見てみたい」
「ようせいさまはおにわにいけばあえるけど、せいれいさまはどこにいけばあえるのかな?」
「妖精も精霊も魔法を使う時に力を貸す存在だ。なら俺が魔法を使う時になればいるかもしれない」
「じゃああしたおにいちゃんのまほうつかうところみにいってもいい?」
「ああ」
「やったあ!やくそくね」
話をふればちゃあんと返してくれるし会話も続く。やっぱり無口ではないんだよね。自分から発信をしないだけで。ノワールおにいちゃんの良い所は気づかれにくい。食堂で話す時椅子を引いてくれたこと。先程勉強していた時も机の端にあった紅茶を零さないようにと真ん中に移動させてくれていた。私と話す時聞き取りやすいように若干ゆっくり話してくれるのもポイントが高い。貴方の弟レンドールはそんな貴方の魅力に気づいていないだけです。私に言わせてみればとても魅力的です。素敵なおにいちゃんですよ
「着いた。他を待つか?」
「えっとどうしよう」
「……廊下は冷えますよ。入っておいで」
両親の部屋の前、一足お先に着いた私たちを部屋の中から招き入れる声がする。驚きノワールおにいちゃんを見上げると私の頭一撫し、扉を3回叩く。
「ノワールとニナです。入ります」
私の手を引きながら扉を開く。中に入ってみると私の部屋よりも広く質素なイメージがある部屋だった。真ん中にあるソファにはホワイトブロンドに赤眼の男性。そして黒髪、青眼の女性が腰掛けていた。その容姿からパパとママだと言うことが分かるんだけれど、若い。若すぎる。二人とも下手すると10代後半に見えてしまいそうだ。じーっと見つめているとその視線がに気が付いた女性が微笑みかけてきた。控えめに、でも花がひらくように笑う姿はとても美しかった。大人になれば私もこんな風になれるのかなー。そんな事を考えながら私も笑い返した。すると女性は笑顔を崩しきょとんとしたあと、先程の笑顔よりも幼くいたずらっぽく笑った
「こんばんわ。今日はご機嫌ですわねニナちゃん」
「こんばんわかあさま。やぶんおそくにしつれいします」
「……本当にニナちゃんかしら」
「正真正銘ニナです母様」
あれーっと言うようにノワールおにいちゃんに疑問をぶつける母様。その仕草はとても幼い。私こそ本当のお母さんか尋ねたいぐらいですよ。漫才のようなことをしているとブロンドの男性。父様が口を開いた。
「こんな時間にどうかしましたか」
父様は体の線は細く落ち着いた柔らかい雰囲気のする所謂優男のような感じであるのにも関わらず、私を見据える真っ直ぐな眼差しと堂々として威厳のある態度。まさに貫禄のある人だった。娘の私に丁寧な言葉で話してくれている。優しいかと言われるとそうではない。話をふられている私だけがわかる自然と緊張してくるような重みのある声だ。
「とおさまおしごとおつかれさまです。おつかれなのはしっているのですがモエがとうさまとかあさまにあいたいときょうないていたのであいにきました。あとレンドールもないていなかったけれどあいたいそうです」
「そうですか…貴方達に寂しい思いをさせてしまってすみません」
「おしごとがいそがしいのはしかたがないです。かわりといってなんですがこんかいこうやって、よるおそくまでおきてへやをたずねてきたこと、ゆるしてはくれませんか?」
「許すも何も大歓迎ですよ。私の愛しい娘達」
「それよりもニナちゃん!こちらへいらっしゃい」
呼ばれたのでノワールおにいちゃんの手を離し母様の元へ歩み寄る。近くに来た私のおでこに手を当て目を瞑る母様。なんだかおでこがぼんやり暖かい気がする。されるがままじっとしていると母様の手が離れおでこにあった熱もなくなる。何か貼られたのかと思っておでこを撫でてみると同時、母様に思いっきり抱きしめられた。な、ないぞうでる!なんかデジャブ……?
「本当に記憶喪失なんですのねニナちゃん!痛いところなどありませんの?」
「ニナが記憶喪失のこと知ってらっしゃったんですか」
「ノワールくんもまだまだですわね。屋敷の至る所に母様の魔力でつくられたお手製の人形が貴方達を見守っておりますのよ」
「何かに見られているとは思っていましたが母様でしたか」
「あら、気配は察知出来ていますのね。上々ですわ」
「敵意があるものではないと判断して探りはしませんでした」
「それは頂けませんわね。悪意を出さずに尾行追跡をするなんて悪い大人達にとって簡単な事ですわ。その一つの判断が命取りになりますので今後は気をつけて。……そうですわね。ノワールくんには私の人形達全てをどれだけの時間をかけて探すことが出来るかという宿題をだしましょうか。どんな手を使っても構いません。ですが全部見つけてくださいね」
「はい。母様」
「か、かあしゃまくるしいです」
「ああ!ニナちゃんごめんなさいね。…記憶喪失になっても貴方は大事な私とニコル様の娘ですからね。何か困ったことがあればすぐに言って頂戴。」
「ありがとうございますかあさま」
「それにしてもニナさん。記憶喪失になる前クロード様といたというのは本当ですか?」
「はいおそらくそうです。ただアリスさんからきいたはなしでわたしはおぼえていなくて…」
「そうですか…でしたら今はクロード様に好意はないと」
「こ、こうい…ですか?うーん、クロードさま、というかたのおかおのわすれてしまったのでなんともいえませんが、いまはノワールおにいちゃんのほうがすきです」
「!」
「あら良かったですわねノワールくん」
「……」
「成程……ではこのタイミングに婚約破棄も行えますね……」
さらりと父様が怖い発言をしたような気がする。婚約破棄?どういう事なんだろう
「賛成です父様」
「私は反対です。もしニナちゃんの記憶が戻った時、あちら側からではなくニコル様が婚約破棄をなさったと知ればもう二度と口をきいてもらえなくなっても可笑しくありませんわ」
「……婚約破棄はあちらからしてもらいましょう」
「かあさま。わたしのこんやくしゃさまはどんなかたですか」
「そうですわね…ニナちゃんと同い年で現国王の息子、つまり皇太子様ですわ」
「こうたいしさまがこんやくしゃ…」
という事はこの家もそれ程位が低いわけではないのか。王族、それも時期国王になるかもしれない皇太子とこの年で婚約を結べるくらいの地位はあるって事だよね。これは、早々歴史の勉強をしておくのがいいかも知れない。
「ニナさんを怪我させて何が婚約者でしょうか。そう思いませんかノワールさん」
「全くもって同意します父様」
「ニナちゃんの事が可愛くて仕方がないようなので放って置いていいですわ」
「わかりました…?」
おにいちゃんと父様は仲が良いってことは充分わかった。




