知らない世界9
ご飯最高だった。もうどこをとっても最高としか言えない料理の数々だった。これから毎日食べられると思うと舞い上がるような気分だ。きちんとご飯を残さず食べたモエが目を輝かせながらこちらを向いた
「ちゃんとたべたよ!」
「きれいにたべてモエはえらいね」
「レンもぜんぶたべた!」
「レンドールもえらいえらい」
好き嫌いせずに全部食べたことを褒めてあげると得意げそうに笑うモエ。するとレンドールまでもが褒めろと言わんばかりに食べたことを報告してきた。偉い、と言ってあげればこちらも喜んでいた。もう何回でも言う。妹と弟が可愛い。尊い。辛い。
「パパとママいつかえってくる?」
「わかんない。でもおそくなるっていってたからかえってくるまでにねるまえまでのじゅんびしてまってよう」
「おふろとか?」
「そうそう。よし!あのとけいのみじかいはりがこのいちまできたらわたしのおへやにしゅうごうね!」
「「はーい!」」
声を揃えて返事をする下二人に心を洗われながら10時になったら自分の部屋に集合と伝える。お互いに従者さんを引き連れて出ていく二人。集合時間まで3時間ぐらいあるからねーそんなに張り切っても一律にしか時間は進まないよーって心で言いながらも思わず笑が零れる。
「ニナ」
私も部屋に戻ろうかと席を立つとノワールおにいちゃんに呼び止められた。隣にはルシフェルおにいちゃんがいる。ノワールおにいちゃんとルシフェルおにいちゃんは対照的だ。髪の色も目の色も私を見る表情だって反対だ。ふんわり笑うルシフェルおにいちゃんに比べて無表情のノワールおにいちゃん。これがデフォルトなんだろうけれど外から見れば怒ってるようにも見える。そういえばルシフェルおにいちゃんに飛びついていたレンドールもノワールおにいちゃんにはノータッチだった。やはりこの顔が怖いのかな
「今いいか」
「うん。9じまでならだいじょうぶ」
「それでいい」
私の隣に立ち、近くにあった椅子をスっと後に引くノワールおにいちゃん。座ればいいのかな?引いてくれた椅子に座る動作をすると丁度いい位置に椅子を動かしてくれる。紳士……!私の隣にノワールおにいちゃんが。椅子を動かして私とノワールおにいちゃんの間にくるようにルシフェルおにいちゃんが座った。
「頭痛いか?」
「いたくないよ」
「他には?」
「どこもいたくないよだいじょうぶ」
「そうか。何か思い出した事は?」
「ううんなんにもないの…」
「…………」
ぎこちない手つきで頭を撫でられる。髪の毛グシャグシャになってる気がするけれどこの後の予定はお風呂に入って、モエ、レンドールと共にパパママに会いに行くだけだ。無問題。
「撫でるのヘタ過ぎるよ。髪ぐちゃぐちゃになってる」
「五月蝿い」
「妹の前でそんな言葉使うのやめろよ。ニナ、真似しちゃ駄目だからね?」
私やレンドールにあまあまだったルシフェルおにいちゃんだけれどノワールおにいちゃんにはちょっとだけ厳しい気がする。さっきモエが泣き出してしまった時も喧嘩程ではないけれど言い合っていたな。食べる座席が隣だったり、こうやって二人でいるところを見ると仲良くない。ではないんだろうけれど
「お前はいいから部屋に戻れ」
「ニナとノワールを2人にする訳ないだろ。怖い顔だってレンドールに泣かれたくせに。魔法の練習ばっかりじゃなくれちょっとくらい笑う練習しなよ。」
ルシフェルさん性格変わってません?この数時間で積み上げられてきた優しいルシフェルおにいちゃん像が少しづつ崩れていってます。これだけ言われてもノワールおにいちゃんは言い返さない所をみて痛いところを突かれているんだろう。ただ不機嫌そうに眉が顰められている。確かに整った顔の無表情って冷たい印象になりがちだ。加えてノワールおにいちゃんは眼光が鋭い。初対面の人には特に勘違いされやすいだろう。けど毎日会う家族ならいつものことだって慣れてもいいと思うんだけれどなあ
「レンドールひどいね。おにいちゃんこわくないよ」
「でもこんな怖いお顔のおにいちゃんより笑顔のおにいちゃんの方がいいでしょ?」
「ルシフェル」
「べつにニナはいいよ。だってノワールおにいちゃん、すきでそのおかおしてないでしょ?みんな、にこにこできないよ。だからいいの。ルシフェルおにいちゃんはニナがにこにこしてなきゃきらい?」
「そんなことない。どんな風でもニナが大好きだよ」
「えへへ。わたしもルシフェルおにいちゃんすき。でもノワールおにいちゃんもすき。あたまいたくないよ。しんぱいしてくれてありがとう」
「…ニナに何も無いならいい。」
また頭を撫でられる。先程よりも優しく気遣うような手つきだ。ノワールおにいちゃんはきっと不器用なだけなんだろう。こうやって私のことを考えて行動してくれているんだ。ルシフェルおにいちゃんと似て、妹想いのいいおにいちゃんだ
「困った事があったら言え」
「うん!じゃあね、おにいちゃんたちはどっちがおにいちゃんなの?」
「ん?どっちもニナのおにいちゃんだよ?」
「…俺が兄だ。と言っても双子だから大差ない。モエとレンドールはレンドールが兄だ」
「……あーそういう事か」
「ごっごめんねルシフェルおにいちゃん」
「いいんだよ。僕こそ分かってあげられなくてごめんね」
子供らしく舌っ足らずに、言葉を崩して話しているとついついやり過ぎてしまった。ノワールおにいちゃんには奇跡的に伝わったけれどこれはいけない。注意しなくちゃ。
「ノワールおにいちゃんはまほうすきなの?」
「好きというよりは得意だ」
「どんなまほうするの?ルシフェルおにいちゃんみたいにおはなさかせられる?」
「俺はルシフェルと魔力の質が違う。出来なくはないけどやらない」
「ノワールはニナを守る魔法が使えるんだよ」
「まもる?」
目の前にノワールおにいちゃんが手を出てきた。何事とその手を見つめているとノワールおにいちゃんから黒く鈍く光る何かが出てきて手の平に集まってきた。これ、ルシフェルおにいちゃんのやつ!色が違うけれど同じだ!黒い光は少しずつ大きくなりぐるぐると手の平で回る。これはこれで綺麗だと眺めていると突然その黒の光がはじけた。反射で目を閉じてしまい手で顔を覆う。
「ニナ」
ノワールおにいちゃんに声をかけられて恐る恐る目を開けると何も無かった手の平の上に氷で出来た小さな兎がちょこんとのっていた。
「わー!かわいい!さわってもいい?」
「ん」
手を伸ばすとその兎を私の手の中へと渡してくれた。触ってみると全く冷たくない。見た目はどこから見ても透き通る氷なのに。それに私の手の平の体温で溶けることなく鎮座している。
「…ねえ最近熱心に何かやってると思ってたけどまさかこれ?」
「…お前のあの庭と同じような物だろ」
「全然違うから。その努力は褒めるけどさ」
「ねえ!ノワールおにいちゃん!これつめたくないのはどうして?」
「魔法だから」
「すごい!ニナにもできる?」
「教えてやろうか?」
「ほんとう!?」
「待った」
喜ぶ私に静止をかけたのはルシフェルおにいちゃん。
「僕が教えるからノワールはいいよ」
「お前じゃ出来ないだろ」
「やれば出来る。僕がそれを習得している間、ニナには基礎を教えるから」
「時間が勿体無い。俺が教えた方が早いだろ」
「だからいいって。僕はアリスからニナに魔法を教えてあげてって頼まれてるんだよ」
「俺はニナ本人に頼まれたけどな」
おにいちゃんズがバチバチと火花を散らしている。どうしてこうなった。
「お前にはレンドールを教える役目もあるだろ。ニナは俺がやる」
「レンとニナ一緒に教えるよ。それにニナと一緒に勉強できるって言えばレンのやる気もあがるだろうし」
「効率が悪いって言ってるんだ。そんな事も分からないのか」
「ノワールこそ僕の話聞いてる?というか理解出来てないの?ごめん。話難しかった?」
怖い怖い怖い怖!特にルシフェルおにいちゃん!ギャップ凄いって!隠そうとしない嫌味の応戦すごい!というか君たち幾つだ!こんなネチネチと言い合いして!もっと純心にいこうよ!子供心って大事だよ!それより何より誰か助けて欲しい。この二人に挟まれた私を誰か助けて。願いを込めてぎゅっと手にある兎を抱きしめた
「ニナ様少し宜しいでしょうか。私事で申し訳ございませんがもうそろそろご準備をしていただきたいのですが」
「うわーーんアリスさんしゅきーー!」
不安を察知するようにスルリと登場したアリスさん。今の私にとって神に等しい存在だ。今のだって私をこの冷えた空間から救い出すために言ってくれたものだろう。用意するのに2時間もいらないもんね…!
「アリス!ニナの勉強は僕が見るべきだよね!」
「………」
「申し訳ございません。こうなると私の一存では決めかねますので旦那様と奥様に決めて頂くのは如何でしょうか」
「「それだ」」
こうしてこの場は何とか収まった。アリスさん有能説。私の中で株爆上げなう、です




