勉強会
欲望のままに書いたので、あまり纏まりが無いかもしれません。
注意〈〈〈作者は低学歴です。〉〉〉
〈GL〉〈悲恋〉〈初投稿〉
1月8日。
今朝は非常に辛かった。
というのも、私は休暇中ずっと昼夜逆転の生活を送っていたのである。
そんな私が気持ちの良い朝を迎えられるはずもなく、眠気で意識がはっきりしないまま自転車のペダルを漕いでいる。
時々、用水路に落ちそうになり、目が覚める。
それでも眠気は再び襲ってくる。
山を登ればトンネルがある。
私は、すっかり冷たくなってしまった手を袖に引っ込め、全力でペダルを漕いで山へ向かった。
やはり、トンネルの中は暖かい。
しかし、今の私にとって、かえってそれは不都合なことであった。
実際にトンネルに入って気付いたのだが、暖かい所に居ると眠くなる。
人間は、余裕ができると隙ができるのだろうか
などと考えながら、結局私は全力でペダルを漕ぎ続けた。
教室には、誰も居ない。
暖房がよく効いていて、今の私には暑すぎるくらいである。
息を整えるために席に座り、そのまま何もせず眠ってしまった。
目が覚めた時には既に殆どの生徒が教室に居た。
校門が閉まるまであと3分も無いというのに、河内は居ない。
河内とは、中学が同じで、且つ同じ部活に所属していた友人である。
名は凛という。
この高校の生徒では唯一の友人なのだが、彼女はよく休む。
特に体育のある日には。
故に私は体育が嫌いだ。
もっとも、運動自体あまり好きではない。
特に理由も無く彼女の席を眺めていると、彼女がやって来た。
「お早う。」
遅刻しかけていたにも関わらず、何事もなかったかのように挨拶をする。
寂しさとも怒りとも喜びとも言えない感情に駆られ、私は彼女を軽く叱る。
そうこうしているうちに、チャイムがなった。
何はともあれ、彼女が来た。
それだけで私は嬉しい。
満たされた感じがする。
急いで荷物を片付ける。
睡眠時間は短かったが、眠気はとっくに吹き飛んだようだ。
そろそろ先生が入室なさる頃であろう。
それでも私は我慢ができず、話題もないのに彼女に話しかける。
彼女は私が話しかけると、見ているだけで吸い込まれそうな黒くて長く美しい髪を、少し尖って可愛らしい耳に掛け、中身の無い私の話を、何時も通り聞いてくれるのであった。
河内は、凛はずるい。
私が話している時、私の目を真っ直ぐに見つめる。
彼女の目を見ていると、吸い込まれそうになるので、私は何時もつい目を逸らす。
そして視線を戻すと、また私の目を無垢な瞳で見つめるのである。
視線だけではない。
可愛らしく少しだけする相槌も、艶のある唇も、長くて美しい指や脚も、何もかもが、私の視線を奪い、避けさせるのである。
「席に着き、私語を慎みなさい」
少し不機嫌な教師の声により、意識が引き戻される。
騒がしかった教室が静まり返る。
何時から教壇に立っていたのだろうか。河内と話していたから気付かなかったのであろう。
先生が何か仰っているが、私には聞こえない。
先程の河内との会話のことで頭が一杯なのである。
しかし、どうしてだろうか、会話の内容は一切憶えていない。
先生の声が聞こえるまで、私の意識ははっきりしていなかった。
ぼんやりと河内を眺めるだけで、会話の内容に関することは一切考えていなかった。
変なことを口走ってはいないだろうか。
全身から汗が吹き出し、赤面する。
誰にもばれぬように、隣を一瞥する。
彼女に変わった様子はない。
少し安心したものの、この状況自体がまずい。
誰かに気付かれでもしたら、怪しまれるに違いない。
それに、彼女が平然を装っているだけなのかもしれない。
疑心暗鬼になっても仕方がないので、顔の火照りを治めるため、無心になろうと試みた。
始業式の前に、主要科目の考査がある。
競うことが好きなのか、試験直後と答案返却時は、河内が何時もより興奮気味に話しかけてくる。
故に私は、考査が好きである。
しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
始業式等の式典の間は、毎回同じことを考えている。
私は彼女が、凛が好きなのである。
しかし、彼女は、異性にこそ興味を示さないものの、同性に興味を抱いている様子もない。
私は彼女のことを、何も知らない。
中学の頃から知っているのに、知っていることは外見のことばかりである。
彼女は、私が、同性愛者であることを知っているのだろうか。
いや、知っているはずがない。
私は、中3の時、あえて同性愛者であることを言いふらすことにより、ファッションレズのレッテルを張られた、いや、張らせたのである。
中3の頃は河内と私は同じクラスであった。
しかし、もしかしたら。
だとしたら、彼女は。
式典のある度、同じことを考える。
しかし、答えはでない。
そうこう考えているうちに、校長の話が終わった。
生徒指導の話を聞き、校歌を斉唱し、式典は終わる。
校長の話以降の記憶は一切無い。
考え事をする気も起きず、無心で教室へ向かう。
1人で歩く河内を眺めながら、独りで歩いた。
彼女は、1人で行動していることが多い。
私とは違い、可愛らしく且つ美しいのに、彼女は大抵1人で行動している。
そんな彼女を見ていると、ふと、寂しそうな表情をする時がある。
放っておけず、偶然を装って隣に並ぶ。
すると彼女は、一瞬可愛らしい笑顔を浮かべる。
そして、私の顔が彼女に向いていないことを確認するとすぐに、元の表情に戻るのである。
私はそれを知っているから、何も話さない。
彼女の表情を横目で見るには、伸びた髪が少し邪魔になる。
産まれて初めて、髪を切ろうと思った。
自主的に決めたとは言え、やはり散髪は嫌だ。
家から美容院は遠いし、美容師に髪を切られている時間は、妙に長く感じる。
いっそ自分で適当に切ってしまいたい。
しかし、河内に変に思われるのだけは避けたいので、大切な時間を、お洒落に捧げることとする。
そんなことを考えていると、バスが来た。
私はバスの大きさに、呆然としてしまった。
何処にでも走っている、至って普通のバスである。
バスのドアが閉まりそうになり、焦って乗り込む。
羞恥のせいか、まともに前を向くことができない。
乗客は、そんな私を気にする様子もなく、携帯を触っていたり、本を読んでいたりする。
運転手は、少し嫌な顔をしていたが、すぐに何事もなかったかのように、バスは出発した。
揺れるバスの中、私は、息も整っていないにも関わらず、散髪後の姿を河内に見てもらうことだけで頭が一杯になっていた。
今回の散髪は、思っていたほど苦ではなかった。
美容院は良い匂いであったし、美容師の手際が良かったので、すぐに終わった。
そして何より、思っていた以上に髪型が似合っているのである。
すっかり気分が良くなった私は、この髪型に合う服を買うことに決めた。
人混みを嫌う私は、何時もなら古着屋で買い物を済ます。
しかし、今日は特別である。
私は、都市のショッピングセンターに行くことを決めた。
バス停には、誰も居ない。
汚れた古いプラスチックのベンチに腰を下ろし、バスを待つ。
バスが見えると、私は今朝のことを思い出した。
今回は恥をかかないよう、バスが停まる前に立ち上がる。
そして、意識をバスへ向ける。
この動作は、大袈裟で不自然なのではないか。
全身が火照るのを感じる。
それを誤魔化すため、乗車と同時に上着を脱いだ。
今日は考査の答案返却日である。
私はその事を忘れてしまっていた。
勿論、河内の意識は私の髪ではなく、考査結果に向いてしまうだろう。
彼女の反応を楽しみにしていた私にとって、これ以上に落胆させられることは無い。
失意の中、教室へ向かう。
何時もは私が最も早く着くのだが、今日は13番目であった。
勿論河内は、まだ来ていない。
荷物を片付け、隣を見て、溜め息をついた。
河内の机を眺めていると、彼女が現れた。
不思議そうな顔をして
「お早う。」
と言う彼女に、私は挨拶を返すことができなかった。
悲しいわけでも怒っているわけでもない。
強いて言うならば、喜びに近い感情であるが、悲しみのように胸に引っ掛かる。
少し経って、声を出せるようになったことに気付くと、何時ものように、彼女を軽く叱った。
彼女はそれを適当に聞き流して、話題を考査のことへ逸らした。
考査に限らず、運動以外の勝負事の話をしている時の彼女は幼く見える。
普段とはまた違った可愛らしさが、溢れ出ている。
私は、そんな可愛らしい彼女を眺めながらも、意識は寂しさに似た感情に向いていた。
考査の結果が返ってきた。
結果は、私が河内に勝ち、彼女は楽しそうに悔しがっていた。
彼女の反応から分かるように、私は彼女のライバルではない。
私は、彼女が心から悔しがっているのを見たことがない。
彼女にとって、競争は、あくまでも一種の遊びなのであろうか。
とにかく、私は河内のライバルではなく、沢山の友人の中の1人なのである。
彼女と勝負をする度、心の何処かが、何処か暗い所へ落ちていくような心地がする。
しかし、今回ばかりは、神様が私に救いの手を差し伸べて下さったようである。
1教科だけ、圧倒的に彼女より得点が低いものがある。
これを利用すれば、勉強会という名目で、彼女の家へお邪魔できるだろう。
それも、昨日購入した服を着て。
私がやや興奮気味に教えを乞うと、彼女は長く綺麗な指で、私の手を握り、歩き始めた。
気付いた時には河内家の玄関に居た。
「もう入っていいよ。」
部屋を片付けていたのだろうか、息を切らした彼女が頭だけを廊下に出してこちらを見ている。
何分間待っていたのかは分からないが、顔の火照りは未だに治まっていない。
折角の好機だったのに、制服のまま来てしまった。
いや、家にお邪魔できただけで十分幸せなことである。
ソファーにしては背の低い、不思議な椅子に座ってあれこれ考えているうちに、眠りに落ちた。
「あ、起きた。」
目が覚めると同時に、綺麗な声が聞こえた。
人間は、本当に綺麗なものを見たり聞いたりすると、綺麗以外の言葉が出てこないようだ。
寝起きだからかもしれないが。
「お早う。そんなに私のこと好き?」
ニヤニヤ笑いながら、私に問う。
寝言でも言ってしまったのだろうか。
しかし、こんなこともあろうかと、脳内で何度もシミュレーションを行っていたので、取り乱さない。
だが、いざとなると、何を言って良いのか分からない。
彼女は追い討ちをかけるように、繰り返す。
「好き。友達として。」
とだけ答えると、彼女は暫く黙ってから
「ふーん?本当に?さっき赤面してたの知ってるよ。」
と、痛いところを突いてくる。
私は、もう追い込まれてしまい、
「この歳で、親と手を繋ぐのは恥ずかしいでしょ?それと同じ。」
と、詭弁めいたことを言ってしまった。
彼女は珍しく私に言い負かされたようで、暫く黙っていた。
そして、
「私は、同性愛者じゃないから。誤解しないでね。」
とだけ言い、勉強会の準備を始めた。
主人公の視点からのみなので、私の国語力では河内の寂し気な表情に関しては特に言及できませんでした(できたとしても恐らくしてないでしょう)
もしも主人公が河内を信頼していたら、結果は、違っていたかもしれません(というかそのつもりで書きました)