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009:【PJACA】DYRAが死神と呼ばれるわけを理解したとき

前回までの「DYRA」----------

罠に嵌まって撃たれたDYRAを助けたのは、彼女が捜していた相手、RAAZだった。DYRAなど相手にならないとばかりに圧倒的な能力を見せながら、彼女を助けてその場を立ち去った。自分だけを追って欲しいと言い残して。

「DYRA……」

 タヌは駆け寄ると、DYRAの上半身を起こした。彼女の外套は胸元のあたりに三つばかり穴があいており、血がついていた。

「怪我して……そんな‼」

 動揺を露わにするタヌの声が、合図になった。

「……ぐっ」

 低い女の声。ほぼ同時に、タヌの焦げ茶色の瞳とDYRAの金色の瞳が合った。

「DYRA!」

 無事とわかってホッとするより一瞬早く、タヌの胸元が強く押された。DYRAが押し退けようとしていることに気づくと、慌ててタヌは彼女から離れた。

「ご、ごめん」

「大丈夫だ」

「で、でも、胸のその、血が……」

「何でもない。ちょっと撃たれただけだ」

 いつもの素っ気ない口調だった。

「撃たれただけ……って、ええっ⁉」

 穴があいた位置を見る限り、どう見ても胸のあたりに三発銃弾が命中したようにしか見えない。普通なら確実に死んでいる。なのに、DYRAはというと、まるで子どもが投げた小石にでも当たった程度の反応だ。タヌは戸惑った。

「む、胸を撃たれたのに……」

 タヌは、目の前にいるDYRAが、人生で初めて出会った「常軌を逸した存在」である現実を改めて突きつけられた。それ故に、何と声を掛ければよいのか、気の利いた言葉がまったく浮かばなかった。

「気にするな」

 DYRAは立ち上がるとき、自身の傍らにあった、並べるように置かれた銃弾三発を鷲掴みにした。その仕草を見たタヌは、思い出したように言葉を紡ぐ。

「撃たれたって……撃ったのは、まさか」

 タヌの脳裏に浮かんだのは、先ほど見かけたペッパーボックス式ピストルを持った死体だった。宿屋でDYRAに自分の妻を捜して欲しいと言ってきたあの男だ。

「さぁな」

 DYRAにとっては、撃たれた傷も完治しているし、自分を撃った人間も死んでいる。死人のことなど興味もない。どうでもいいことを何故聞くのかと鋭い視線でタヌを見た。その視線の迫力を前に、タヌは何も言い返せなかった。

「ところで、この赤い花びら」

 話題を変えたつもりだったが、最後まで言葉は続かなかった。

「知らない方がいい」

 DYRAは即座に話を遮り、出会って以来もっとも鋭い視線をぶつけた。しかし、タヌは逆にそれで何かを察する。

「RAAZ……?」

 だが、その問いかけに肯定、否定いずれの返事もなかった。

 立ち上がったDYRAは、赤い花びらが敷き詰められたが如き地面と空とを交互に見つめながら、未明から明け方までの流れを思い出した。

 まさか、こんなところでこんな形で遭遇するとは。それ以上に驚いたのは、あの力だ。蛇腹剣の刃が一瞬で失われた。RAAZは以前対峙したときなど比べものにならない、半端ない強さを持っていた。今、冷静に思い返せば、ここで『前回の続き』をやらずに済んだのは幸運だったのかも知れない。DYRAは心のどこかで安堵した。

 その一方で腑に落ちないこともある。RAAZの言動だ。気遣いもさることながら、「愚民共がキミにとんだ粗相をしたようで失礼した」といういきなりの謝罪。少なくとも粗相をされた覚えなどDYRAはまったくない。

 考えれば考えるほど敗北感と屈辱感が再生産され、言葉で表せない不快感が込み上がる。DYRAはこれからのこと以外、考えるのをいったん止めた。答えの出ないことを考えるよりも、やるべきことがたくさんある。

「タヌ」

「う、うん」

「町は大丈夫だったか?」

 火をつけられる可能性の件だと解釈したタヌは大きく頷いた。

「そうか」

 DYRAは村のときのように、火を放つ人間が現れることを危惧していた。幸い、それはなかった。そして村に火をつけたと白状した存在ももういない。夫婦を名乗っていたが、今となっては本当に夫婦だったかどうかすら怪しい。男は死に、女は見つけられずじまい。おまけに先に遭遇した二人との関係もわからずじまいだ。色々不本意な結果ではあるが、ここまでの顛末を宿の主へ報告した方がいいだろう。森にもアオオオカミはおらず、件の夫婦の夫は死に、妻は行方知れず。そして見慣れぬ死体もあった、と。

 二人は枯れた森を歩き出し、獣道を通って街道へと戻った。

「ねぇDYRA」

 枯れた森を見ながら、タヌが疑問をぶつける。

「どうして、いきなりこんなに枯れちゃうんだろう。アオオオカミに襲われたなら、食い荒らした跡があるはず。なのに、ここには全然なかっ……」

 またしても、タヌの言葉は最後まで続かなかった。彼の言葉を遮ったのは、DYRAではなく、地響きを伴ったドンという大きな音だった。それも一回ではない。数回、続けざまとも重なるようにとも言える間隔で聞こえてきた。

「な、何の音?」

 タヌの人生で初めて耳にする轟音、もしくは爆音だ。

「爆発、のようだ」

「爆発?」

 タヌが重ねて質問をしようとしたが、できなかった。突然、二人の嗅覚も刺激されたからだ。

「これ……」

 タヌはどこかでこの匂いをかいだことがあった。しかし、すぐに思い出せない。そんなに昔の話ではない。むしろ、ついさっきだ。どこだっただろうか。慌てて記憶の糸をたどる。

 タヌの異変に、DYRAも勘づいた。

「お前はここにいろ」

 DYRAはすぐに町の方へ全速力で走り出した。

 どのくらい走っただろうか。ようやく町が見えてくる。あちこちから煙が上がっている。タヌから町は大丈夫だと聞いた矢先にこれかとDYRAは内心、舌打ちする。

 町の入口までたどり着き、中心部の方へ目をやった。

(火薬を使ったのか⁉)

 焼け落ちたというより、吹き飛ばされて破壊された建物の跡が何か所もあった。死体も大量に転がっていた。爆発に巻き込まれ、建物の下敷きになっている死体も多いが、中でもDYRAの目を引いたのは、町の入口付近に転がっているいくつもの死体だった。どれも火傷を負った形跡はなく、胸や首などを斬られている。

 煙と埃が充満する中でうごめく二つの黒い影をDYRAは見逃さなかった。少なくとも爆発に巻き込まれた風ではない。何があったのか話を聞こうと思うが、やりとりが耳に飛び込んだとき、DYRAは自分の考えが間違っていることに気づいた。


改訂の上、再掲

009:【PJACA】DYRAが死神と呼ばれるわけを理解したとき2024/07/23 22:21

009:【PJACA】DYRAが死神と呼ばれるわけを理解したとき2023/01/04 00:45

009:【PJACA】DYRAが死神と呼ばれるわけをボクが理解したとき2020/11/17 17:24

009:【PJACA】緋色の邂逅(3)2018/09/09 12:13

CHAPTER 11 火薬のにおい2017/01/12 23:00

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