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087:【PIRLO】ようやくDYRAとタヌは合流したけれど

前回までの「DYRA」----------

ささやかなハプニングをきっかけに、自身の身に危険を感じたマイヨと別れたDYRA。そこへ、タヌが姿を見せる。無事に合流できてDYRAはホッとした


「タヌ」

 タヌはDYRAの前に立つと、肩で息をしつつ笑顔を向ける。

「宿の人が朝早くから散歩に出たっていうから、捜しちゃったよ」

「すまない。もっと早く戻るつもりだった。心配を掛けたな」

 すぐに戻らなかったことでやはり心配を掛けてしまったか。DYRAは、笑顔のタヌへほんの少しだけ、眦と頭とを下げた。

「ううん。会えたから大丈夫。ボクもDYRAを捜しに行くつもりで外に出たけど、植物園みたいなところ寄ったり、図書館みたいなところ入ったりで、寄り道していたし」

 DYRAが早々に宿屋へ戻っていたら、今度は自分が彼女に心配を掛けたかも知れない。つまりお互い様だ。なので、この話は終わりにしようとタヌは思った。

「DYRAは散歩で、何か見つけたりした?」

 タヌからの質問に、DYRAは首を小さく横に振る。報告するほどの発見がなかったわけではない。先にタヌの話を聞きたかったからだ。

「タヌ。お前はどうだったんだ。色々見てきたんだろう?」

「あ、うん」

 DYRAから聞いてきてくれたことが嬉しかったのか、タヌは、植物園に入って若い女性と出会ったこと、近くに大きな図書館のような場所を見つけてそこへ寄り、本を読みあさったことなどを一気に話した。

「あの乗合馬車の乗り継ぎ場所で聞いた話とか、色々気になったし」

 ピルロでアオオオカミの生態について調べていてどうこうと、パオロで確か話していたなとDYRAは思い出していた。

「得るものは、あったか?」

「難しすぎてわからなかったけど、少しはあったと思う」

 タヌは頷いた。そのとき、DYRAが手にしている、手の中に収まるほどの小ささにまで畳まれた紙と小さなスプーンが目についた。

「DYRAは何かあった? それに、そのスプーン」

「あ、これか」

 DYRAはタヌにスプーンを見せながら話す。

「実はほんの少し前、ここでマイヨとばったり会ったんだ」

 タヌは、いきなりここでその名前が出てくるとは思わなかったと驚きを露わにする。

「えっ! マイヨさんもピルロにいるの!?」

「顔に『会いたい』と書いてあるぞ」

「会いたいよ! サルヴァトーレさんと同じくらい!」

 聞きたいことがたくさんある。数日前のフランチェスコでのやりとりから、彼が両親のことで何か手掛かりになることを知っている気がしてならないからだ。

「だが、立ち寄っただけのようだ」

「そっかー」

「例によって『また、近いうちに会える』と言っていた。あの男のことだ。会えるだろう」

 DYRAは話題を変える。

「タヌ。お前、このスプーンのことを気にしていたな」

「あ、うん」

「珍しい菓子を食べた」

 タヌは、DYRAの口から「菓子」という単語が出てきたことに驚きつつ、珍しい菓子とは何だろうと、好奇心で目を輝かせる。

「『雪菓子』と言っていた。寒い地に降る雪を固めて味を付けたようなものだ」

「えっ! DYRA! それ、珍しいどころか、すっごく珍しくて貴重なものじゃない? お金持ちの人でもそう簡単に食べられないって昔、父さんが言っていた」

 タヌは、父親から小さい頃に聞いたという話を始める。

「ネスタ山の反対側に回り込んで、それでもっと寒い地方にいくと別の山があって、そこのてっぺんから持ってくるって」

「だが、ピルロではそれが簡単に食べられるのだそうだ」

 DYRAはそう言うと、広場の一角にある屋台を指し示した。タヌは、誰もいない屋台を少しの間見つめてからDYRAに視線を戻す。

「あそこで?」

「ああ。売り切れたから、午後になったらまた店を開くと言っていた」

 DYRAの言葉に、タヌは目をキラキラ輝かせる。そんなタヌの姿にDYRAは、やはりまだ子どもなのだなと、ほんの少しだけ、口角を上げた。

「DYRA! ボクも食べたい!」

「では、あの屋台が開いたら」

 DYRAの言葉に、タヌが大きく頷いたときだった。

 突然、甲高い鐘の音が鳴り響いた。それは澄んだ音色で、真鍮の鐘を叩くというより、撫でたときに響く音だった。

「あれっ? 何だろう?」

「何?」

 鐘の音を聞くなり、広場の人々が慌ただしく移動を始めた。一斉に動く集団、という異様な光景が二人の目に飛び込んでくる。

 一体何が起こっているのか。起ころうとしているのか。DYRAとタヌは、広場の人々が早足で移動している様子を目の当たりにすると、彼ら彼女らの行き先へと目をやった。

「あれは……」

 タヌは時計台の向こう側、公園ではない方にある建物に目を留めた。DYRAもタヌが何を見ているか気づくと、合点がいく。

「確か、宿屋の人が『ピルロの役所』があるって言っていたような」

「役所で何か知らせごとでもあるのか?」

「DYRA。行ってみる?」

 DYRAは、タヌの言葉に小さく頷いた。

 二人は人の流れに着いていくように歩いた。


改訂の上、再掲

087:【PIRLO】ようやくDYRAとタヌは合流したけれど2024/12/22 12:31

087:【PIRLO】ピルロの闇(1)2018/11/12 23:00

CHAPTER 87 化けの皮2017/10/09 23:00

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