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073:【?????】そのメイド、簡単には倒れず

前回までの「DYRA」----------

 DYRAとタヌは気持ちを取り直し、ピルロへ向かって歩を進め始めた。少しずつ二人の間の信頼が高まっているのをそれぞれ実感する。が、その矢先、DYRAが倒れてしまう。


「ここは……一体?」

 ロゼッタが目を覚ましたのは、天板がある大きなベッドだった。普段まったく縁のない豪華なベッドに何故自分がいるのか。ぼんやりと天板を見つめながら、記憶の糸をたどり始めたときだった。

「気がついた、か」

 部屋のどこからか、聞き覚えがある男の声が聞こえた。声の主がどこにいるのか、ロゼッタは視線を動かして周囲を見回す。次に首を少しずつ動かす。ベッドから離れた、窓際近くにあるロッキングチェアに背の高い銀髪の男が腰を下ろしているのが視界に入った。自らの主がそこにいた。

「か、会長。失礼いたしま……」

 ロゼッタはすぐさま身体を起こそうとした。が、痛みがまだ残っているせいでスムーズに起きられない。

「寝ていていい」

 主の言葉に、ロゼッタは「お言葉に、甘えます」とだけ答えた。それを聞いた男がロッキングチェアから立ち上がると、二、三歩、ベッドの方へ近づいてくる。ただ、窓から入ってくる光が逆光となったせいで、姿はハッキリと見えなかった。

「フランチェスコであのとき、ISLAの存在に気を取られすぎた」

 銀髪の男が言ったのは、フランチェスコでの「問題の瞬間」のことだった、

「キミに感謝するしかない。よく、そこに気づいてくれた」

「いえ。私も、会長に助けていただきました」

「そうか?」

「はい」

 あのとき少年を助けて、傷を負った。だが、死なずに済んだ。本当に運が良かった。


 思い返せば、あの日は夜が来る前にと馬車で主の元へ急いでいた。しかし、突然、何者かに刺された。それ自体は不覚以外の何ものでもない。しかし、そのアクシデントがあったからこそ、次の「万が一」を想定できた。木綿の布に包んだ、少し硬めの奇妙な材質でできたクッション状のものをボディスーツの内側にあらかじめ入れておくことができたのだ。

 それは、自らの主から以前、「身の危険を感じたときに使え」という言葉と共に渡されていたものだった。それが何かはわからない。が、そのクッションが防刃の役目を果たした。


「キミのおかげで私は可愛いDYRAから嫌われずに済んだ」

 起き上がれぬロゼッタを見下ろしながら、銀髪の男が苦笑した。ロゼッタは彼女なりにわかっていた。この男が一番望まないのはDYRAの不興を買うことだ、と。そのDYRAはどういう経緯からか、行方不明になった両親を探す少年──タヌ──と行動を共にしている。

「ガキはDYRAのために身体を張った。だから褒美の一つでもと思ったが、あんなことになるとはな。考えようによっては、私はガキへとんだ借りを作ってしまったかも」

「会長……」

「そろそろ仕事の話をしようか。ロゼッタ」

 銀髪の男がロゼッタの返事を聞くことなく続ける。

「キミには回復次第、ある場所に行ってやってもらいたいことがある」

「はい」

「怪我はもう大丈夫だろう。ほどなく完治する」

「あの、私は一体、何日眠って……」

 ロゼッタからの質問に、主たる男は笑いながら答える。

「五日、眠っていた」

 ここで男は一転、笑顔から少々厳しいものに表情を変える。

「DYRAを見失った。あのガキもだ。現時点であの二人が次に行ける場所は限られてくる。行き先は予想がつく。じきに足取り自体は掴めそうではあるが、面倒なことになりそうでな」

 その言葉でロゼッタは、タヌたちが次に行きそうな場所がどこか、概ね予想がついた。

「あそこは……」

「確かに私がDYRAやガキに『行け』と言った覚えはある。けどな、あそこは錬金協会のネットワークが強いとは言えない。むしろ、『ない』。そのことをすっかり失念していた。まぁ、そういうわけだ。先回りして、誰かが張り付くしかない」

 先に行って、二人が到着したときに目となり耳となること、そして必要な場面では助け船を出せと。ロゼッタはそれが自分の仕事だと理解した。

「かしこまりました」

「頼む。新しい服や必要なものは一式、用意してある」

 銀髪の男は言いながら、懐から一通の手紙を出した。

「アニェッリの天才服飾仕立師サルヴァトーレの紹介状だ。これがあればどこででも働けるだろう。見通しの良い場所を選べよ?」

 さすが自らの主には抜け目がない。行動を起こせと言った時点でもう、何から何まで揃っている。ロゼッタは意識を仕事モードへと切り替えた。

「連絡手段だが……今回はやむを得ん。鳥でも使うか」

 伝書鳩を使うのだとロゼッタは理解した。

「私はあの街の近く、トルドか、道の駅あたりで模様眺めをして待つさ」

 これから行く街から比較的近い、小さな村の名だった。伝書鳩を使ってのメッセージを確実に受け取れるようにするためだと察する。距離が遠ければそれだけ鳩が無事にたどり着ける確率も相対的に下がるのだから。

「じゃ、そういうことで」

 伝えることはすべて伝え終えたとばかりに、銀髪の男は早々に部屋から出て行った。

(錬金協会がない街……ピルロへ行け、と)

 ロゼッタはゆっくりと身体を起こした。

(行くのは当然だが、タヌさんたちを気にしていたあの男も、来るのだろうか)

 薄れ行く意識の中で姿を見た人物のことをロゼッタは思い出す。タヌの母親を誑かした男と瓜二つの容姿を持ちながら、敵なのか味方なのか皆目わからない人物のことだ。


改訂の上、再掲

073:【?????】そのメイド、簡単には倒れず2024/12/22 11:13

073:【en-route】逃げるふたり(1)2018/09/20 22:48

CHAPTER 73 その囁きは毒薬2017/08/21 23:00

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