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062:【FRANCESCO】会場の名は、修羅場

前回までの「DYRA」----------

フランチェスコに戻っていた錬金協会副会長たち。ディミトリはソフィアが戻ってきていないことを心配していた。その矢先、RAAZからの「招待状」が。だが、その宛先は副会長ではないとわかると、ディミトリは秘密の連絡手段で本当の宛先へ知らせに行く。そこへ、その招待状を見に来た別の人物が?

 メレトから出発した二台の馬車は、夜道をかなりの速さで進んでいた。しかし、DYRAもタヌも、どのあたりを移動しているか、ほとんどわからない。ただ、移動速度から道が荒れていない、それなりに舗装されているのだろうとわかるくらいだ。

「ねぇ、DYRA」

「ん?」

 出発してからどれくらいの時間が過ぎたか。無言の時間に耐えられなくなったタヌがDYRAへ声を掛けた。

「あのね。ずっと気になっていたんだけど。……DYRAって、アオオオカミをやっつけたり、その、錬金協会の悪い人をやっつけたりするの、仕事みたいな?」

 タヌからの質問に、DYRAは答える代わりに鋭い視線をぶつけた。『詮索をしない』約束に触れる内容だからだ。

「ごめん。質問しちゃいけないって。わかってはいるんだけど」

 わかっている上で敢えて聞いている。その気持ちをタヌは自分の瞳に乗せた。DYRAの鋭い視線にも怯まずに。

「ただ、RAAZを追っているだけだ」

「でも……」

 タヌは言いにくそうに言葉を続ける。

「DYRAはRAAZさんを追っているのに、じゃ、RAAZさんはどうしてDYRAを助けてくれたんだろう」

 DYRAを助けたRAAZは味方ではないのか。タヌはそれを聞こうとしたが、止めた。詮索だと言われてしまうのがオチだと思ったからだ。

「あとさ」

 地下水路の件を思い出しながら呟く。

「ボク、乗合馬車で会った人と、地下水路の人は違う人だと思いたいよ」

「そうか……そう、だな」

 このとき、タヌはDYRAの小さな振る舞いに気づく。ほんの僅かだが、口角を上げた。

「……今、ほんの少しだけ、笑った?」

「いや。……別に、そんなつもりはない」

 DYRAは戸惑いとも、不思議とも言いたそうな顔をした。タヌはそれを見て、内心喜んだ。少しずつ、DYRAと打ち解けつつあるかもと思ったからだ。一方、タヌがじっと見ているのが何となく居心地が悪いのか、DYRAは視線を窓の外へやった。

「それにしても、どこを通っている?」

 DYRAの鋭い声での呟きに、タヌは、夜で外の景色が見えないからそんなことを口にしたと思った。だが、その考えは外れだった。

「この馬車、マロッタへなど向かっていない」

 暗いのにどうしてわかるのか。タヌは驚いた。その表情を見たDYRAが冷静に説明する。

「あれを見ろ」

 DYRAが指差した先は随分遠くだが、微かにキラキラと光っていた。

「随分向こう側だが、あれは川だ。メレトからマロッタへ行くのなら、光っているのは、反対側のはずだ」

 DYRAの指摘に、タヌはハッとした。とっさにたすき掛けしていた鞄から地図を出そうとする。が、こんなに暗くては見えるわけがないことに途中で気づく。

「えっ!? じゃ、どこ行っちゃうの?」

 タヌは自分と客室ごしに背中合わせになっている御者を呼ぼうと、ちょうどうなじの高さあたりにあるガラスの小窓を叩こうとした。

「待て、タヌ」

 DYRAはとっさにタヌを止めた。

「夜なんだ。いきなり止めて物陰から物盗りや、それこそアオオオカミが出たらどうする」

「え。でもDYRA。先に行ったサルヴァトーレさんの馬車の御者さんが道を間違えている可能性も」

 タヌが言いかけた言葉は最後まで続かなかった。遮ったのは、前方に見えた火柱と爆音だった。

「DYRA!!」

 異変に気づいた御者が馬車を急停止させた。

 二人は突然の光景に驚き、タヌは反射的にキャビンの扉を開く。DYRAはタヌを無警戒に下ろしてはいけないと、腕を掴んで客室の奥へ押しやった。飛んでくるかも知れない火の粉や破片でタヌが怪我などしてはたまったものではない。

「DYRA! サルヴァトーレさんの馬車がっ!!」

 慌てるタヌとは対照的に、DYRAは冷静だった。

「私が見てくる」

 DYRAは馬車を降りた。キャビンの扉を閉めてから、あたりを警戒しつつ、ゆっくりと爆発現場へと近づく。目に入ったのは、爆発で無残に焼け、骸となった馬だった。キャビンや車輪も燃えている。

「サルヴァトーレ」

 DYRAは内心、RAAZのことだから大丈夫だろうと思いつつも、タヌがいる手前、申し訳程度に名前を呼んだ。

(何が起こった?)

 DYRAは、馬車をわざと爆発させたのではないかと勘ぐった。誰かの悪意でRAAZがあっさりやられてしまうとは思えないからだ。

 何回か周囲をぐるりと見回したDYRAはここで、あることに気づいた。

「ここは……」

 炎が周囲を照らしているため、あたりが良く見える。ここは、マロッタへの道などではなかった。何より、今いる場所は街道の類などではない。

「フランチェスコ!?」

 炎の向こう側には人気のない建物が連なっている。DYRAは驚くのは後だとばかりに目の前に広がる景色を睨みつけた。さらに、別のものが視界の先に映り込む。

「誰か、いる」

 感覚を集中し、周囲を見回した。炎の向こう側にいくつかの人影が見えるではないか。黒ずくめの、何度か見かけたことがある錬金協会の人間とおぼしき連中だ。

「四人……か」

 集中した感覚が危険を警告する。DYRAは半ば反射的に自らの両手を開いて構える。周囲に青い花びらが舞い上がり、サファイア色に輝く刃の剣が顕現した。

 一方、馬車のキャビンの窓から様子を見ていたタヌは、火の粉と一緒に、青い花びらが数枚ひらひらと舞っていることに気づいた。

「DYRA……」

 外に物盗りか強盗の類でも現れたのかと思ったタヌは、とっさに扉を開いて外へ出た。

 タヌの目に飛び込んだのは、青い花びらを舞い上がらせながら右手に蛇腹剣を、左手に細身の剣を握ったDYRAの後ろ姿だった。

「あっ」

 突然、後ろから肩を軽く掴まれた。タヌが振り向くと、被りで顔を隠した御者がいる。背が高く、顔こそ見えないが、被りの隅から覗く三つ編みが風になびく。

「危ないよ」

 御者はそう言うと、タヌの両肩を掴んだまま横に立った。

 剣を手にしたDYRAは、黒ずくめの四人組を素早く、次々に斬り捨てた。彼らはもはや、相手にもならない雑魚だった。動きに合わせて青い花びらが木枯らしのように舞う中、DYRAは最後の一人の胸元を蛇腹剣で斬ると、倒れた黒ずくめの骸を踏みつけた。そのまま、他に人影がないか探そうと、鋭い瞳であたりを見回す。

 そのとき、シュッと小さな音がDYRAの耳に届いた。反射的に蛇腹剣を振る。

「いる……!」

 斬った手応えが伝わると同時に、足下に数枚の青い花びらと金属製の細い紐のような切れ端が落ちた。それが何かまではわからなかったが、DYRAは気にすることなく、視覚と聴覚による索敵の範囲を広げた。

「DYRA。いるんだね?」

 突然、DYRAの耳に聞き覚えのある声が響いた。

「あの声……」

 DYRAにもタヌにも、炎の向こう側に一人の男が立っているのが見えた。

「アイツ!」

「おい! 危ないって」

 タヌは、御者の制止を振り切ってDYRAのもとへ駆け寄った。

「タヌ! まったく。……良いか? 離れるな」

 DYRAは鋭い声で、軽率な行動に出ないよう牽制した。その後でもう一度、炎の向こうの男へ目をやった。一歩ずつ近づいてくるのが見える。姿形がだんだんハッキリとわかるようになり、お互いの姿が認識できる程度の距離で止まった。

「DYRA。アイツだよ。アレーシって呼ばれていたの」

 タヌは、現れた男が地下水路で会った人物だとすぐにわかった。

 青とも金髪ともつかぬ長い髪に、一箇所だけ結ってある細い三つ編みが印象的な男だった。黒地に金の細い刺繍が入った、裾が広い外套に身を包み、手には先端が切れた金属の鞭。DYRAは先ほど自分が斬ったのは、この男が手にする鞭の先端だと察した。

「お前、あのときの……。何をしに来た?」

 DYRAにとってアレーシは乗合馬車で見かけ、その翌日のフランチェスコでタヌとの朝食を終えた後に遭遇した男だ。

 蛇腹剣を構えたままDYRAが問うと、アレーシはにこやかに切り出す。

「キミを受け取りに来た」

「何を言ってる!?」

「余計なものが……」

 タヌとアレーシはそれぞれ、不快感を露わにした。

「地下水路での顛末はタヌから聞いた」

 DYRAは青い花びらを舞わせながら、左手に握る細身の剣の切っ先をアレーシへ向けた。

「RAAZがキミを手にかけようとしたこと、かな」

 さらりとした口調で告げたアレーシの言葉をタヌは正面から否定する。

「DYRAを助けたのは、RAAZさん(・・)だ!! お前は、DYRAを鎖に繋いで、鞭で打とうとしたじゃないか!!」

 タヌの言葉にアレーシが苦笑する。

「『RAAZさん(・・)』と来たか。表面に見えるものだけで何でも判断するような輩へは、説明する時間すら惜しい」

 アレーシの煽るような言い草にタヌはイラッとくる。今にも何か叫びそうになったタヌを、DYRAは、鞭状から直列にした蛇腹剣をタヌの前に突き出すことで制する。

「止めろ、タヌ。今はお前が話すところではない」

 剣で制されたタヌは言葉を呑んだ。

「お前」

 DYRAが切っ先を下ろすことなく、アレーシとの話を続ける。

「私に『RAAZを殺せ』と言ったな? どういうことだ? 奴が不死身の錬金術師だと知って言ったのか?」

 DYRAからの質問に、アレーシは吹き出して笑いそうになるのを、口元に拳を持ってきてこらえる。

「不死身の錬金術師(・・・・)? RAAZが? 錬金術師?」

 アレーシにとって笑いのツボが「不死身」ではなく「錬金術師」だったことに、DYRAとタヌはそれぞれ、意外そうな顔をした。

「奴が本当に『錬金術師』だとでも思っているのか? キミは」

 錬金術師でないのか。では何なのか。DYRAは口にしようとしたが、できなかった。


再構成・改訂の上、掲載

062:【FRANCESCO】会場の名は、修羅場2024/07/27 21:57

062:【FRANCESCO】会場の名は、修羅場2023/01/07 17:13

062:【FRANCESCO】演目の準備(2)2018/09/09 22:55

CHAPTER 63 罠2017/07/17 23:00


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