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046:【?????】DYRAは何が起きたかを渋々話す

前回までの「DYRA」----------

RAAZに助けられたDYRAは、過去の記憶とおぼしき悪夢にうなされていた。RAAZはそんな彼女の傍らで見守りながら案じる。だが、目を覚ますと二人の関係は一転、緊張したそれに戻る。

「何故、私を助ける?」

 DYRAは自分の中で真っ先にわき上がった思いをそのまま男へぶつけた。

「私は、お前を殺すために……」

 男がDYRAの言葉を遮るように自らの右手の親指を彼女の唇に軽く押し当てる。

「一体、何が起こった?」

 銀色の瞳が真っ直ぐ金色の瞳を捕らえて離さない。男は続ける。

「詳しく聞かせてもらおうか。今回はキミを助けるのも結構な時間と手間が掛かったからな」

 男の口調には棘があった。DYRAは話すことなど何もないとばかりに睨みつける。

「ペッレからピルロへ行くつもりじゃなかったのか? 何故フランチェスコへ直接向かった?」

 DYRAは返事を言葉ではなく、男の親指を退かそうと、右手首を掴む仕草で伝えようとした。

「あ……」

 しかし、無駄だった。男の力の方が圧倒的に強く、微塵も動かない。

 男は空いている方の手で、自分の右手首を掴む女性の細い指をサッと振り解いた。自由を取り戻した男の親指がDYRAの唇から離れる。

「私の質問に答えろ。ペッレを出てから何が起こったか、すべて話せ。それと、キミを捕らえたのは誰かも教えろ」

 男の言葉に、DYRAもこれだけは言いたいとばかりに切り返す。

「何故、私を助ける?」

 DYRAは言外に、助けてくれとは言っていないというニュアンスを込めた。

「キミのことを『どうでもいい』と思っているなら、誰が時間や手間を掛けて助けになど行くものか」

 DYRAの記憶にある限り、男の口調はそれまで聞いたこともないほど厳しいものだった。一瞬だが、DYRAは言いたいことを言葉として出しそうになる。

(待て……!)

 男の言葉は非常に厳しい口調だが、嫌味や毒は少しもない。だとすれば、今自分が言おうとしている言葉は、絶対に言ってはいけないそれかも知れない。DYRAはグッと堪えた。

 DYRAは金色の瞳で真っ白の天井を見つめてから、男の方へ視線を移す。しばし沈黙の時間が流れた後だった。

「あのとき、お前に踊らされるのが気に入らなかった」

 聞いた途端、男は呆れ果てた。傍から聞けば、あまりに子どもじみた理由だ。

「それで?」

「ピルロへ行く乗合馬車に乗って、途中のファビオで降りた」

 男はファビオと言われてすぐに把握する。ペッレとピルロの間にある、乗合馬車のハブ駅とでも言う場所だと。男は視線でさらに続きを促した。

「そこで妙な男と出会った」

 DYRAがこんな表現を使うとは一体どういう人物なのか。男の中で興味が湧いてくる。

「妙、だと? どういう男だ。見た目か? 言動か? 性格か?」

「見た限り、お前や私の見た目と大して変わらない。ただ、いくつか引っ掛かることがあった」

「引っ掛かる?」

 DYRAは頷いてからさらに続ける。

「ああ。だが、上手く言えない」

 男は、DYRAの言い分を納得できなかった。それでも、詰め寄るようなことをすれば彼女が何も話さなくなるかも知れない。いったん頷き、続きを促すだけに留めた。

「結局、フランチェスコへ行く乗合馬車に一緒に乗った。それで、道中タヌに話しかけてきた」

「タヌ?」

 男はすぐに思い出した。

「ああ。お人好しで死ぬことになりそうなあのガキか」

 男のタヌ評に、DYRAは、サルヴァトーレの姿であんなに懐かせたくせにと返しそうになる。もっとも、言ったところで一蹴されるのが関の山だ。

「で、ガキとその男は何を話したって?」

「いや、世間話くらいしかしていない。だが、気になる言葉を最後に言い残して、フランチェスコの入口のところで降りた」

「気になる言葉?」

「ああ。『また、縁があるといいね。……ある気がするけどね』と言って去った」

 確かに、乗合馬車の中で出会った存在に、わざわざそんなことを言い残すなどおかしな話だ。男は、DYRAが言った「妙な」の意味を何となく理解した。

「若い以外に、見た目は?」

 男からの質問に、DYRAは小さく頷く。

「追って話す」

 DYRAは答えてから一度目を閉じ、記憶をたどる。数秒ほどで目を開いてから続きを話す。

「フランチェスコに着いたのは夜だった。変なメイドの女が私にぶつかるフリをして宿屋の場所を教えていった。で、そこにたどり着いて、夜を明かした」

 変なメイド、という言葉に、男はプッと吹き出しそうになるのをこらえながら、「それで?」と問いかける。

「朝になって、宿を出てタヌと朝食のため、食堂へ出かけた」

 聞いている男の顔は、ありふれた展開だなとでも言いたげな表情になっていた。

「カネを払っておこうと思い、席を立った。そのときのことだ」

 DYRAは一つずつ丁寧に思い出すように言葉を紡ぐ。

「会計台で、鞄を渡された」

 鞄を渡されたの一言に、男は不審を抱く。

「鞄を、だと?」

 一方、DYRAも男の一言で、ここで服や資金を鞄に入れて渡そうとしたのが目の前の男ではないと察する。

「だが、今までと違って、それは『黒い』鞄だった」

「黒?」

 男が把握している限り、自分であれ自分以外であれ、やりとりで使われる鞄が黒だったことは一度たりともない。

「で、受け取ってすぐのことだ。いきなり、私は名前で呼ばれた。店のすぐ外にいる人物から」

 話がいよいよ佳境に入るのかと、男は少しだけ構える。

「店の外へ出てみたら、あの妙な男が立っていた」

 DYRAの言葉で、男はようやく『妙な男』の『妙な男』たる所以を理解する。

「結局のところ、ガキではなくキミを口説きたかったと?」

「私が『妙な男』と言ったのにはいくつか理由がある。私は乗合馬車で出会ったとき、あの男とは一言も話していない。それなのに、『随分捜した』と言ったり、『RAAZを殺すために』私の力がいると言ったり」

 ここで、男の表情がそれまでとは別人のように硬いものになる。

「DYRA」

 それまでの男の口調は、上から目線や余裕のほどを隠そうともしないものだった。しかし、今は違う。DYRAの話といえどもそれは信じられない、とでも言いたげだ。

「その男の見た目は? 髪型に特徴はあるか?」

「変な色の長い髪だった。青なのか、金髪なのかわからない。あと、三つ編みがあった」

 男の表情が僅かに歪む。DYRAの目にそれは、当たりが付いたとでも言いたげに映る。

「その後、キミはその男と、どうした?」

「わからない」

 まさか、いきなり話の腰を折られる答えが飛び出すと思わなかった男は、DYRAに詰め寄りそうになる。男の目線や顔の筋肉の動きなどから心情を察したDYRAはすぐに言葉を繋ぐ。

「こんなことで嘘をついて何の得がある? 本当に、目の前が真っ暗になったんだ」

「……その後は?」

 色々な感情をこらえ、男は他にも情報はないかとばかりに問うた。

「今、だ」

「今?」

「そう。目が覚めたら、今、だった」

 男はここでしばし、天井を仰ぎ見た。そんな男をDYRAもじっと睨むように見つめる。

 やがて、男は合点がいったのか、ゆっくりと視線を戻した。

「……なるほど、な」

 男はDYRAが朝食後に遭遇した人物が地下水路で出会ったあの男(・・・)だと把握した。そして乗合馬車の出来事が何を意味するのかも男なりに理解する。

「そういうこと、か」

 男は、硬くしていた表情を和らげ、普段通りの余裕ある態度に戻った。


改訂の上、再掲

046:【?????】DYRAは何が起きたかを渋々話す2024/07/25 22:39

046:【?????】DYRAは何が起きたかを渋々話す2023/01/06 23:08

046:【?????】真っ白な悪夢(2)2018/09/09 15:02


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