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004:【PJACA】初めての外泊で事件の予感?

前回までの「DYRA」----------

突然の襲撃で帰る場所を失ったタヌは、彼を助けた謎の美女DYRAと共に村を出る。

初めて知る村の外の景色に新鮮さを感じながら、隣町のピアツァへ着くと、タヌは人生初めての外泊を体験することになる。

「RAAZ?」

 タヌの記憶にある限り、DYRAは彼を「不死身の錬金術師」と言っていた。

「錬金術師、じゃないの?」

 男たちに聞こえないようにと意識しながら、小声でDYRAに問うた。そもそもタヌは、錬金術師なるものが何かさえわかっていない。

「お前にわかるように言うなら、錬金術師は医師であり科学者。ちょっとした魔法使いみたいなものだ」

 男たちの耳にDYRAとタヌのやりとりが入っていたのかいないのか、奇しくも彼らも同じ話題に触れていた。

「RAAZ様といえば錬金術師にして悪魔祓い師、そして魔術師って話だしなぁ」

「ラ・モルテをやっつけるとなれば、頼れるのはRAAZ様だけってことかぁ」

 タヌは聞こえてくる会話からも、DYRAの言う通り、RAAZが色々なことに通じている存在だという印象を抱く。

「ま、とはいえ、俺たちは俺たちの仕事をするだけよ」

「そうだな」

 男たちは食事を終え、席を立った。

「ボウズ、ホント村に行っちゃダメだぞー」

 一方的に言い残し、男たちは食堂を後にした。彼らが階段を上っていく足音が聞こえたところで、DYRAはそれが聞こえなくなるまで耳をそばだてる。怪我をしているのか、一人の足音が普通に階段を上がるときのそれではない、不規則なものだった。

「ビックリしたなぁ」

 タヌは鴨のローストを美味しそうに食べながら切り出した。DYRAはスープに口をつけるが、サラダや肉、パンに手をつけなかった。

「まさか、RAAZの話を聞けるなんて」

 タヌが言うなり、DYRAはすぐさま人差し指を自らの口元に持っていき、沈黙を要求した。

「え?」

 ちょうどその時、もう一組いた男女が席を立つ音が聞こえた。男女の二人組だった。彼らは歩き出すと、DYRAとタヌがいるテーブルの前で足を止めた。

「聞こえたわよ」

 声を掛けてきたのは女性だった。緩やかなウェーブを描いた赤毛と真面目そうな雰囲気が印象的だ。仕立ての良い若草色のワンピース姿で、胸元には鍵の印があしらわれた金のペンダントをしている。

「本当に、あの村の方へは行っちゃダメよ」

 傍らにいる金髪の男も心配そうな顔でDYRAとタヌを見る。彼もまた、胸元に女性とお揃いのペンダントを身に付けている。

「アオオオカミに襲われて、最後はラ・モルテが火を放ったって。さっきの奴らはただの野次馬みたいだが、ラ・モルテが通ると見たこともない青い花びらが舞うって話だ」

 聞いた瞬間、彼らもDYRAがラ・モルテだと思っているのだろうかなどとタヌは思う。確かにそうかも知れない。ただ、タヌにとって彼女は命の恩人だ。彼女が忌み嫌われる対象として扱われることへの違和感を少しずつながらも、自覚する。

「そ、その話って噂、ですよね?」

 タヌの質問に、若い二人組は周囲をチラチラと見てから、小声で告げる。

「いいえ。錬金術学校で先生が仰っていたことよ。アオオオカミが来たら、死の前触れ。ラ・モルテが来るって」

「先生?」

「ええ。私たちは西の都アニェッリよりずっと北にある、マロッタから来たの。アオオオカミの調査のためにね」

「夜出かけるのは怖いけど、でも、先生からの宿題だしね」

 西の都から北側、内陸部に入ったところに所在する都市だ。もっとも、村の外に出たことのないタヌには、初めて聞く街の名だった。

「そう、か。貴重な話に感謝する。食事が冷めてしまうので」

 DYRAは遠回しに、二人に立ち去ってほしいと願い出たつもりだった。

「ねぇ、お姉さん」

 そこでタヌが二人が填めているペンダントを見ながら話しかける。

「そのペンダント、お揃い? 何かのお守りとかですか?」

 二人のそれが、家から持ち出せた唯一のものと大きさや材質こそ違うものの、形状がどことなく似ている、いやほとんど同じではとタヌは気づく。

「これかい?」

 答えたのは男の方だった。

「これは錬金術学校の生徒の証だよ。僕らはまだ弟子見習いのそのまた見習いだけどね」

 タヌはさらに何かを言おうとしたが、DYRAが二人を退かしたいと視線で訴えていることに気づくと、「綺麗だったんで、つい。ごめんなさい」と言って、話を終わりにした。

 若い二人組もいなくなり、今度こそ食堂には二人だけになった。

「あの鍵の印、知っているのか?」

 DYRAが問う。

「父さんが似ていたの、持っていた気がして」

「では、錬金術をやっていたのか?」

「わからない」

 タヌは表情を曇らせた。言われてみれば、あの鍵の印と似たものを持っていた父親は錬金術に関わっていたのではないか。だが、研究内容など何一つ知らない以上、今の時点ではそれ以上、答えようがなかった。

「そうか」

 DYRAがタヌとのやりとりの内容を思い返す間、タヌは肉とサラダを次々と平らげた。

「あれ? 食べないの?」

 今更ながらタヌは、DYRAがスープ以外一切口をつけていないことに気づいた。

「食べたいなら、構わない」

 思わぬ申し出にタヌは少しだけ驚いた。

「……じゃ、食べて良い? 残したら宿屋さんにも、肉や野菜を作ってくれた農家の人たちにも悪いし」

 そう言ってから、DYRAが口をつけなかった料理を美味しそうに食べて、平らげた。

 結局、二人が食堂を出た最後の客となった。

「うーん」

 部屋へ戻り、施錠するなりタヌは声を上げた。一方、ベッドに置いた鞄の中身を見つめるDYRAは振り返る素振りも見せない。

「さっきの人たちの言い分を聞いていると、何か遠回しにDYRAがラ・モルテって言っているみたい」

「別に、気にしていない」

 DYRAは鞄から新しい肌着類と服を取り出すと、部屋の隅、今まで一度も開けていなかった扉の向こう側へと消えた。服を持っていったことから風呂だろうと思ったタヌは「うん」と言って見送るだけだった。

 しばらくして、DYRAが新しい服に身を包み、今まで着ていた服と履いていたレースアップブーツを手に戻って来た。風呂上がりでさっぱりした風だとひと目でわかる。入れ替わりでタヌがその部屋に向かう。

「うわ……」

 扉の向こうは案の定、浴室だった。広くはないものの、金色の猫足がついた浴槽もある。タヌは着ていた服を脱ぐと、早速湯に浸かった。

 タヌが風呂に入っている間、DYRAは持ち物の整理を始めた。今まで着ていた服と肌着類を新しい鞄に収める。次に、スタンドに掛けられた今までの外套を手に取ると、傷んでいるから構わないとばかりにレースアップブーツを拭いていく。拭き終えると、その外套も簡単に畳んで収め、新しい外套をスタンドに掛けた。

 次に、新しい財布と今まで持っていた方の鞄を手にして、小さな居間の椅子に腰を下ろす。財布は上質な革製だった。開けてみると、五〇枚ばかりのアウレウス金貨がまばゆいばかりの輝きを放っている。ちなみに、アウレウス金貨一枚はアッス銀貨一〇枚、デナリウス青銅貨一〇〇枚の価値だ。金貨の他には何も入っていない。次に今までの鞄の中にある財布を取り出した。こちらの中身は金貨が残り数枚。この財布の中身を新しい方へ追加する。

 整理を終えてDYRAは窓際に行くと、窓の外を見た。気がつけば夜も遅く、店や家々の灯りも大半が消えていた。景色もほとんど見えない。

(RAAZ……どこにいる?)

 いつしかDYRAは、自分が追っている相手のことを考え始めた。が、数秒と経たずにその思考が遮られた。窓の向こう、遠くの方からぼんやりとではあるが、悲鳴にも似た声とそれに混じって微かに聞こえる別の音が耳に入ったからだ。

 時を同じくして、タオルを下半身に巻いただけの姿でタヌが現れた。

「今、変な声聞こえなかった?」

 DYRAが答えようとしたが、何かに気づいたのか、タヌを手で軽く制する仕草をした。

 部屋の外から足音が近づいてくる。階段を上がる音から廊下を早足で歩くそれに変わると、扉越しでもハッキリと聞き取れる。近寄る音は扉の向こうでピタリと止んだ。続いて扉をノックする音。トントンという軽い音ではない。さりとて拳でドンドンと叩く風でもなかった。


改訂の上、再掲

004:【PJACA】初めての外泊で事件の予感?2024/07/23 22:16

004:【PJACA】初めての外泊で事件の予感?2023/01/04 00:00

004:【PJACA】「錬金協会」と「RAAZ」。DYRAが興味を示した200/11/04 16:36

004:【PJACA】鍵とカネと罠と(2)2018/09/09 10:58

CHAPTER 06 錬金協会の人々との出会い2016/12/22 23:34

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