345:【TRI-PLETTE】血塗られた因果の果てに現れた「名も無き霊妙たる煌めき」は
前回までの「DYRA」----------
電源タワーの中枢制限塔をいきなり乗っ取られる最悪の事態だけは阻止できたものの、システムが起動フェイズに入ったことでDYRAたちは自身の能力を思い通りに使えない。その隙を突かれ、乾坤一擲で繰り出したハーランの一打でRAAZが仕留められてしまう。DYRAは彼を救うべく、すべての力を使い、力尽きた。
そこへ、それまでいなかった者たちが姿を現した──
タヌは、いつからか奥に立っている二人のうち、小柄な方が少しずつ近づいてくる様子をじっと見る。マイヨのように見えるもう一人は立ち止まって、近づいてくることはない。時折、RAAZとハーラン、そして部屋全体にも目をやった。RAAZは糸の切れた人形のようになってしまったDYRAを片腕で抱き抱えているが、その視線は近づいてくる小柄な人影に釘付けだ。ハーランもまた、その同じようにその人影をじっと見つめたまま動かない。二人とも、表情に動揺の色が浮かんでいる。
「えっ……」
一体、何がどうなっているのか。何故かわからないがタヌの父親も動こうとしない。巨大な柱の近くにいるクリストもだ。アントネッラのそばでマイヨも撃たれてしまい、動かない。死んでしまったのだろうか。撃ったのは、ルカレッリだ。どうして彼が妹を守った人物へ銃を向け、引き金を引いたのか。あと、柱の近く、クリストの近くで倒れているらしき人影も動く気配がない。
混乱する状況を前に、タヌは少しでも頭の中を整理し、把握しようとするが、そんな時間を与えられることはなかった。
「え……DYRA……?」
近づいてくる女性の姿を見て、タヌは困惑する。DYRAが、近づいてくる。けれど、彼女は意識を失った状態でRAAZに抱えられている。タヌは視線だけではなく、首までも動かし、二人を見比べる。
近づいてくる女性を見つめるうち、タヌはDYRAとの違いがわかってくる。瞳の色だ。彼女は橄欖石のような若草色。DYRAの金色のそれとは違う。そしてもう一つ。近づいてくるのに、足音がまったく聞こえてこない。でも、足はちゃんとある。幽霊ではなさそうだ。
『──……お前が、どこまでも邪魔をすることなんて、わかっていた』
女の口から気持ち低い声で言葉が発せられた。それを聞いた瞬間、タヌはDYRAとそっくりなこの女性は一体何者なのだろうと思う。少なくとも、アントネッラやアンジェリカなど比べものにならないほど威圧的だ。まるで女王か何かのように。そう、この場所を制している人物さながらだ。
『──同じ罠に嵌まるものか。同じ轍を誰が踏むものか。お前たちを倒すために私が命を懸けて築いたもの! お前たちに使わせるものか』
皆と同様、黙って聞くことしかできないタヌは、ここでハッとした。話し掛けているにしては相手、つまりハーランの様子を見ながら、と言った風ではないのだ。RAAZとハーランを見ると、彼らは最初からそれがわかっているからか、反論したり何か言おうとする様子はない。ここでもう一つ、気づく。彼女の身体が何となく透き通っているように見える。やはり幽霊なのだろうか。
『──世界を騙して自由と真実を塗り潰した、忌まわしい、汚れた血の人間がこの場所に何人もいる。どのツラ下げて、ここにいるのか!?』
ここでハーランがビクリと反応し、顔色を変えた。だが、彼女に対して銃やナイフを出したり向けたりすることはなかった。このとき、タヌは女性がハーランだけではなく、自分のことも睨んだ気がした。
女性は今度は、RAAZの方を見る。
『──ここに、RAC10が三つある』
威圧的な声から一転、女性らしい、優しい話し方だ。タヌはここでようやく、彼女が何者か思い出す。DYRAとそっくりで、肝心な場面でRAAZが口にする、DYRAではない人の名前。DYRAがRAAZに対し、悔しいとも悲しいとも取れる態度を浮かべる対象。
「RAAZさんの……亡くなった……」
「えっ」
タヌの呟きを聞いたアントネッラも小さく驚いた仕草を見せ、振り向く。ルカレッリも同じように見る。
『──私は、ダーを残しちゃった。でも、私の分を「誰か」に入れた』
「すまない。ミレディア」
RAAZが女性から目を逸らすことなく、謝罪した。
『──謝るのは、私。ダーを、ひとりぼっちにしちゃったから……』
女性がRAAZのそばへと近寄る。
『──一緒にって約束だったのに、倒れちゃって、ごめんなさい』
「ミレディア……」
『──ダーのことだもん。きっと、別の誰かに私のものを……ってことは』
RAAZが僅かではあるものの、視線を逸らすような仕草をしたのをタヌは見逃さなかった。
「ゴメン……」
『──私はここにいるし、あなたの中にいる。だから、私に後ろめたい思いなんて、いらないよ? ダー。顔を上げて』
「えっ……」
『──ここで起こったこと、全部、わかっている。……あなたのために倒れた、私の分を持っている人は……そう。私のいなくなった世界で、あなたが選んだ、「私」なんだよね?』
タヌは女性がRAAZに笑みを浮かべている姿を見て、DYRAが笑えばあんな感じになるのだろうか、などと想像した。
『──だからこそ、前へ進むためにも』
「ああ。ヤツは必ず仕留める。……でも、教えてくれないか」
RAAZが一呼吸置いてから、問う。
「キミを殺めたヤツは誰なんだ?」
『──真実、いえ、事実確認は言葉じゃなくて、記録で見ればいい』
「わかった……ミレディア……」
『──ダーに会えて、本当に良かった。私、幸せだった』
「……私も……」
絞り出すような声でRAAZが答えたとき。
「あっ!」
タヌは声を上げた。そこにいた女性の姿が、DYRAやRAAZ、マイヨなどの周囲に広がっていたのと同じような、黄金色の粒子となって消えていくではないか。偶然にも、その粒子が消えゆく最後の一瞬、DYRAに向かって輝きを放ち、包み込んでいくように見えた。
「綺麗……」
アントネッラは小声で呟いた。
少しの間だけだが、動けぬ者はもちろんのこと、動けるはずの者たちさえ、誰も動こうとしなかった。タヌは、どことなく重苦しいこの場の空気に、しんどさを感じ始めた。
その矢先、ボーン、と、低い、柱時計が告げる時報を思わせる音が鳴り響き、部屋の空気すらもビリビリと震わせた。
「──ドクターの遺言は、聞いての通りだ」
そう告げたのは、もう一人の、その場から動かなかった方の男だった。
345:【TRI-PLETTE】血塗られた因果の果てに現れた「名も無き霊妙たる煌めき」は2026/02/23
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連休ファイナルはいきなり4月下旬みたいな暖かさでビックリですが、いかがお過ごしでしょうか。
改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます。
また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします。
ようやく、ここに来ました。RAAZの亡くなった奥さん登場。でも、死人がどうやって? そして、隣にいたというタヌ曰く「マイヨさん、あれ」って人は誰なんでしょう。彼もまた、幽霊みたいな人なのでしょうか。
答えは次回。併せてご期待下さい。
唯一無二のゴシックSF小説、残り僅か。
一層の応援をどうぞよろしくお願いいたします!
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Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。
今回の新刊は何と、最終巻です!! しかも、Web版とはまったく違うというビッグサプライズ。
こちらは、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)と一緒に読むと面白さ一万倍です。
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