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DYRA ~村を焼かれて帰る場所をなくした少年が、「死神」と呼ばれた美女と両親捜しの旅を始めた話~  作者: 姫月彩良ブリュンヒルデ
XVII 悪意の手を逃れたどり着いた先

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344/345

344:【TRI-PLETTE】「彼は彼女を守り、彼は彼女を……」。残酷な現実の果て

前回までの「DYRA」----------

 西の果てにある、電源タワーの中枢制御塔で超伝送量子ネットワークシステムが起動、金銀の粒子が霧となってあたりを包む。ただ、セキュリティブートのため、RAAZやマイヨ、そしてDYRAは自身の能力を思うように使えず、思わぬ苦戦に。思惑が入り乱れる空間に、ついに赤黒い何かが──


 薄れつつある霧状の金銀の粒子の中に、赤黒い何かが混じる空間。それぞれの激突が続く。

「……ったく、ロクでもないプログラムを流し込みやがって……セキュリティがなかったら身体を乗っ取られるか何かで、ゾッとするところだ」

 音にして表にこそ出さぬが、そんな苛立ちを呟きながら、思うように身体を動かせぬRAAZがハンデを払い除けるようにハーランと直接対峙する。

 DYRAは剣を顕現させられないのを逆手に取り、ここに来て何も無駄口をきかなくなったタヌの父親を仕留めようと取っ組み合いで挑む。そこへ、苦しい時間はあと僅かと耐えていたマイヨが割って入り、追い詰められた彼女を助太刀する。

 マイヨは床に落ちていたサブマシンガンを見るやすぐさま拾って構えた。

 その銃口がタヌの父親へ向けられたとき、タヌは顔色を変えた。が、直後、銃声が鳴り響いた。


 ダダダダダダ……


「わっ!」

 タヌはまたしても、自分が知る限りの鉄砲やピストルの類とはまったく違う音に驚いた。が、今度は先ほどまでとは違う。ほとんど耳元で聞こえる上、周囲の音も声もすべてかき消し、空気すらも激しく揺らす。まさに爆音にも似たそれだ。タヌは反射的にうずくまった。

 およそ銃とはあんな音を出して撃つものなのか。うずくまったままで耳を塞ぐと、現実から逃げるようにタヌは頭の中であれこれ駆け巡る思いに意識をやった。

 やがて、ひとしきり撃ち終わったのか、音が止んだ。

「はぁ……はぁっ……」

 タヌはおそるおそる、ゆっくりと顔を上げた。

「ひっ」

 最初に目に入ったのは、それまでなかった、ぽつぽつと床に広がる血飛沫だった。逆に、それ以外は周囲の光景が何も目に映らない。

「ま、まさか……」

 マイヨが撃ったのか。彼が、誰を(・・)撃ったのか。

「と、父さんを……」

 自分がずっと、必死になって捜していたことを知っていたはずだ。わかっていて、撃ったのか。タヌは激しく動揺し、呼吸が荒くなる。頭の中に目からも耳からも情報が入ってこない。

「父さんを……!」

 タヌの視界がようやく銃を手にしたマイヨの後ろ姿を捉える。が、その目には、銃しか映らなかった。

「うわあああっ!!」

 叫ぶなり背後から銃を手にするマイヨの方へとタヌは走り出した。

「タヌ君っ!!」

 アントネッラが気づいて声を上げた。DYRAとタヌの父親を見ていたマイヨもそれで気づいて振り返る。

「──!」

 タヌはマイヨの腕に身体をぶつけた──。

 カラカラと音を立てて、銃が転がっていく音だけがタヌの耳に響いた。




「このっ!」

 激しい銃声が響く中──。

 DYRAに馬乗りになっていたタヌの父親が、彼女の首を絞める。下腹部から太腿に掛けて完全に乗られている形になっているので、DYRAは身体を思うように動かすことができない。蹴るなどはもちろん、膝を立てることすらままならない。

「く……そっ!!」

 DYRAも負けじと手を伸ばし、自身の首を絞める腕を払い除けようと抗い続ける。死なないのと、痛覚や苦しさの有無は別の話だ。まして、先ほどから武器を使えないなど、何が起こっているかわからない。わからない中で、わからないまま倒れるなど冗談ではない。

「お前には、暴れられちゃ困るんだよ。トロイア(売女)

 塔の中で再会してからマトモな口をきいていなかった男がようやく|

会話・・になる言葉を口にしたことえ、DYRAにある確信(・・)をもたらす。

「……ピッポ、か」

 DYRAは苦しい息の下で呟くと、握る腕に渾身の力を込める。

 両腕の周囲に花びらではなく、黄金色の粒子だけが広がっていく。

 タヌの父親をDYRAが押し返していくところで、銃声がピタリと止んだ。それでも、今の彼女にそちらへ意識をまわす余裕など毛頭なかった。

 その少し後で、何か、叫びとも悲鳴とも取れる声が聞こえた気がした。

「!?」

 声を聞くや、DYRAに馬乗りになっていた男がサッと立ち上がり、その場から離れた。

 ここで、DYRAも身体の自由が戻るやすぐに上半身を起こす。

 が、遅かった。

「なっ……!」

 耳をつんざくような爆音にも似た銃声が断続的に響き渡る。

「ああっ……!」

 DYRAの視界に飛び込んだのは、タヌがうつ伏せの態勢で耳を塞いで蹲っているのと、その傍らでアントネッラを抱きかかえて片膝を落とした態勢でマイヨが二人を庇う場面だった。続いて、発砲している人物を確かめる。

「っ!?」

 二人いた。DYRAはタヌを助けるべく動き出す。彼ら(・・)がタヌを撃つ気だけはないはずだ。そう信じて。身を屈めながら走り、タヌの前へと転がり込むと、少しでも安全な場所へと逃がすべく、勢いのままタヌを突き飛ばした。突き飛ばされたタヌは身体のバランスを崩し、床を何度も転がって倒れた。

「くっそっ!」

 マイヨの毒づく声がDYRAの耳に飛び込んだ。今一度そちらを見る。


 ダダダダダダ……


 ダダダダダダ……


 二つの銃口はどちらもマイヨたちに向けられたまま、その先端からずっと小さな火花とうっすらとした煙とが上がり続け──。

 アントネッラを抱き抱えたマイヨの周囲に、赤黒い粒子と金銀の粒子が混じり合ったものが広がる。

「はぁ……はぁ……」

 マイヨの頬に玉のような汗が浮かぶ。目のまわりの汗はまるで涙を浮かべているようだ。DYRAは彼らへ撃った相手を睨むように見る。一人は言うまでもない。

(流れ弾がタヌに当たっても良いと!?)

 もう一人は一度だけではあるものの、見た顔だ。そう。あのときの子ども。アンジェリカと一緒にいたが、彼女とは一体どういう関係だったのか。

 そうではない。DYRAの視界には、あの子どもの足下に彼女が倒れているのが見える。誰と、どういう背後関係があるのだ。

 だが、それを考える時間は一瞬たりとも与えられなかった。


 金属だけでできたこの、広い空間が暗闇に包まれた。──すべての照明が、落ちた。


 真っ暗になると同時に、響き渡っていた銃声がピタリと止んだ。

 その沈黙は文字通り、一瞬だけだった。

「ぐっ……!!」

 聞き終えがある呻き声。別の方からは小さな金属音。直後、微かに毛が揺れるようなフサフサ揺れるような音がする。DYRAが聞き取れたのはそれだけだった。

 続いて、肌に恐ろしくひんやりとした空気が突き刺さる。これでDYRAは別のことに気づく。

 寒い。

 それにしても、さっきの呻き声は誰だったのか。これが原因だというのだろうか。あれは男の声だ。それも、知らない声じゃない。それどころか──。

 いや。まさか。そんなはずは──。

 DYRAは暗闇の中を記憶を頼りに、声が聞こえた方へと歩き出した。

 数歩動いたときだった。

「──!」

 ガシャンという低い、いかにも巨大な何かが奏でた金属音が響き、続いて聴いたこともないようなビー、とも、ピコピコとも、キラキラとも、何とも聞こえる不思議な音が断続的に、不規則に聞こえ始める。

 広い部屋の奥にあった、塔のような柱が微かに灯りを点した。文明が文明なら、非常灯と呼ばれるそれだ。まだまだ明るいとは言えないが、人影とその輪郭程度なら辛うじてわかる光源が確保されたときだった。

「あ……」

 それ(・・)がDYRAの視界に入り、彼女が先ほどの呻き声の正体を理解した瞬間。


「RAAZ──!!!!!!!!!!!」


 DYRAの叫び声でマイヨとアントネッラ、そしてタヌもそちらを見た。

「なっ……!」

 マイヨもそれ(・・)を見たとき、目を丸くし、表情を一気に引き攣らせた。

「ちょ、超高濃度……圧縮窒素ガス弾……だとっ!?」

 凄まじい勢いでRAAZの身体が急速に凍りつき、真っ白な塊へと変貌していく様子に、マイヨだけではない、アントネッラも戦慄した。超伝送量子ネットワークシステムのセキュリティシステム発動中の僅かな間を突かれた形だ。マイヨは必死に自身の感情を隠そうと、下唇を強く噛んだ。

 タヌも目を大きく見開き、唇をわなわなと震わせた。我が目を疑うなどという陳腐な表現では到底言い表せぬ光景に、立ち上がることさえできない。

 それはまさしく、悪夢そのものの光景だった。

 RAAZの全身が凍り付いている。少し離れたところで、肩で息をしながら立ち上がろうとするハーランの姿もある。しかし、DYRAの目に後者は入らなかった。

「いやああああああああああああっ!!!!!!!!!」

 RAAZの元へと走るDYRAの周囲に黄金色の粒子が舞い上がる。それに気づいたハーランが立ち上がりざまに、接触させまいと彼女へ手を伸ばそうとしたが、間に合わなかった。

 RAAZの身体に近づくに連れ、周囲に舞う粒子すら白くなって消えていく。それでもDYRAは構わずに距離を詰めた。そして、そのまま凍り付いた彼の身体を抱きしめると、泣き叫んだ。

 タヌは、今、目の前で何が起こっているのかわからなかった。どうしてRAAZが真っ白に凍り付いて動かなくなっているのか。DYRAはなぜかくも泣き叫んでいるのか。二人は死なないはずではなかったのか。

「な、何……」

 何が何だかさっぱりわからない。

 動揺の色を浮かべているのは、マイヨも同じだった。

「ダメだDYRAっ! 君の身体がっ!」

 アントネッラを守るように抱きしめつつ、マイヨが叫ぶ。その表情はこの世の地獄でも見ているようなそれだった。

「これで……あの人も、ラ・モルテも……でも、何だろう。すごく綺麗」

 場違いで、状況を理解しているとは思えぬアントネッラの呟きに、二人は死なないのではなかったのかと、タヌは改めてショックを受けた。

「RAAZ……! RAAZ……!」

 DYRAの声が響く。凍り付いたRAAZを抱きしめる彼女の全身から、そのとき、輝いては凍って消える粒子ではなく、無数の青い花びらが舞い始める。肘下から棘のついた蔓と剣弁高芯咲きの花までもが顕現し、さらにその周囲に黄金色の粒子が舞い上がり、広がっていく。冷気が凍らせては消滅させていくが、それに抗うように、彼女の身体の周囲に青い花びらと金銀に輝く粒子が広がった。

「お前っ! ……死んだ女の件、……オトシマエをつけるんだろっ!?」

 DYRAの叫びに呼応するように、全身から黄金色の粒子が一気に放たれる。

 泣き叫ぶ声を聞くタヌは、今まで彼女と出会ってから、一度も感じ取ったことのなかった何かを感じた。

「しん……じゃうの?」

 自分が呟いた言葉の響きの重み(・・)に、タヌは心臓に汗が垂れているのではないかと思わさせるほど、ゾクリとした。

 そして。

 青い花びらも、黄金色の粒子の輝きも、すべて消えてなくなった──。

「……!」

 それを見たタヌの顔色から血の気が引き始めたとき、一発の銃声が響いた。




 銃を撃った人物に気づいた者が一人だけ、いた。

「お、お兄様……」

 アントネッラの声で、DYRAとRAAZ以外の全員がハッとした。

 金髪の若い男が、部屋のちょうど死角にあたる位置から近寄り、銃を撃つと、一気に走って距離を詰めてくる。ルカレッリだった。

「よくも! よくもピルロを! それだけじゃないっ! 妹を巻き込んでっ!」

 ルカレッリは手にした銃をマイヨの方へ向けると、迷うことなく二発、発射した。

「お兄……!」

「アントネッラッ!」

 彼女に当ててはいけない。反射的にマイヨが自身を楯にする。一発はプロテクターに弾かれたが、もう一発が肩部の、プロテクターの隙間とも言うべき場所に命中した。

「マイヨッ!!」

 アントネッラが絶叫した。反射的にマイヨを助け起こそうとする彼女の手に、べったりと血がついた。タヌもそれを見る。

「えっ……!」

 散々バケモノと呼ばれてきた人たちだ。けれど、どこがバケモノなのだろう。傷ついたら血が流れる。それは同じ人間という意味ではないのか。タヌは改めて、DYRAやRAAZ、マイヨが決してわけのわからない存在ではなく、ごく普通の人間と同じなんだと思い知った。彼らは長生きするだけで、それ以外は何も変わらない。DYRAをラ・モルテ(死神)と罵り、RAAZやマイヨをバケモノ呼ばわりする人たちの方が実はよっぽど恐ろしい、おぞましい存在ではないか。

 ルカレッリがマイヨを撃つと、アントネッラの腕を引いた。

「離れてアントネッラ!」

 彼女の手を引きながら、床に崩れるマイヨにさらにもう一発、撃った。至近距離で撃たれた弾は、ラバー状の素材で覆われた腰部に命中し、その周囲はみるみるうちに赤黒くなっていく。さらに、床にも血が滴った。

 事情を何も知らなければ、双子の兄が妹を助けに来たような、麗しいやりとりに見える。だが、顛末の大半を知るタヌの目にはそう映らなかった。

「なっ……何て、何てことをっ!」

 アントネッラは浮かぶ涙を拭うこともなくルカレッリの手を振り解くや、彼の頬を平手打ちした。

「私を、私を命がけで助けてくれたマイヨに、何てことをっ!!」

 ルカレッリがそれでも彼女の手を掴もうとするが、その動きは途中で止まった。

 広い空間に照明が完全に戻り、明るくなった。これで、何が起きているか、誰の目にもハッキリ見えるようになった。

「あっ……」

 タヌ、いや、タヌだけではない。この空間にいる、倒れた者たちを除く誰もが、奥にそびえ立つ柱の方へ注目する。

 そこにいるはずのない人影が二つ、男女のそれがハッキリと見えた。

「あれ?」

 ここでタヌは、人影が二つあるのに、|床に伸びる影が一つしかない《・・・・・・・・・・・・・》ことに気づいた。が、それを言葉にはしなかった。二人目、女の顔が見えると今度はDYRAとRAAZを見る。

 RAAZはもう、真っ白に凍り付いてなどいなかった。一方、DYRAは彼の背中に両腕を回したまま、意識を失っている。

「あっ……」

 DYRAがRAAZのために、持てる力のすべてを使ったことはタヌの目にも明白だった。だが、RAAZは、DYRAが床に膝を落とさないように抱き抱えてこそいるが、その視線は突然現れた男女の方へ向けている。まるで、今にも魂が抜けそうな視線で。

 タヌはここでハーランが震えていることに気づいた。

「マッマ……?」

 RAAZもハーランも様子がおかしい。タヌは原因を確かめようと、もう一度、現れた二人を見た。

「え……マイヨさん? ……DYRA?」

 このとき、タヌはRAAZの声がハッキリと聞こえた。

 小さな声のはずだったのに。




「ミレディア」


344:【TRI-PLETTE】「彼は彼女を守り、彼は彼女を……」。残酷な現実の果て2026/02/17 11:48

344:【TRI-PLETTE】「彼は彼女を守り、彼は彼女を……」。残酷な現実の果て2026/02/16 22:50


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 三寒四温な日々ですが、いかがお過ごしでしょうか。


 改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます。

 また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします。


 何というか、こう、修羅場ですね。違った意味で。そして、「彼」と「彼女」がそこにいます。

 答えは次回。併せてご期待下さい。


 唯一無二のゴシックSF小説、残り僅か。

 一層の応援をどうぞよろしくお願いいたします!


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【宣伝】冬コミ新刊「DYRA 16」 BOOTHにて通販開始


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 Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。

 今回の新刊は何と、最終巻です!! しかも、Web版とはまったく違うというビッグサプライズ。

 こちらは、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)と一緒に読むと面白さ一万倍です。

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