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【最終回】DYRA ~焼かれた村、謎の鍵、そして「死神」と呼ばれた美女との旅の果てに~  作者: 姫月彩良ブリュンヒルデ
XVII 悪意の手を逃れたどり着いた先

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342/355

342:【TRI-PLETTE】起動の瞬間、何が始まるのか。たった今、それがわかる

前回までの「DYRA」----------

 西の果てにある、電源タワー。『文明の遺産』そのものと言ってもよい中枢制御塔がある空間で、ついにRAAZとハーランが激突する。RAAZは最愛の女性を奪われた怒りと露わにし、ハーランは社会を混乱させた怒りを滲ませる。だが、二人をよそに、『文明の遺産』をめぐるもう一つの攻防が始まろうとしていた。


 現れたのは、タヌの父親だった。銃は銃身の大きさから到底ピストルではない。猟銃とも違う。見たこともない銃を両手にそれぞれ持ってくる。

「と……父さん!!」

 銃口はアントネッラの方へ向いているではないか。タヌは彼女を守らんと、走ってくる父親に対して彼女の楯になるような位置に立った。白い子犬もアントネッラの足下で彼女に寄り添いつつ、睨んで唸り声を上げている。

()めて!!」

 両手を広げてタヌが父親へ叫ぶ。だが、その足は止まらず、銃口も下りることはなかった。

 ここで、それまでRAAZとハーランの激突を見守るように見届けているDYRAがタヌの異変に気づいた。だが、相変わらず、彼女はタヌたちのために何かをしようとする動きを見せることはない。RAAZとハーランから目を離すことが許されないと伝わってくる。

 父親との距離がどんどん詰まってくる。

 本当にまずいかも知れない。

 もう、賭けだ。タヌは膝を、身体を僅かに震わせながらも正面に父親を捉え、真っ直ぐ見る。だが、やはり恐怖に抗いきれず、目をぎゅっと閉じてしまう。

 そのときだった。

 突然、パン! パン! と爆竹が炸裂したような乾いた銃声が聞こえた。同時にタヌの父親が足を止めた。その後、少しの間を置いてドサッと何かが落ちたような音が響く。

 ゆっくりとタヌは目を開いた。

「……えっ」

 そこに広がる光景を前に戸惑った。


 タヌの父親は、タヌに背を向け、巨大な柱がある方へ銃口を向け、放っていた。

 そしてその先には、それまでいなかった、漆黒の甲冑らしきもの(プロテクター)に身を包んだマイヨの姿があった。彼の周囲には黒い花びらが舞い上がっている。

「……ったく。何かガチャガチャしていると思ったら」

 タヌはここでようやく、どういう状態なのか少しだけ理解した。

 銀色の柱の方へいったアンジェリカ。止めようと追うクリスト。二人のどちらか、もしくはどちらも狙った父親。そして、その間に立つマイヨは銃撃から二人を守ったような位置だ。

「タヌ君とアントネッラは、危ないから離れて!」

 マイヨがそう言ったのと、大量の爆竹が一気に破裂するような音と煙が部屋全体に広がったのはほぼ同時だった。ここでマイヨもすかさず動く。

「RAAZ! アレはやったか!?」

「ぬかりなくなっ!! もちろんだ!」

 煙が晴れていく。RAAZとマイヨが肩を寄せ合って90度の位置で構え、それぞれハーランとタヌの父親を視界の中心に入れられる体勢だ。DYRAがRAAZたちとタヌたちの間にポジションを取っている。タヌたちは、彼らの声が聞こえるギリギリの位置に動いた。

 ここで、マイヨがRAAZに耳打ちする。

「あっちもシステム乗っ取りを仕掛けて来るはず。状況によっちゃ、俺たちも少しの間、地獄になる・けど、あれを作ったドクターを信じてそこを耐えてくれ。そろそろ電源が入る頃だから」

 マイヨの言葉に、RAAZは答えを返す。口角を上げて小さく頷いて。

「やっと、ネズミの親玉が来てくれた」

 ハーランが嬉しそうな声で切り出す。

「俺も、やっとアンタに会えた。ようやく色々渡すものも渡せる」

「受け取るものはないつもりだけどね」

 マイヨとハーランが互いに互いを鋭い視線で見る。

「キミが、超伝送量子ネットワークシステムを起動してくれれば、俺たちの勝ちが確定する」

「それは、どうかな?」

 RAAZが返すや、マイヨが制した。今は、自分が話すとばかりに。その様子を見ながらタヌは、マイヨが相当な覚悟を決めてきていると察した。

「ハーラン。アンタとは二度とこういう話をする機会はないだろう。最初で最後だ。本人の口から聞くってのは大事だからな。……アンタは、この世界で何をしたい? どうしたい? あんな地獄みたいな監視社会を復活させて、その先だ」

「同じ質問をしよう。キミたちは陛下を否定して何をしたい? マッマは何故、快適な世界を壊そうとした?」

「俺が先に質問を投げたんだ。先に答えろ」

 淀みない口調でマイヨは言った。

「監視社会とは人聞き悪いな。振り切ったヤツと社会不安を煽るヤツが出ない限りにおいては言論の自由も思想信条の自由も保障している」

「ニムローテに逆らわない限りは、の間違いだろうが」

 毒づくようにRAAZが呟いた。しかし、またしてもマイヨがすぐに制する。だが、ハーランを見たときの表情は一層厳しいそれだった。

「ディープフェイクや、なりすましのBOT、好みだけを反映させるという手口でのプロパガンダ流布。真実を覆い隠し、分断を煽り、相互不信を蔓延させることで権力を維持する。ドクターの作ったシステムを悪用して散々ふざけた真似をやっておいて、何が思想信条の自由だ。笑わせるな。お前が言うな、だ!」

「キミたちみたいな野蛮な、突出した軍部よりはマシだと思うがね。それに恋愛が許可制とか、気に入らない歴史はどんどん改竄するなんて真似はしちゃいない」

「自作自演のプロが、よく言う」

 金と銀の瞳が一瞬、ギラリと殺意に満ちた輝きを放った。

「けれど、キミたちの負けはもう確定だ」

 ハーランがRAAZを煽るような目で見る。だが、RAAZは堪える。聞くこと以外何もできぬタヌでさえ、クチでケンカをするなら絶対にマイヨの方がプロだし強いだろと思ったほどだ。

「アンタやっぱり勘違いしているな」

 マイヨは事務的な口調で告げる。

「俺たちは負けた。それはその通りだ。この文明の人間たちの()と、発展への欲求(・・)には、残念だがどうやったって俺たちがどうこうできるもんじゃない。けれど、それはアンタも例外じゃない。もっとも、アンタがそれを理解出来る日は永遠に来ないがね」

 永遠に、をマイヨはことさら強調する。この言葉にハーランは一瞬、不快感を隠し切れない。タヌもわかるほどだ。

 だが、この会話がこれ以上続かなかった。再び銃声が響き、悲鳴にも似た叫びが上がる。続いて駆け足の音が響く。

「マイヨたちは私が」

 アントネッラが告げたことで、タヌは父親やアンジェリカたちに目と耳を向け、集中する。

「あっ……!」

 タヌの父親がアンジェリカに向けて再び銃を撃つ。その後、彼女へ駆け寄って飛び掛かるとそのままもみ合いになった。

「父さ……なっ……!」

 誰に対しても暴力は良くないが、女性へ手を上げるのはより気分悪いものだ。それはタヌも例外ではなかった。

「止めて!」

 もう見てられない。タヌはアンジェリカたちの方へ走り出そうとした。

「ちょっ……タヌ君!」

 アントネッラが反射的に手を伸ばし、タヌの手首を掴んだ。奇しくも子犬もタヌの足下に体当たりし、止めた。

 タヌたちの一連の様子を見たDYRAはアンジェリカたちの状況も見ていた。だが、鞭状にした蛇腹剣を振るっても届かない間合いだ。彼女は見極めるや走り出し、間合いに入るや、すぐに剣を振るった。

「えっ!?」

 巨大な柱の方にいるタヌの父親やアンジェリカたちの方へ煌めいた刃は途中で先端部から黄金色の輝きと共に霧散していった。

「ええっ!?」

 一体何が起こっているのか。タヌは驚き、困惑した。巨大な柱がキラキラと輝き始める。周囲に黄金色と白銀色の霧が広がっていき、柱とその周囲の視界も一気に悪くなる。


 タヌは、霧の向こうで何が起こったのか気にした。同時に、男のうなり声、女の悲鳴、そして銃声と甲高い金属音とが一気に響きわたった。

「な、何よこれ……!?」

 アントネッラも周囲が見えなくなってきていることに戸惑いの声を上げた。RAAZやマイヨ、ハーランの姿もうっすらと金銀の霧に包まれ、見えにくくなる。

「──きゃあああっ!」

「──邪魔をするなっ! ああああっ!!」

 アンジェリカとタヌの父親の叫び声が相次ぐ。同時に誰かが誰かを殴ったのか、はたまた蹴ったのか、鈍い音が立て続けに聞こえてくる。

 別の方向からも、殴るか蹴るかの音や金属音が聞こえる。RAAZたちがいる方からだ。

 父親を止めなければならない。だが、そちらにはDYRAがいった。自分はどうしたらいいのか。タヌが何をすればいいのか考えたときだった。

「──これで、終わりだ!」

 DYRAの声が耳に飛び込んだ。そのとき、タヌの身体は反射的に動き、霧の向こう側へと走り出していた。


342:【TRI-PLETTE】起動の瞬間、何が始まるのか。たった今、それがわかる2026/02/02 23:00


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 水曜日にはいよいよ旧暦でも2026年が始まります。凄まじく寒い日々が続きますが、皆様如何お過ごしでしょうか。


 改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます。

 また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします。


 超伝送量子ネットワークシステムは、マイヨが部屋に入ったことで電源入り始めたようです。が、何やらいいことばかりではない様子。これから何が起こるのか。

 併せてご期待下さい。


 唯一無二のゴシックSF小説、最後まで一気に走りますので、一層の応援をどうぞよろしくお願いいたします!


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【宣伝】冬コミ新刊「DYRA 16」 BOOTHにて通販開始


https://sbrynhildr.booth.pm/items/7754629


 Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。

 今回の新刊は何と、最終巻です!! しかも、Web版とはまったく違うというビッグサプライズ。

 こちらは、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)と一緒に読むと面白さ一万倍です。

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