表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DYRA ~村を焼かれて帰る場所をなくした少年が、「死神」と呼ばれた美女と両親捜しの旅を始めた話~  作者: 姫月彩良ブリュンヒルデ
XVII 悪意の手を逃れたどり着いた先

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

340/342

340:【TRI-PLETTE】父親をめぐる話を聞いたとき、タヌは全否定された気分になる

前回までの「DYRA」----------

 西の果て、電源タワー前でルカレッリを見つけたDYRAは、彼の「わかっていない」ぶりに呆れかえる。だが、彼女の中で彼はどうでも良い存在だった。一方、タヌは電源タワーの中で目を覚ました。どこからかアントネッラの声が聞こえてくる。そんな中、誰かが近づいてきて──


 タヌの前に現れたのは二人の男女だった。

 子どもと、金髪混じりの黒髪女性だった。クリストとアンジェリカだ。

「あ……」

 タヌは自力で拘束を解こうとしたのがバレたらまずいかもと思うが、それは杞憂だった。

 クリストは身を屈めると、タヌの両手両足両膝に巻かれた紙か布らしきもの(ガムテープ)を慣れた手つきで破った。

「タヌさん。行きましょう。皆、待ってますよ」

 皆、とは一体誰のことを指しているのか。クリストの言葉にタヌは疑問をぶつけようとするが、堪えた。それでも、今尋ねて大丈夫そうなことは聞いておこうと思い直す。

「あの、ここはどこなんですか」

「ここは、西の果ての、海の真ん中に現れた大きな塔の中です」

 クリストがタヌの足下に貼られた拘束を解きながら答えた。

「塔?」

 タヌはすぐにわかった。以前、父親(ピッポ)を追ってDYRAと共に来たことがある、あの場所だ。

「この塔が、『文明の遺産』なんですって」

 アンジェリカが返した。タヌはそれを聞いて、何と言えばいいのかわからず、少しの間、言葉を探す。

「父さんが……」

 探し求めていたものはこれだったというのか。海岸から見たとき、とんでもなく大きかった。でも、そんな大きなものを誰も見つけることができなかった。

「誘電体多層膜フィルタで隠していたので、見つけられなかったんです」

 クリストの言葉を聞くや、タヌの中でたくさんの「?」が浮かぶ。

「ゆうでんたい、何ですかそれ?」

「屈折率の異なる透明な誘電体の薄い膜を、高い精度で交互に何層にも重ね合わせた……要するに、光に当たっても反射しなくなるフィルムみたいなものです」

 説明を聞いても、タヌは皆目理解できなかった。

「要するに、これも『文明の遺産』が残した偉大な技術ってことよ」

 タヌは、DYRAから聞いた言葉を思い出す。


「今まで知ったことや話の詰み重ねからある程度わかっているとは思うが、『文明の遺産』は『技術』だ。つまり、宝石や金銀のような形あるものではない」


 自分たちが手にしていなくて、RAAZたちの時代に存在した技術。それそのものが『遺産』だったのか。タヌは改めて『文明の遺産』の本質を理解すると共に、あることに気づく。

(技術が『遺産』なら)

 ある意味、最大の『遺産』はDYRAやRAAZという存在ではないのか。だが、タヌはそれも口にしない。これから何が起こるかわからないし、誰が何を考えているのかわからないからだ。

 身体の自由が戻ったところで、タヌはクリストよりも先に立ち上がった。

「あの」

 タヌはアンジェリカをじっと見る。

「どうし、都の大公様がここにいるんですか?」

「ま、子どもにはわからない大人の事情が色々あるのよ」

 アンジェリカは肩をすくめてから言葉を繋ぐ。

「お父さんに会いたくて頑張っていたんでしょ? なら、もうすぐ会えるわよ」

「えっ?」

「ま、ひとつ謝っておかなきゃならないこともあるんだけど、そこはまぁそれ。無事に会えたら許してもらえると幸いだわ」

「どういうことですか?」

 アンジェリカから謝らなければならないこととは何なのか。タヌは不思議そうに彼女を見た。

「まぁ、色々とね。こっちだって美味しくない役回りを演じさせられていたっていう行き掛かりがあるっちゃあるんだけど」

 一体どの話をしているのか、タヌは皆目わからなかった。

「その辺については、今となっては説明するのも面倒だから。必要ならお父さんに聞けばいいわ」

 アンジェリカがそう言うと、クリストがタヌへ話し掛ける。

「タヌさん。行きましょう」

 言葉には出さなかったか、タヌは、自分に笑顔で話し掛けてくるクリストに恐怖にも似た感情を抱く。これまでの流れといい、アントネッラから聞いた話といい、好感情を持てという方が無理な話だ。

 タヌは一瞬、逃げ出そうかとも考えたが、すぐに脳内で撤回する。今わかっているのは、西の果てのあの塔にいることと、他にアントネッラがいるらしいことくらいだ。DYRAやRAAZ、マイヨがいるとわかっているならともかく、そうでないのなら──。

「ボク、どうなっちゃうんですか?」

「お父さんが待ってますよ」

 事情を知らなければクリストの笑顔は純真無垢な子どもそのものだ。だが、恐ろしい一面を聞いてしまっているタヌには、空恐ろしさを感じずにはいられない。

「大丈夫よ。別に物騒なことなんてないから。あのバケモノ共に比べれば」

 あのバケモノ共。

 タヌは誰のことを言っているかすぐにわかった。この人の口からそういう言葉が出るとはと戸惑いつつも、重要な情報がもたらされたことに気づく。

(この人たちを……)

 信じてはいけない。

「安心して下さい。タヌさん。行きましょう」

 いったん、タヌは着いていくことにした。暴れても拒否しても何も動かない。DYRAやRAAZと会えるなど、状況が動く場面が来たら、そこですぐに動けるようにしよう。それだけ決めた。

「あの」

 クリストが前を歩き、アンジェリカが後ろを歩く。間に挟まれたタヌは恐る恐る、だが、何気なく尋ねる。

「皆、結局、何のために、何をしようとしているんですか?」

「そのうち、わかります」

「おかしくないですか?」

 クリストの答えを聞いてタヌはすぐに返す。

「何がですか? でもタヌさんは、お父さんを捜していたのでしょう? 嬉しくないんですか?」

 何も知らなければ、再会できることはうれしいことだ。だが、そうではない。DYRAと出会い、両親を捜す過程で色んなものを見聞したことや、何より彼女へのひどい扱いとで、複雑なそれに変わっていた。

「お父さんは『文明の遺産』という名の宝を見つけて、分かち合うためにすべてを捨てていたんだでしょ」

 その言葉を聞いたとき、タヌはDYRAがRAAZと縁を持って以来、父親に対して持っていた何と言えぬ感情が何物なのか、ようやく理解した。今なら言葉にもできるほどに。

 タヌは、人生で最も深い溜息を吐いた。


 この後、三人はエレベーターに乗り、上へと移動した。

「着きましたよ」

 クリストがタヌへエレベーターから降りるよう促した。

 タヌは着いた場所を見回し、目を丸くした。そこは銀色一色の空間と呼ぶのが相応しい場所だった。床も壁も、そして奥の方に見える巨大な柱らしきものも。天井はあまりにく高く、見えない。何より、部屋と呼ぶにはあまりに広い。村にあった小麦畑よりも広く感じるほどだ。

「何……ここ」

 これがあの西の果てのあの塔の中身だというのか。これが『文明の遺産』だとでも言うのか。技術が云々というより、鉄の塊にしか見えない。

「やぁ。タヌ君」

 タヌは、聞き覚えある声にハッとした。柱がある方から声の主が現れ、その人影が近づいてくる。入れ替わるようにクリストとアンジェリカが柱がある方へとそれぞれ歩き出した。

「……ハーランさん」

「すまなかったね。乱暴な連れ出し方をして」

 その言葉で、タヌは、夜中にドタバタしたときのことを思い出す。そうだ。最後、去り際にDYRAの声が聞こえたような気がしたが、あれは気のせいだったのだろうか。

「ようこそ。『文明の遺産』の中心へ」

「こんな、鉄の塊みたいなものが、『遺産』なんですか?」

「そうだよ。このままじゃキミの言う通り、鉄の塊で、何の役にも立たない」

「鉄の塊に、父さんは……」

「それは違うね」

 笑顔で告げるハーランに、タヌは不審感を募らせる。

「いつかくるその日(・・・)のために、お父さんは必死だったんだ。タヌ君のために」

 空虚そのものの言葉だった。タヌはまたしても深い息を吐いた。

「そんな、失望感した、なんて言いたげな溜め息を吐かれてしまったら、俺もだけど、お父さんが失望する」

 自分で気づいたときでも口に出さなかった言葉がハーランの口から飛び出したことで、タヌは首を小さく横に振った。

「家族より宝探しの方が大事だったなんて、普通、ガッカリっていうか」

「これから先、お父さんとすごせばいい。これからタヌ君に待っている時間はきっと、明るく楽しい時間だ」

「でも、そこには母さんがもういません」

「お母さんの件は、俺からも謝らないといけないか。正直、残念な結果になったと思っている。あのクソガキが余計なことをしたから」

 母親の件をRAAZのせいだと言い切るハーランに、タヌは彼が何を考えているのか、まったく理解できなかった。


340:【TRI-PLETTE】父親をめぐる話を聞いたとき、タヌは全否定された気分になる2026/01/19 22:11


-----

 年明け早々、政治が慌ただしく、熱くなり始めた寒い日々ですが、皆様如何お過ごしでしょうか。


 改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます。

 また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします。


 ついにここまで来ました。全員の思惑が、感情が、野心が、何もかもがドロドロに激突する会場に。

 溜め息を吐くことしかできないタヌですが、案外これが、親がネグレクトされた側の子ども心の本音なんだろうなぁ、などと思うのです。


 唯一無二のゴシックSF小説、最後まで一気に走りますので、一層の応援をどうぞよろしくお願いいたします!


-*-*-*-*-

【宣伝】冬コミ新刊「DYRA 16」 BOOTHにて通販開始


https://sbrynhildr.booth.pm/items/7754629


 Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。

 今回の新刊は何と、最終巻です!! しかも、Web版とはまったく違うというビッグサプライズ。

 もちろん、既刊各巻、そして物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持っていきます。

-*-*-*-*-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ