337:【TRI-PLETTE】関係者すべてが西の果て、電源タワーに終結する
前回までの「DYRA」----------
タヌを案じ、様子を見にネスタ山へ向かったDYRAは、あたりが煙で真っ白になっているのを目撃。そして、そこにハーランを見つけると、一気に斬り掛かる。だが、その間にタヌはピッポに攫われてしまった。DYRAはキリアンやロゼッタらに「当時者以外は近づくな」と警告した。
「邪魔だ!」
DYRAは道中遭遇したアオオオカミを手刀のみで倒していき、前へと進んだ。彼女の手の周囲には、青い花びらが木枯らしのように舞い続けている。
「こいつら、小さい!」
小さいアオオオカミはこの文明世界で人喰い獣と恐れられている種とは似て非なるものだという。RAAZやマイヨが言うには、ハーランが飼っている、彼らの文明の頃の種だという。今のDYRAにとっては、この獣たちは飼い主の命令で、明確な意思で自分に牙を向けているということだ。
だからこそDYRAは僅かな容赦もせず、一撃で確実に仕留めていく。もう剣など不要だ。振る動きの時間すら惜しい。こちらへ触れようとした瞬間、その生命力を奪い取る方が手っ取り早いからだ。
「退けっ!」
今のDYRAの中には、不殺生だの、生き物を極力殺したくないなんて思いはこれっぽっちもなかった。タヌを助けなければならない。『文明の遺産』をめぐるゴタゴタを終わらせる。そう心に決めた彼女に、この後待ち構えているのはハーラン戦だ。彼と戦うなら全力で挑まなければならない。極端ではあるが、決着がつくまで果てしなく戦い続ける可能性もある。だとすれば、吸い取れる生命力は有り難くもらうのみだ。今の彼女はそこのところを完全に割り切っていた。
アオオオカミが横から、背後から彼女に飛びかかる。が、その口を開けて噛みつこうとしたとき、その身体が青い花びらの嵐に触れるや、体勢を崩し、倒れていく。それも、みるみるうちに骨と皮だけと言っても過言ではないほどに痩せこけた無残な姿に変わって。一頭、二頭、三頭……あれよあれよの間に一二頭の骸が連なるように並んだ。
DYRAはアオオオカミをすべて倒してもなお、脇目も振らずに眼下に海が見える方まで走った。ついに崖の先が視界に入る。
「……何だ、あれは」
水平線の向こうに船が何隻か見える。そのどれもが塔の方へと向かっており、先頭集団はほぼほぼ塔に着いているではないか。
「あれは……」
一体何が起こっているのか、ほんの少し気にはなるが、DYRAは敢えてそれ以上そちらへ思考をやらない。考えている暇はない。まずは一刻も早く西の果てのあの塔へたどり着かなければならない。
崖の先端まで着くと、DYRAはもう一度、眼下を、海を、そして塔を見た。
「この崖ですら、かくも低く見えるのか……」
表面が全体的にぬめぬめした感じに見える塔は、一番上が遠すぎて見えない。天まで届きそう、いや、貫きそうな高さだ。
「まるで、水面みたいな光り方だな」
DYRAが塔の上から下へと視線を移動させる。すると、船からわらわらと人が下りて、塔へと走って行くのが見えた。人が波のようにとまでは言わないが、一斉に走り出しているのはわかる。すでに塔に集まっている人々の中から数名が目立たぬように抜け出して塔の反対側へと回り込むべく走っていくのも見えた。彼らが向かっていく先にも二、三人の人影が見える。
「あれ……」
DYRAは目を懲らした。ハッキリとは見えないが、走り出したのは大人と子どもが一人ずつ。走った先にいるのは大人が二人か三人。だがそちらはよくわからない。もう少し明るくなれば見えそうなものだが、それまでここで待つわけにもいかない。その前に中へ入ってしまうかも知れないからだ。
「それにしても」
DYRAはもう一度、自分の周囲を見回す。ここまでほとんど一本道だ。タヌを攫ったハーランたちがここらを通っているはずではないのか。ここからどこへ行ったのか。少しでも移動時間を短縮するなら極論、飛び降り一択しかない。しかし、さすがのハーランでもタヌを連れて飛び降りたとは思えない。ましてピッポができるとは冗談でも思えない。だからと言って、迂回して崖の下の海岸線へ移動できる道らしきものもない。では、どうやって。DYRAが思案したときだった。
──キャン! キャン!
突然、犬の吠える声が耳に飛び込んだ。
「!」
DYRAは反射的に声が聞こえた方へ視線をやった。崖から少し離れた場所、森の端にある枯れかけた大木の陰からだった。
「あれか」
DYRAはそちらへ走った。木の陰に吠え声の主がいた。翡翠のついた首輪を填めている、白い子犬だった。
「い、犬!?」
子犬は、木の根元から崖下に向かって伸びている細いものを足で掴むように挟み、吠え続けている。DYRAはすぐそばまで駆け寄った。
「何だこれ? 鉄の紐か?」
DYRAは知らないが、カーボンナノチューブ製ワイヤーだ。大きめの、カラビナのような形をした持ち手もついている。木をぐるりと囲んで、D型の留め具で結ばれ、下に垂れ下がっている。
「そうか! これを使って下りたのか」
やり方がわかれば何とでもなる。DYRAはカラビナを掴むと、崖から飛び降りた。そのとき、彼女の肩に子犬も飛び乗る。
「おいっ!」
まさかの出来事にDYRAは驚くが、切り抜ける方法を教えてくれた子犬をはたき落とす理由などない。DYRAは落とすまいと子犬を空いている方の腕でしっかり抱くと、一緒に崖下へ向かった。
あっという間に海岸まで、怪我をすることもなく下りると、DYRAと子犬は海の方へ走り出した。
「さすがに船なんか、ないか」
毒づくように呟くと、DYRAはあることを思い出す。
(そう言えば)
RAAZはいつだか塔から現れたときもだが、あのロゼッタを助けたとき、船などを使っていただろうか。否、使っていなかった。だとすれば、浅い、歩ける場所があるのではないか。DYRAは海面に目を凝らした。どこの誰が言った言葉か知らないが、海の色がアクアマリンのように澄んでいるなんて絶対に嘘だ。少なくとも自分の目には、アレキサンドライトのような青なのか紫なのかわからない色にしか見えない。DYRAは焦りを出すまいとそんなことを考え、じっと見つめる。そのうち、海面に僅かではあるが陽の光が当たり、キラリと光った。
「あ!」
光が海の中を見せる。何本か、両腕を広げたくらいの幅だが、塔へと繋がる道があるではないか。
「こういうカラクリだったのか」
わかってしまえば話は早い。DYRAは早速、海面へと足を踏み出した。ここだけ、深さがアキレス腱のあたりまでだ。踏み外さないように気をつける必要はあるものの、走ることもできる。DYRAは何度か海面に視線を落としながらルートを確認すると、一気に走り出した。子犬も続く。
少しずつ塔へと近づくに連れ、向こうで何が起こっているのかが見えてくる。船で上陸した数十人、いや、ざっと一〇〇人以上はいるだろうか。まだ塔のそばまで寄っていない船が数隻いる。だとすると、集まる人間が増える可能性が高い。すでに集まった面々は鍬や鋤を手に、何やら騒ぎ立てている。まるで塔に押し入ろうとする暴徒か何かのようだ。
──キャンキャン!
何かに気づいたとばかりに、白い子犬が吠えると、猛スピードで人が集まっていない、塔の反対側へと走り出した。そのときだった。
「──おい! あれ、ラ・モルテじゃないのか!?」
当然、群衆の一角から声が上がった。それを聞いたDYRAはすぐに、隠れる場所がどこにもないことに気づく。
「──殺せ!」
その瞬間から、塔へと集まる人々が入口ではなく、彼女を睨み、待ち構える。こちらへ来ない理由は簡単だ。海に落ちる危険があるからだ。
「ちっ!」
DYRAは、まずいと思いつつも覚悟を決める。少し前までの自分なら、人をみだりに傷つけたくないと、躊躇したかも知れない。だが、今は違う。
「邪魔を……するなっ!」
タヌを助けるためにもだが、それ以上に、これから先『生きながら死ぬ』という憂き目に遭わないためにも、前に進むのみだ。
DYRAは自身の周囲に大量の青い花びらを舞わせつつ、蛇腹剣を手にする。さらに、出し惜しみはしないとばかりに、剣のみならず、肘下から棘のついた蔓と剣弁高芯咲きの花までもが顕現させる。
「死にたくなければ退けっ!!」
叫ぶなり、DYRAは蛇腹剣を振るった。サファイア色の刃と共に花びらと蔓、花びらまでもが激しく舞う。
「──!」
刃が誰かに触れることはない。だが、花びらや、蔓に触れた人間たちが次々と倒れていく。ただ倒れるだけではない。次々と地に伏す彼らの周囲に黄金色の粉のようなものが舞い上がると、それがDYRAの方へ、彼女を包み込むように流れ込んでいった。
「聞こえなかったのかっ!」
青と白の美しい風景がどんどん広がり、比例するように塔の周囲から悲鳴や怒号は聞こえなくなる。やがて、恐ろしいほどの静寂がこの地を包んだ。
337:【TRI-PLETTE】関係者すべてが西の果て、電源タワーに終結する2025/12/29 06:00
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2025年もあとわずか。そして火曜日、水曜日は冬コミ(コミックマーケット107)。
皆様如何お過ごしでしょうか。
そして、ここに来て月間ランキングだけではありますが、少しずつ安定してきたのが嬉しい今日この頃です。
唯一無二のゴシックSF小説、一層の応援をどうぞよろしくお願いいたします!
改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます。
また、今回初めて読んだよ、という皆様も、せっかくのご縁です。是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします。
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【宣伝】コミックマーケット107サークル参加します
12月31日(水)、東京ビッグサイト全館「コミックマーケット107」2日目 西む39a
Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。
今回の新刊は何と、最終巻です!! しかも、Web版とはまったく違うというビッグサプライズ。
もちろん、既刊各巻、そして物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持っていきます。
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