332:【TRI-PLETTE】普通に見えたら正常、じゃ、そうでないなら?
前回までの「DYRA」----------
ハーランとフィリッポの本当の関係の手掛かりを求め、三度目の潜入を試みたマイヨ。が、すでにもぬけの殻だった。自分がハーランならどこに隠すか。意外な、だが、順当でもある場所へヤマを張り、そこへ向かう。そして──
ピルロの温室と邸宅を結ぶ廊下の一角には隠し部屋があり、そこはハーランのアジトと秘密トンネルで繋がっている。ハーランが手近で、かつ、確実に人の目を盗んで隠せる場所と言えばここだ。
マイヨは捜索のため、扉を壊し、部屋へと足を踏み入れた。
先日のネスタ山の爆発騒ぎなどのせいか、部屋はもう滅茶苦茶に散らかっており、足の踏み場もほぼなし。なるほど、扉が開かなかったのも百科事典らしきぶ厚い本などが扉の前に大量に落ちていたからだ。マイヨは妙に納得した。
「こんなところで手当たり次第なんてやり方をしたら時間がいくらあっても足りない」
床はメチャクチャ。対照的に本棚はスカスカ。
「くそっ」
こんなところを這いつくばって一冊ずつ漁るなんて冗談ではない。もっと効率いい方法はないだろうか。
「いや」
そんなことを期待できないのはマイヨ自身が一番わかっていた。
もっと言っていいなら、「今使える正攻法は、ない」だ。『運が悪い』という言葉はもしかしたらこういうときに使うのかも知れない。日頃からそんなものは信じないマイヨだが、今回ばかりは一つ新しいことを学習した気がした。
「けれど」
考えようによっては、隠すには最適な環境だ。死体は戦場に隠せ、葉っぱは森に隠せ、さながらに。
「高級そうとか、大事そうな箱とかもナシか」
ここでマイヨはハッとした。
(絶対と、絶対ないだけは、ないんだ)
すべての可能性があるのだ。ここにない、持ち去られた。残っている。残っているとしても、もういらない。忘れた。わざと残している。
(俺がハーランなら……)
保険を打たないはずがない。では、ネスタ山ではなく、ここに残したとして、それは何故、何の目的で? 目的がないなら、ここに置く理由がそもそもない。ルカレッリを抱き込んだ時点でトレゼゲ島あたりに置いておく方が見つからずに済む。しかしそれだと「証拠を」出したいときに出せない。まして、自分やRAAZがいるのだ。わざわざ錬金協会のテリトリーなんかに置く理由があるだろうか。
マイヨは姿を見せぬハーランと盤上ゲームをさせられているような気分になる。
(ここに敢えて置く)
一度ここで、マイヨは普通の考えを追い出すと、抜け道へ繋がる床板のあたりへ向かった。
本の散らばり度合いが明らかに違った。
(普通に見えたら正常、そうでないなら異常)
突然マイヨの脳裏に浮かんだのは、はるかな大昔、軍情報部の初等教育で学んだ言葉だった。
──触れてはいけない
これは理屈ではない。
これが意味することはただ一つ。
──ここに、ある。
リスクを取りに行かなければならない。
床に散らばる数冊の本を退かしたそのときだった。
「なっ!!」
マイヨが自身の周囲に黒い花びらを舞わせるのと、視界が白くなるのは、ほぼ同時だった。
332:【TRI-PLETTE】普通に見えたら正常、じゃ、そうでないなら?
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連載再開2発目、短めなこともあり、電撃イレギュラー掲載です。
冬コミに向け、ファイナルまで突っ走っています!
改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます!
また、今回初めて読んだという方、是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします!
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姫月のサークル「11PK」は、以下のイベントに参加いたします。
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Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。
さらに、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持っていきますよ!
コミケでは「DYRA」最終巻が出ます!
Web版とはまったく違う内容に驚いて下さい!!
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