331:【TRI-PLETTE】マイヨは意外な真実と罠に直面するとも知らずに……
前回までの「DYRA」----------
タヌを案じてDYRAは動き出した。DYRAは道中、はぐれて単身で行動しているキリアンと遭遇する。そこで彼がマイヨから預かったという手紙を見、彼が盗み聞きしてしまったという会話を聞き、驚愕する。その頃、マイヨはタヌの父親の秘密を探るべく、三度ハーランのアジトに忍び込む。
足を踏み入れたアジトは、照明類がすべて使われていないため真っ暗だった。しかし、マイヨは全部見えているとばかりに、意にも介さなかった。壊れた階段を無視して飛び降り、勝手知ったる場所とばかりにスタスタ進む。
(電源そのものが、もう、使われていない?)
それなら、警報装置なども使われてないと見ていい。
(読みは、当たったか。ハーランも勝負に出たんだ。ここを捨てて)
マイヨは廊下を進み、階段をどんどんと下りていく。そして、以前見つけた、ハーランが使っていた部屋がある場所までたどり着いた。
果たしてここに、RAAZがナーバスになっていた、タヌの父親フィリッポにまつわる手掛かりはまだ残っているだろうか。
マイヨは自分がハーランになったつもりで考える。自分なら、どうするか。
(俺なら、ここを放棄したなら何か必ず罠を仕掛けておく)
警戒しながら、一歩ずつゆっくりと進む。
部屋は散らかっており、持ち出せる証拠を持ち出すなり破棄するなりしたか、以前自分が持ち出していることがバレたか、どちらにしろ動きがあったことを示唆している。
(持ち出したメモリにはタヌ君やお父さんまわりのことは何も触れていなかった)
メモリの類にはそもそも情報がない可能性もある。しかし、口頭でなんてそんな話はもっと有り得ない。あるとするなら文書、つまり紙媒体だ。可能性の選択肢を頭の中で出していくうちにマイヨはハッとした。
(そういうことか!)
どうしてピルロなのか。
これでまた、一つ繋がる。
あの学術機関とかいう、昔の蔵書が山のようにあったあの図書館だ。あそこで「何か」を発見した可能性だ。それが何かまではわからないが、ハーランがフィリッポと距離を詰めていいと判断するに至った「何か」であることは予想がつく。
アントネッラは言っていた。
「床は……そう、一度、小さい頃に床が抜けてお兄様が落ちたことがあるの。幸い、お父様がすぐに駆けつけて助けてくれたから大事にならなかった。でもその後すぐ、床を直すようにって指示していた」
アントネッラたちの父親マッシリミアーノは、フィリッポが最初に教えた生徒だ。言い方を変えれば、彼もハーラン・チルドレンとでも言うべき存在だった。あの時点でもうピルロと繋がっていたのだ。そんな昔から蔵書に存在し、埋もれ、見つけられていたとするのなら──。
(隠すか、証拠隠滅でそいつを焼くか)
しかし。
今、フィリッポとハーランの関係をめぐって掛けられた疑惑を考えれば、安易に焼くだろうか。ハーランにしてみれば、自分の大昔の主が絡んでくるのだ。しかも、あの大昔にRAAZが殺した当時、次期当主と言われた人物と極めて良好な関係にあった。そんな相手の名前が書いてあるかも知れない資料だ。
(当時、エリゼルにあれだけ大事にされていたハーランだ。いくら任務のためでも、そこまでやるか? それ以上に……)
自分がこの世界の番人になり得る存在であることをいわば証明できる符合みたいなものだ。やはりさっさと捨てたとは思えない。
部屋を探したが、あるのは些末な、どうでもいいものばかりだった。
(証拠は隠滅済みなのか? ヤツは、どうやって自分の……)
納得できない。そんな思いを抱え、マイヨは眉間にしわを寄せつつ部屋を出た。
「諦めるには、まだ早い。ここに隠していないなら……」
ここから目が届いて、気づかれにくい隠し場所はまだあるではないか。前回はそこへ行ったことがなかったので、場所を指定するためのナノピンを刺していなかった。だが、今は刺している。移動にさしたる時間は掛からない。
マイヨは残された選択肢に賭けつつ、外へと戻った。
「ここしか、ない」
外へ出ると、マイヨはネスタ山を見つめながら、その周囲に黒い花びらを舞わせながら、姿を消した。
マイヨが移動した先。
そこはピルロだった。
(おいおい)
さながらゴーストタウンのようで、打ち捨てられた街そのものだ。
普通の人間であれば、思い出深いという言葉が出てくるのかも知れない。しかし、マイヨは何も抱かない。完全に仕事であると割り切っている。
(誰もいないなら、探し放題、か)
植物園があった場所へと足を運んだ。
山崩れで植物園自体は半壊していたが、中へ入ることはできる。マイヨは遠慮なく足を踏み入れた。
植木鉢に植えられた無数の草花がメチャクチャになっていた。だが、マイヨは如何なる感情も向けずに隠し部屋があった方へむかった。
「隠すにいい場所は、ここだろうな」
扉を開こうとマイヨは取っ手に触れる。しかし、押しても引いても開かない。山崩れなどで蝶番などが歪んでしまったのだろうか。
「くそっ」
マイヨは扉に体当たりし、壊しに掛かった。三度ほどぶつかり、ようやく扉そのものが倒れ、開いた。
331:【TRI-PLETTE】マイヨは意外な真実と罠に直面するとも知らずに……
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連載再開です。
皆様、大変お待たせいたしました。ファイナルまで走ります!
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Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。
さらに、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持っていきますよ!
コミケでは「DYRA」最終巻が出ます!
Web版とはまったく違う内容に驚いて下さい!!
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改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます!
また、今回初めて読んだという方、是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします!




