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330:【TRI-PLETTE】タヌを救いたい一心で、皆が見えぬ形でへ誠意を示す

前回までの「DYRA」----------

 ハーランとフィリッポのただならぬ関係。それは信じがたい仮説を生み出す。マイヨはハーランが西の果てに目を向ける隙に事実確認をするという。RAAZは、溜まった疲れとタヌと別れたショックで休んでいたDYRAを迎えにいく。ふたりの気持ちは、固まっていた。


「RAAZ。私、行ってくる」

「キミの動きは随時確認するから心配するな。まずい様子なら無理に動かなくていい。私は南の岩礁地帯で状況を見ながら待つ」

 DYRAは小さく頷いた。

「キミを送り出す先はネスタ山の西端。そこから東へ移動すれば、ほどなくガキたちのいるところにたどり着くだろうよ」

 DYRAはRAAZに見送られ、砲金色の巨大な(リング)が浮かんでいるように見える空間に立つ。

「ところで、ずっと気になっていたから聞いていいか?」

「ん?」

「ずっと気になっていたんだが、あの、宙に浮いているように見える巨大な輪は、何なんだ?」

 宙に浮いているように見えるいくつかの巨大な(リング)を見上げながら、DYRAは問うた。

「あれは重力調整用のシステムだ。わかりやすく言えば、上から下にモノが落ちる。その上と下の関係を変えるもの。『横長の空間を上下に』とかせまいスペースを有効活用するときに利用する。」

 手振りを交えて説明するRAAZの言葉を聞きながら、DYRAは、彼らの生きている世界にはそんなものまであるのかと、自分なりに想像しながら驚き、溜息にも似た深い息を吐いた。

「お前のいた世界は、信じられないような世界だったんだな」

「そうでもないさ。……そんなことより、さっさと行け。ガキが気がかりなんだろ?」

「ああ。そうする。……ありがとう」

 DYRAはそう言ってRAAZに謝意を示してから、砲金色の輪の中へ入る台のようなところへと歩いた。浮かぶ輪の真下にある台座は恐ろしく小さく見える。が、実際に立つことで上に浮かぶ輪の存在感が際立つ。だが、DYRAはそれ以上何か印象を持つことはなかった。代わりに、身体がふわりと浮かび上がった。




 夜も更けた頃。DYRAはネスタ山の中に着いた。あたりは森。人の気配はもちろん、動物の気配もない。

「動物も……」

 緊張しているのに違いない。だから声はもちろん、物音も聞こえない。DYRAは今いるあたりがただならぬ場所だと気づいた。人が気配を消しているのか、それとも、アオオオカミのようなとてつもなく獰猛な生き物が近くにいるのか。どちらにしろ、何かがある。刃物のように鋭い殺気にも似た空気感も紛れている。

「……ん?」

 夜の森の中で、ほんの少しだけ、地面が光って、いや、光が漏れている場所があるではないか。DYRAはすぐにそちらへと近寄る。もちろん、誰が、何がいるかわからないので、気配を消して慎重に、かつ、近づきすぎない程度に。

 目がいい人間でかつ昼間であれば視界に入るだろうギリギリまで近づいたときだった。僅かに漏れていた光がパッと消えた。DYRAはそれを見るや、勘づかれた、と気づく。


 カサッ


 DYRAは反射的に身構える。背後に気配を感じるや反射的に身体が動く。

「いでっ!!」

 肘が何かに当たった感覚と同時に、聞き覚えある声が飛び込む。DYRAはすぐに振り返った。

「いででっ……!」

「その声……」

「えっ?」

 DYRAは誰かわかると、拍子抜けした。

「オネエチャン?」

「キリアンか?」

 そこにいるのが誰かを認識すると、DYRAは少し安堵した。


 二人は覆いを被せた小さなランタンを挟んで腰を下ろした。

「お前、ケガをしているのか?」

「ああ。もう散々や」

 血が滲んだ包帯を巻いているキリアンを、DYRAは厳しい表情で見つめた。

「ピッポさんの件でな」

 キリアンはここで、タヌと一緒にメレトから出発し、モラタに着くまでの顛末を話す。

「……んで。ピッポさんが二人おった。オレはそのときはタヌ君逃がすので精いっぱいでな。んで、追ってきたから、応戦した。タヌ君の方へ行かせるワケにはいかんから」

「じゃあ、タヌは今、一人なのか?」

 DYRAが確認するように問うた。

「いや。さっきあの三つ編みの兄さんに会ったときの話じゃ、会長サンの、あの、西の果てで悶着した女密偵と。錬金協会のパツキンの兄さんがおる」

 DYRAは誰のことかと一瞬考えてから思い出す。そう言えば、デシリオでチラッとそんな男を見た気がした。タヌがそんな男といて大丈夫かと心配になるが、ロゼッタがいるなら問題ないのだろうとそこは追求を控えた。

「お前、何で合流しない?」

「こんなザマや。あからさまに足を引っ張りたくない。それで、影から守ったろって」

「お前、いい奴なんだな」

 DYRAはほんの少しだけ眦を下げ、口角を上げた。

「オネエチャン。笑顔かわいいな。タヌ君とおるとき、いつもそういう顔だったらよかったのに」

「色々ありすぎたからな」

「色々かあ……っと、そうだ」

 キリアンはハッとして、懐から手紙を取り出すと、DYRAへ差し出す。

「何だ?」

「これ。あの三つ編み兄さんから預かってたんだ。『誰にも言うな』って。この話題を口にしようとしたら、オレが口を開きかけただけで『殺す』って言ってきたほどや。この話自体、話していいのはオネエチャンだけだ、って」

「どういうことだ? 何があったんだ?」

 DYRAは受け取った手紙をランタンの光越しにみる。開封した形跡がある封筒で、中に手紙が入っている。DYRAはサッと目を通す。

「何の変哲も無い、ありふれた近況報告だが……」

 言いながら、DYRAは宛名まで読み終える。

「親愛なるジョルジョへ。フィリッポ……タヌの父親が誰かに当てた手紙ってことか」

「確か、錬金協会の副会長宛って。オレもざっと目を通したけど、面白くもおかしくもない、平凡な手紙や」

 最後、DYRAは署名欄を見る。複雑な名前に加え、読みにくい文字故、声にこそ出さないものの、間違えないよう、確かめるのも兼ねて口だけ動かす。

「……フィリッポ・クラウディオ・カッソン・ニムローテ」

「フツーの手紙やろ?」

「ああ。別にどこにでもある、ありふれた平凡な挨拶というか、近況報告みたいな手紙だな」

 DYRAは手紙を戻しながら、考える。どうしてこの手紙一つで、箝口令が敷かれたのか。さらにマイヨの口から『口にしたら殺す』という物騒な言葉が飛び出したのか。

 それでも、マイヨはこの話題を決して口にするなと言う。RAAZにも言うなと。何かあるのだろう。真意を読み切ることはできないが、DYRAは胸にしまっておくこと自体には同意する。

「その……オレさ」

 キリアンが気まずそうに、それまでにない小さな声で切り出す。

「全部やないけど、実は、この手紙のことについてはさ、タヌ君たちが何を話しているのか少しだけ、聞いているんや」

 言いながら、キリアンはDYRAに近づき、隣に並ぶように座った。

「何だって?」

「ヤバい雰囲気だったのと、三つ編みがあんなこと言ったから何も言わなかったけど」

 キリアンは周囲にDYRA以外の気配がないのを確かめてから、ゆっくりと息を吸い、話を始める。

「タヌ君とあの錬金協会のパツキンと、女密偵。三人で必死に秘密だって言い合ってた。オネエチャンがタヌ君を助けたのが出会いやろ? でも、あの会長サンお気に入りのオネエチャンが、会長とバチバチの髭ヤローの親戚を助けたなんて、マズすぎるって話でさ……」

 聞きながら、DYRAは手にした手紙を見つめる。

「……ああ、そういうことか。わかった」

 そう言うと、DYRAは立ち上がった。

「お前、一連の話は全部忘れろ」

「えっ?」

 意外だと言いたげにDYRAの顔を見上げるキリアンに、DYRAは自信ありげに頷いた。

「お前には到底抱えきれない。抱え続けるなら、偶然から知った赤の他人の秘密と呼ぶには馬鹿らしい話で理不尽に殺されるリスクを背負うぞ?」

「え、じゃっ」

「私がその口止めされた話のすべて、引き受ける。安心しろ。この話題のせいでタヌが殺されるなんて、絶対に許されることじゃない。それが、たとえRAAZやマイヨの都合でも、だ」

「オネエチャン、本当に、タヌ君守り切れるんだな?」

「ああ。こんな馬鹿げたどうでもいい話でタヌに危害なんてあってはならないんだ」

 キリアンはその通りだと言いたげな表情で大きく頷いた。

「それ聞いて、オレ安心した」

「お前、絶対に死ぬなよ? 一連の騒ぎが全部終わるとき、タヌを助け出してやってくれ」

「もちろん! けど、オネ……」

 DYRAは、キリアンの言葉を聞く前に夜陰の中へと溶け込み、姿を消した。




 同じ頃。

 マイヨは一人、ネスタ山の山の向こう側へ姿を現していた。

(ここにピンを落として覚えさせておいたことが、一度ならず二度までも役に立つとはね)

 ここで、マイヨはDYRAとRAAZがタヌを助けようとハーランとこの場所で対峙したときのことを思い出す。最初に来たときは、DYRAとRAAZがタヌを助けようと奔走していた。RAAZはハーランが投擲した窒素を入れた爆発物から楯となってダメージを受け、DYRAに至っては爆弾腕輪を抱えて爆発させたことで重傷を負った。

 二度目に来たときは、道中でロゼッタを助けつつもハーランの部屋からメモリ類を奪取、そして彼のアジトがピルロの、アントネッラとルカレッリたちが利用している隠し部屋と繋がっていることを知った。この部屋の存在で、ハーランとピルロと繋がっていることを知り、アントネッラが持ってきたルカレッリ生存の報告が決め手となった。

 そして今回。これまでの情報に加え、DYRAが持ち帰った話とタヌから預かった手紙から、にわかに信じ難い情報が浮上した。まだ仮説レベルではあるものの、マイヨは事実確認のため、今一度、この地に来た。


「RAAZ。アンタが味わった絶望の深さを思えば、言いたいことはわかる。そしてそれは理屈では正しい。けど、何も知らない、関わってもいないタヌ君にそれ(・・)を背負わせるわけにはいかないんだ」


 マイヨは心に誓いながら、一歩一歩、ハーランのアジトへ繋がる入口へと近づいた。

「そして、だからこそ……ハーランに、DYRAへの『切り札』としてそれ(・・)を使わせるわけにはいかない」

 以前、DYRAたちが派手に壊した当時のままになっているアジトの入口を見つけると、マイヨは監視カメラや簡易的な罠が張られていないかをざっと見回してから、中へと入った。


330:【TRI-PLETTE】タヌを救いたい一心で、皆が見えぬ形でへ誠意を示す


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 久しぶりに「秋」を感じられる年になりそうで少し嬉しいです。

 皆様如何お過ごしでしょうか。

 作者姫月はあと数日しかないことについて、色々奔走しております。


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【宣伝】即売会参加まわりについて

 姫月のサークル「11PK」は、次回は11月23日(日)、東京ビッグサイト南館で開催の「文学フリマ東京41」に出店予定です! 出店ブース確定次第、ご報告いたします。

 Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。

 さらに、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持っていきますよ!

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 改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます!

 タヌ、実は「ヤバイヤツなのか?」と驚くような状況ですが、DYRAはどうやら何かを掴んだようです。

 次回ですが、更新は少し先になります。

 冬コミに登場する「DYRA」最終巻「La FINALE」準備のためです。

 また、今回初めて読んだという方、是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします!



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