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033:【FRANCESCO】DYRA探し!? タヌ争奪戦!?

前回までの「DYRA」----------

DYRAを捜している間に図書館にたどり着いたタヌは、そこで錬金協会の副会長イスラと出会う。年老いているが足腰も頭脳もしっかりしていた。タヌが勉強家に見えたのか関心を示すと、協会員へ勧誘した。

 馬車の音が遠ざかり、聞こえなくなったところで、タヌは図書館出張所から外へ出た。

 夜の街に再び足を踏み入れると、タヌはできるだけ目立たぬよう意識して歩いた。幸い、夜でも活発な土地柄のおかげか、はたまた歩いていた場所がいわゆる繁華街にあたるからか、特に気にする様子を見せる者などいなかった。

 タヌは改めて夜の繁華街に目をらんらんと輝かせる。夜なのに半分以上の店が開いている。夜は寝る時間だと信じて疑わなかったタヌは、夜になっても働いたり遊び歩いたりする人間がこんなにもたくさんいることに感心せずにいられなかった。

 煌びやかな光景を見ているうち、明るさのあまりか目が回りそうになる。そのとき、タヌはあることに気づいた。

(そういえば、ごはん食べていなかった)

 DYRAと朝食を食べたのが最後だった。しかし、タヌの中で、空腹感よりもDYRAが未だに見つからないことの方へ意識が向いてしまう。

(DYRA、何があったんだろう。どこにいるんだろう)

 タヌはまた、だんだんと心細くなる。DYRAはどこに消えたのだろうか。少なくとも、彼女は圧倒的な強さを持っている。その辺の暴漢如きに叩きのめされて連れて行かれたなどとは思えない。泣き落としに引っ掛かるようにも見えない。タヌの目には、DYRAが己より弱い暴漢を許す温情を持っている風にも見えなかった。仮にそんな情を持っていたなら、ピアツァの外の森で彼女を襲おうとした黒い外套姿の者たちへ容赦なく剣を振り下ろしていないはずだ。持っていないからこそ、情け無用の振る舞いができるのだ。

(……だから)

 彼女が自分の意思で姿を消したわけではないなら、一体何が起こったのか。タヌはそれが気になって仕方がなかった。

 歩きながら、ああでもない、こうでもないと考える。

 そんなタヌを夜の雑踏の中で、黒い外套に身を包んだ数名が見つめる。一人は前方の離れたところに、別の二人は人混みに紛れて通りの反対側に少し距離を開けて、さらに少し離れた背後にも。各々がタヌに対して少し距離を取っており、あからさまに尾行しているようには見えない。だが、見方によってはタヌを遠巻きに囲んでいるも同然だ。

 と、そのときタヌの肩に男の腕が触れた。男は大柄な三人組のうちの一人だった。少し赤ら顔で、酒を飲んでいるようだ。

「気をつけろ」

「ご、ごめんなさい」

 触れたことでもしかしたら怒っているかも知れない。タヌはすぐに謝った。しかし、それだけで済まなかった。

「ガキが何、こんな遅くまでほっつき歩いているんだ」

「おうち帰って寝な」

 男たちは強面とでも言うべき顔つきではあるが、怒っている様子はない上、言っていることは極めて正しかった。ただ、タヌにもタヌの事情がある。だが、反論は時間の無駄だ。ここは面倒にならないようすぐに立ち去った方がいい。タヌがそう考えたときだった。

「失礼」

 突然、三人組の男たちのうち、別の一人の背中に、黒い外套姿の者がぶつかった。

「ぁ?」

 背中からぶつけられた男が振り返った。

「おい? 気をつけろ」

 この様子を見たタヌは、黒い外套を着ている者が顔を隠していることに加え、この人物以外にも自分の周りに何人かいることに気づいた。タヌはパッと見で、四人いるとわかると表情を硬くした。

「ぁにするんだ!」

 先ほどタヌに注意をした男が外套姿の人物に掴みかかった。同時に、最初にタヌとぶつかった男がタヌの腕を軽く引いて、一触即発の現場から遠ざける。

「早く行きな」

 タヌは内心、三人組の男たちに感謝した。

(今のうちに!)

 どさくさに紛れてタヌは人混みの中に溶け込んでその場から離れようとした。だが、タヌが離れようとするその場所へ人々がどんどん集まり始める。人の流れに逆らう形になったことで、思ったように動けない。

「何だごるぁ!」

 やがて、三人組と黒い外套姿の四人で小競り合いが始まった。野次馬も増えてくる。一刻も早く抜け出すにはどうしたら良いのか。内心、タヌが困り果てたときだった。

 突然、肩を後ろから指でとんとん、と叩かれた。タヌはすぐに振り返った。

(!)

 タヌの肩を叩いたのは、四人組の一団とは別の、これまた黒い外套に身を包んだ人物だった。やはり顔を隠しているため、今は男女の別がわからない。だが、小さく手招きをする仕草をしている。タヌは、ついていっていいのか考えた。

(でも)

 もし、自分を攫うなり捕まえに来たなら、今なら後ろから羽交い締めにしたり、無理矢理引っ張るなど穏やかならぬ方法に訴えることもできたはずだ。しかし、この人物はそれをしなかった。少なくとも今だけは信じて良いかも知れない。上手く利用して、適当なところで撒けばいい。そう考えたタヌは、応じるフリをしてついていった。黒い外套の人物は、上手く人波をかき分けて進んでおり、続いて歩けばすいすい進むことができる。あと少しで人垣を抜けられる、そう判断したタヌは側にいた太っちょの男の陰に入ると、そのまま逃げることに成功した。

 タヌの姿が見えなくなると、手引きをした黒い外套姿の者は頭部をちゃんと隠そうと被りを直しながら、小競り合いする連中を一瞥する。

(まったく。何やっているんだか。……っと、何か、誰か俺を見てる? 退散だ)

 被りからはみ出そうな三つ編みをそっと隠すと、野次馬たちの中をすり抜け、大勢の通行人たちの間に溶け込んで姿を消した。

 ここで、小競り合いを起こしていた三人組の大柄な男と四人の黒い外套姿の一団がタヌの姿が消えたことに気づくと、それぞれうろたえる。四人組の方は、二人が人垣を無理矢理割って、タヌを手引きしたとおぼしき人物を探すためにあたりを捜す。

 四人のうち、残った二人も、ケンカまがいの相手をしている場合ではないと、最初の二人とは反対の方へ動き出す。しかし、ケンカが始まると期待して集まった野次馬たちが作り出した人垣が、彼らを通すまいと壁になり、スムーズに抜け出すことができなかった。

 一方、無事に野次馬の輪から抜け出したたタヌは、できるだけ人目を避けるように宿屋へ戻る道を走り始めた。


 深夜。

 フランチェスコ中央部にある大きな錬金協会の施設に、図書館出張所から出発した大型馬車が到着していた。

「イスラ様、お疲れ様でございます」

 錬金協会の建物の入口で職員に出迎えられていた副会長の老人は彼ら彼女らの労をねぎらい、今日はもう遅いので帰るようにと優しく告げる。

「イスラ様。本日は会長も自らお仕事いただいておりました」

 職員の一人の言葉に、馬車に乗っていたソフィアがぎょっとした表情を浮かべた。会長の年間行事が行われていること自体はもちろん、把握している。しかし、知る限り、会長を乗せた馬車がフランチェスコにあるどの錬金協会の施設に着いたかなどの報告すら受けていない。それでも平静を装い、思い出したように質問する。

「そういえば、会長はどちらに?」

 職員は笑顔で応える。

「申し訳ございません。ソフィア様。少なくともこちらの施設へはいらしておりません」

 会長は筋金入りの秘密主義者だ。公式予定に記載されていること以外の動向は徹底して秘密主義を貫いている。ソフィアはそれを思い出すと、「しまった」と言いたげな表情を浮かべた。

「そ、そう。あ、あと他に気になることとか変わったことはなかった?」

「はい。そう言えば、別館の方にアニェッリからお客様が見えているそうです」

 別館に来ているアニェッリからの人物が何者かを知る者はいないのか、ソフィアが尋ねようとしたときだった。

「あの、御館様、いえ、あ、会長がいらっしゃると聞いてぼくは来たのですが」

 何とも気まずい雰囲気の中、口を挟んだのはクリストだった。

「さようでございましたか。こちらにはいらしておりませんが……居場所を確認できましたらすぐにお伝え致します」

 職員の言葉に、クリストは頷くだけだった。

 この後、ソフィアとクリストにも労いの言葉を掛けたイスラは、作業部屋とも言うべき研究室へ行くと告げて、半地下へと続く階段を下りていった。彼を見送ると、ソフィアは二階の宿泊可能な部屋へと移動した。続いて、彼女の荷物を持ってクリストがついていく。

 部屋へ入ると、クリストが早速お茶を用意し、瀟洒なリビングセットがある空間の椅子に腰を下ろしたソフィアに出した。

「ねぇ。クリスト」

「はい」

「そういえばアンタ、ずっと気になっていたんだけど、どうして錬金協会に入ったの?」

「はい。兄様のことを捜しているっていうか、調べているんです」

「兄様?」

 それは初耳だ。ソフィアが意外そうな表情で聞いている。

「ええ。はい。兄がどうして死んだのかを調べようって」

「それ、協会とどういう関係があるの?」

「直接はないと思います。けど、真実、真相を知りたいのです。その、人がたくさん集まるところへ入れば、人づてで何かわかるかもって」

 確かに、錬金協会は社会インフラ的な組織である性質上、好むと好まざるとに拘わらず人が集まる。動機から考えれば行動の選択としては極めて妥当だ。自分でも同じ立場になればそうするだろう、とソフィアは思う。

 そこへ、扉をノックする音が聞こえてきた。

「ぼくが行きます」

 そう言って、クリストが足早に扉の方へ行き、少しだけ開く。ノックをしたのは黒い外套を着た男だった。腰を少し落としてから、クリストに耳打ちをする。聞き終えたクリストは少しだけ意外そうな顔をしてからソフィアのいる方へ戻り、「長居して申し訳ございません。それでは失礼します」と挨拶をしてから部屋を出て、扉を閉めた。


 同じ頃。

「失礼致します」

 フランチェスコの西にある錬金協会の別館では、貴賓室の扉をノックする音の後、少し間をおいてから扉が開くと、例の厚底眼鏡を掛けた小間使いが入ってきた。

 小間使いが入ると、それまで奥の部屋から奏でられていたピアノの音色が聞こえなくなる。

「ロゼッタか」

 男はピアノから離れると、ロゼッタの話を聞こうとソファにどっかりと腰を下ろした。

「会長」

 さらなる報告を聞き終えると、男は天井を仰ぎ見る。

「ソフィアとクリストの姿があった、か」

 クリストに遣いを頼んだのは他の誰でもない、自分だ。彼にある程度、行動の自由を与えた上でどう動くかを見ていれば自ずと見えてくるものがある。そう思ったからだ。男は結果が出たからそれで良いとばかりに、取り立てて気にする素振りも見せなかった。

「それからもう一つ」

 さらなる報告を聞き終えると、男は顎に手を置いた。

「荒くれ者を雇って追跡者を妨害したところまでは良かったが、その後ガキにまんまと逃げられた、か。それも、どこの誰ともわからないヤツが手を貸して」

 どうしたものかと少しの間考えた後、深い息を漏らしてから、男はロゼッタの方を見る。

「力ずくは私としては不本意なんだが」

 こうなってくると、そうも言っていられない。男は言外に仄めかした。ここで、大して気にしていなかったクリストの存在が頭にチラついた。

「ガキは確かクリストと面識があったな。接触、となったら面倒になる」

「は?」

 男の言葉に対し、ロゼッタが聞き返す。だが、男は独り言だから気にするなとばかりに手のひらを彼女の前でひらひら動かしてから、ゆっくりと立ち上がった。

「ちょっと待ってろ」

 男は奥の部屋に行くと、部屋の隅に置いていた白い四角い鞄から何かを取り出した。それを手にするとすぐに戻る。

「これはキミに『直接』頼みたい。他の誰にも任せるな」

「何なりと」

 男が持ってきたものを差し出すと、ロゼッタは両手で丁寧に受け取った。

「これは……?」

 それは、心臓や心を現す形をしたペンダントヘッドらしきものだった。

「なくすなよ? 『サルヴァトーレからの頼まれごと』の証だ。それでわかる」

「『身柄を確保しろ』ということですね」

「自発的に来てくれる、はずだよ」

「かしこまりました。それでは」

 恭しく頭を下げた後、何事もなかったようにロゼッタは貴賓室を去った。


再構成・改訂の上、掲載

033:【FRANCESCO】DYRA探し!? タヌ争奪戦!?2024/07/23 23:17

033:【FRANCESCO】DYRA探し!? タヌ争奪戦!?2023/01/05 17:45

033:【FRANCESCO】DYRAが消えた(4)2018/09/09 14:17

CHAPTER 45 タヌを捜せ2017/05/15 23:00

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