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DYRA ~村を焼かれて帰る場所をなくした少年が、「死神」と呼ばれた美女と両親捜しの旅を始めた話~  作者: 姫月彩良ブリュンヒルデ
XVII 悪意の手を逃れたどり着いた先

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329:【TRI-PLETTE】光の塔の足下で、彼らは各々、「そのとき」に向け──

前回までの「DYRA」----------

 マイヨはケガをしたキリアンを見つけると、ある思惑を胸に秘め、彼へ後事を託す。一方、RAAZはハーランの出自から、フィリッポを信頼する様子に違和感を抱く。そこから考え得る仮説を立てるが、マイヨは「もうそこに割くあらゆるリソースは自分たちにない」と言い切った。


「前提が、すべて変わる可能性すらある点だ。正直、お前ほどの男がそこを『時間がない』で潰すのはどうなんだ!? ISLA」

 RAAZはマイヨを睨みつけた。

「ハーランとフィリッポの関係がただならぬ(・・・・・)ものかも知れない。万に一つ、そうだったとして、俺たちはハーランを確実に始末し、『文明の遺産』を処分した上で、この地を離れる。それ以外、何ができる?」

「『世界を焼くな』とお前は言った。だが、私は妻を絶望の底へ突き落としたことに関わっ──!」

「だからさ、アンタ落ち着けって。フィリッポの件と、カミサンの件は切り分けろ」

 マイヨは鋭い瞳でRAAZを見る。

「お前はすべてを知っているんだろう!?」

「知っているからこそ、証拠も示せぬ今の段階であれこれ言いたくないんだ。証拠はすべて、アンタのカミサンが遺した超伝送量子ネットワークシステムが起動した瞬間、出せる! あと少しだ! 変な先入観や余談で、感情に流されるなって!」

「あの全解析したタブレット……あそこに答えの一端はあっただろうがっ!!」

「あれだけ(・・)じゃ、足りないんだ! 概要が見えた! けど、一番肝心な部分に穴が開いているパズルみたいなもんだ! 真実にはたどり着けないんだ!」

 そこまで言うと、マイヨはRAAZの両肩を強く掴んだ。そして正面からじっと見つめ、告げる。

「アンタが一番危惧しているそのこと(・・・・)については、俺が証拠を探す。これでいいか?」

「ISLA」

「アンタは電源タワーを奪われないことを考えろ。ハーランがここの文明の連中を使うなら、容赦しなくていい。必要なら──」

「お前が、そこまで腹を固めきっていたとはな」

「言っただろ? アンタのカミサンから頼まれているんだ。俺自身が生きることと引き換えに。アンタと、本来ドクターが使うはずだったシステム一式を身体に入れたDYRAを守らなきゃいけない。っていうか、今は俺自身も心から納得して、守りたいと思うから守る」

「ISLA。もう一つ、頼んでいいか?」

「何?」

「DYRAだ。電源タワーを守るにあたって、愚民共が数で来た場合、彼女をフル稼働させなければならない場面が来る。……今からでも、記憶をいじれるなら」

「そんなこと、しなくていい」

 マイヨは即答してから、RAAZへそっと耳打ちする。

「……」

「何? そんなのでいいのか?」

「当然だろ。アンタ、長いツキアイの割に、彼女の何を見てきたんだ? 彼女はああいう性格だ。俺が言ったことを伝えれば、姑息な小細工なんかすることなく、彼女はすべて納得した上で動く。大丈夫」

 RAAZはハッとして、顔を上げた。

「お前……」

「アンタ本当に、DYRAにカミサンを重ね続けてきたんだな。彼女も可哀想に」

「最近は見ているつもりだ」

「なら、オコサマの初恋並に何も気づいていなかったってこったな」

 言うだけ言って、マイヨはRAAZから離れる。次に日記帳やタブレットなどをまとめて手に取った。

「これだけは持っててくれ。あとはもう、破却していい。俺にとってもここは思い出の地って言えばそうだけどさ、ここの役目はもう終わりだ」

「そういうお前も、ミレディアのことを……」

「俺にとってはまごうことなく命の恩人だからね。彼女は。でも……」

 マイヨはほんの少しだけ口角を上げた。

「『前へ進まなきゃ』なんて綺麗事を言う気はない。それでも、目を覚ましたとき、こういう状況になっていた。それはそれで『運命』ってヤツかも知れない。そろそろ、決着をつけたい」

 言い終わった瞬間、マイヨの表情はいつもの、事務作業でもするようなそれに戻っていた。

「アンタはDYRAのところへ」

「ISLA。ここを、と言ったが、それ(・・)をやることの意味は、わかっているんだな?」

「もちろん。ま、ハーランに振り回されなかった善良な人たちへの被害が少なくなるようにとは思うけどさ、こればっかりはそれこそ運だよ。そいつの巡り合わせ次第ってな」

「わかった。あとは合流タイミングだ」

「俺はアンタが言った、ハーランとフィリッポの関係の証拠を押さえてから行く。現地集合(・・・・)ってことで、いいだろ? いい加減、ハーランだってもう、西の果て近くに来ているはずだ」

「お前の助言を採用するさ。そのとき(・・・・)が来たら、私とDYRAで邪魔なヤツらはまとめて退かしておく」

「最後にあと一つ」

「ん?」

「タワーへ入ったら、アンタが持っている方のリセット兼リブートキー、すぐに、必ずセットしておいてくれ。『陛下』をどうこうなんて言ったハーランだ。最悪の事態から考えた方がいいから」

「お前がそこまで言うんだ。絶対にやっておくさ」

「頼んだ。……それじゃ、俺はこれからもぬけの殻(・・・・・)なのを期待して、ハーランのヤサへ寄ってくる」

 マイヨは自身の周囲に無数の黒い花びらを舞わせると、姿を消した。

 ひとりになったRAAZは、渡されたものとは別の、テーブルに置きっぱなしになったタブレット画面に映し出された画像を見ながら、笑みを漏らした。

「電源タワーに人を集めたところで、愚民共が傷つけたり壊したりすれば困るのはお前だぞ? ハーラン」

 RAAZはそちらのタブレット端末も手にしてから、部屋を出た。廊下を歩いて、生前、彼女が利用していた部屋、即ち、悲劇の舞台となった部屋の扉の前に立った。

「ミレディア。ISLAは私に『世界を焼くな』と言った。私はキミのいない、いや、キミを抹殺した世界なんて焼いてしまいたかった」

 扉に手を伸ばし、そっと添える。

「何千年も経つのに、私は未だにそれができちゃいない。情けない話だが、心のどこかで(せい)に執着し、未練がましく未来を夢見た(・・・・・・)弱く愚かな者だったのか?」

 銀眼に涙をため、呟く。

「目も心も、キミを失った悲しみと絶望にばかりに向いていた。すまなかった。ミレディア」

 RAAZは目を閉じた。

「私は、この絶望で固まってしまったキミのこの血に誓う。このケジメ、必ずつける。キミが遺してくれたものは、絶対に渡さない。もう一つ。……キミの無念を晴らすためだったとは言え、あろうことか別の女にキミが使うはずだった心臓を渡してしまった私を、どうか許してくれ」

 深呼吸し、次に目を開けたとき、涙は消えていた。

「……これから、キミが遺してくれた永久(とこしえ)の輝きに火を点す。──その『名も無き霊妙たる煌めき』が、希望の光とならんことを」

 無数の赤い花びらがRAAZを覆うように舞い上がった。




「待たせてもらった」

「起きていたのか?」

 真っ白い部屋がある施設へ戻ったRAAZを、DYRAが出迎えた。今いる場所は、円筒形の容器だけが置かれた部屋ではなく、パイプ製の簡易ベッドがある仮眠室のような部屋だった。

「少し前に起きて、色々、考えていた」

「キミに、面倒を二つ、頼みたい」

「お前にしては随分殊勝な言い方だな」

「これから電源タワーへ行く。これはキミにとISLAからも頼んできたことだが」

「マイヨが?」

「ガキのまわりがきな臭い(・・・・)んだ。一緒に動く必要も、姿を見せる必要もないが、タワーに着くまで後ろを守ってやってほしい」

「タヌは誰とも一緒じゃないのか?」

「ISLAは言葉にしなかったが、モラタあたりで面倒があったらしい。親父に会えずに万が一、は避けたいからな。理由はもう一つある」

「まだあるのか?」

「ハーランも、例のフィリッポと一緒に来る。ISLA曰く、タワーを制圧するために、愚民共を投入するかも知れない、と」

「大衆に取り囲ませるつもりか?」

「そんなのに阻まれてガキが身動き取れなくなったら面倒だ」

「タヌは入れていいのか?」

「不本意だが、親父がハーランと繋がっているんだ。恐らくヤツはどんな手を使ってでも入ってくるだろう。なら、ガキを入れないわけにも行くまい」

「間接的に当事者、か」

「ああ」

「ところで、そのマイヨたちはどうなっているんだ?」

 DYRAが問うと、RAAZは芝居じみた仕草で肩をすくめた。

「情けないが、それがさっぱりだ。色々あって、報告も情報交換も中途半端なままここに戻った有り様でな。わかっているのは、どうやら小娘の身柄をハーランに取られたらしい、ってことだ」

「らしい? どういうことだ」

「ISLAは今、ハーランとフィリッポの距離の近さに注目している。私も言われて見て、重大な疑惑を持っている」

「疑惑?」

「ああ。けれど、他に思考リソースを回す余力がない。ISLAはもう、最悪の場合は愚民共を皆殺し上等と、腹を固めている」

「は?」

 マイヨと皆殺し。DYRAはあまりにも落差が大きい、想像もできない組み合わせに、引き攣った声を上げ、目を丸くする。

「ISLAは優先順位を明確にしただけだ。何より電源タワーを守り切ることが優先される、と」

「タヌ以外への情けは無用とお前は以前言ったな。まさに、というか」

「いや。ここから先は私たち三人が『生きるため』の戦いになる」

 RAAZの言葉の裏に含むもの(・・・・)を感じ取ったDYRAは、苦々しい表情を浮かべて、一瞬だけ俯いた。

 そのときだった。

 RAAZが持ってきたタブレット端末のうち一台の外周が光った。

「何だ?」

 DYRAは光った端末を不思議そうに見つめる。

「ISLAの部屋から持ってきたものだ。電源タワー周辺の様子を見られるようにしてある。それにしても、着信とはどういうことだ?」

「チャクシン? 何だそれは」

「呼び出し、みたいなものだ」

「どうやって?」

「衛星通信しかない」

 言いながら、RAAZは画面を見る。画面の上部に文字が流れている。


  RECEIVED  Segnale di soccorso internazionale…


「国際救難信号だと?」

「コクサイ……何だそれは?」

「私たちの文明下で、如何なる例外も許されない、絶対に受信拒否ができない呼び出しだ。要するに、『近くにいるヤツ誰でもいいから助けてくれ』って叫ぶときだけに使う決まりがある合図だ」

「誰かが助けを求めているのか?」

 DYRAもタブレット画面をRAAZと一緒に見る。

「これは……!」

 そこに映し出されていたのは、ぱっと見では人数を数えられない群衆だった。浜辺あたりで、夜なのでハッキリとはしないものの、背景に、西の果てにある塔が見える。

「あの塔に、人が集まっているぞ? それも、何だか騒いでいるみたいだ」

「RAAZ、見ろっ」

 画面の隅、集まっている人々の中に隠れて様子を見ている二人の男女を指さす。見覚えがある人影だった。

「他人のフリして見て……」

 RAAZの言葉をDYRAが遮った。

「この子どもと女。こんなところに」

 DYRAが不快感を露わにした。

「どうした? 何かされたのか?」

「されたも何も。アニェッリでこの女、このガキとグルになった偽物に襲われていたんだ」

「それで?」

 RAAZが一転、楽しそうな笑みを浮かべて続きを促す。

「この子ども、私とこの女をトロッコに乗せるだけ乗せてさっさと逃げた。私たちはそのままトロッコで移動。ピルロに着いたらこの女はハーランにそれなり程度(・・・・・・)に扱われて姿を消した。で、私はハーランと一戦を交えて気がついたらトレゼゲ島だ。おまけに……」

「ははは。ここで、ようやくウラが取れるとはな」

 RAAZは苦笑してから天井を仰ぎ見ると、首を何度か小さく横に振ってから溜め息を吐いた。

「私を信じていなかった?」

「違う違う。一癖ある女の正体がこれかとわかって、滑稽だった。それだけだ」

「滑稽?」

「考えてもみろ?」

 DYRAの肩に手を回し、自分の方へ引き寄せながらRAAZは言葉を続ける。

「ハーランもフィリッポもいない。何なら小娘の片割れもだ」

「そういえば……」

「なのに、彼女は群衆の中にいる。どうしてだ? それなりに(・・・・・)役目があるとしても、少なくとも主役じゃないのは明らかってことだ。そう考えたら、滑稽じゃないか。あはははは」

 DYRAは、何がおかしくてRAAZが笑っているのか理解できない。

「上昇志向というか権力志向が一番強いヤツがいる場所か? あ?」

 そういうことか。DYRAは何となくわかってくると、心底から憐れむような表情で画面を見る。

「利用されるだけ利用されて、結局、居場所はなし、か」

 RAAZは一転、DYRAへ厳しい視線を向ける。

「キミはもしかして、自分と同類、とでも思ったのか?」

「少し前なら、思ったかもな。今はそうじゃない」

「何を思って、なら、言った?」

「……どうして、この女はハーランなんかに利用されたんだ? って」

「何?」

「上手く言えない。……確かに私も、お前と一緒にいて、散々振り回されて、利用された。今だって、納得したわけじゃない。それでも、今ならわかる」

 RAAZが視線で続きを促す。

「たとえ『兵器』でしかなかったとしても、それでも、お前は私を信じてくれていた」

「存在そのものに意義がある最高の『兵器』だからこそ、だ。手入れも怠らないし、丁寧に扱う。当然のことだ。自分自身を守るものをぞんざいに扱えば、すべて自分自身に返ってくる」

 そう言ってから、RAAZはタブレット端末をサイドテーブルに置いた。

「キミは、私が守る」

「お前、何を言っている? 私はお前の『兵器』なのだろ? なら、私が守る」

 DYRAの言葉を聞いたRAAZは困ったと言いたげな笑みをもらす。

「キミはやっぱりわかってない。『兵器』を『心の支え』と読み替えてくれると、少し理解してもらえると思いたいが?」

「お前がどうかは知らないが、私は最初からそのつもりで言った」

「そうなのか?」

「意外か?」

 DYRAの問いに、RAAZは彼女の肩を掴む手に力を込めた。


329:【TRI-PLETTE】光の塔の足下で、彼らは各々、「そのとき」に向け──2025/09/29 20:00


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 ここにきて急激に涼しくなり始めております。皆様如何お過ごしでしょうか。

 作者姫月はようやく、色んな準備に入って奔走しております。


 今回は、「ラスト突入宣言回」です。

 多分、冬コミ登場予定のFINALEでは大幅に変わる予感しかしていませんが……(汗)


 即売会参加まわりについてです。

 姫月のサークル「11PK」は、次回は11月23日(日)、東京ビッグサイト南館で開催の「文学フリマ東京41」に出店予定です! 出店ブース確定次第、ご報告いたします。

 Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」は文庫本で頒布(校正校閲しています。プラス! Web未収録シーンがあります!)。

 さらに、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持っていきますよ!


 改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます!

 今回初めて読んだという方、是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします!


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