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DYRA ~村を焼かれて帰る場所をなくした少年が、「死神」と呼ばれた美女と両親捜しの旅を始めた話~  作者: 姫月彩良ブリュンヒルデ
XVII 悪意の手を逃れたどり着いた先

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328:【TRI-PLETTE】RAAZが抱いた些細な疑問から、タヌにまつわる真相が見えてきて

前回までの「DYRA」----------

 ディミトリやロゼッタと共に山で夜を越すタヌのもとに、マイヨが子犬を連れて現れた。子犬はタヌに預けられたが、何かがある様子。一方、タヌはマイヨがロゼッタを掛け値なしで気遣う様子に、嫌な予感を抱く。


 タヌたちと別れた後、マイヨは難しい顔で預かった手紙の封筒裏を見る。ふと顔を上げると、彼らから距離を取って行動するキリアンの姿が目に入った。マイヨはそっと近づき、彼の視界に入る位置に立ったところで声を掛けた。

「タヌ君から離れて、どうしたのかと思えば」

 気づいたキリアンが反射的に自身の指を口元にやって静粛を求める。マイヨは彼の表情を少しの間じっと見つめると、笑顔で頷いた。

「アンタは、覚悟が決まった目をしているな?」

「あの髭ヤローやピッポさんたち。昼間のコトでわかった。アイツらどんな罠を仕掛けてくるか。だったら、一人は離れたところにおった方がいい」

「聞いていいかい」

「ええよ」

「さっきタヌ君たちから話を聞いたとき、アンタはタヌ君がこの山へ走った少し後で走り出したって」

「ああ。んでもって、ピッポさんに追われた」

 キリアンは言いながら、上着の襟のあたりを軽く胸の方へと引っ張った。斬りつけられた跡が見えた。夜になったせいもあり、ちゃんと見ることはできないが、それでも傷が見える。

「なるほどね。その傷があるから、合流できないってことか」

「そういうこっちゃ。変な気遣わせたくないしな。それでも、目と耳と、罠を見張る役はできるってこった」

 その言葉に、マイヨは小さく頷いた。キリアンは続ける。

「なぁ、兄さん。オレ、タヌ君が不憫で見てられん。ピッポさんはともかく、タヌ君は子どもや。そんな子どもが、何か悪いことしたか? まるでこの世にいるだけで悪、みたいな……」

 キリアンが納得できないと言いたげに告げる。だが、マイヨは間髪入れずに言葉を被せる。

「それ以上、俺やRAAZへ口にするな」

「えっ?」

「もし、それを聞いてしまったら」

 マイヨは一呼吸置いて告げる。

「俺はアンタを今すぐ殺さなきゃならない」

「なっ……!」

「今、アンタが言おうとした言葉を言っていいのはDYRAだけだ。他は、タヌ君本人だろうとも、ディミトリやあの密偵さんだろうと、誰であろうと、絶対にダメだ。もちろん、ハーランなんて論外。……いいな?」

 マイヨは、冷酷に事務的に告げた。

「オネエチャンだけ……」

「そうだ。俺がそれを聞いてしまえば、記録される(・・・・・)

「きろ……く? 誰か、メモでも取っているってことか?」

「そういうこと。もう一度だけ言う。言っていいのはDYRAだけ。他の誰にも絶対に言うな。最低でも、西の果ての塔に電源が入るまでは」

「そう、あの西の果ての塔。兄さん。あれは一体、何なんだ?」

 キリアンが問うた。マイヨは少し考える仕草をしてから答える。

「この期に及んで隠すのは無意味か。俺がわかる、話せる範囲で」

 マイヨは言葉を探すように、ゆっくりと説明する。

「俺たちの文明での正式名称は、トゥール・デ・ラ・ルーチェ。言いにくいし、トゥール・ルーチェで。あれは電源タワーなんだ。もう少し正確に言うなら、充電した電源の蓄電や、給電を目的とした施設だ」

「何ルーチェ? んで、チク……なんだそれ?」

「わかりやすく言えば、陽の光を集めて電気に変えるんだ」

「よーわからんが、昼間の明るい空が全部?」

「そういうイメージでいいよ。三〇〇〇年以上、よく壊れず、無事にいてくれたもんだ」

 マイヨはキリアンが何かを言おうとする前に続ける。

「アンタにも頼みたい」

「何や?」

「タヌ君はあの塔へ入ることになる。さっきディミトリたちにも言ったけど、タヌ君以外が塔の中に入ろうとしたときは止めてくれ。逆に、タヌ君が塔から脱出するときは助けてやってほしい」

「わかった。できる限りのことはやる。約束する」

「タヌ君はきっと、お父さんのことだって助けたいに決まっている」

「待った! そのお父さんのことや!」

 キリアンが質問をぶつける。

「俺が知っているピッポさんじゃない、あの、頭良さそうな話し方をする方がホンモノってことでいいのか?」

「それはわからないね。でも、アンタが一緒にいたのは実は違った、って可能性が高くなっているてことだけは言える」

 そう言ってから、マイヨは先ほどタヌから預かった、手紙が入った封筒をキリアンへ手渡した。

「さっきの話とも繋がるんだけど、DYRAにこれを渡してくれ。タヌ君を守るためにも。もう一度だけ言う。彼女以外には絶対に話さない。いいね?」

「間違いなく、預かった」

 キリアンの前に、マイヨの姿はもうなかった。




「戻った、か」

 帰投したマイヨを留守番役をしながら調べものをしていたRAAZが出迎えた。

「ああ、戻った。アンタはやることはやったのか?」

「いくつか気になることの答え合わせは、させてもらった」

「何を、答え合わせしていた?」

「色々だ。あの日(・・・)、どうやって妻の部屋へ入ったのか。あの日(・・・)、どうやってお前だけは免れたのか。それとは別で、ハーランが二〇年以上、どうやって私の目を盗み切れていたのか。集めた愚民をどこに隠し、、どう使うのか。電源タワーの前に人だかりを作る気なら、目障りだろうが」

「ハーランが、の方から。これはあくまで俺の勝手な想像半分だ。俺がヤツなら、人間の盾にしてある程度選別。超伝送量子ネットワークシステム起動して掌握後、大公サンかルカレッリを傀儡にして、残ったヤツの中でタヌ君のお父さんみたいな優秀な人材を教育して、残りは働きバチ」

「『陛下』の教育での働きバチか。私たちの時代より、厳しそうだ」

 RAAZは肩をすくめる。

「ドクター・ミレディア、そう、アンタのカミサンが心底から恐れていた世界が時を超えて実現だ」

「反吐が出る」

「もう一つ。俺があの日(・・・)、どうやって免れたのかは、それこそ電源を入れれば答えはわかる。答え合わせはそれだけじゃないんだろう?」

「ああ。ガキの親父だ。DYRAがトレゼゲで会ったフィリッポが本物なのはほぼ確定として、なら、もう一人の、さんざん振り回してくれたパチモノ(・・・・)の正体は? って話だ」

 RAAZの問いに、マイヨはうんうん、と頷く。

「全員、まんまと騙されたワケだろ。これ、それこそ『タヌ君のお母さんも』ってことだ」

「お前が言ったその言葉で私もたった今、気づいたことがある。あの女はお前の生体端末にのめり込んだわけだが、その原因だ。ひょっとして、『自分の旦那じゃない』と気づいたから動いたんじゃないのか?」

「確かに、隣にいるのはダンナじゃなくて、なりすましの別人(・・・・・・・・)って気づいちゃったら、精神的に一気に限界が来る、か」

「それなら、オトコに走るどころか、『故郷まで焼いてしまえ』も俄然、納得できる帰結になる」

 マイヨの言葉を聞いて、RAAZはさらに頭を整理するように疑問を口にする。

「なぁISLA。ハーランはフィリッポをモラタからトレゼゲ島に移し、隠した。そして、私とDYRAで追い詰めたときも、『ヘタを打ったが使えるヤツだし仕方がないから助けた』なんて風じゃなかったぞ?」

 RAAZの言葉に、マイヨは視線で続きを促す。

「ここの文明の愚民にそこまでヤツがコミットする理由は何だ? ファンタズマにとって大抵の人間は、利用し甲斐がある家畜か鉄砲玉、どちらかだ。だが、ハーランのフィリッポへの扱いはどちらでもなかった」

「ハーランがそれなり以上に敬意を払う相手は、ドクターと、飼い主のニムローテだけのはずだ。それでも、傍系連中はアイツを相当辛辣に扱っていたはず。当然、ハーランもそんな連中を一族の利権に群がるハイエナ程度にしか見ちゃいなかった」

 RAAZの顔色が変わった。

「ニムローテ!? 血の繋がった親族以外を家畜扱いする、あの外道一族か?」

 RAAZやマイヨたちが属した本来の文明世界で、いわば、裏から世界を支配した一族だ。彼らの文明から見ても大昔、一族は迫害され、辛酸を舐め続けた歴史を持つ。そんな世界へ復讐を誓い、それをまさに成し遂げるところまでたどり着いた存在だ。

「だが、そんなものは大昔の話だぞ? エリゼルやイズバクは私が直接手を下した。ミレディアが作った市民向けの社会生活をサポートするAIシステムを悪用し、凄まじい監視国家を築いて世界を支配したクソ共は、彼女にあろうことか不老不死のエリクサーを作れとまで要求していた!」

「で、そのエリクサー、もといRAC10プログラムが入ったナノマシンシステム一式はアンタや俺のカラダに、か」

「そして最後の一基。あれは私たちを『孤独にはしない』と彼女が自身のために作ったものだ」

「それがDYRAの分、か」

 RAAZは頷くと、ハッとする。

「まさかとは思うが……ハーランがフィリッポを大事にしたのは……」

 次の瞬間、親の敵でも見たような表情に豹変する。マイヨはその顔を見ると、やれやれと言いたげに顔で切り返す。

「ちょっと待った。フィリッポとハーランの件。情報を整理しよう」

 マイヨはタブレット端末にメモ書きのように書き出した。

「まず事実。ハーランはフィリッポを大事にしている。アイツはニムローテ。当時の先代当主ナフタリエの六番目の愛人の子だ。当時の当主イズバクは距離を取っていたが、次期当主のエリゼルはハーランを大事にしていた。ファンタズマの活動費の一部も自腹で出していたほどだ」

 RAAZが思い出したように語る。

「確か、ミレディア襲撃騒ぎで私が撃退したとき、エリゼルが憲兵経由で軍警に手を回して脱獄させたと噂が流れたことはあったくらいだからな」

「へえ。それで話を戻すけど」

 マイヨがスムーズに話を戻す。

「ハーランがフィリッポをトレゼゲ島に隠した。フィリッポはトレゼゲ島で必要な人材を育成した。その中に、ルカレッリとマッシリミアーノがいた」

「その通りだ」

「そして、アンタとDYRAから助けた。……ここまでが客観的に把握可能な事実だ」

「そう、だな」

「今は、それ以上を考えるためのリソースを割く必要もない。RAAZ。俺たちは、俺たちのやることをやるだけだ」

 マイヨは話題を打ち切ろうとした。


328:【TRI-PLETTE】RAAZが抱いた些細な疑問から、タヌにまつわる真相が見えてきて2025/09/23 20:02


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 ここにきて急激に涼しくなり始めております。皆様如何お過ごしでしょうか。

 作者姫月はようやく、色んな準備に入って奔走しております。


 今回のDYRAは、1巻の何気なく出てきたタヌの両親がいなくなった経緯が一気にクローズアップ。

 ハーランとフィリッポの繋がりは思わぬ方向へ行き、ラストをも揺るがせそうです。


 即売会参加まわりについてです。

 姫月のサークル「11PK」は、次回は11月23日(日)、東京ビッグサイト南館で開催の「文学フリマ東京41」に出店予定です! 出店ブース確定次第、ご報告いたします。


 ちなみに、Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」文庫本で頒布しています(Web未収録シーンがあります!)。

 さらに、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持ってきております! 今回のエピソード328は特に、SOLO読んでいる人には激震内容ですよね!


 改めまして、ここまで読んで下さってありがとうございます!

 今回初めて読んだという方、是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします!


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