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326:【TRI-PLETTE】副会長から託された手掛かりの価値を、タヌはまだ知らない

前回までの「DYRA」----------

 妻ミレディアの死にまつわる手掛かりを見せられ、驚くRAAZを前に、マイヨは決して自身の口からは何も明かさない。それでも、死んだ彼女が遺したものを絶対にハーランを渡すまいと、二人は誓う。同じ頃、モラタから西、岩場海岸へ脱出したハーランとフィリッポもまた、明るい未来のためにと勝利を誓い合う。

 空の色がアメジストのようになり、気がついたときには菫青(きんせい)色に、そして瑠璃色へ変わっていた。

「山だしな。下手に進まない方がいい」

 ディミトリが星空と周辺とに視線を往き来させてそう呟いた。夜の山道は危険だ。

「俺とタヌはアオオオカミ除けの護符がある」

「私も持っている」

「何だ。全員あるのか。じゃ、アオオオカミだけは心配ないってことか」

 マロッタでアオオオカミに遭遇、脱出する騒ぎがあったとき、タヌはRAAZやマイヨの言葉で人を喰う恐ろしい生き物の意外な正体を少しではあるものの聞いている。

「火は焚こう」

 ロゼッタが言った。

「だな。アオオオカミが来ないからって、機嫌が悪いクマとかがいねぇって保証もないしな」

 ディミトリが火打ち石に似たもの(ファイアスターター)をジャケットのポケットから出すと、ロゼッタが集めてきた枯れ木の枝の何本かに火を点けた。さらに、タヌが持っていた小ぶりなランタンにも火を灯す。

 焚き火を囲み、三人は腰を下ろした。

「情けねぇ話だけどさ」

 ディミトリが切り出した。

「どうして、イスラ様は殺されなくちゃならなかったんだ? あと、タヌ。お前、イスラ様と話していたとき、何か役に立ちそうなこと、聞いていないか?」

「ボクに、父さんを捜すうちに、副会長さんが知らないことにまでたどり着いていたことを、『感服するしかない』って」

「タヌさんは、何を知ったんですか?」

 ロゼッタだった。

「DYRAがトレゼゲ島で見つけたことをボクは聞いた形です。その、父さんは、ハーランさんと一緒に行動をしていたって。それで、さっきの逃げ出す騒ぎのときにボク自身も自分の目で見てわかったのは、『父さんは二人いた』って」

「父さんが二人?」

 ディミトリが何だそりゃと言いたげにタヌを見る。

「はい。DYRAと捜していたときに会った父さんは、DYRAへたくさんひどいことを言って、ボクのことを『知らない』って。でも、そのトレゼゲ島でDYRAが会った父さんは、ちゃんと落ち着いて話ができたって」

 タヌは話したことを思い返し、それを言葉にまとめるためか、ぽつりぽつりと話す。

「副会長さんが言うには、ハーランさんとの連絡役を父さんがやっていたって。その、代弁者って」

「オッサンの言葉をお前の親父がイスラ様に、か」

「はい。その、父さんのことを信用しているようだったって。ハーランさんはいつも何かを警戒しているようで、その、二〇年以上経っても、表には出ない人だった、とも」

「でも、どうしてそこまでタヌさんのお父さんは信用されて?」

「口が堅い、ってだけでそこまではなぁ」

 ロゼッタとディミトリがそれぞれ疑問を口にした。

「そこはボクもわかりません」

 言いながら、タヌは手紙の束を鞄から取り出した。

「副会長さんが父さんとやりとりした手紙をくれました」

「手掛かりになりそうな情報があればいいが」

 ロゼッタがタヌの右隣、ディミトリが左隣に移動し、三人で手紙の束を解いて、読み始める。

「これ、日付が古いな。出会ってそんな経ってないんじゃないか?」

 ディミトリが何通目かを読み、タヌとロゼッタにある一文を示す。

「何て……『自分自身のルーツというのがあるなんて初めて知った』?」

 三人で並んで問題の手紙を読み進める。


>>手掛かりがないか、ピルロの学術資料の資料庫で探した。はるか大昔の人の家系図だった。人生で初めて見たものに興奮した。一番最後に自分の曾祖父の名前が書いてあったんだよ? こんなものがあるなんて、想像もしていなかった。


 ロゼッタは手紙の束の中から、くだんの手紙と日付が近いものを探す。

「恐らく、手紙の日付的に、これが、その次じゃないのか?」

 恐らく手紙に何らかの返信をした後、さらに送られてきたであろう手紙を見つけると、ロゼッタはそれをタヌにも見えるよう、広げた。

「何て書いてあるんですか?」

「『ご先祖様の親戚と一緒にいるなんて、奇妙な感じだ。でも、この先は胸にしまっておく。あの方からも、これ以後はあの化け物から隠し通すためにもフルネームを絶対に名乗るなと言われた。あと、家系図も(ピルロには悪いが)失敬して、あの方に預けた』とある」

「オッサンとタヌの親父がご先祖様の親戚? 何だそりゃ?」

 ディミトリが言いながら、もう一度、自分が手にしていた手紙を読み返す。

「家系図? ご先祖様の親戚? あの、どういうことですか?」

「要するに、ひいじいちゃんのそのまたじいちゃんのじいちゃんの……ってずっと遡っていったら、オッサンとお前の親父が繋がったって。まぁ、叔父さんとかかもだけどな?」

「じゃ、ボクのひいおじいちゃんのそのまたひいおじいちゃんの……を繰り返したらハーランさんが、ってことですか?」

(おお)ってのがいくつつくかはわからない叔父さん、ってことも有り得るけどな?」

「ボクや父さんが、ハーランさんと血が繋がっている?」

 タヌはピンと来なかった。

「ただ、この話が事実だとするなら……」

 ロゼッタは厳しい表情でタヌを見る。

「会長にとって敵とも言える人物とタヌさんは」

「ってことだよな? オッサンも会長も、互いが互いをこう、ブッ潰すって感じの関係だし」

「会長の大切なDYRA様は、知らなかったとは言え……」

「タヌ。お前これ、ホントにまずいぞ?」

「え?」

「ラ・モルテ、いや、あのDYRAって女は会長のお気に入りだ。で、その彼女がよりによってオッサンの親戚を助けちまったってことだからな?」

 タヌは手紙が意味すること(・・)がとんでもない内容なのではないかとようやく理解し始めた。

「いいか? お前これ、絶対に会長にもあの彼女にも、そう、マイヨにもバレないようにしないと。アンタも絶対に会長とかに言うなよ?」

 ディミトリの言葉にロゼッタが頷いたのをタヌは見た。彼女はRAAZの密偵をクビになっているので、報告義務はない。確かに、これを報告されてしまったら話がややこしくなるし、どうしていいかわからない。ロゼッタが置かれている今の立場に、タヌは救われた気がした。


 この会話が聞かれていることを、三人は知る由もなかった。


326:【TRI-PLETTE】副会長から託された手掛かりの価値を、タヌはまだ知らない2025/09/08 20:00


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 この数年の残暑は、昭和の夏くらいの暑さらしいです。皆様如何お過ごしでしょうか。

 作者姫月はようやく、新しい仕事場が決まってホッとしておりますが、一般事務で来たはずが、地獄の前職を再現、それも予算ゼロベースでやれ、と言われて「ガーン」です。


 今回のDYRAは、「どうしてハーランはタヌに優しいのか」の重大なヒントが出てきました。単行本「DYRA SOLO」を読んだ方には悲鳴と阿鼻叫喚かも知れません。


 即売会参加まわりについてです。

 姫月のサークル「11PK」は、9月21日(日)、東京都八王子市にて開催の「第11回TAMAコミ」にサークル参加します!

「ビッグサイトのイベントは規模が大きすぎてちょっと……」

 という方や、

「コミケは二次創作見て回って終わっちゃうんだよね」

 という方。

 TAMAコミは450サークル程度参加の小回りが利くサイズのイベントですので、是非遊びにいらして下さい!

 ちなみに、Webで連載中のゴシックSF小説「DYRA」文庫本で頒布しています(Web未収録シーンがあります!)。

 さらに、物語の核心に迫る前日譚にして、反響大きい「DYRA SOLO」(Web公開ナシ)も持ってきております!


 9月21日 第11回TAMAコミ

 11:00-16:00 東京たま未来メッセ(JR八王子駅徒歩5分/京王八王子駅徒歩1分!)

 【オ21-22】 ←広々2スペです! 立ち読みも安心。


 ここまで読んで下さってありがとうございます!

 今回初めて読んだという方、是非ブックマークなどで応援よろしくお願いします!


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