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319:【?????】タヌは積み重なった情報から、また一つ、見落としに気づく

前回までの「DYRA」----------

 ハーランの懐に入るにはどうしたら良いのか。タヌは悩むが、キリアンは一度落ち着いて考えようと提案。アニェッリの港にある休憩できる建物へ行くと、タヌはチーロと再会。そこで、『文明の遺産』の恐ろしさの一端も垣間見る。


 夜の船上で、タヌとキリアンは夜風に当たった。

「チーロさん! ありがとうなぁ!」

 タヌとキリアンは、チーロの助けでヨットで移動していた。いつぞ、西の果てへ行く際、DYRAと共にタヌが利用したものだ。サルヴァトーレに特注で作らせた遭難船捜索などを目的に使うもので、通常帆船よりずっと速度が出る。

「いえ。これを使えば目的地まですぐ、とは言いませんが、馬や歩きでの移動を気にして警戒している相手なら、誤魔化すことができます。それに、最近はあの西の果ての塔が現れて以来、ちょくちょく見回りも兼ねて夜、出ていますから怪しまれませんし」

 ヨットは帆船よりずっと速く、海を駆ける。

「そろそろ、例の西の果ての塔があるあたりです」

 チーロの言葉で、タヌとキリアンは海を見回す。

「あのあたりか。夜やから、あんまよく見えないけど」

「でも、微かに光っているみたいな」

 タヌが言いながら見上げる。

「確かに、塔そのものがピカピカ輝いている」

「どうしてあんなに光っているんだろう」

 塔の外壁そのものが給電用量子ドットパネルであることなど、タヌはもちろん、この文明の人々は誰一人知る由もない。

「とにかく急ぎましょう。ここをさらに北へ行けば、朝になる前には北に隠れていた海岸に着きます。そこからの歩きはキツイかも知れませんが、アオオオカミは出ないと聞いていますし、道自体は一本道でモラタまで行かれます。お二人とも、今のうちに休んでおいて下さい」

 チーロの厚意もあり、タヌとキリアンはヨットの中で仮眠を取った。


 夜明け前。

「それじゃ。お気をつけて。タヌさん」

「本当に、ありがとうございました!」

「ありがとなぁ!」

 タヌとキリアンは、西の果てと言われる海の真ん中に出現した巨大な塔がある場所から北東に進んだ岩石海岸とでも言うべき磯海岸でヨットを下り、チーロと別れた。

 二人はしばらく待ち、空が僅かに白んできたところで歩き始めた。

「キリアンさん。このへんって、あのトロッコの道とかはないんですか?」

「このあたりかぁ。そう言えば、ないなぁ」

 答えを聞いたタヌは、「そっか」とだけ呟くと、見える範囲は限られているものの、通り道になっている場所をみじっと見た。

 空が明るくなるにつれ、少しずつ道がハッキリと見えてきた。


 ずっと先の方は土砂が積もって何がなんだかわからなくなっているが、さらに歩いて行くうち、土砂まみれになったあたりより手前に小さな町が見える。いつしか、天にダイヤモンドのような輝きこそ見えないが、空はすっかり明るくなっていた。

「キリアンさん!」

 ずっと先にあるその町は小さくしか見えないが、タヌは見覚えがあった。

「あ! あそこ」

「おー! もっと時間掛かって昼くらいになるかと思ったけど、思ったより早く着いたな」

「マロッタみたいになっていなくて本当に良かった」

「ホントそれや。モラタは小さい。あんなん巻き込まれたらもう、町ごと一瞬でぺっちゃんこや」

 モラタに被害が及んでいなくて良かった。タヌは安堵の息を漏らした。

「けど……」

 キリアンが難しい顔で町の方を見つめる。

「フツーに考えたらマロッタの中心部はあんな被害が出た。オレらはあの会長サンのおかげで助かったとは言え」

「そう、ですよね」

「どうしてモラタの方へは被害がないんや」

 言われて初めてタヌもそうだと思う。あんなすごい崩れ方をしたなら、モラタにも多少の被害があってもいいはずなのに、と。

「ってか、山って、あの街を襲うが隣は避けるとか、そんな都合良く崩れるモンなのか……?」

 キリアンは誰に聞くとでもなく、率直な疑問を口にした。タヌはそれには答えられなかった。もしかして、RAAZやハーランの世界ではそんな恐ろしいことができるのだろうか。そんなことを想像もしたが、確証がなかった。




 ようやくモラタに着くと、タヌはざっと村を見回した。手前にはいかにも間に合わせで作った感じがする簡素な小屋が一つ。前回、店長と来たときにはなかった。村の中には、まばらだが人の姿も見える。外に洗濯物を干している家もある。そして何より、北側の山も崩れる心配はなさそうだ。キリアンは警戒するようにあちこちを丁寧に見ていた。

「この村、無事でよかった」

「タヌ君。『無事でよかった』はその通りだけど、コトはそう単純じゃない。ここは無事でも、物資はマロッタから回っていたものが多かったはず。だから、備蓄がなくなる前に何とかせんと、結構きっつくなるんじゃないか」

 キリアンが説明したときだった。

「わかってんじゃねーか」

 村の中から黒い外套に身を包んだ一人の男が近づいてきて答えた。タヌは声を聞いた途端、それが誰かすぐにわかった。

「ディミトリさん!」

「錬金協会のおにーさんか。無事で何より。ここは被害ないようやけど」

「直接どうこうはなかったけどよ。土埃がすごくて、昨日は一日中、埃まみれになったところを掃除したり、井戸が無事か確かめたりして、夜までてんてこ舞いだったさ」

「言われてみれば」

 キリアンはディミトリの話に、砂埃や土埃が舞っていないことに気づく。

「救いだったのは、海側からの風が吹いたことだ。だいぶスッキリしたさ。洗濯したもんも干せるくらいにはなったし」

「マロッタは、どうなっとるんや?」

「いや、それ、俺が聞きたいんだけど? お前ら、マロッタにいたんだろ?」

 ディミトリが言いながらタヌを見る。

「マロッタは……」

 タヌはどう答えていいのかわからなかった。

「話せば長い。ここで手短に言うなら、オレらが助かったのは奇跡みたいなもんや。会長サンや三つ編み兄さんの助けを借りて、昨日の夜明け前にはマロッタを脱出したんや」

「じゃ、山が崩れたのは一昨日の夜だったから、翌日にはもう」

「そういうこった」

わかってて(・・・・・)逃げたのか?」

「えっ?」

 ディミトリの質問が意味することをタヌは理解できない。

「お前と一緒にいた、あのラ・モルテが山をやったって」

「それな。オレらもおんなじことを聞いたわ。三つ編み兄さんがタネ明かししてくれてな。『違う』って」

 このやりとりを聞いて、タヌは青い花びらが舞い落ちた件で、DYRAが山崩れを起こしたのではと騒ぎになった件の話だったのかと把握した。ただ、キリアンが答えているところだったのと、自分が何かを言って、DYRAへの印象が悪くなるような誤解を避けたいからと、敢えて何も答えない。

「昨日、西の端の方へ行くのが精一杯だったけど、マロッタの様子を見に行ったんだ。ちょうど、あのあたりに住んでる無事だった連中が集まっててさ」

 タヌはディミトリの言葉に耳を傾ける。

「『ラ・モルテを絶対に許さない。絶対に殺す』と、すげぇ団結していた。それとは別で、ネト村とかあのあたりで集まった連中を見た仲間からも話を聞いた。この南の林道を使っている連中だ。そいつらに聞いても同じだった」

 人々の憎悪がいつの間にかDYRAへ集約されている。そのことがタヌにはショックだった。ただ、今はそれを言葉に出してはいけない。

 キリアンが渋い顔をしたときだった。

「ま、お前だったらいいよ」

 ディミトリがタヌを見ながら切り出す。

「連れのあの女もいないみたいだし。それに、こんなところで話すのも何だからな。中で話そう」

 ディミトリはタヌとキリアンについて来るよう仕草で伝えると、村の中を歩き出す。タヌが追うようについていく。キリアンは周囲を警戒するように見回しながら、最後に歩き出した。

 三人は、すぐ近くにある小屋へと入った。


「ここは見張り小屋代わりに使っていた場所だ。大きい声さえ出さなければ、人の目を気にすることはないし」

 小屋の中は、簡素な作りだが大きめのテーブルが一つと、それを囲むように背もたれがついた椅子が四脚あるだけだった。タヌとキリアンは手近な席に座った。

「んで。こないだは俺が用事があってアレだったけど、今日はどうして来たんだ?」

 ディミトリはタヌへ単刀直入に問うた。

「何日か前、ボクがここに店長さんと来たとき、副会長さんはボクにあることを言いました」

 タヌは、ほんの短い間、二人だけで話したときの話題を出した。

「あのときは、副会長さんの言葉の意味がわかりませんでした。でも、あの言葉は単なる伝言じゃなかったって」

「どういうことだ?」

「DYRAから別れ際に言われた言葉と、キリアンさんが移動中にくれた言葉がヒントになって、ようやくわかった感じがして」

「それで?」

 タヌは、ディミトリを真っ直ぐ見つめて、告げる。

「副会長さんから、今度こそ父さんのこと、本当のことを聞こうって」

「そういうことか」

 ディミトリは納得したような顔で返す。

「こないだ、二人だけで話したときだろ? 盗み聞きは趣味悪いから聞かないようにしていたけど、いつだかマロッタで、あのマイヨってのがいたから話せなかったからどうこうってトコだけは聞こえた」

「はい」

 タヌは、ディミトリから目をそらさない。

「それだけじゃないです。もう一つ、これは、ここにたどり着いたことで、ボクの方から聞きたいこともできました」

「そっか。じゃ、ちょっと確認取ってくる」

「ありがとうございます!」

「その代わり、一緒のその兄さんはゴメンよ。ある程度わかっていると思うけど、イスラ様は今の立場上、色々警戒しているんで」

 タヌは聞きながら、以前、店長と来たときに通されたあの通路を通るのだと理解した。

「……ん?」

 突然、キリアンが壁を見ながら怪訝な顔をした。その視線はみるみるうちに鋭いものへと変わっていく。

「誰か、来たんか?」

「ここに?」

「いや、村に。こっちじゃない」

 観察眼だけじゃない。耳もいいのか。タヌはキリアンの鋭さに改めて驚いた。少し経って、タヌにも聞こえてきたあたりでディミトリも何かに気づいたのか、ハッとする。

「何だ?」

 続いて、慌ただしい怒声も聞こえてくる。ディミトリが窓際へ行くと、閉じたカーテンの隙間から、ちらりと外を見た。

「や……っべぇ」

 ディミトリはすぐに、部屋の奥の床に敷いてある絨毯をずらして手を掛ける。すると、隠し階段が現れた。

「状況が変わったっぽい。二人とも入った入った」

 ディミトリにせかされる形で、タヌが先に、キリアンが続く。ディミトリが最後に入り、絨毯を戻しながら閉じ、内側から鍵を掛けた。

「静かに、こっちだ」

 隠し階段を下りると、ディミトリを先頭に、三人は足音に気をつけつつ、早足で歩く。

「何があったん?」

「安全な場所に出てから話す」

 突き当たりでディミトリが止まる。ここも隠し扉になっていた。

「急げ」

 扉の向こうへ三人は消えた。

「ああもうメチャクチャだ。ったく、とんでもねぇことになりやがった」

 タヌとキリアンはディミトリのぼやきを聞き逃さなかった。


319:【?????】タヌは積み重なった情報から、また一つ、見落としに気づく



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 すっかり梅雨明けな三連休の東京です。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 このまま一気にラストまで走れるといいなぁと思って、頑張っております。

 最近になって読み始めたという方もいらっしゃるかも知れません。「いや、これ先気になるんだけど」とか思っていただけましたら、ブックマークなどで応援いただけると嬉しいです。


 また、無事に夏コミもサークル当選しましたので、併せてご報告いたします。


 8月17日(日) 南g26a 11PK


 新刊はゴシックSF小説「DYRA」15巻! もちろん、みけちくわさん描き下ろし表紙カバーも健在!

 コミケご参加される方、当サークルにも是非足を運んでいただければ幸いです。


 引き続き応援、よろしくお願いいたします!

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