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318:【?????】タヌ、キリアンは思わぬ助けを得ながら、次の行き先を決める

前回までの「DYRA」----------

 DYRAとRAAZがタヌを送り出した頃、マイヨはフランチェスコへ。アントネッラが拉致されたことを知る。それでも、子犬だけは無事に回収。だが、野次馬を見ながら、マイヨは大枠で自身たちの敗北を悟る。


 DYRAと別れたタヌは、キリアンと共に夕方まで馬車で移動を続けた。

「なぁタヌ君」

「はい」

「ちょっと一休みしようか。馬も休ませたいしな」

 馬を休ませる。それは言われて見ればその通りだ。タヌは頷いた。

「それに一度止まらないといけない理由もう一つ。これからどこへ行って、何をするか。この筋道きっちりつけて置いた方がいい。オネエチャンおらんのや。慎重に考えて、考えすぎることはない」

「父さんを見つけるためには、もう、ハーランさんの懐に入るしかないと思うんです」

「大筋ではそうや。けど、順番を間違えたり、対応をしくじったときに逃げ道がない状態はまずいってこと。言ったよ? オネエチャンと一緒じゃないんだ。タヌ君はもう一度オネエチャンに会えると思っているだろうけど、その前に殺されたりしたら、元も子もない」

 念押しするように告げたキリアンにタヌはそうだったと言いたげな顔をする。

「そうですよね。正面から行くのはちょっと、ってことですよね」

「そういうこと」

 キリアンは馬車をアニェッリの港近くで止める。タヌは馬車から下りた。

「あそこ。見えるか? 建物」

「どこですか?」

「あの、背の低い建物。あそこが港で働く人たちの休憩所や。前に一度使った。あそこなら水とかあるし、そこで待っとって。俺は馬貸し屋に行って、馬休ませてくれって頼んでくる」

 馬貸し屋は貸すだけではない。カネと条件次第では、休憩場所も提供してくれるサービスだ。もちろん、馬の回復次第では預けつつ、代替の馬を借りることもできる。キリアンはタヌを残して移動した。

 タヌはキリアンに言われた背の低い建物へ向かうと、扉を叩いた。

「──はい」

 扉の向こうから声が聞こえた。

「あの、少し休ませてもらいたいんです」

「──え?」

 声が聞こえると、程なくして扉が開いた。

「あれっ!」

「あっ!」

 タヌは、扉の向こうにいた人物の顔を見て驚いた。

「あのときのっ!」

「えっ、チーロさん!?」

 DYRAとタヌが出会ったばかりの頃、ペッレでアオオオカミに襲われているところを助けた人物だ。何日か前、ピッポを追っていたときにこの港を通った際も協力してもらい、西の果てまで船を出してくれた。

「やぁ! どうしたんだい。ささ、入っていいよ」

 チーロはにこやかにタヌを迎えると、中へ招いた。タヌはぺこりとお辞儀をしてから中へと入った。中には、チーロの他、年老いた港の職員が二人

奥でくつろいでいる。彼らもタヌへ笑顔を見せ、軽く会釈した。

「あれ? 一人かい? 一緒にいた……」

 一人で入ったタヌを見ながら、チーロがDYRAのことを聞いた。

「あ、実は」

 タヌは言葉を探しながら、話す。

「今、父さんを捜す件で、その、手分けしなきゃならなくなって」

「そうだったのか。それで一人だったのか。ビックリしちゃったよ」

「驚かせてごめんなさい」

「いや、それは大丈夫なんだけど、これからまた、どこかへ行くのかい?」

 チーロは水の入った瓶を渡しながら、タヌを心配そうに見る。

「あ、ありがとうございます。行くのはそうなんですけど」

「何でも、山が崩れたって噂が届いている。マロッタも大変だっ……」

 言い掛けたとき、扉が開いた。

「こんちわー」

 入ってきたのはキリアンだ。タヌもチーロも注目する。

「何か、ございましたか?」

 チーロがタヌから離れ、事務的な口調で話す。

「その子の連れや」

「え?」

 キリアンの言葉に、チーロは不審者とでも言いたげな声を出した。

「チーロさん」

 タヌはすぐに間に入る。

「本当です。DYRAと今、手分けしているから、何でも屋さんのキリアンさんに手伝ってもらっていたんです」

 タヌは、チーロが自分とキリアンを何度も交互に見る様子に怪訝な表情を浮かべる。

「え? チーロさん。ど、どうしたんですか?」

 チーロの視線がみるみるうちに厳しいものへと変わっていく様子に、タヌは何が起こったのかと戸惑う。いつの間にか、奥にいた二人も席を立って、タヌを守る態勢を取っているではないか。

「タヌさん、奥へ」

「えっ?」

 チーロがタヌを守るように自分の背後へやった。

「え、ちょ、待って下さいチーロさ……」

 タヌはキリアンをフォローしようとするが、できなかった。チーロが言葉を被せたからだ。

「タヌさん! こいつはついさっき手配が回ってきた男ですっ! さっきピルロの方から、港と道の駅へ届いたばかりなんだ!」

 チーロの言葉に呼応するように、年老いた男の一人がタヌへ紙を渡し、もう一人がキリアンを逃がすまいと扉の前に立った。

 タヌは渡された紙に目を通す。詳しくはわからないが、白黒で印刷されたキリアンの顔写真があり、賞金はアウレウス金貨一〇〇万枚と書いてある。手渡してくれた男が指差しながら説明する。

「何でも、二日だか三日前に、ピルロで女子どもをたくさん殺した極悪人だそうだ」

「何の話だっ!!??」

 キリアンが言い返すより早く、扉の前にいる老人がキリアンへ飛び掛かる。

「待って下さい! キリアンさんはそんなことしてませんよ!」

「それやったのは、あの髭ヤローだろうがっ!!」

 キリアンの言葉で、タヌは今何が起こっているのか理解すると、文面を読み返す。


この顔の男を見かけたら、アニェッリか、フランチェスコの錬金協会へ連絡すること!

生け捕りにしたら一〇〇万アウレウス貨の賞金!

 ・ピルロの山で女性や子どもを爆殺した

 ・レアリ村の少年を誘拐した可能性あり


「ちょっと! チーロさん! あのっ、ボク誘拐なんてされてませんよ!?」

 言うや否や、タヌはすぐに自分のそばにいる老人を振り切り、キリアンのそばへ駆け寄ると、チーロを真っ直ぐ見ながら、庇うような体勢を取った。

 老人たちはもちろん、チーロもタヌの必死な様子に少し怯む。

「ったく、何の話やホントに。オレとタヌ君はメレトから来たんや。その前までは、あのオネエチャンも一緒やった」

「それに、山が崩れて大騒ぎになったときは、ボクたちマロッタから命からがら逃げてきたところなんですってば!」

「えっ」

 三人がタヌに注目する。

「それやったのは、オレじゃない。髭ヤローだ。ピルロのあのアントネッラって嬢ちゃんに聞いてくれてもいい」

「アントネッラって、あの(・・)アントネッラ様か」

「そう、双子の!」

 チーロも老人たちも冷静さを取り戻すと、キリアンから離れた。

「あの、サルヴァトーレさんの作った石窯を使っているマロッタの食堂の店長さんも証言してくれます。今、漁村にチェルチにいるはずです」

 タヌは、チーロがサルヴァトーレに憧れにも似た畏敬の念を持っていることを思い出しながら、話す。

「えっ」

 老人たちとチーロは困惑気味の顔でタヌとキリアンを見た。

「若いの。早合点してすまんかったな。良かったら、何がどうなっておるのか、事情を聞かせてもらえないか?」

 キリアンのそばにいた老人がおそるおそるタヌへ問う。

「この数日、わからないことばっかり起こっておるからの」

 タヌのそばにいた老人も尋ねた。

「話せば長いけど……」

 話し始めるタヌを見て、チーロは人数分の水と軽食代わりの焼き菓子を用意しはじめた。




 タヌが、自分の目線で見てきたこれまでのことを話すと、チーロも老人たちも一様に驚いた顔でタヌを見る。

「今、ボクはキリアンさんがとんでもない濡れ衣を着せられたことで、『文明の遺産』はあるとすごいものだけど、間違った使い方をしたら、とんでもないことになるってわかりました」

 写真と、印刷技術の悪用が織りなす悪意の伝播(・・・・・)に、タヌやキリアンは戦慄した。

「この紙はどのくらい出回っているんですか? 知っている範囲でいいんで教えて下さい」

「港と、道の駅、それに、街の門まわりのあたりだね。街中にバラ撒くみたいな感じじゃなかった。何て言うのかな、移動の要所だけを押さえている、みたいな感じだった」

「街中で騒ぎを起こしたくないってことか。だから、馬貸し屋では何も言われなかったってことか」

 チーロの答えに、キリアンは合点がいった。

「ところで、君たちはこれからどこへ行こうとしたんだい?」

「それを相談しようと思って、静かに話せるところがあればって思ったら、キリアンさんからここらへんは? って」

「ああ、そういう経緯だったのか」

 チーロは二度、小さく頷いた。

「それなら、夜の見回りが来るあたりまでなら、しばらく使っていいよ。彼らたちはもう帰るところだし、少しの間、僕が外の様子、見ておく」

「ありがとうございます!」

「ありがとうなぁ! 恩に着る!」

 タヌは深々と、キリアンは会釈するように、それぞれ軽く頭を下げた。

「出ていくときは鍵も掛けなくていい。盗むものもないし、夜の見回りの人も使うから」

 チーロは話していると、帰り支度を済ませた老人たちが「それじゃ」と言って次々と出ていく。頃合いを見て、「じゃ」という短い挨拶と共にチーロも外へ出た。

 タヌとキリアンは二人だけになったところで、それまでとは一転、難しい顔をした。

「ハーランさんの懐にどうやって」

 タヌが先に切り出すと、キリアンは「あ」と小さな声を漏らした。

「ちょっと待った。あの髭ヤローの懐に入るっていうけど、知っておかなきゃいけないことをちゃんと知らずにノコノコ行くのは拙いんじゃないか?」

 キリアンの言葉に、タヌは少し表情を和らげ、怪訝そうな顔で彼を見る。

「宝探しでもよくあるやろ? 鍵を揃えないと、とか、罠を抜ける順番を正しくやらんと、とか」

「どういうことですか?」

「オネエチャンがおらんのや。慎重に、聞けること聞いたり、集められる情報を全部集めてから出向いても、遅くはないやろ?」

 言われてみればその通りだ。タヌは小さく頷く。キリアンは続ける。

「実際、髭ヤローは港や道の駅だけにこんなに早く手を回してきた。ってこたぁ、オレらをどういう方法かわからんけど、ジロジロ見とる可能性もあるんや」

「ボクたちは、いつもハーランさんから見られている?」

「だから、どこへ行くにしても、出し抜く方法もセットで考える必要がある」

「じゃ……」

「それはオレが考える。タヌ君。次に行くところを決めるんや。髭ヤローの懐に入るにあたって、必要なことや、もしかしたら何か教えてくれそうなヤツとか、錬金協会で、キエーザさんみたいな立場の、味方になってくれそうな人とか、おらんか?」

 矢継ぎ早に出てくる言葉に、タヌは水の入った瓶をじっと見つめながら、考えた。

「もしかして……」

 タヌの脳裏に、一人、思い当たる人物が浮かんだ。

「今、会えば……」

 タヌは、次の行き先を決めた。


318:【?????】タヌ、キリアンは思わぬ助けを得ながら、次の行き先を決める2025/07/14 20:00


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 夏コミ(#C106)準備のため、連載を止めていた連載も無事再開。実は9巻相当分まであちこち直していたりしましたが、気づかれましたか?

(ダメもとですが、賞取りレースにエントリーしてしまいました。なんでって? みけさんコミカライズ版「DYRA」を一番読みたいのはワタシだからです)

 ラストまではもう確定。一気に走り抜けるので、引き続きの応援をどうぞよろしくお願いいたします!


 また、無事に夏コミもサークル当選しましたので、併せてご報告いたします。


 8月17日(日) 南g26a 11PK


 新刊はゴシックSF小説「DYRA」15巻! もちろん、みけちくわさん描き下ろし表紙カバーも健在!

 コミケご参加される方、当サークルにも是非足を運んでいただければ幸いです。

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