316:【?????】タヌはついに強者の庇護から旅立つけれど
前回までの「DYRA」----------
DYRAとタヌは、今後をめぐって話し合うが、一筋縄ではいかない。その会話の中で明かされる、ハーランの思惑、タヌの父親の望むこと。絶対に止めなければならない。何かを言い淀むDYRAを見抜いたのか、タヌもまた、自分で動き出す。
「タヌ君。随分思い切ったことをするんやなぁ」
「父さんに会うには、このくらいやらないとダメだって」
「けど、敢えてオネエチャン抜きでこれをやるとは、何て言うか……」
馬車で移動しながら、キリアンはタヌの行動力に驚いた。大それたという言葉があるならこういうときに使うのではないかと感嘆の息を漏らす。
「でもこれって、DYRAやRAAZさんたちとボクたち、せーの、っていうか、ほぼ同時でないとダメだと思うんです」
「確かになぁ。ただこれ、タヌ君が先走ってもダメ。遅れすぎてもダメや」
「そうなんですよね。ただ、待ち伏せすればってのもダメそうだし」
キリアンが二度頷く。
「なぁタヌ君。オネエチャンがいない『だから一人で何とかする』って発想を捨てないか?」
御者台に並んで座るタヌがキリアンを見る。
「っていうと」
「これってもう、タヌ君のお父さんを見つけるって話と、あの得体の知れないハーランとか言う野郎が何かをしたいってのが表裏一体」
「そうですね」
「なら、そっちを何とかするってセンで協力してもらうとか」
「そっか……」
タヌは、キリアンからの提案に、首をかしげたり、顎に手を当てたりしながら考える。
「『敵の敵は、味方』。そう言うやろ?」
キリアンの一言で、タヌはああそうかと言いたげに表情を明るくする。
「そっか。でも、何て言ったら良いだろう?」
「あの会長の、あの様子だと、権力なんかいらないし、それどころか、何て言うんだ? もう、この世界自体未練がない気がするんだ。良くも悪くも『どうでもいい』って」
「はい」
「あの野郎を排除する、この一点なら、話し合う余地どころか協力は大いにアリだと思う」
「言われて見れば、そうかも」
「昨日のあのトンネル使えば、多少時間も短縮できるやろ。あの会長とか三つ編み兄さんの話でいったら、あと三〇何日かで、面倒になるんやろ?」
「キリアンさんの話でいったら、あのキエーザさんって人もいたらよかったのかな」
「確かにな。あのちょっとワケアリっぽそうだったけど、頭ええし、錬金協会の裏側みたいなものもある程度把握していたみたいだからなぁ」
「鳩使って、連絡してみますか?」
「できるんだったらな」
「キエーザさんは今、アントネッラさんたちと一緒にフランチェスコにいるんですよね。そうしたら、どっちから先に行ったら良いんだろう?」
「勝手するのはあれやけど、キエーザさんとこ行っとくか? もう、オネエチャンたちとは離れたわけだし、先に連絡たのもか」
「鳩ですか?」
「鳩もやけど、もう一つ。ピルロに出入りしたことあるフランチェスコあたりの行商人も使えそうや。ウチらみたいな仕事をしている同業のコネも使えたらとは思うけど、オレが野郎に面割れているから、先手を打たれている可能性がないとも言えないしなぁ」
キリアンが鞭の柄を顎に当てる仕草をしながら、難しい顔で前方を見る。
「タヌ君。あとさ、これ、オレ聞いておきたい
「何ですか?」
「もし、お父さんと無事に再会できたとしよう。それで、あの会長さんとかがピッポさん殺しに来たら、タヌ君はそれ、許すんか?」
「それなんですけど……」
「ん?」
「錬金協会の副会長さんが言っていた、どんなことがあってもボクが父さんを傷つけちゃいけないって」
「お父さんとは色々な経緯があったのだろう。行き違いがあったかも知れない。それこそ、君にとって許しがたい、納得がいかない、そんなこともあったかも知れない。それでも、君がお父さんを傷つけてはいけない」
「ほーん」
「あと、こうも。心で泣いている可能性があるって」
「私はそれでも、敢えて言う。君にどんなにひどい言葉を浴びせたとしても、お父さんは、お父さんだ。目に見えることだけを信じ、はやまったことをしてはいけない。人間はときに、大義のためならひどいこともする。でも、心で泣いていることがある可能性も忘れないでほしい」
「うーん。……なぁ」
キリアンは馬を鞭で打った。
「それ聞いて今思ったことや。オレが知るピッポさんならそんなこと絶対に考えないそうにないし、少なくとも、全然違う」
「そうなんですか」
「ああ。似ても、似つかない。……で、オレが言いたいのはこっからや。気の利いた言葉がでないけど」
「大丈夫です」
「オレらが知っているピッポさんって、もしかして、タヌ君のお父さんじゃない、とか?」
「えっ!」
想像もしなかったキリアンの一言に、タヌは目を見開くいた。心を覆いかけていた重い空気も吹っ飛ぶ。
「世の中に確かに、『子どもが可愛くない』とか、そういう風に思う親ってのが極々一部だけど、いる、っちゃいる。けど、タヌ君本人だけならいざ知らず、平然と、オネエチャン巻き込んでひどいことをしていたとなるとさ」
タヌは無言で続きを促す。
「そんなクズみたいな親でもフツー、赤の他人には最初くらいマトモそうな顔をするもんだ。人の親なら。けど、それがない。それで何か疑っていいんじゃ? って」
「そういえば」
「ん?」
「DYRAは、ボクの父さんにトレゼゲ島で会ったって。話したとき、ひどいことも全然なかったって」
「トレゼゲ!?」
「ボクたちと別れてから、朝、話をするまでの三日か四日くらいの間に会ったって」
「海の向こうやなないか、って言いたいけど、会長だの三つ編みさんだのが消えたり現れたりするところから考えて、オネエチャンなら、『嘘』で片付けたらダメなんだろうな」
「ってことは……」
「ピッポさんはそんなことできんよ?」
「DYRAが会ったボクの父さんと、キリアンさんといた父さんは別かも、ってことですか?」
「それなら、タヌ君あそこまで徹底的に悪し様にできるのも話繋がるんちゃうか?」
「でも、仮にそうだとして、どうしてそんなことをしないと……」
言い掛けたタヌの言葉は最後まで出なかった。錬金協会の副会長だけではない、DYRAもも言った言葉を思い出す。
「新しいものを見つけたり、前に進んでいくためにやることって、家族とか、そういうのも全部捨てないといけないほど大事なことなのかな」
「時と場合や。事故が起こったり、面倒が起こったりするのが目に見えていたら、家族が大事なら、巻き込みたくないって思うやろ」
「その、帰ってこないのも?」
「帰ってくることで、家族に迷惑が掛かるって考えたならな」
「けど、その頑張った結果で、たくさんの人が困るとか、とんでもないことになるかもって知ったら、どうするんだろう? どうなるんだろう」
「人によるなぁ。短い目で見れば一〇〇〇人死んでも、一〇〇年とかの長い目で見たとき、一〇〇〇人どころか一〇〇万人が幸せになるって選択肢を選ぶ人間だって。うん。絶対におらんとは言えないし」
タヌの中で、自分が知っている人間と、DYRAが会った人間が別人で、そして錬金協会の副会長も別人であることを知ってて隠している可能性に懸けたい気持ちが芽生えた。
「でも」
その一方で、仮に別人で、DYRAが会った方が本物だとしても、自分の側にはいなかった存在であることに変わらない。タヌは複雑な気持ちだった。
「何か、少しの間しか会ってないはずなのに……」
「どした?」
「変な話だから、独り言です」
「ん?」
「何であれ、ボク、あんまり実感わかなくなってきたっていうか。その……RAAZさんの方がある意味、よっぽど色んなことを教えてくれたような気がしてきて」
「ぁー。クセ強いけど、懐は深そうだもんなぁ。タヌ君にとって、人生で必要なことは皆、あの会長とオネエチャンから教わった、そんな感じか」
「はい」
「そっか」
二人を乗せた馬車は、川の近くまで走った。
このとき、現在位置の確認を兼ねて風景を見ながら移動していた二人は気づかなかった。
川の畔で、箱らしきものをを胸元の高さに構え、何秒かおきくらいに人々や風景に向けている人と、その人物を物珍しげに取り囲んで見ている一団がいることを。
316:【?????】タヌはついに強者の庇護から旅立つけれど2025/06/30 22:00
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はい。お久しぶりです。
夏コミ(#C106)準備のため、連載を止めておりました。ここからは、ラストまで一気に走り抜けていきたいと思いますので、改めまして、よろしくお願いいたします!
また、無事に夏コミもサークル当選しましたので、併せてご報告いたします。
8月17日(日) 南g26a 11PK
新刊はゴシックSF小説「DYRA」15巻! もちろん、みけちくわさん描き下ろし表紙カバーも健在!