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307:【TREZEGUET】知らせなければ! でも、どうやって?

前回までの「DYRA」----------

 フィリッポの身の上話に、DYRAは驚く。さらに、「生まれる前に離れ離れになった」息子とやらの名前如何では、この先どうしたら良いのかとも悩む。DYRAはついにその名前をフィリッポ自身の口から聞き出す──


 話の流れでそうだろうとは思っていた。

 だが、いざこうもハッキリ言われてしまうと、どう反応して良いのかわからない。DYRAは困惑を顔や仕草に出さないように意識するのが精いっぱいだった。

「今日はもう疲れただろうから、ゆっくり休むと良い。明日からだけど、君が最初にやることは環境というか、ここの空気に慣れることだから」

「あ、ああ」

「最後に。あの丘みたいな低い山だけど、昼間でもあそこの森の向こう側へは行かない方が良い。昔、色々事件があったって伝説もあるし、白骨死体なんか出てきたら女性には刺激が強すぎるからね。夜だから、森に入るとかそんなことないだろうけど」

「そうなのか」

「言いそびれちゃってごめんね。自分は近くにある家にいるから。扉の取っ手に青い布を巻き付けてある。それじゃ。おやすみ」

 そう言い終えると、フィリッポは部屋を出た。

 一人になったDYRAは、ここまでを頭の中で思い返しつつ、気になることを数え出す。

 フィリッポとハーランはどうやって連絡を取っているのか、だ。船に手紙を入れて定期便はわかる。だが、緊急事態が起こったときはどうやってやりとりするのか。恐らく、昼間に見た船にフィリッポからの手紙が積み荷と一緒に収まっているなら、自分のことを書いていないはずだ。だが、今この瞬間、フィリッポが何かに気づいたとして、悠長に次の船便を待つだろうか。

(いや)

 少なくとも自分がフィリッポなら絶対に待たない。

 では、どうやって知らせるか?

(鳩?)

 だが、今日彼と出会ってから今まで、鳩も、飼っている様子もどちらも見ていない。とすると、鳩の可能性は今の時点で低い。

(たいまつで知らせる?)

 火を点して知らせる方法では、海の向こうでは届かない。これも違うと見て良い。

 では、どうやって。何か、特別な方法があるのだろうか。それこそ『文明の遺産』を使っているのか。ハーランも絡んでいるのだ。使っていても何一つおかしなことはない。

 だとしたら。それが『文明の遺産』ならどんなものなのか。

(そういえば)

 自分はここにどうやって移動してきたのか。

 あのとき、ネスタ山の一角にある洞窟から繋がる避難所のような場所にいたはずなのに、どうしてここにいるのか。誰かに連れて来られた覚えも、船に乗った覚えもない。昼下がりにネスタ山を下りて、数時間で海の向こうだなんて有り得るのだろうか。いや、島の洞窟で目を覚ましたのだから、ひょっとして、移動はもっと短かったのではないか。

(RAAZや、マイヨ……)

 彼らは花びらの嵐を起こし、その中にふわりと姿を消す。場合によってはその逆もある。

(ハーランがここに来る?)

 有り得る。しかし、ハーランにはRAAZとマイヨ的なポジションの存在がいない。留守中に出し抜かれるリスクを取るだろうか。


 DYRAはさらに考える。生体端末(バイオ・ターミナル)がある。ハーランにとってあれは貴重な戦力ではないか。失うリスクをどれくらい取れるだろうか。だとすればやはり、一々報告を聞くためだけに往来するのは現実的ではなさそうだ。

(もしかして、手紙?)

 手紙を、RAAZやマイヨが移動するかのように一瞬で移動させるか、内容だけを送る。これな本人が移動するよりずっと現実的だ。もっとも、DYRA自身にはどうやってというところのイメージが浮かばない。

 何か(・・)あるが、それが何か(・・)、までは具体的にわからない。それでも仮説は一つできたのだ。DYRAはそれを確かめるために今すぐ動こうと決めた。

 火が点いたままテーブルに置かれているランタンを手に取ると、DYRAはちょっとその辺を見て回るかといった風に外へ出た。

 フィリッポが言っていた扉の取っ手に青い布がある家はすぐに見つかった。カーテンで閉じられているものの、窓の角から僅かに明かりが漏れている。

 DYRAはいったん、扉の回りを、続いて家全体をざっと見回してから、何食わぬ顔をして通り過ぎる。少し進むと、空き家の脇に姿を隠した。そしてランタンを足下に置くと、空き家の裏手に回り込んで、そちらからフィリッポがいる家へ忍び足で近寄り、改めて、家をじっと見る。

(あれは何だ?)

 DYRAの目を引いたのは、暗いのでハッキリとは見えないものの、家の屋根のあたりから伸びた細い糸。屋根を見ながら糸が伸びている方を探すが見つからない。DYRAはランタンがある場所へすぐに戻ると、回収し、今度は戻るような風を装って歩きながら、糸が見える方を探した。

(あ?)

 ようやく見つけたのは、先ほどまで食事をしていた家だった。だが、さらに続いている。

(片方はフィリッポの家か。もう一方は?)

 DYRAはその糸をずっとたどって歩く。山の方へ続いている。フィリッポの家からある程度離れると、DYRAは思いきって適当な空き家へ入ると、屋根へ上った。

 屋根からは見晴らしが良く、ランタンをかざすと、糸がどこからどこへ向かっているか、ある程度ではあるものの、見える。

 DYRAはそのまま糸をたどって進んでいく。山へ入ろうとしたところで見えなくなった。それでも、慌てることなく最後に目視できた建物の屋根に上ると、糸がどっちへ伸びているか確かめる。山へ、そして森の方へと向かっている。DYRAは目を懲らしてそれを見た。細いのに、まるで絹の糸が束ねられているかのように光っているではないか。

(何だこれ?)

 糸に手を伸ばし、DYRAはそっと指先で触れた。その感触は想像していたものとはまったく違った。絹のように細いのに、鉄のような感触。一体これは何なのか。DYRAは苦い表情でそれを見る。

(どうして昼間のうちにこれの存在に気づけなかったのか!)

 昼間なら苦労することなく糸がどこへ伸びているか探せたのに。DYRAは内心、悔しがった。しかし、諸々の出来事が重なったことで気づいたのが今しがただったのだ。地団駄を踏んでも問題は解決しない。

(こんなもの、見たことがない。だからこそ、森でも探しようがあるということか)

 鉄のように光る糸。探す糸口は見つけることができた。DYRAは一計を案じる、すぐに行動に移す。

(これなら!)

 DYRAは青い花びらを舞わせ、蛇腹剣を顕現させると、糸に沿うように同じ向きへと振るう。糸の光が刀身に反射する。同じように刀身の輝きも糸に反射した。

 DYRAはだいたいの方向を把握したところで剣を収める。そしてランタンを手にすると、そのまま森の木へ一気に飛び移った。糸を追っては森の木から木へと移り、鉄の糸がどこへ繋がっているのか、追った。

 とうとう、鉄の糸をたどりつつけ、ある場所へたどり着いた。その建物を見たとき、DYRAは憮然とした表情で下唇を噛んだ。

「……ここに、たどり着くとはな」

 見覚えある朽ちた屋敷の屋根の頂点に、鉄の糸が絡みついていた。

「RAAZの家に、無粋なものを……」

 DYRAは蛇腹剣を直列状に顕現させると、朽ちた屋敷へと足を踏み入れ、階段を駆け上がり、天井裏から屋根へと上がる。

「あっ」

 屋根裏の隙間の片隅から鉄の糸が通っており、その先に見たこともない四角い銀色の箱に繋がっているではないか。

(何だこれ?)

 箱の隅で小さく赤と紫のランプがそれぞれ点灯、青いランプが明滅している。側面にある板は三列、横棒状に緑の光を放っている。

 DYRAは、横棒状に光る部分をまじまじと見つめる。時折、赤く光ることもあるが、いくつかボタンがあることにも気づくと、横倒しになった三角形が描かれた小さなボタンを押してみる。

「──荷物は届いた」

 フィリッポの声が聞こえてくるではないか。

「──新しい教え子も来たよ」

「──その子、写真とかある?」

 聞いた途端、DYRAは顔色を変えた。ハーランの声ではないか。

(鉄の糸を伝い、この機械を介して声を届けていたのか!)

 無線通信なるものが何かなどはまったく知らない。それでもこの機械が『文明の遺産』であるとDYRAはすぐにわかった。

「──写真? まだ撮ってないから寝ている間に撮って、送るよ」

 フィリッポの言葉に、DYRAは声にならない声をあげる。

 まずい。このままではハーランに自分がここにいることがバレてしまう。いったん、この島から逃げなければならない。が、逃げたところで事態の解決にはならない。機械を壊すことも考える。が、今壊せば異変に気づかれてしまう。まずは朝まで時間を稼がなければならない。

 DYRAはもう一度、今度は反対向きの三角形が描かれたボタンを押した。すると、音が聞こえなくなった。

 ランタンを手に屋根裏部屋を出ると、今度は地下へと駆け下りる。

 葡萄酒がたくさん置かれた場所が見えるまで、周囲を何度も振り返り、見回し、誰もいないことを確かめてから扉を閉じる。そして施錠してから床の隠し扉を開き、昼間と同様、梯子を下りて扉が三つある狭い空間へ向かった。もちろんグローブ弁を閉めることも忘れない。

 機密区画云々の注意書きを見てから、DYRAは昼間に唯一開かなかった扉を開いた。

「ここは……」

 扉の向こうにさらに扉がある。そこを開けると螺旋階段。下りた先の扉を開けるとまたその向こうにも──。

 何度か繰り返した後だった。

「あっ!」

 次の扉を開こうとしたとき、DYRAの身体が吸い寄せられるように、まだ開かぬ扉の向こうへと、消えた──。




「これ……私は知っている……!」

 砲金色の巨大な輪が浮かぶ空間をゆっくりと落下していったDYRAは、いつだか、マイヨを助けた後、階段を下りて迷い込んだときのことを思い出す。

 ここにたどり着いたなら、RAAZかマイヨのどちらかに必ず再会できる。DYRAは安心感を抱きつつも、翌朝島に自分がいなかったら、ハーランがすっ飛んでくるような事態が起こるのではと不安にもなる。

 とにかく早く動かなければならない。

 やることが多すぎる。

 夜明け前までに戻らなければならない。

 どうしたら最短最速で動けるのだ。

 あれこれ考えているうちに、どこからか伸びている光る道へ着地した。

 以前のように長い時間浮いていた感覚はない。数分くらいだろうか。DYRAは何時間も掛からないことを有り難いと思い、光る道を走った。

 ほどなくして、突き当たりにあたった。正面には真ん中から両側に引き戸のように開閉する扉。うろ覚えだが、見たことがある気がした。違いがあるとすれば、右側に手のひらより大きなサイズの黒いガラス板が敷かれ、すぐ下に、1から0の数字と、赤と青の計一二個のボタン──コンパネ──があることくらいだ。数字のボタンの下には文字も三ないし四つずつ書いてある。

『──どちらへいかれますか?』

 扉から聞こえる抑揚のない声に、DYRAは一瞬、呆気に取られた。どこへ行くのかと言われても、場所をどう伝えれば良いのかわからない。

「RAAZか、マイヨがいるところへ……」

『──行き先の区画を告げるか、入力して下さい』

 何と言えば良いのだ。どう伝えれば行かれるのだ。DYRAは懸命に考えた。

(数字……文字……もしかして……)

 DYRAはマイヨの部屋を出て階段を下りたときに見つけた「850」という数字を思い出すとそれを入力する。

『──無効です』

「そんなっ……」

 低い警告音と共に告げられる。だが、文字と数字だけで身に覚えがある場所はあそこしかない。DYRAはボタンに書かれている数字や文字を見ながらさらに考えては入力していく。何度か失敗するうち、あることに気づく。

(これもしかして、何回か連続で押すと、数字じゃなくて、文字が打てる?)

 850と似た文字を入れればいいのでは? そう気づくと、DYRAは今度はBSOと入れる。が、やはり、通らない。

(文字と数字は、組み合わせても良いのか?)

 さらに思い当たる組み合わせを片っ端から入れていく。

 何度目かの間違いを経て、DYRAはB50と入れた。すると、それまでの聞き苦しい低い警告音から一転、軽やかな、鈴のような音が鳴り、扉が開いた。

「やった!」

 DYRAは思わず声を上げ、扉の向こうへと走った。

「えっ……!」

 先ほどまで砲金色の輪がある空間を落下していた。今度は一転、上へ上がっているではないか。

「な……! あっ」

 DYRAはすぐに思い出した。RAAZと一緒に、タヌと再会しようと移動したときと同じ感覚だ。これなら、知っている場所に連れて行かれる。RAAZなりマイヨなりどちらかの元へたどり着ける。その安心感に包まれると、DYRAは少しの間、目を閉じて宙に浮かぶ感覚に身を委ねた。


ご無沙汰してしまい、大変申し訳ございません。コミケの準備にことのほか手間が掛かっておりました。

作者の身に何か起こらない限りは、エタらないからどうぞご安心を(そして、Web版もこっそりと、71話から103話までが文庫版準拠になりました)

この回でご縁得た皆様方におかれましては、この機会にブックマークとかいただけると嬉しいです!


再開一発目、タヌの父親にまつわる「すべての前提がひっくり返る」衝撃の回から、DYRAはすぐに動き出します。始めの頃の「勝手にしろ」スタンスから見ると、彼女も随分と感情や行動がスパーン! と出るようになったものです。タヌとの友情に応えたい思いがハッキリ見えます。


そして!

コミケ2日目に、とうとう「DYRA」は壁サークルとして登場します!

ご参加される皆様! 是非、みけちくわさんが描いたメインキャラオールポスターとか観に来て下さい!!

そして新刊は、「DYRA SOLO」!

「小説家になろう」、「pixiv」ともにWeb掲載発表予定なしの完全描き下ろし、ご新規初見様でもいきなり楽しめる読み切りとなります!

(もんのすごいクオリティが高いので、是非、ゲットして読んでいただければ嬉しいです!)


12月30日(月) コミックマーケット2日目 

東京ビッグサイト西2ホール あ62ab(広々2スペース! アトリウム側壁配置です!)

サークル「11PK」


ではまた次回! 来週はズバリコミケなので、年明けになります!

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