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292:【AGNELLI】耳を疑うおぞましい出来事の真実を知るのはただひとり

前回までの「DYRA」----------

 深夜、死んだ土地から再びピルロへ戻ろうとするキエーザは、怪我したジャンニを救助したキリアンと合流。そこへ突然、ネスタ山へ襲い掛かる爆発。

 突然の出来事に根城へ戻っていたマイヨも驚き、単身、深夜のネスタ山へ。爆心地近くを調べたとき、ピルロで顔見知りとなった子どもを見つける。


 根城に戻ったマイヨは、嘔吐感にも似た苦しさに悶えつつも、まるで何かを成し遂げたかのような安堵とも喜びともつかぬ感情を噛みしめていた。

(ああ。こういうの、だったな。けどさ、あの日の悔しさはこれ以上だった)

 ピルロで出会い、自分を慕ってくれた人たちの顔が次々と脳裏に浮かぶ。

 別に助けたくて助けたというより、行きがかりでピルロを助けただけだった。それでも、それがきっかけで街の人々は自分を信じてくれるようになった。DYRAにちょっかいを出し、RAAZを怒らせたことが発端だとは言え。しかし、今となってはことはそう単純な話ではなかった。ルカレッリは早い段階でハーランに取り込まれていた上、何も知らなかったアントネッラは無邪気に『文明の遺産』へ手を伸ばしただけだった。救いだったのは、為政者がこんなザマでも、街の人たちの大半はそれなりに知性も高く、常識や良識をしっかり持ち合わせていたことだ。だからこそ、こんなことになってしまったのは悔しいの一語だ。

(あの子は、俺の名前を口にした)

 絶望的な状況で見つけることができた子どもの姿が脳裏をよぎる。

 地獄のような爆発現場から脱出するのは本当に辛かったに違いない。親や自分の周囲にいた大人たちが誰一人助けてくれない。それどころか、皆目の前で倒れて動かなくなってしまったのなら。ただただ生きるため、助かるため、無我夢中で、それこそ火事場の馬鹿力で外へ出たはずだ。

 マイヨは胸が締め付けられるような苦しさを思い返すと、下唇を噛んだ。

(もっと、生きたかったよな……!)

 自分に何があったか伝えれば、必ず何とかしてくれる。そんな希望があったからこそ、あそこまでたどり着いたのだろう。マイヨはここで、もう一度、子どもの最期の言葉から、何が起こったのかを推測する。

(あのとき)

 子ども曰く、パルミーロが来て、ハーランが『文明の遺産』を掘り出そうとしている、それを『財産』と言っている。そして──

(アントネッラではない。ルカレッリだった!)

 それを明かした途端、爆発した、と。

 ここから何が起こったのかマイヨは考えた。

(あの、魔法の泉、もとい、LPGかプロパンガスの貯蔵庫と地下で繋がっているか、そこそこ近い場所に市民の一部が何かの理由で集まっている場所があって、そこへパルミーロが入り、爆発)

 しかし腑に落ちないのは、どうしてパルミーロが来て爆発したか、だ。

(市役所に勤めていてそれなりの地位があったなら、タバコや火打ち石がアウトなことくらいわかっているはずだ)

 それを前提に考えても、腑に落ちない。人が集まっているなら、ガス漏れに気を遣うはずだ。そもそもガス貯蔵庫で寝泊まりなど常識では考えにくい。この時点で、ガス貯蔵庫と直接繋がっている説は外して良いだろう。

(化繊がないなら、静電気もそうないはず)

 本当のところ一体何が起こったのか。あのときは煙がひどかったこともあり、子どもが倒れていた場所の扉の向こうへ行くことができなかった。まさかパルミーロが意図的に爆破したとは到底考えられない。

 時限爆弾でも仕掛けられていたのか。その可能性も考えるが、情報が足りないので、これも決めつけることはできない。

(もう少し、休みたいが……)

 時間が許さない。マイヨは疲労回復剤のアンプルを何本かまとめて開封すると一気に無針注射器に入れ、投薬を済ませる。

(ナノマシン補充のため、半日時間がほしい。RAAZに言うしかないな)

 消耗戦を強いられるわけにはいかない。マイヨは部屋を出た。




 食堂アセンシオの旧店舗で朝を迎えたタヌは、ベッドから身を起こすと、風呂と着替えとを済ませ、二階の個室へ向かった。

「おはようございます」

「あら。おはよう」

「アントネッラさん。早いですね」

「ええ。何となく、眠れなくて」

 徹夜をしたのかとタヌは心配した。

「私、深夜だったから大丈夫だろうと思って、ほんの少しだけ、カーテンの隙間から窓の外の風景を見ていたの」

 アントネッラの表情が少し沈んだのを、タヌは見逃さない。

「どうしたんですか?」

「ピルロが心配で……」

 彼女の立場上、それは当然だ。

「気のせいかも知れないけど、窓の外を見ていたとき、ネスタ山の方がキラッと一瞬だけ光ったような気がして」

 人が寝静まっている時間に山が光るなど有り得るのか。山に流れ星でも落ちてきたのだろうか。タヌはそんなことを想像する。

「何事もなければ良いんだけど」

 ひょっとしたらアントネッラが街に何かあったのではと心配しているのではないか。タヌはハッとした。

「あとで、RAAZさんかマイヨさんへ聞いてみるとか」

 心配ごとは早めに潰すに限る。タヌは彼女を安心させようと言ったつもりだった。しかし、彼女の表情から影が消えることはなかった。

 そのとき、廊下の方からバタバタという音が聞こえてきた。

「何だろう?」

 タヌとアントネッラが気づき、個室を出ようとしたときだった。今度は廊下からドカドカと足音が聞こえた。

「RAAZさん、かな」

 タヌが呟いてほどなく、遠のいたかと思ったら再び聞こえた。

「ほぉ。早いな」

「おはようございます。RAAZさん」

「おはようございます」

 タヌとアントネッラがRAAZへ取り敢えず挨拶した。

「たった今、伝書鳩が届いた」

 鳩と聞いて、タヌたちはすぐに思い出した。キエーザたちからの連絡は鳩を使っても有り得ることを。最初の音は鳩が着いた合図だ。

「鳩って、速いのね」

 アントネッラが問うと、RAAZは少し渋い顔をした。

「当たり前だ。私たちの時代に遺伝子改造された種の末裔だからな。大昔、伝書鳩レースで最速記録を出した奴よりまだ速い」

 伝書鳩レースで時速四四キロ、航続距離一一〇〇キロを記録したという話もある。RAAZたちの文明下では、遺伝子改造でこれを超える条件の種を生み出したという。

「ついでに、空を飛んでいれば、猛禽類にでも遭遇しない限り心配はない」

 フクロウは夜飛ぶが、鳩は夜飛ばない。それに鷲や鷹はここらへんで見ることはない。話を聞いて、アントネッラは幼いころ、学術資料館で見た本のことを思い出した。それでも、今気にするところはそこではない。

「それで、伝書鳩が来たなら、お手紙が入っていたのよね」

「ああ」

 言いながら、RAAZは外套のポケットから回収したメッセージ管を取り出すと、中から小さなメモを取り出し、目を通した。

「……小娘」

 RAAZが突きつけるようにアントネッラへメモを渡す。タヌも一緒になって覗き込む。

「え!」

 アントネッラが声を上げた。

「私が見たのは、それかも」

 この呟きに、RAAZが反応する。

「どういうことだ?」

「夜、ずっと寝つけなくて、時間ばっかり経っちゃって。こんな時間だったら誰も見ていないだろうしって、カーテンをほんの少しだけずらして隙間から窓の外を見たの」

 余計なことをして、人工衛星で見つかったらどうするんだ。言いたい衝動がわき上がったものの、RAAZはその言葉をいったん胸の内で抑え、彼女を軽く睨むだけに留めた。悪態や罵倒、辛らつな言葉ばかり言っても事態が進まない。注意するのはいったん後回しだ。

「そのときに、ネスタ山の方が一瞬だけピカッて。まるで、流れ星でも落ちたみたいな」

「なるほど」

 話を聞くにつれ、ピルロの人々は大丈夫だろうかとタヌも心配になってくる。

「読み進めてみろ」

 RAAZに言われ、タヌとアントネッラはメモ全文に目を通す。

「『証人確保。緊急帰投中。発時0640 発地パオロ』」

 朝六時四〇分の時点でパオロにいてこちらへ戻っている最中とわかる。だが、目を引いたのは、そこではなかった。

「証人?」

 RAAZが頷いた。

「ああ。その証人のために戻る。恐らく、付き添いが必要ということだろう」

「時間的に、今が七時三〇分すぎだから」

 タヌが壁にかかった時計に目を留めて指折り数える。

「日が高くなる頃に着くだろう」

「え。でも前にマイヨさんとマロッタからピルロへ向かったときは、朝から晩までかかったような」

「それは表の道をチンタラと荷馬車で通ったからだろう? キエーザなら秘密の地図を持っている。おまけに何でも屋は面倒極まりない移動手段を知っているようだしな」

 ああそうか。そうだった。RAAZからの指摘で納得する。キエーザたちは、『文明の遺産』が使われた移動手段を知っているのだ。使ったことがバレてしまえば面倒になるかも知れないが、時間が大事な今、そんなことを言っている余裕がないのだろう。

「悪いことが起こっていなければいいけれど」

 アントネッラはピルロは大丈夫だろうかと思いを寄せる。

「取り敢えず、飯でも喰って待つしかないだろう。明け方に店長が下に簡単な朝食を置いていった」

「ボク、取ってきます」

 タヌはそう言って部屋を出ると、厨房側へ繋がっている従業員用の階段を下りていった。

「ガキが外したから言っておく」

 RAAZがアントネッラへ真顔で切り出す。

「ハーランはお前たちの常識では到底考えられない方法で見張っている。指でチラ見だからいいだろうという話じゃない。カーテンを迂闊に開けるな」

「ごめんなさい」

 アントネッラはあっさりと謝罪した。

「それとネスタ山の件、情勢如何ではこちらも動く。お前は最悪、そこでハーランに抱き込まれた兄貴と対決するかも知れない。覚悟しておけよ」

「ええ」

 RAAZの言葉に、そのときがいよいよ来るのかと、アントネッラは呼吸を整えながら気持ちを落ち着かせた。

 ほどなくして、タヌがカートを押しながら朝食を持って戻った。

「厨房から二階へはこうやって食事を運んでいたんですね」

 厨房からどうやって二階へ持っていこうかと困惑していると、ダムウエーター(小荷物専用昇降機)が目についた。タヌはとっさに、都の西側に秘密裏に設置されていた昇降機を思い出し、これを使ったのだ。

「ああ。この店にサルヴァトーレが設計して設置した」

 タヌは、RAAZがしれっと告げた言葉にやっぱりと言いたげな顔をした。この文明下ではこの店にしか存在しないのではないか。一方、横で話を聞いていたアントネッラは食事を終えたらダムウエーター(小荷物専用昇降機)を見てみようと思う。

 RAAZがテーブルに新しいクロスを敷き、そこへタヌとアントネッラが朝食を置いていく。メニューはRAAZとマイヨの分がスモークサーモンを添えたエッグベネディクトとリコッタパンケーキ。アントネッラとタヌの分は、カタクチイワシの塩漬けパテ、レタス、ブラックオリーブを挟んだライ麦パン。飲み物は四人分ともリンゴジュース。それとは別に、保温カバーを填めたポットが二つ。それにはそれぞれ、温かいコーヒーと牛乳が入っている。

「マイヨ、まだ戻っていないの?」

「深夜にディミトリを連れ出した後、おそらく休んでいるんだろう。ヤツの身体はある程度まとまった量のナノマシン補充が必要になる頃だ」

「ナノ……何それ?」

 アントネッラの質問に、RAAZは何をどう説明すれば良いのかと考える。だが、思考のリソースをそこへ割くことはなかった。

「ISLAに関して言えば、とんでもない情報量を捌き、バケモノじみた頭の回転を支える栄養剤みたいなもんだ」

「そんなのが、あるのね」

 聞いていたタヌは、端的かつ彼女がすぐに納得できる説明をしたRAAZに感心した。

 いったん、朝食を取ろう。そんな空気になり、マイヨ分に簡素なフードカバーをかけると、三人は食事を始めた。

 半分くらい食事が進んだときだった。

 突然、個室の外から開けっぱなしの扉を二、三度軽く叩く音が聞こえた。全員、食事の手を止め、扉を見る。

「戻った」

 そう言いながら入ってきたのはマイヨだった。アントネッラはすぐさま席を立つと、マイヨの席のフードカバーを外す。

「朝ごはん。マイヨの分、まだ温かいから」

「ありがとう。でも、君たち全員も朝食はいったん、()めてもらえるかな。とんでもないほどまずい、いや、状況如何じゃ食べている場合じゃないほど最悪な、厳しい報告を持ってきた」

 マイヨの言葉に、コーヒーカップだけどかしてから再びフードカバーをかける。

 それにしても、食べている場合じゃないほど最悪とはどういう内容なのだ。タヌもアントネッラも心配そうにマイヨを見る。

「まず、わかっている事実から。未明に謎の振動を検知した。場所はネスタ山中腹。場所としてはピルロが秘密裏に利用していたLPGもしくはプロパンガスの貯蔵庫近辺だ」

「LPG?」

 RAAZが鋭い声を出す。

「マイヨ。エルピー…何の貯蔵庫って?」

「アントネッラにわかるように言うなら、君たちが『魔法の泉』と呼んでいた場所だ」

「何ですって!?」

「もちろん、不審点がある。けれど、まずは事実報告から」

 マイヨが続ける。

「現場は地下だったらしく、地上からは煙以外の目視が難しい状態。平たく言えば、締め切った地下で爆発、もしくは火災が起こった、だ」

「待って」

 アントネッラだった。

「ネスタ山の中腹で地下と言ったら、泉があった場所からもう少し東に、昔おじいさまやひいおじいさまが作った秘密の避難施設の跡地があったあたりかしら。洞窟の入口自体も見つけにくい場所にあるの。土地勘がまったくない人には多分全然わからない。そこに入口があると気づかれにくい、樹林帯? 森みたいな一角にあるのよ」

 マイヨがその説明に反応する。

「そこ、誰か使っている?」

「あんなところ、誰かが使うとは思えない。だって、あの焼き討ち騒ぎのときでさえ、使おうって考えたことなかったくらい古い場所よ? 今、話に出てくるまで思い出すことさえなかった」

 文字通り打ち捨てられた場所というのか。RAAZは訝しげにマイヨを見る。

「で、そんなところが何でまた?」

「わからん。けれど、俺がディミトリを放り出してから休もうとしたとき、人工衛星からの検知信号が出たから様子を見てきた」

「それで?」

「現場は火はあまりなかったが、煙がすごかった。それからガスかガソリンの匂いだ」

「誰かがガソリンを撒いて火をつけた、とでも?」

「いや、違うね。その可能性を考えるならガスを充満させ……」

 マイヨがここで言葉を止めた。そして、少しの間俯いて、下唇を噛んだ後、意を決し、顔を上げる。

「アントネッラ」

「な、なに?」

「君の子犬君を面倒見ていた子だけど」

「あの子がどうしたの?」

「現場で俺が見つけたとき、もう虫の息だった」

 意味を持つ言葉として理解できたとき、アントネッラは一瞬、目の前が真っ暗になり、立ち眩みがした。

「そ、そんな……」

「俺の名前を口にして、『助けて』って。必死になって、何が起こったかを話してくれた」

「マイヨッ! 手当、しなかったの!?」

 ひどいのではないかという思いを前に出したアントネッラに対し、マイヨが優先順位を前面に出して答える。

「言いたくないけど、手当をしても助かる状態じゃなかった。助かるなら俺だってそっちを優先したさ。あれは、あの場にいなかった人間にはわからない」

「それで、お前は何を聞いたんだ?」

「曰く、パルミーロが来て」

「えっ」

「ハーランが『文明の遺産』を掘ると聞いた、と。『財産』とも言っていたようだ」

「それが死んだガキの証言がそれか」

「ああ。それで、この後、街の人の前に現れたアントネッラは、ルカレッリだと言って、そのままドカン、と」

「ドカン?」

 タヌはもちろん、アントネッラも何が起こったのかと言いたげな顔でマイヨを見る。

「具体的に何が起こったのかはわからない。けど、そこで何かが起こったのを子どもが見たのは間違いなさそうだ」

「それと関係があるかは知らん。だが、こちらにも気になる情報が来ている」

 RAAZがそう言って、伝書鳩が来た件を明かした。

「証人、だと?」

 証人がいるなら話を聞くまでだ。マイヨはさらに考える。撮影した映像をここでタヌやアントネッラへ見せて刺激するのは得策ではない。しかし、記録はRAAZにだけが見せておきたい。

「恐らく、昼前には着くだろう」

「RAAZ。それまで少し時間あるか? 手短に、でも二人だけで話したい」

「わかった」

「え。じゃ、ボクたちは」

「朝食でも食べて待ってろ。すぐ戻る」

 RAAZはそう言って席を立つと、マイヨと共に、階段を上がった。




「これは……!」

 食堂の三階へ上がってから、二人はマイヨが使っているドクター・ミレディアの施設にある小会議室のような部屋へ移動した。通常は量子キーで施錠しているが、今回は施錠した当人が一緒にいるため、RAAZも中に入れる。

 タブレット端末で、マイヨが見たものを記録した映像に目を通したRAAZは苛立ちを隠そうともしなかった。

「街の連中が不注意でガスまわりをドカンとやったとは思えないなら、残った選択肢はC4あたりで爆破、その、近隣施設に誘爆したとしか思えん」

「俺にもそうしか見えないんだけど、引っ掛かるんだ。これ、誰が何をしたくて?」

「恐らく、貯蔵庫と言う割にこれで済んだのは、施設の天井や壁を完全破壊しないギリギリの爆破規模を計算したんだろうよ」

「つまり、必要な分だけ残して、あとは持ち出した?」

「そう考えるのがいちばん合理的で、矛盾も少ない」

 RAAZの話を仮説としたとき、マイヨの中で一つの推論が浮かぶ。

「パルミーロが爆破? それこそ、何のために?」

「知るか。それこそ、証人に聞け」

「そうだね」

「で、他に施設の(・・・)外周では何事もなかったんだろうな?」

 RAAZが言ったのは、本来の文明下の施設をめぐる話だ。ネスタ山はちょうど当時の敷地内外の境界線にある。

 マイヨはタブレット端末を操作し、基地全景の地図をレイヤー画面で映し出す。

 RAAZを一点を指さした。

「ISLA。アリの一穴がすべてを壊すかもな」


 マイヨはRAAZを見てから少しだけ俯いた。

「どうした? ISLA」

 RAAZは、彼が何か言いたいことを頭の中でまとめているのだろうと察すると、少し待つ。数秒ほどの後、マイヨが静かに、ゆっくりと、いつ息を吸っていたのだと思わせるほどに深く息を吐いた。

「RAAZ」

 それまでと空気の流れを一辺させるマイヨの硬い口調に、RAAZは彼が何か重要なことを話そうとしているのではと気づいた。

「俺は、死にたくない」

「前もそう言っていたな」

「ああ。言った。肉体的に死ぬのはもちろんだけど、人間ってのは、自分の意思や自由をすべて他人に奪い取られることも、死ぬってことと同義じゃないのか?」

「間違いない。それが嫌で嫌で軍は国家、いや、ヴェリーチェ(陛下)へ反逆を決断したんだからな」

 RAAZの言葉に頷くと、マイヨが苦笑する。

「今、ヴェリーチェ(陛下)にすべてを奪われるってことは、ハーランに()られるのと同じだ。俺はそれマジで御免被りたい。あんなヤツに使われるくらいなら、アンタの執事の方がよっぽど望むところだ」

「そうか」

 今度はRAAZが苦笑で応えた。

「ああ。そこでモノは相談だ。『トリプレッテ』の扱いだが……」

 マイヨの話に、RAAZは静かに耳を傾けた。


こんにちは。

今は週1ペースでの更新ですが、テンション上がればもう少しペースを上げていければと思っています。

よろしければ、ご無理でない範囲で、BM、評価いただけると嬉しいです。


5月26日、東京ビッグサイト東館で開催のコミティア148 当選しました。

配置は、東2ホール「す」11ab。

サークル「11PK」です。

ゴシックSF小説「DYRA」文庫版持ち込みます! どうぞよろしくお願いします!


292:【AGNELLI】耳を疑うおぞましい出来事の真実を知るのはただひとり2024/04/19 08:02

292:【AGNELLI】耳を疑うおぞましい出来事の真実を知るのはただひとり2024/04/17 23:05

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