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280:【MORATA】そこに「大事な証人」が、確かに、いた!

前回までの「DYRA」----------

 マロッタで朝を迎えると、RAAZたちも行動を開始していた。留守番役になったアントネッラはハーランの人となりをマイヨから確認し、嫌な予感を抱く。一方、タヌは食堂の店長と共にディミトリらしき人物の捜索に出た。


「大通りを西にいったんです。でも、ほら、ちょっと前にアオオオカミが雪崩れ込んできた騒ぎがあったでしょ? それで、北西側は特に被害が出たみたいでして、どこかへ行くなら、この道を一気に抜けた先しかないんですよ。それに南西へいくなら、大通りは通りません」

「そうだったんですか」

 2頭立ての荷馬車でタヌは店長と共にマロッタの中心部を東西に通っている大きな道を一路、西へと向かった。

「途中で南へ行く道とぶつかっちゃいますから。しかもその道を通った先は森が深いんですよ」

「へぇ」

 そう答えたが、タヌは昨日見直した地図のことを思い出していた。

(もしかして、森の下にあのトロッコの道が通っていたのかなぁ)

 RAAZに聞こうとしたが、昨晩はアントネッラのことでピリピリした空気になったせいで、それどころではなかった。そうだった。タヌはそんなことを思い出しながら、戻ったら聞こう。改めて心に刻んだ。

「店長さん」

「はい?」

「話してて、気になったんですけど」

「何でしょ?」

「マロッタにアオオオカミが来た騒ぎになってから、ボクたちがいない何日かの間、街の人たちとかどんな感じですか?」

「正直言ってしまうと、変わった部分もあれば、変わらない部分もって感じですかねぇ」

 店長は話しながらも、時折、馬に鞭を打った。

「アオオオカミに襲われては復旧してって、この繰り返しは割と日常というか、当たり前でしょ? だから淡々としている感じです。良くも悪くも、何も変わらないというか」

「変わったのは?」

「錬金協会との距離感、ですかね」

「距離感?」

「結局、あれって、医者とか学校とか、あとは互助会みたいな。そういう身近な役もあったでしょ? そこの部分が変わった感じですかね」

「というと?」

「医者は開いているのでいつも通りに見えるんですけど、アオオオカミ騒ぎで怪我をした人の話じゃ、費用が上がったって」

 タヌは治療は無料だと思っていたからか、不思議そうな顔しかできない。

「要するに、細かいところで不便が忍び寄っているってことです」

 そう言ってから、店長は何か言葉の裏に含むようなものがあると言いたげにタヌを見た。

「それよりもっとまずいことが起こっていますね」

 店長はここで話を切った。

「ちょっと、そこらへんのことはあとで」

 この後、馬車での移動中、ふたりは一言も言葉を交わさなかった。




 馬車は中心街からしばらく西へ行き、さらに外側にある閑静な住宅街の外れまで走った。このあたりは広い敷地でやや大きめの家があるものの、密集していない。隣家との距離もそれなりにある。潜伏しやすい場所だ。

「移動時間を計算して、馬や馬車を使わないなら、今頃はこのあたりか、行かれたとしても少し先、でしょうね」

「でも、どうしてここって?」

「正確な根拠を求められると困るんですけどね。明け方へ西へ移動していくのなら、まっすぐ行くしかありません。通って途中で気づいたと思いますけど、馬貸し屋とかありました?」

「いえ。それどころか、馬を停めている建物も途中から全然なくなっちゃったし」

「でしょ? マロッタでもこの辺って過去にアオオオカミの襲撃を何度か受けていることもあって、住んでいる人たちも乗合、辻馬車なんかを使うことが多くても、自分では持ちたがらないんですよ。馬車」

「へぇ」

 聞きながらタヌは、店長が当てずっぽうなどではなく、持っている情報を積み重ねてちゃんと推測しているのだとわかると、何度か小さく頷いた。

「見ての通り、こんな感じの場所だから、近所つきあいとかもあんまりないんですよ」

 言われて見れば、確かに、近所の目を気にしなくて良いなら、潜伏しやすいし、ここからもう少し西へいきマロッタの外へ出るにしても、中間地点みたいな感じの場所があるにこしたことはない。

「それで、ここを通り抜けて行くと、マロッタの外へ出て西へ行かれる道があります。で、そこからずっと進むとモラタです。あそこは小さい町なんですけど、林業やったり、山間の段々畑で農業やったりしているようなところです。見た目と違って、資材が揃うところです」

「モラタはじゃあ、レアリ村みたいな感じなんですか?」

「ひとつ違いがあるとすれば、モラタはちょっとワケアリの町なんですよ」

「ワケアリ?」

「そうそう。ロゼッタさんもそこのご出身なんですけどね」

 思わぬ言葉に、タヌの表情が少し明るくなった。

「ロゼッタさんの?」

「ええ。ああ、それでその、20年くらい前でしたかね? 自分も詳しいことは知らんのですけど、錬金協会絡みで事件があったんですよ」

「え?」

「怪しげなことをやっている連中がいて、それを知った会長が激怒したとかって。噂じゃ、村に住んでいた若い夫婦が密告したらしいですよ」

「密告って……」

「あくまで噂ですよ? 何でもその密告がなければ、村は開発されてもっと開けるようになる計画だったって話です。会長にブチ壊されたとも言いますね。それで、証拠隠滅のために、会長が村人をとか、逆に口封じのためにその怪しげな連中が、とかきな臭い話があったんですよ」

 聞いていたタヌは、レアリ村もある意味、モラタと同じ運命をたどったのかも知れない、などと思った。


「さてと。ここらへんですかね。移動や隠れるのに、勝手良さそうな場所に絞って探すといいかなと」

 店長からの言葉に、タヌは御者台から立ち上がると、あたりを見回した。

「道沿いとか、向こう側へ抜けやすいっていうと……あそことか?」

 指さしたのは、白壁と赤い屋根が特徴的な家だった。そこは敷地自体、周囲の他の家とくらべて小さいものの、マロッタの外へずっとつながる西への街道と、南への側道とが交わったところにある。もっと言えば、開け閉めをあまりしていないのか、掃除をしていないのか、窓ガラスが埃で少し汚れているのが遠目からもわかる。庭の手入れもされていないからか、敷地にある木の枝が伸びたまま枯れている。人が住んでいるなら、寒い季節に備えて枝をある程度切り落としているはずだ。

「店長さん、見てきていいですか?」

「あんまりジロジロ見たり、いきなり中入ったりしちゃだめですよ? 万が一のときに言い訳もできなくなりますからね」

 言いながら店長が荷馬車を止めると、タヌはサッと降りて、問題の家がある方へと走った。走って少し経ってから、店長はゆっくり、タヌのあとをついていくように荷馬車を動かす。

 敷地の入り口近くまで来たタヌは身をかがめ、地べたをじっと見つめた。

(キリアンさんとかなら、こんな感じにして見るんだろうけど)

 タヌは何か見えてくるだろうかと集中する。が、見えるのはただ、やや丸目の、でこぼこした跡だけだった。

(やっぱ、ボクじゃ見えないか)

 立ち上がると、今度は敷地の中を覗き見る。枝を切っていない枯れかけた木が敷地の内側をうまく隠しているのか、細かいところはよくわからない。

(あれ?)

 街道と側道が交差する場所の近くに石畳の道がちらりと見えた。タヌはハッとすると、そちらへと走り出した。

(もしかして!)

 タヌは道が交差している場所までたどり着くと、側道がある方へ目をやった。勝手口のような小さな入口扉が壁の一角に見える。

(ごめんなさい)

 タヌは何を思ったのか、位置的にちょうど角にあたる場所に生えた木に登り始めた。

 少し上ったところで、タヌは敷地の内側、木のすぐそばにあるものに目を留めた。

(あっ!)

 タヌはそれを凝視した。井戸だった。しかも、桶が濡れていない上に埃をかぶっておらず、直近で使った形跡があるではないか。

 すぐに木から下りると、道側に出て、タヌは鞄から地図を取り出し、広げた。現実の道と突合して少しずつずれているとわかったあの地図だ。

(もしかして、これ……?)

 井戸の下に、ここも道があるのではないか。それなら使用感がある井戸と誰も住んでいない家のアンバランスに説明がつく。

 ちょうどここで荷馬車が追いついてきた。

「店長さん!」

「タ、タヌさんどうしました? そんないきなり大きな声で」

「あの、ここってもしかして」

 荷馬車に戻って御者台に座ると、タヌは店長にも地図を見せる。

「ん? ……って、タヌさんずいぶんアレな地図を持っているんですね」

 店長の言葉に、タヌは、店長をじっと見る。

「え? この地図、店長さん知っているんですか?」

「ええ。サルヴァトーレさんからずいぶん前にちらっと聞かされた程度ですけどね。さっき話した件と繋がっていて、錬金協会の会長さんが怒ってこの地図を没収しまくって焼き払って、関係者一同粛清したとか何とかって」

「そこに井戸があって、それで」

 タヌの言葉で何かわかったのか、店長は何度か頷いた。

「ああ、つまりその、何ていうか、要するに抜け道みたいなアレですかね?」

 店長はタヌが出してきた地図を覗き込む。

「確かに、これは……」

 ここで、店長は空を仰ぎ見る。何かを思い出したのか、「あっ」と小さな声を上げた。

「そうだ。さっき話したアレと同じくらいの時期、モラタに不釣り合いに人や物が流れているって。仮にその地図の通りの道ですか? それを使っているなら、話が合いますよ」

「店長さん。ここからモラタってどのくらい掛かりますか?」

「そんな遠くはないですけど、荷馬車だったらそうですねぇ。昼前には着くかなと」




 タヌと店長は、荷馬車で一路、モラタへと向かった。

 マロッタから離れるにつれ、西の道に広がる風景は全体的に色がなく、敢えて言うなら灰色のそれだった。北に広がる山側は石灰岩のような感じで、南側の森も枯れていて、そのまま何年か経っているのか、地面も土というより、砂のようになっている。

「何か、寂しいところですね」

「このへんはそうですね。ネスタ山を登る人以外、ほとんど来ませんし、言い方は悪いし、誤解を招きそうなので誰も口にはしないんですけど、その20年前の騒動の件を風化させたいから人を近づけないために寂しくした(・・・・・)んじゃないかって噂も流れたくらいですから」

 証拠を隠すために寂しくするなど、そんな都合のいいことができるのだろうか。話を聞きながら、タヌは考える。

(けど、そんなことが仮にできるなら、ボクがいたレアリ村も……?)

 ひょっとしたら。タヌは疑ったが、それは杞憂だった。

「けど、実際の村は多くはないですが人もいますよ」

「あの、その人たちはマロッタやピルロとかへ行ったりはしないんですか?」

「さっきも言いましたけど、林業やら山間での農業が多いんですよ。で、木材とかは都やマロッタの業者が買い取りに来てくれるし、あまり村からは出ませんねぇ。何というか、都やマロッタの行商人にとってはいい商売ができるところです」

 地元からあまり出ないで外の世界のことは行商人を通して知る。やはりレアリ村に似ている。タヌは頭の中でふたつの町村をずっと比較した。

 空が明るく、南天にダイヤモンドのような輝きが到達しそうになったころ、道の先に小さな町の入り口が見えてきた。

「そろそろ着きますよ」

 店長が明るい声で告げた。


 町の入り口近くで荷馬車を止めると、ふたりは降りた。

「何だ、こぢんまりとしているけど、綺麗は綺麗っていうか」

 レアリ村とは違って、全体的に小綺麗というか、土臭さのようなものが伝わってこない。タヌは人の気配の少なさとのギャップに少し戸惑った。

 店長がタヌの肩をそっと叩いて、声を掛ける。

「よそ者がジロジロ見ている、みたいに思われたら良いことないですよ」

 店長の言う通りだ。レアリ村にいた頃も、覗き見するような感じの人物は村人から歓迎されなかった。タヌが反省したときだった。

「そこのふたり!」

 町の一角から若い男が現れた。丸太のような腕や、服を着ていてもわかるいかつい(・・・・)体つきから、かなりの力仕事をしているのではと察しがつく。

「何をしている」

 いかつい(・・・・)男からの問いに、店長が何と答えたら良いかと思案した。一方、タヌは男が首からぶら下げている鍵型のペンダントトップに目を留めると、何事もなかったように受け答えする。

「ボクたちの知り合いの人がここにいるって言うから……」

「知り合いだぁ?」

「はい」

 言いながら、タヌはポケットから何かを取り出すと、それを見せた。

「これをくれた人です。『用があるならいつでも会いに来て良い』って言ってくれたから」

「……えっ!!」

 いかつい(・・・・)男は、タヌの手にあるものをまじまじと見つめた。

「あっ! いや! 申し訳ない!!」

 それまで威圧感を隠しもしなかった態度が一変した。

「すぐ、呼んできます! お待ちを!」

 タヌへぺこぺこと頭を下げてから、男は奥にある建物が集まった場所へと走っていった。

「タヌさん。一体何やったんですか?」

 店長が小声で聞いた。

「あの人、錬金協会の人だったから、前に副会長さんからもらったものを見せただけです」

「あぁー」

 タヌの説明に、店長が大きく首を縦に何度か振った。

 ほどなくして、いかつい(・・・・)男が別の、黒い外套に身を包んだ若い、金髪の男を連れて姿を現した。一緒に出てきた男は、タヌも店長も見覚えある、いや、よく知る人物だった。

「ああぁ! おはようございます~! 先ほどはどーもどーも」

 顔を確認するや、店長が明るい声を出した。

「あ……ディミトリ、さん」

 タヌが言ったときだった。

「しっ」

 反射的にディミトリが自分の口元に指をやり、静粛を求めた。

「来い」

 小声でそれだけ言って、ディミトリはタヌと店長に来るよう手で着いてこいと合図した。

 ふたりはディミトリに、近くにある石造りの家へと案内された。中に入ると、扉を閉める。中に入って、居間らしき場所の棚を動かし、隠し扉を開くと、中へ入った。タヌたちも続いた。

 隠し扉の向こうは地下への階段となっており、そこを下りて、家数軒分はあるだろう長い廊下を真っ直ぐ歩くと、今度は突き当たりにある上り階段を通って、別の隠し扉から外へ出た。

「ついた」

 そこは、集会場のように広い空間だった。そこかしこに木の箱が置かれており、様々な世代の男性が20人前後、奥の方から木の箱を手前へと持ってきていた。

 タヌと店長は開いている木の箱を見つけると、そっと中を覗いた。

 そこには大量の洋弓銃や、ペッパーボックス式のピストルと銃弾、それに火薬が収めてあった。

「な、何ですかこりゃまた」

「隠し持っていたものを片っ端から出しているってこった」

 ディミトリがいたずらっ子のような顔を一瞬だけ見せてから真顔で切り出した。

「えっと、タヌ、だったよな」

「はい」

「ここで見たもの聞いたことは、洋服屋とあの三つ編みには言って良い。けど、他はダメだ」

 ディミトリの言葉に、タヌは今ここで何のために物騒なものを大量に用意しているのか、想像もできなかった。


280:【MORATA】そこに「大事な証人」が、確かに、いた!2024/01/23 22:44

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