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274:【?????】予想外な展開への片道切符がそれだとは、誰も知らない

前回までの「DYRA」----------

 ピッポに愛想を尽かしたキリアンの助けでDYRAとタヌはマロッタへ急ぐ。道中、トルド村で馬を交換しようとしたが、3人は何とここでアントネッラやキエーザと鉢合わせになった。そしてキリアンが意外なことを明かした。


 キリアンの話が一通り終わると、タヌは気まずい表情を浮かべた。見れば見るほど、聞けば聞くほど、自分の父親が人間性を問われるような振る舞いをしていることが詳らかになっているではないか。穴があったら入りたいという言葉はきっと、こういうときに使う表現かも知れない。内心そう嘆いた。タヌとは対照的に、DYRAはキリアンが単に自分への恐怖に屈して仕方なく行動を共にしていたわけではないとわかり、安堵した。

「全員の言い分が出たところで、どうするんだ?」

 DYRAが聞いたときだった。

「揃ってないわ」

 アントネッラがDYRAをまっすぐ見る。

「あなた、キエーザに何か言いたいんでしょ?」

 タヌはDYRAの気持ちを何となく察する。

(ごめん、DYRA……)

 自分の父親が彼女を精神的に追い詰めていることに対し、タヌは本当に申し訳ないと思う。同時に、結果的に巻き込んでしまったキエーザにも。

「別に。RAAZの部下なんだろう? なら、どうという話でもない。それに、その男の話で言えば、お前に面倒が起こればマイヨの機嫌を損ねるんだろ?」

 DYRAはそう言って、キエーザとアントネッラへどこか醒めた視線を向けた。

(うわぁ……)

 素っ気ないやりとりに見えて、場の空気が恐ろしく固くなり始めている。タヌは内心、どうしたら良いのかと悩む。

(タヌ君)

 声を出さずに口だけ動かし、キリアンがタヌを呼びながら近寄った。

「……なぁ、ちょっとこの空気はヤバイやろ?」

 キリアンから耳打ちされた言葉に、タヌは小さく頷いた。

「……何があったん?」

 タヌがどう答えたら良いのかと考えあぐねたときだった。

「マロッタへ急ぐんだろう?」

 DYRAが言い切った。

「あなたがたも、マロッタへ?」

 そう言ったのはキエーザだった。

「なるほど。奇しくも行き先は同じ、か」

「ちょっと待った。兄さんゴメンな」

 キエーザの言葉をキリアンが制止する。

「こんな人数でさっきの手ぇ使ったら、話が大きくなるで」

「それに普通の馬の速さじゃ……」

 タヌは言いながら、移動を調べるときのお約束のように地図を取り出し、広げた。そのときだった。

「君」

 キエーザだった。広げられた地図を見るなり顔色を変え、息を呑む。

「この地図はどこで手に入れた? どうしてこの地図を持っている? ひょっとして会長からいただいたのか?」

「いえ。違います。食堂のおじさんから前にもらったものです」

 ふたりのやりとりで、キリアンはキエーザがこの地図の意味なり、本当の使い方を知っているのではないかと興味を示す。

「もらった?」

「はい」

「嘘を吐くな」

「え?」

「え? って、え? この地図を本当に知らないのか?」

 キエーザの言葉に、タヌが少しだけ驚く。

「はい。じゃ、ど、どうして食堂のおじさんが?」

「ふむ……。入手の経路は今となっては知る由もないし、調べようもないと言うことか」

 キエーザはタヌから地図を取り上げるように奪い取ると、裏返したりしながら確認する。

「これは錬金協会で昔、一握りの上層部だけが持っていたって噂されていたものだ」

「そうなの? それ、どういうこと?」

 アントネッラがキエーザに問うた。

「20年近く前だかに、協会で事件があってな。秘密の通路の話だ。誰が作ったとか経緯は自分もさっぱりわからない。ただ、とにかくこの地図に会長が激怒して、知っている人間を副会長以外、片っ端から粛正したって」

 副会長と聞いて、タヌは年老いたあの人物を脳裏に思い浮かべた。

「どうして、副会長さんだけ?」

「知るか。会長には会長の思惑があったんだろう。自分は地図のことは存在自体と、おおまかな特徴を知らされていたが、実物は初めてだ」

 キエーザはさらに続ける。

「もしこの地図が生きているなら、一度だけ(・・・・)近道を使えるかも」

「道が、じゃなくて、地図が、生きてる?」

 キリアンが確認する。

「そうだ。地図だ」

 キエーザはそう言うと、人目につかぬよう、馬貸し屋の裏手に回り込んだ、全員、周囲に人がいないのを確認してから後に続く。

「いわゆる運試しだな。星回りが良いことを祈るしかない」

 そう呟いてから、キエーザはランタンの蓋を開けて火を点けると、地図の裏面をそっと近づけ、底面全体をゆっくりとその火で炙った。

「見て!」

 そばで見つめるアントネッラが小声を上げた。

「うわっ」

「え?」

「何だこれは」

 何か漠然とした冴えない地図のそこかしこに、太い道と細い道とが浮かび上がった。

 タヌが持っていた地図から思わぬ情報が手に入ったことに、その場にいた一同は驚きを隠しきれなかった。

「これもしかして……」

 都の西側を指している部分を見て、キリアンがハッとした。

「この太いの、ひょっとしてトロッコを敷設した道じゃないんか?」

 DYRAとタヌもまた、何かに勘づいたのか、互いに顔を見合わせる。

(もしかしてこれ、井戸の下にあったあの道のことじゃ?)

(地下通路の隠し地図だったのか!)

「どういうことだ?」

 キエーザが問う。しかし、キリアンがすぐさま首を横に振る。

「細かい話はあとで説明する。これ、太いところは、馬より速い移動手段があるとこや」

「今は使えるものは何でも使うしかない、か」

「行きましょう」

「ああ。ピッポさんがオレに教えたのは都の端っこから西の果てへ行くところだけや。だから、オレらがここを使うなんて夢にも思わないはずや」

 使うしかない。タヌ、キリアン、アントネッラ、キエーザが互いの顔を見た。

「出入口を見つければ、何とかなる、か」

「地図がずれているのはもしかして、最寄りの入口を町や村の印で誤魔化しているとか?」

「それやっ」

 やることは決まった。あとは入口を見つけて移動するのみだ。

「では一緒に」

 キエーザが言ったときだった。

「確認させろ」

 それまで四人の様子を見守っていたDYRAだった。

「お前たち、今、誰かから追われているか?」

 アントネッラを見ながら質問をするDYRAに、タヌはすぐに思い出す。



「一足遅かった。錬金協会の連中が来て、アントネッラをどこかへ連れ出した後だった」



 ハーランに錬金協会が乗っ取られたまさにその翌朝、マイヨがネスタ山で告げた言葉だ。

「『追われていない』と断言することは、できないわ」

「フランチェスコで、彼女を取り返して逃げてきた」

 アントネッラが告げ、キエーザが補足した。

「オネエチャン。まずくないか?」

 キリアンが問うと、DYRAは頷いた。次にキエーザを見る。

「お前、RAAZの部下なんだろう? なら頼みたいことがある」

「何か」

「その女をマイヨの元へ届けるなら、タヌも確実に無傷でRAAZのもとへ送り届けろ。タヌが五体満足ですべて揃った状態でないとあの男が困る」

「え。DYRA、どうして? 一緒に行くんでしょ?」

 タヌは問う。DYRAはすぐさま首を横に振った。

「そんな秘匿性の高い通路なら、大人数で使ったとバレたらまずいだろう。なら、誰かがピッポやハーランの目を引く必要がある」

「確かに、ラ・モルテなら一番人目を引くわ。注目がそっちに集まれば、さすがの髭面だって私たちどころじゃなくなるはずよ」

 アントネッラが言う。

「タヌ君は私たちが責任を持って錬金協会の会長のところへ届けます」

「頼む」

 アントネッラの言葉にDYRAは少し棘がある口振りで返した。

「せっかくだし、できることなら、この機会に髭面をやっつけてくれると有り難いんだけど」

「アントネッラさん。気持ちはわかりますが、今それを要求するのは現実的じゃないです。相手はジャカも追い詰めたほどですから」

 キエーザが窘める。アントネッラは首を横に振ってから、改めてDYRAを見た。

「私があなたにやったことがひどいことだって、それはわかっているの。それでもあなたに、これだけは言わせて。ひとつくらい、私たちフツーの人たちの役に立つことをしてほしい」

 DYRAが聞いていることを確かめ、さらに畳みかける。

「錬金協会の会長は、何だかんだ行きがかりはあったけど、山崩れがあったとき、子どもたちを助けてくれたわ。マイヨは私たちにとって間違いなく恩人。でも、あなたは? 人に感謝されるようなこと、ひとつくらいしてる? お兄様から聞いたわ。昔、トレゼゲ島を沈めたのもあなただって」

 トレゼゲ島。この言葉を聞いた瞬間、DYRAの眦が一気に上がった。

「アントネッラさん。止めて下さい」

 タヌは、半ば反射的にアントネッラの言葉を遮った。

「今は、急がなきゃって話ですよね?」

「あっ……」

(まっずいことになったなぁ。ったく嬢ちゃんってば余計なこと言ってくれちゃって!)

 表情の動きを見逃さなかったキリアンが天を仰ぎ見た。このとき、彼が深い溜息を吐いたことに気づいた者はいなかった。

 キエーザも今のやりとりをRAAZやマイヨが聞いたら彼らはどういう反応をするだろうと想像し、渋い顔をする。

(えっ……)

 タヌは、DYRAの表情を見ると、言葉にできない何かを感じると、胸がざわついた。

 DYRAは、その場にいる4人が何を思っているかなどお構い無しに彼らへ背を向けた。

「私はこれから目立つようにフランチェスコへ行く。その間にお前たちはマロッタへ急げ」

 それだけ言い残すと、DYRAは馬貸し屋から離れ、ひとり、街道への道を歩き出した。


 背を向けて歩くDYRAが僅かに肩を振るわせていることも、その目に大粒の涙が浮かんでいることも、彼女の背中を見送った誰ひとりとして、気づかなかった。


274:【?????】予想外な展開への片道切符がそれだとは、誰も知らない2024/01/05 15:16

274:【?????】予想外な展開への片道切符がそれだとは、誰も知らない2023/09/29 00:19

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