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271:【?????】往々にして思わぬところから真実は漏れてくる

前回までの「DYRA」----------

 突然、海の向こうに光る塔が現れ、RAAZも出現した。だが、ピッポは決して引き下がらず、容赦なくタヌへ引き金を引く。ロゼッタはタヌを守るため深手を負い、ピッポを止めようするキリアンも怪我を負う。怒れるDYRAは、自分でピッポを仕留めようとするが、またしても逃げられた。


 空にアメシスト色の帳が下りたにも拘わらず、海の向こうに現れた光る棒、もとい、塔のせいで昼のように明るくなった岩と砂とが混じった海岸線。DYRAとタヌはキリアンが怪我なく無事であることに複雑な顔をした。

 3人は、まだ消えていなかった焚き火の前で話す。先程から変わらず、海の向こうの塔は輝き続け、夜とは思えぬ明るさをもたらしている。

「ピッポさんは逃げたか」

 キリアンの言葉で、ふたりは少しだけ身構える。

「おっと。待った、待った」

 両手を胸の高さに挙げ、手のひらを広げてキリアンがふたりを制する。そんな彼に構わずDYRAは剣を握り直す。

「オネエチャンの怖さは良ぅわかった。あれは、言葉で説明できん」

 キリアンは大きく頭を振った。

「それで? こちらとしてはピッポがどこへ逃げたかを含め、お前が知っていることを聞ければお前に用はない」

「ちょっ!」

「安心しろ。別に用がないから殺す、とは言っていない」

 DYRAの言葉にキリアンが胸をなで下ろした。

「だが、知っていることは教えてもらう」

「うーん」

 キリアンは天を仰ぎ見ながら唸ると、切り出す。

「ま、ピッポさんのことだ。多分、自分を庇ってオレが死んだって思っているだろうしな」

「それで?」

「タヌ君に役に立つかはどうだか(・・・・)な。オレが知っていることなんて、ほとんどない。それも聞いたら胸クソ悪くなる内容ばっかりかも。『情報』ってより『愚痴』ばっかりだから」

「キリアンさん。あの、ひどい言葉なら覚悟できています。父さんが何であんな風になっちゃたのか知りたいし、ひどいことをしようとしているなら止めたい」

 タヌはキリアンをまっすぐ見てからぺこりと、だが、深々と頭を下げた。DYRAはキリアンへの警戒心を解くことなく様子を見る。

「お願いします!」

 キリアンはそんなタヌを見て思い返す。ラ・モルテ(死神)やRAAZまでも動かしたほどの、父親を捜すその執念。並々ならぬものだ。

「話せることはホント、ないに等しい。けど、オネエチャンがいれば大丈夫だろうし、ちょっとすぐそこまで歩こっか」

「こんなところで、どこまで歩けと?」

「さっきの話、なるはやで(・・・・・)マロッタへ着けばええんやろ?」

 DYRAは敢えて何も答えない。

「俺らが陸路だったのに、どうやってあの人に追いつけたか、気にならんか?」

「どういうことですか?」

 キリアンの言う「あの人」がロゼッタだと察したタヌが尋ねる。聞いているDYRAは「陸路だったのに」のくだりが引っ掛かった。

「ホントならここで『取引や』と言いたいトコだけど、まずはタヌ君へのお詫びをせんとならん。見せておいた方が良さそうなモンってことも兼ねて」

 3人が海岸を崖に沿って南へと、ものの15分ほど歩いた。

「何にもないけど……」

 タヌが言いかけたとき、キリアンが崖の一角を指差した。

「ここが、カラクリや」

 DYRAはすぐに気づいた。キリアンが差した箇所は崖の下の風景としては僅かに違和感を醸し出していた。

「隠し扉?」

 考えもつかなかった言葉に、タヌはまじまじと問題の場所を見つめた。

「え? どういうこと?」

「ここらを知らない奴はそもそも誰も近づかんからともかく、知っている奴も『アニェッリの西から外に出ても崖しかない』ってんでやっぱり誰も近寄らない。けど、それがそもそも『誰も近寄らせない』ことが目的だったら? ってこった」

 キリアンの言葉でDYRAは何となく理解する。

「つまり、アニェッリの西門から外へ出てそう遠くないところに、秘密の道がある、と?」

 タヌは何かに気づいたのかDYRAを見た。

「DYRA、もしかしてこれって」

 しかし、DYRAは鋭い視線でタヌを一瞥する。これで何かを察したのか、タヌはそれ以上言葉にするのを止めた。

「ん?」

「いや、何でもない」

「それくらい想像つくって。『隠し扉の向こうに道がある』と考えたんやろ? レアリ村の、タヌ君の家の井戸みたいに見えるってことやろ」

 キリアンは続ける。

「ここはアレとは違う。ホント、アニェッリの西と繋がっているだけ」

 そう言って、キリアンは隠し扉を開く。内扉が現れたので、それも開くと、4人くらいなら並んで通れそうな広い通路が現れた。見るからに掘っただけという感じではない。地震などが起きて崖が崩れても圧死することがないよう、壁や天井は強化されているのがわかる。

「あれは、何?」

 通路の少し奥あたりから床に溝が二本ある。さらに奥になると、床が坂のようになっているからか、良く見えない。時代が時代なら埋め込み式レールが敷かれていると表現されるだろう。その上には人が数名入る木製の、車輪がついた箱がある。箱の中にはシーソーを思わせる漕ぎ手があり、その周囲には見たこともない赤や白の線が箱の裏側へと繋がっている。

「トロッコ?」

 DYRAが呟いた。

「トロッコや」

 キリアンがほぼオウム返しで答えた。

「奥は、下り坂になっている?」

「当たり。それで勢いをつけてスピードが出る。向こう側も同じようになっていてな」

 出発時に加速、到着時に減速するためだとDYRAとタヌは理解した。これを使えばピッポは目立たずここへ移動できる。ふたりはここも合点がいった。

「これがアニェッリの西の崖のあたりで繋がっているということか?」

「正確には、カモラネージ村とアニェッリを繋ぐ街道の北にある森の中や。それだけじゃない。切り立った地形になったトコには崖をくりぬいて作った昇降機もある」

 まさかそんなものまであるとは。DYRAは唇を噛んで苦い表情をした。タヌは一体何なのかと尋ねたげにキリアンを見た。

「昇降機っつーのは、上と下を移動するもん。理屈は井戸のつるべと一緒や」

 キリアンの説明でタヌはすぐにどうやって動いているのかわかった。

「ロープが切れたら終わりだな」

 DYRAが苦笑したが、キリアンは首を横に振った。

「普通の麻縄じゃなかった。ちょっとしか見えなかったが、重しと移動の箱を繋いでいるのは見たこともない黒い縄。縄って言い方も変か。それでところどころ、鉄が混じっていた」

 DYRAは内心、嫌な予感を抱いた。

「まー何だ。オレは死んだことになっとるやろ。それに、トロッコがここにあるってことはピッポさんも使っていないと見てええやろ。ここも昇降機も今すぐ使えば多分誰も来ないやろ。早よ行こ」

 キリアンに連れられて、ふたりはトロッコに乗り込み、早速動かす。初速をつけるまではDYRAとキリアンで漕ぎ手を使って操作する。トロッコが動き出し、坂を下り始め勢いがつくとそこからは速かった。平らな場所になっても人が走るより圧倒的に速い。時折漕いで、速度を維持させる必要があるものの、駆け足の馬くらいの速さを安定的に維持している。

「DYRA。これなら足場の悪い岩場を歩くよりずっと速い。しかも遠回りもしないし」

「そうだな」

「ピッポさんは誰が作ったのかとか、そういう話はまったくしなかった。けど、乗ってわかったと思うけど、普通のふたりで漕ぐヤツと違って、こいつは時々漕げばずっと動く。不思議やろ」

「『文明の遺産』を使った?」

 タヌが呟くとDYRAとキリアンは頷いた。彼らは知る由もないが、トロッコの裏側にはモーターや回生ブレーキが仕込まれている。

「そうだろうな」

「ピッポさんのことだ。そういうモンが欲しいから、必死なんやろな」

 キリアンの言葉で、DYRAとタヌはここを作ったのは誰かをそれぞれ考えた。

(RAAZなら、知っているなら教えただろう。ならば……)

(これ、父さんが使ったってことはハーランさんも噛んでいるのかな?)

 この後、1時間もせず、トロッコは目的地へ着いた。

「ちょっと待ってな」

 キリアンが様子を見ようと先に単身で外へ出た。DYRAとタヌは扉から外を覗く。少し経って手を上げる仕草が見えたところでふたりも外へ出た。

 話で出た昇降機はほど近くにあった。すでに夜なのであたりは暗いものの、海の向こうに現れた塔のせいか、気持ち見える程度の明るさはあった。だが、光が届くのはここらあたりまでだろうと思う。

「何か、不気味やな。今は夜で、ここは森の中や。なのに真っ暗じゃなくて、ランタンがなくても通れる」

 キリアンの独り言だったが、DYRAもタヌもその通りだと思う。

 昇降機の箱にあった引き戸を引いて乗り込むと、キリアンが扉の脇にあったレバーを下に動かした。すると、昇降機が上へと上がり始めた。

「うわあああっ!」

 驚きの声を上げるタヌとは対照的に、DYRAは無反応だ。

「オネエチャン。怖くないのか?」

 キリアンがこの後どう動くかわからないのだ。余計なことを言ったり感情を顔に出す必要はない。DYRAはただ、頷くだけだった。

「タヌ君じゃないけど、オレも最初はめっちゃ怖かった」

「本当に上で止まるんですか?」

 止まらなかったらどうしよう、空までいくのだろうか。あれこれ思い巡らせながらタヌは問うた。

「大丈夫。さっきも問題なく下りられたから、上がれるやろ」

 何となく根拠のない言い方に、タヌは「えぇー」と小声で漏らした。

 上がっていく感覚がずっと続くのだろうか。そんなことをDYRAやタヌが思ったとき、突然、グラリと箱が揺れ、止まった。

「お、着いたぞ」

 キリアンがそう言って、先ほどと同じように引き戸を引き、扉を開くと、一足先に外へ出た。人や獣の気配もない。DYRAとタヌへ手招きをした。

「行こ。タヌ君たち、マロッタへ行きたいんやろ?」

 外へ出たふたりはキリアンと共に、アニェッリの西門へと向かった。近づくにつれ、さざめきともざわつきとも取れる声が微かに聞こえてくる。

「ねぇDYRA」

「何だ?」

「これからどうなるんだろう? そう言えばDYRA、外でざわざわした声が聞こえるけど、やっぱり夜なのに暗くならないからビックリしているのかな?」

「いや、さっきの森のあたりで光はもう届かない。街の人間はほとんど気づいていないだろう」

 ここで、キリアンが面食らった顔をする。

「タヌ君。西の都は、マロッタより大きいんやで」

 言われてタヌはハッとした。そうだった。西の都だった。このときタヌはふと、ピルロのことを思い出す。あの街も決して小さいとは言えない。

「皆、大丈夫かなぁ」

「タヌ。目の前のことをひとつずつだ。今はマロッタで合流するんだ」

「そうだね」

 DYRAの言葉に、タヌは頷いた。

「ロゼッタさんも、大丈夫かなぁ」


271:【?????】往々にして思わぬところから真実は漏れてくる2024/01/05 15:13

271:【?????】往々にして思わぬところから真実は漏れてくる2023/09/05 00:45

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