027:【FRANCESCO】タヌの両親って、どんな人?
前回までの「DYRA」----------
DYRAとタヌは都会フランチェスコへ到着。夜の到着となったので、宿屋を探しまわるが、当たり屋に遭遇したり面倒事が絶えない。そのとき、通りすがりの小太りのメイドが宿屋の場所を耳打ちしてくれた!
タヌが風呂から上がったとき、すでに時計の針は一一時を指していた。
「タヌ」
廊下側と窓側に二つ並べて配置されたベッドの一つへ潜り込んだタヌを見ると、DYRAは窓際のベッドへと移動しながら声を掛けた。
「何?」
「さっき馬車で話そうとして、話しそびれた。お前の両親のことだ」
タヌの方を見ることもなくDYRAは問いかけた。タヌは小声で返事をしてから、話す。
「サルヴァトーレさんにこんなこと言ったら怒られちゃいそうだけど」
DYRAは窓のカーテンを閉めつつ、耳だけを貸している。
「サルヴァトーレさんに言われるまで、ボク、『父さんと母さんを捜したい』って考えても口にすることさえできなかった。だって、『できっこない』とか言われたらどうしようって」
DYRAは敢えて何も言わず、ベッドに腰を下ろす。
「DYRA。ありがとう」
「別に」
DYRAにしてみれば、タヌが一緒について来ることを許した理由は、同情のみではない。もしかしたらRAAZを追うにあたり、役に立つかもしれない。何か関係があるかもしれない。そんな思惑も多少はあった。その根拠は、メッセージカードがタヌの家を指し示していたことと、タヌの父親が自宅の部屋に残していた『鍵』の存在だ。金に加えて水晶かガラスにも似た透明な素材でできており、その見た目は錬金協会の紋様と酷似している。ひょっとして何かの手掛かりではないのか。そんな気がした。事実、偶然か意図されたものかはともかく、RAAZと邂逅した。それだけではない。サルヴァトーレなる姿で現れると、記憶がどこかあやふやな自分のことを知っていると仄めかしてきた。その上、タヌと行動を共にしろとまで言ってきた。踊らされるのは気に入らない。それでも、自分がタヌの両親捜しに手を貸すことで、RAAZを追う理由も含め、自ずと「次」が見えてくるに違いないと考えてのことた。
「タヌ。お前は父親が何をしていたのか、本当に何も知らないのか?」
「うん。前にも言ったと思うけれど、父さんは時々、どっかへ行っていた。出かけた日に帰ってくることはなくて、戻ってくるのはだいたい七日目か一〇日目くらいだったんだ」
タヌの住んでいたレアリ村から隣町のピアツァやルガーニ村程度ならともかく、馬車などを使ってそれなりの都会、それこそ西の都アニェッリや、それに匹敵する規模を誇る大都市マロッタへ行くなら、早馬を使っても往復の移動に二日前後を使う。乗合馬車程度の速さなら二日半、場合によっては三日を使うことにもなりかねない。
しかし、DYRAはどこか腑に落ちない。
「どこへ行ったとか、そんな話をしたことはなかったのか?」
「全然。父さんはそういう話をしたことが一度もなかったんだ」
「土産のようなものは?」
「一度もないよ。そんなの」
タヌは、今ここで寝てはいけないとばかりに、上半身を起こそうとしながらDYRAの方を見る。
「お前の父親が出かけるようになったのは、いつくらいからだ?」
「小さい頃からずっと、だよ?」
「それから以前、お前の母親は確か、冬に出かけて春に戻る、と言っていたな?」
「うん」
「それも、小さい頃からか?」
「そうだよ」
「では、冬の間、両親が揃って家にいなかった、と?」
DYRAの質問に、タヌは首を縦に振った。
「うん。冬の間はほとんど。一緒にいることは本当に、たまにあったくらいかな。でも、母さんが戻ってくるときは、父さんも三日か四日のうちには戻ってきていた」
DYRAが今まで聞いていなかった情報だ。冬の間、母親がまったく帰ってこないわけでもないとは。それにしても、どこで何をしているのか、DYRAは皆目想像できなかった。
「そうか」
DYRAはここで一度、頭の中でタヌの話を整理する。まず父親だ。我が子にどこへ行って何をしていたのかを言わないし、土産すらもない。幼い我が子を可愛いと思えば、ささやかな土産話の一つでも用意しそうなものではないのか。ここまで徹底しているあたり、後ろ暗いことも含め、秘密保持の観点から誰にも話せないようなことをしていた可能性も絶対ないとは言えない。また、父親が出かけている期間についても引っ掛かる。母親がいない冬の時期、彼女が戻ってくるあたりは比較的早めに戻る点だ。
(冬の間は、必ずしも遠くへ行ったとは限らない?)
ここまでの話で疑問が消えない点はまだある。ピアツァで話をしたとき、タヌは父親が農家で生計を立てているのではなく、何かの研究らしきことをしていると言った。
(調べ物だけで都合良く金が入るとは思えない)
農家であれば、村で別の作物を作っている相手と物々交換をするなどで食べ物には困らない。しかし、そうではないなら、対価としてのカネが必要になるはずだ。村人だって、家族が留守で生活力など見込めぬ子ども一人ならともかく、何をしているのか定かでない家族に年中食べ物を分け与えるほどお人好しとは思えない。
(考えられるとすれば)
タヌの父親は錬金協会へ赴いて自らの研究成果と引き替えにカネを得ていたのではないか。話を聞く限り、タヌの家族が生活の糧を得る手段はそれが一番合理的だ。仮説にしては荒いものの、DYRAは大筋だけなら外してはいないだろうと考える。
(恐らく、タヌの父親と錬金協会の関係は、かなり深いんじゃないか?)
だが、この考えで進めていくと、辻褄が合わないことが出てくる。
(RAAZがタヌの父親の存在をまったく知らない?)
DYRAは浮かび上がった疑問をすぐさま却下する。錬金協会は一枚岩ではない。少なくともRAAZと思惑を異にするとおぼしき存在、または勢力がいる話があったではないか。
(もしそうなら)
タヌの父親はどちら側に近い存在だったのか。村を焼いた連中は、ピアツァでの出来事からRAAZ側でないことが明らかだ。しかしながら、その一方でタヌから聞き出した言葉、「御館様のお相手に手を出した」がある。この「御館様」がRAAZの可能性も否定できない。これについては現時点で事実上、考える取っ掛かりがないに等しい。
(どちらにしても)
タヌの両親を捜すとなると、思ったより調べることが多い。錬金協会が絡んでいるなら、機密という点からも一筋縄ではいかない。錬金協会がどんなところかも含め、思い込みを捨ててゼロから探る必要がある。DYRAは自分の中で、今後どこから手をつければ良いかの考えをまとめていった。
「タヌ」
呼びかけたが、返事はない。
「タヌ?」
DYRAが直前に見たのは、先ほどタヌが上半身を起こそうとしていたところまでだ。どうやら疲れているのか、そのまま眠ってしまったようだ。タヌの寝顔を見ながら、DYRAはブランケットを彼の肩までそっと掛けた。
(錬金協会、か。そもそも、どんな連中がいるところなんだ?)
あれこれ考えながら、DYRAもベッドに入った。
改訂の上、再掲
027:【FRANCESCO】タヌの両親って、どんな人?2024/07/23 23:09
027:【FRANCESCO】タヌの両親って、どんな人?2023/01/05 16:22
027:【FRANCESCO】語り合うふたり(2)2018/09/09 13:44