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268:【OPERA】タヌが父親を追った先で待ち受けていたこと

前回までの「DYRA」----------

 RAAZたちと別れたDYRAとタヌは、ピッポを追い掛けるべく、アニェッリの港へまず向かった。死神と蔑まれ、人助けをしても罵られてもなお、決して人々に憎しみや怒りの矛先を向けなかったDYRAの「徳」がここで還元された!?


 しばらくして、アニェッリの港から1隻のヨットが出航し、西へと向かった。

「この船は小さいけど、サルヴァトーレさんのところで特注で作ってもらった船です。風に乗れれば普通の帆船よりずっと速いです。それに夜、遭難した船を捜索する時にも使えるように特別あつらえのランタンも装備してあります」

 チーロからの意外な説明に、DYRAとタヌは我が耳を疑った。

「サルヴァトーレさんって、洋服以外も作るんですか!?」

「ものすっごいお金を払わないといけないみたいだけど、頼めるらしいですよ。それだけじゃなくて自分は行ったことないんですけど、マロッタの食堂には他のお店にはないようなすごい石窯があって、それもサルヴァトーレさんが発明したって」

 マロッタの食堂と聞いて、ふたりはそれぞれ、内心でどの店の話をしているのかあたりをつけた。

(なるほど。RAAZも『文明の遺産』の一部でカネ稼ぎか)

 自分は抜かりなくカネを稼ぐのかとDYRAは呆れつつも、悪印象を持たなかった。産み出したものを研究し技術を模倣する者も必ず出てくるだろう。そうすれば結果的に「自力で」作れるようになる。それを狙っているのではないか。そう考えれば安全な形にしての基礎技術の切り売りもやりようだ。あのピルロみたいに、自分たちが何を使っているのか、どういう作りなのかすらわからず弄ぶよりよほど生産的だからだ。

「あ。あそこがカモラネージ村です」

 ヨットを操縦しながらチーロが右手に見える陸地を指差す。遠目に小さな港が、さらにその向こうに何軒かの建物の屋根が見える。

「西の果ての村……」

 タヌは遠くのその風景を見ながら、ふと思う。

(あそこが、レアリ村にあたる場所になるのかな?)

 知っている地図の範囲では、東端はレアリ村だった。そう考えれば、西端は今見えるカモラネージ村ということか。ひょっとして、チーロが言った海の真ん中の謎めいた場所は、この前見た東の果ての森を抜けた先の見えない建物みたいなところではないのか。タヌはあれこれ考え始めたが、行ってみればわかることだとすぐに止めた。考える優先順位はそこではない。

(今度こそ父さんを)

 だが、父親の身柄を確保したところで、RAAZは殺すと宣言している。そしてこればっかりはDYRAやマイヨへ助けを求めることができない。

(でも)

 タヌの父親は、RAAZの目の前で、DYRAに対して言葉の暴力を何度となく浴びせ、さらに物理的にも彼女を襲おうとした。一歩間違えれば最悪の事態になっていた。タヌはその光景を思い出す。

(そうだった……)



「ガキ。今、DYRAを止めるか? もしそれをやれば、彼女の尊厳を対価にお前の親父を助けろと言ったことになるぞ?」



 本当に父親を助けるつもりならDYRAへ泣きつく、いや、彼女の寛大さに縋るしかない。しかし、それをやれば命の恩人に対し、恩を仇で返すことになってしまう。人として最低なところまで落ちてしまうのだ。やはり、再会したところで父親をはRAAZの手で殺されてしまう以外の結末が存在し得ないのか。どうやったら、父親の命とDYRAの尊厳が完全に紐づいた現状を解くことができるのか。

(父さん……)

 陽は静かに傾いていき、空はシトリン色が交じり始めた。




 同じ頃。

「親父。それにしても随分遠くに来ちゃったもんだ」

 ピッポとキリアンに追われたロゼッタを助けた漁船の中年漁師が天を仰ぎ見、呟いた。年老いた漁師も少し濁った感じなシトリン色混じりの空へと目をやった。

「こんなところまで来ちゃったけど、そろそろ戻るかい? もうこんな時間だ。今から戻ればあのならず者も追い掛けて来ないだろう。まぁ、遅くなってしまうのは申し訳ないがね」

 漁師親子の言葉に、ロゼッタは空を見てから告げる。

「本当に、助けて下さってありがとうございました。ですが、あの村の港でずっと待ち伏せなんてあったら怖いですし。何より、これ以上巻き込んでしまうのは本意ではございません。どうぞここらで下ろして下さい」

 ロゼッタは謝意と共に、丁寧に伝えた。

「こ、こんなところで!? それじゃあお嬢さんが夜までに戻れないよ?」

「そうだよ。まあここは海沿いだからアオオオカミが出る心配もないし、地図に描いてない場所だから夜盗も来ない。けど、もう暗いよ。間違いで波に攫われたら大変だ」

「いえ。万が一にも助けて下さったあなたがたを巻き込んでしまったら、私がお詫びもできなくなってしまいます」

 言いながらロゼッタはアウレウス金貨を取り出すと、2枚ずつ、漁師に手渡そうとする。

「せめてもの、御礼です」

「それは受け取れないよ」

 年老いた漁師がそう言うと、先の方を指差した。

「そしたらどうだね? もうちょっと行ったところに洞窟があってな。そこの近くで一夜を明かすのが良いかも知れん。あそこなら岩場だが比較的足場も良い。人も来ないしな」

「じゃ、ちょっと網を下ろそう」

 中年漁師はそう言って、今晩の食事をとばかりに網を海へ下ろす。

「そ、そんな! 私のためにわざわざ」

「お嬢さんを放って帰ったら、わしら枕を高くして眠れん」

「そうですよ。こうして出会ったのも何かの縁だ」

 気持ちは有り難いがそれは困る。ロゼッタはどう言って断れば良いのか悩んだ。人の良さそうな漁師の厚意をこれ以上無碍にするのも如何なものか。それに、目的地の近くまで送ってもらえるのは幸いでもある。

(彼らが寝静まった隙に)

 下ろされた網を中年漁師が引き上げる。数匹の魚が引っ掛かっていた。

「夕飯には充分だな」

「よし、じゃ、丘へ上がるぞ」

 年老いた漁師は船を静かに海岸線の方へと向け、接岸させた。ロゼッタと漁師たちは漁船を下りると、満潮になっても波が来なさそうな、安全な場所まで移動する。中年漁師が周囲で木のクズなど、燃やせそうなものを探した。空にアメシスト色のカーテンが見え始めた頃に戻り、火を起こす。その焚き火で魚を焼き始めた。

「それにしてもお嬢さん、災難だったな」

 気遣いの言葉にロゼッタが頷いたときだった。

「……」

「……」

 遠くの方から人の声が聞こえてきた。

「ん?」

 話している内容はわからない。が、僅かに見える人影から、近づいてくるのが男ふたりであることはわかった。

「あっ」

 ロゼッタは聞こえた声で誰が来たかを察知する。すると、彼女の表情の変化を見た漁師らも異変に気づいた。

「まさか。それは気のせいじゃろ」

「でも親父」

 それまでとはまったく違うロゼッタの様子に、中年漁師は驚き、彼女の巡り合わせの悪さを哀れんだ。そして、年老いた漁師をせっつく。

 年老いた漁師は、空の色が暗くなりつつあってもなお見える岩場の一角を指差した。

「お嬢さん。向こうに洞窟がある。そこに隠れていなさい。私たちが追い払うから」

「大丈夫になったら呼びに行く。さ、早く。ここは任せて」

 ふたりの漁師にせかされ、ロゼッタは立ち上がった。中年漁師に背中を押され、そのまま洞窟がある方へと走り出した。

 ロゼッタの姿が見えなくなった頃とほぼ時を同じくして、話し声の主たちの姿が漁師たちの視界に入り始めた。遠目から見て、中肉中背とやや背が高い人物だ。

「──で来たな」

「──まで歩かせる気ぃ?」

「──まぁそう言うな」

 だんだんハッキリと声が聞こえてくる。漁師たちは何食わぬ顔をして焚き火を囲み、魚を焼きつつ、視線だけで近寄ってくる人物を見る。

「焼けた」

 中年漁師が年老いた漁師へ焼けた魚を差し出した。いよいよ声が会話内容まで明瞭に聞こえるようになる。

「──ピッポさん。こんなところに何があるの?」

「──東の果てにも『文明の遺産』はあったんだ。西の果てにだってあるさ。お前は詳しいことを知らなくて良いよ、ヴェントゥーラ」

 焚き火を囲むふたりはここで、話しながら近づいてくるふたりの男の姿を確認した。ひとりは棒か何かを持っている。

 と、ここでそれまで聞こえた会話がピタリと止まった。


「……ピッポさん。見てみぃ。何か、焚き火囲んでるふたり組がおる」

「こんなところで?」

 朝、ロゼッタを取り逃がしたピッポとキリアンは、カモラネージ村から途中までを海路で移動し、その後、陸路でここまでたどり着いた。

「いるはずがないヤツがいる。見られたらまずいな。ヴェントゥーラ。始末できるか?」

「ピッポさん。むやみやたら殺すのは良くないよ? ホラ。そこに漁船も泊まっている。もしかしたら漁船に何かあったか、そうでなけりゃ漁師が『腹減った』って手近なところで船から下りてってだけかも知れないじゃん」

「ダメだ。無関係の目撃者は全部始末だ。お前の役目は俺を守ることだろ?」

 これまでは無関係の人間に見られたとしても、何も知らないまま終わるのであれば特に問題なかった。なのに、ここに来て何故なのだ。キリアンはピッポへその疑問をぶつける。

「あの人たちはピッポさんを襲ってないよ? それどころか、襲う気だってなさそうだ」

 そう言ってから、キリアンは任せろと言わんばかりの笑顔を浮かべると、焚き火を囲む漁師たちの方へ駆け寄って声を掛ける。

「おいちゃん、おいちゃーん!」

 そのまま焚き火のそばに立つと、キリアンはふたりを見た。案の定、焼けた魚を手にしている。

「ああ、ゴメンね。飯食うところだった?」

「おお、こんなところに人が来るのか」

 年老いた漁師がキリアンを不審げに見る。

「全然獲れなくてな、晩メシ分にしかならん。今日はもう、徒労に終わったせいで疲れたんだ」

 中年の漁師もそう告げると興味なさそうに魚にかぶりついた。

「ああ、別に飯を恵んでくれとか、そういうのじゃないって」

 言いながらキリアンは足下や焚き火回りなど、暗くなりかけた空の下でまだ少しでも見えるところをざっと見回す。

「おいちゃん。もうひとりは用足しでも行ったんか?」

「ん? わしらはふたりだけじゃよ」

 年老いた漁師がそう告げて、焚き火で気持ち焦げた魚を手に取ったときだった。

「嘘ついちゃダメだよ?」

 キリアンは口元に笑みを浮かべつつ、真剣な目で切り返す。

「はて。何を言っているんだか?」

「兄さん、見ての通りの漁船だ。そう何人も乗れないよ」

 漁師親子が訝るような表情で告げたが、キリアンは手にしたとび口の持ち手を伸ばすと地面の一か所を指した。

「この、ちょっと濡れた砂利がついた靴跡は、どう説明するのかなぁ?」

 それは焚き火から数歩分離れた場所から奥へと向かって一定距離毎に見える痕跡だった。海から上がったとき、濡れた靴底に付着したものだろう。キリアンはさらに続ける。

「海側のこっちは似たような跡がやったら多い。多すぎて見落とすところだったくらい。けど、奥へはまだ残っていて少ない。ざっと見て、海から3人で上がって、ひとりだけ奥へ行った、じゃないかな?」

「何を寝ぼけたことを」

「この肝心のひとつと、ちらかったそっちの跡にあるのと比べても明らかに小さいし、女の人でしょ? ……当たりかな?」

「漁船に女?」

 年老いた漁師が笑い飛ばそうとするが、できなかった。キリアンは持っていたとび口を焚き火の方へ向け、小声で告げる。

「……しらばっくれても、オレには通用せんよ? 朝、港で会ったん、忘れたんか?」

 そこへ、ピッポも到着した。

「どうした? ヴェントゥーラ」

「んー。このふたり、ツレに女がいるっぽいんだけど、ここにはふたりしかいないんだよねぇ」

 芝居がかった口調でキリアンが答えると、ピッポが告げる。

「あの馬の骨の走狗、もうここまで来ていたってことか」

「ま、船で来たならアリでしょ」

「ここにいないってことは」

 ピッポが苦い顔をすると、奥へと走り出した。

「ピッポさん!」

「ヴェントゥーラ! 後始末は頼んだ! 俺はあの女を!」

「いやそれは……」

 ピッポは振り返りもしなかったし、キリアンの言葉を聞かなかった。

「あっちゃー」

 足早に姿を消したピッポの後ろ姿を見ながら、キリアンはぼやいた。

 ここで漁師たちが立ち上がった。

「あんたら、何なんだ?」

 年老いた漁師が切り出す。その間に、中年の漁師は何かを取りに漁船へ戻った。

「おい! あれ見ろ!」

 中年の漁師が声を上げ、指差した。沖合にぽつんとほのかな光がひとつ。こちらの方へスーッと近づいてくるのが見える。

 そのときだった。

「うわっ!! おいちゃん何するん!!」

 キリアンの悲鳴に、中年の漁師が漁船へ行こうとした足を止め、慌てて駆け戻った。

 中年の漁師の目の前で、先端が赤くなったとび口を構えるキリアンと、松明状になった木を掴む年老いた漁師が対峙、木ととび口が交じわっている。

「親父っ! おいお前っ! 何しやがるんだ!」

 キリアンがとび口で襲いかかったのを、年老いた漁師が木で受け止めたのだと思った中年の漁師がすぐさま加勢しようとキリアンへ殴りかかる。

「おいおい! 待った待った! いきなり来たのはこのおいちゃんからだろうが!」

 中年の漁師の拳を回避した上で、キリアンがすぐさま間合いを取った。

「さっきの野郎、『始末しろ』って、殺せってことだろうが!」

 年老いた漁師が殺気だった目でキリアンを睨み、火の点いた木を武器のように振り下ろす。

「止めろって! おいちゃん落ち着け! 止めろっ! 止めろっ!」

 とび口の先端で漁師の手から木の棒を何とかして奪うなり捨てるなりさせようとキリアンも応戦するが、思ったようにならない。それだけではない。中年の漁師が加勢、キリアンへ飛び掛かった。

「この野郎! よくも親父にぃっ!」

「ちょっ!」

 馬乗りになられたりしてはたまらない。キリアンが振り向きざまに肘鉄を食らわせる。それは中年の漁師の頬骨のあたりに命中した。このとき、キリアンが体勢を崩してしまう。

「おわっ!」

 ここで年老いた漁師がキリアンへ体当たりした。それが決まり、キリアンは岩場に倒れた。それでもとび口を手放さない。

「ったく!」

 一瞬、ジャブジャブと波とは違った水の音が聞こえたが、火を手に馬乗り体勢になろうとする漁師を見るや、キリアンは横に転がってかわし、立ち上がろうとした。

「だから! 危ないって!」

「この、ならず者ー!」

 年老いた漁師が身体を起こそうとするキリアンへ、火が点いた木を振り下ろそうとしたときだった。




「止めろ!」

 女の声と共に青い花びらがその場を舞い、揉み合う3人の目に飛び込んだ。その場の全員が今、何が起きているか理解すると、動きを止めた。

「な!」

「お、お、親父っ!」

 中年の漁師がとっさに腕を引き、キリアンから年老いた漁師を引き離した。

「見ろ!」

 海側が視界に入ったとき、漁師親子は青ざめた。焚き火を挟んで向こうに、細身の剣を手にした長髪の美女が立っている。焚き火の炎が照らし出す端麗な容姿と金色の瞳、その身の周囲に舞う青い花びら。それらがすべてを語り尽くす。

「ら……ら……ラ・モルテ……!」

 年老いた漁師が腰を抜かし、その瞳が絶望に彩られる。中年の漁師も父親を抱きかかえ、震え上がった。漁師たちの脳裏をラ・モルテ(死神)伝説が駆け抜ける。


 青い花びらはラ・モルテが現れる証


「こ、こんなところで……そ、そんなっ」

 もう死ぬのか。こんなところで、ならず者と揉み合いになった挙げ句、ラ・モルテ(死神)に殺されてしまうのか。漁師たちが絶望したときだった。

「さっさと消え失せろ」

 女の口から発せられた言葉に、漁師たちは我に返った。質問をしたり、言い返したりしている場合じゃない。

「ら、ラ・モルテの気が変わらないうちに!」

「え、あ、そ、そうだ! は、早く逃げろ!」

 漁師親子は海へと一目散に走った。

「たっ、たっ」

「たすけてくれぇぇっ!」

 叫びながら走る親子は、灯りを掲げたヨットを見つけると、天の助けとばかりにそちらへ向かう。タヌとすれ違ったが、気づくことさえなかった。

「──早く船を出せ! ラ・モルテから逃げろ!」

「──早く! 早く!!」

「──早くしろぉぉぉぉ!!!」

 この世の終わりのような叫び声だった。DYRAはあんな声を久し振りに聞いた気がしたのか、振り返ることもなく、呆れた。

「オ、オネエチャン。た、助けてくれて、ありがとうなぁ」

 立ち上がったキリアンが海の方へ目をやると、近づいてくるタヌと、海へと遠ざかっていくランタンの輝きが見えた。

「あれ、ええの?」

「お前。タヌの父親、ピッポはどこだ?」

 DYRAが単刀直入に聞いたとき、タヌも到着し、キリアンをまっすぐ見る。

「キリアンさんがいるってことは、父さんもいるんですよね?」

「ぁ……まぁ」

「どこにいる?」

「さぁ。俺はここで漁師をどうにかしろって言われただけだし」

 キリアンがしれっと告げる。その様子にタヌは何かを感じ取る。

「父さんはこの近くで何かをしているってことですよね?」

「タヌ!」

 チーロが言っていた場所のことを思い出したDYRAとタヌは、そこに違いないと思う。

「DYRA、行こう!」

「待った待った!」

 DYRAとタヌが歩き出そうとすると、キリアンがタヌの腕を掴んで止める。

「ピッポさんならここで待っていればすぐに戻るって」

「あの男は信用できないんでな」

 DYRAがずかずかと歩きだそうとしたときだった。

 奥の方から、ふたつの人影が現れた。あたりは大分暗くなりつつあるが、辛うじて見える。男と女だ。

「──このクソアマ! 何をした!?」

 ピッポの怒鳴り声だった。

「と、父さん!!」

 タヌはキリアンを振り切って声の方へ行こうとするが、大の大人の腕を振り切ることができない。

「くそっ!」

 タヌの代わりにとDYRAが走ろうとしたときだった。

「オネエチャン! 行っちゃダメだ! こういうのやりたくないけど、戻って来るまで待ってくれ!」

 とび口の持ち手をタヌの顎下から首に押し当てる。殺す気は無いが、行かせる気もないという意思表示だった。

「ふざけるな」

 DYRAが手にした細身の剣を構える。青い花びらが周囲にふわふわと舞い上がった。


268:【OPERA】タヌが父親を追った先で待ち受けていたこと2024/01/05 15:10

268:【OPERA】タヌが父親を追った先で待ち受けていたこと2023/08/10 20:01

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