表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
264/330

264:【OPERA】大衆が何を言おうとも、アイドルがいれば動き出す?

前回までの「DYRA」----------

 DYRA、タヌ、RAAZはそれぞれ縁あった人間や置かれた今の状況を案じつつ、「時」が来るを待つ。マイヨはアントネッラが連れ出されたことや手に入れた日記の件とが気がかりでピルロへ舞い戻る。異様な状況を聞くと、思い当たるフシを察する。


 少年たちと別れたマイヨは、もう一度あたりを見回し、周囲に人やオオカミの気配がないことを確かめた。

(夜のうちに、できる限りのチェックはやったつもりだったけどね)

 マイヨは昨日、自分の根城代わりに使っていたドクター・ミレディアの部屋でDYRA、タヌ、RAAZと別れた後、日記解析の下処理をしてから、一度休息を取った。体力を完全に回復させた後、深夜、完全に寝静まったピルロに潜入し、主に街の中心があったあたりに無用な『文明の遺産』やそれに準ずるものを利用したものや、罠などが後付けで設置されていないかを重点的に見て回った。もちろん、植物園と邸宅の間に秘密の通路で繋がる地下室も例外ではない。さらに、植物園の一角にある秘密の部屋も覗いてからネスタ山側へ戻り、朝を待った。そして朝の街で動きがあったことを把握し、少年たちと遭遇して今に至っている。

 マイヨは、この文明下で自身が目を覚ました瞬間から今この瞬間までを思い返しながら、街の方へ鋭い視線を注いだ。


 RAAZの動向を確認していたとき偶然知ったDYRAのこと。


 彼女と会いたくて外の世界へ直接出たこと。


 フランチェスコで、RAAZと再会したが誤解されたままの現実を突きつけられたこと。


 彼自身で真実を突き止めさせなければRAAZの心は変わらない。そこで一計を案じた。自身が目を覚ますきっかけとなった、部屋への潜入事件、その『部屋へ手引きした者』を表舞台に引きずり出そうとしたこと。


 思惑とはだいぶ違ったが、結果的にハーランを表舞台に晒したこと。


 ハーランの目当てが『トリプレッテ』にあると知ったこと。


 すでにピルロにも手が回っていたこと。


 ハーランがアジトに使っている場所とピルロにある植物園の奥の秘密の部屋が繋がっており、日記という思わぬ物証が見つかったこと。


(『遺産』、いや、『トリプレッテ』は誰にも渡さない。この世界に愛想を尽かしたドクターが俺たちに遺したものだ。『ヴェリーチェ』を復活させるだの、その尻馬に乗って『文明の遺産』を横取りしようなんて連中に、指一本触れさせない)

 鋭い視線に僅かだが怒りの感情が宿る。それでもマイヨは感情を表には出すまいと抑えた。

 マイヨは必要な情報の優先順位を頭の中で精査する。

(まずはアントネッラのことか。子犬君の様子からこれは調べておきたい)

 感情論を抜きにしても最優先に近い。

(次にパルミーロの消息。で、ハーランの所在地。そういやディミトリがいたな。上手く引っ張り出してとっちめた方が良いか。いや、けど)

 迂闊に表に姿を出せば、自分の存在がバレてしまう。錬金協会はもうハーランに乗っ取られている。発信器の類を持たさせれていない保証もない。見つかったら面倒だ。だが、こんな鄙びた文明だ。安定した電源を確保できるとは思えない。使えるのはせいぜいワイヤレス、電波の発受信を使うなら、24時間以内が関の山だ。

(ネットワークがマトモに機能していないこの世界で、貧民街で衛星通信を利用して人捜し屋などという胡散臭い商売やってカネを集めていたっけ)

 それでも、あのときに築いた申し訳程度のインフラが残っている可能性も絶対にないとは断言しきれない。ワイヤレスの発信器や盗聴器くらいは頭の隅に置くべきだ。1日1回、交換するタイミングがあれば何とかできると警戒するくらいでちょうど良いはずだ。情報の伝達も、リアルタイムが無理でも回収スピードをそれなりに短縮することくらいはできる。事実、ハーランにも『文明の遺産』を使った移動手段があるのだから。

(俺がハーランなら、何をやるかな)

 相手のやりたいことから逆算して考える。

(『陛下』を何とかするなら、ヤツの優先順位の一番上は超伝送量子ネットワークシステムの確保だ。けど、その後、か)

 マイヨはハーランが考える可能性がありそうなことをいくつか思い描くが、この状況からではどれも今ひとつピンとこない。

(今できることは、情報を集めて無事に戻る。基本のキ、これだけとはね)

 誰にも見つからないように街へ舞い戻るべく、周囲に黒い花びらを舞い上がらせ、その場から姿を消し、移動した。


(消耗は控えたいが、時間が惜しい。やむを得ないか。一度行ったことがある場所なら、移動用マーカーつけているわけだし)

 マイヨはピルロの大公邸、何とアントネッラの私室がある部屋と繋がるバルコニーに姿を現した。外から見られないようにすぐに身を屈める。

(彼女が戻っているなら……)

 部屋を窓越しにチラリと覗いた。部屋が直近で使われた形跡はない。もとい、最後に彼女とこの部屋で遭遇したときとまったく変わっていない。中に踏み込むか否か、思案する。

 そのとき、窓越しのさらに向こう、廊下の方からか、微かに声が聞こえてきた

(男……?)

 内容はわからないが、会話だと辛うじてわかる。聞いてみたいと思うが、迂闊なことをしてはいけない。マイヨははやる気持ちをぐっと堪え、少しでも聴き取れないかと、聴覚に意識を集中する。

「──……戻れまし……ットさん。ありが……」

「──からが頑張……だ」

「──……は見つか……」

「──……ている」

「──……無傷で……」

「──……くれるなら……」

 声からして男ふたりだ。だが、途切れ途切れにしか聞こえない。

(話しているふたりは誰だ?)

 誰と誰かはわからない。それでも、「戻れた」という言葉が聞こえたので、朝、馬車で戻った人間だとマイヨは推測する。

(おかしいな)

 声がどちらもマイヨが知るディミトリのそれとは似ても似つかない。

(そういうことか。となると、仮説がふたつ。どう動くかな)

 マイヨはいったんこの場から離れようと判断した。そして、ここなら誰もいないだろうと、邸宅の屋根へと飛び移った。

(よしっ、と)

 邸宅の周囲に背の高い木があることが幸いし、よほどのことがない限り、見つかる心配は少ない。が、絶対はない。マイヨは極力目立たぬように身を屈める。

(いつぞやみたいにバルコニーで挨拶とかやらないのかな?)

 マイヨはアントネッラが以前、バルコニーで街の人々へ言葉を発したことを思い出し、待っていればそれを聞けるのではと、少しだけ待つことにした。

 時折、懐中時計を取り出して時間を確かめる。ほどなくして、集会場と化している時計塔から鐘が鳴り響いた。

(お、始まるか?)

 マイヨはカード型のスコープを出して、街の人々が大公邸の正面側に集まり始めるのを屋根の上から見る。すでに土砂がある程度撤去されており、集まるのに困る様子はない。

 聴衆が集まるだけ集まったときだった。

「皆さま。このたびは大変なご心配をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした。おかげさまを持ちまして、錬金協会の方とお話を終えて、戻ってまいりました」

 切り出した声が聞こえると、聴衆がどよめいた。マイヨがいる場所からでは、バルコニーで話す人物を見ることができない。ただ、声からしてアントネッラだろうとわかるくらいだ。

「これからお話することには、災害に打ちのめされたピルロの再建と未来が懸かっています。錬金協会と話し合った内容もご報告いたします。どうか、聞いて下さい」

 どよめきが大きくなる中で話が続く。

「戻るにあたって、錬金協会のディミトリ新会長がご一緒して下さいました。話し合いの結果、ピルロの再建に引き続きご協力いただけることになりました」

 聴衆から安堵の声が漏れ聞こえる。

「このとき、信じられないような話が出てまいりました。これからお話する内容については、私も驚いていますし、戸惑っています」

 聴衆が固唾を呑んで見守る。このとき、聴衆たちのどこからか、聞き慣れた子犬の吠える声だけが聞こえてくるが、話は続く。

「ピルロの真下に大きな『文明の遺産』があるというのです」

 すぐに「え」「本当だったのか」など、困惑の声が広がる。

「皆さま。私たちの街ピルロは、『文明の遺産』を発掘し、善きように使うことができれば、それが私たちの街を、ひいては世界を大きく発展させる力になると信じて進んでまいりました。それ故に、前会長の体制時、錬金協会とも激しく対立した時期がございました。ときは流れ、いくつもの災いが起こった果てに和解を果たした今、私たちに大きな選択肢が現れました」

 一呼吸置いた後だった。

「もし今、目先の生活を選んで復興すれば、『文明の遺産』の発掘が困難になります。つきましては──」

 聴衆のどよめきがこれまでとは比べものにならないほど大きくなる。

(おいおい。ちょっと待てよ)

 物陰で聞いているマイヨは僅かに眉間にしわを寄せる。

「今ここにいる小さな子どもたち、ひいてはまだ見ぬ子孫や未来のために、『文明の遺産』発掘をこの機会に一大事業として展開することを錬金協会側と同意した旨、ご報告いたします」

 少しの間、水を打ったようにその場が沈黙した。



264:【OPERA】大衆が何を言おうとも、アイドルがいれば動き出す?2024/01/05 15:06

264:【OPERA】大衆が何を言おうとも、アイドルがいれば動き出す?2023/07/03 20:00

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ