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258:【OPERA】錯綜し混乱する情報、人はそれをカオスという

前回までの「DYRA」----------

 アントネッラを匿うジャカはハーランにより部下全員を失いながらも、逃げ切ることに成功。キエーザの姿で彼女の前に現れる。

 部下4人を一気に失ったと聞き、アントネッラはすぐに気づいた。

「もしかして、私のせいかも知れません。私のこと、何人かで助けに来てくれていましたし」

「ええ。概要は聞いています。まず、事実だけお伝えします」

「はい」

 ランタンをテーブルに置き、アントネッラは椅子に座った。キエーザも向かい側に着席する。

「あなたを助けたジャカの部下はすべて殺されました」

「え!」

 アントネッラは両手を口元にやり、動揺を露わにした。

「ジャカも遭遇、彼は無事に逃げ切っています。追われることを恐れて、自分へ報告と引き継ぎを」

「まさか、錬金協会……」

「それはわかりません。ただ、人相は見ていると」

 部下を殺し、自分を襲った人間が誰か、顔で良いならわかっているのか。アントネッラは何となく嫌な予感を抱く。

「目元は板きれのような眼鏡、口元からこう、全体的に髭があったと」

 当てはまる人相で思い当たる人物はひとりだけだ。

「髭面だわ」

「髭面?」

 オウム返しでキエーザは呟いた。

「ジャカさんにも言ったわ。名前はハーラン。彼はお兄様を助けてピルロから連れ出して、トレゼゲ島にも行ったって」

 聞いていない情報が飛び出してきた。キエーザは慎重に聞き取りをする。

「どうしてそういう流れになったとか、聞いているか」

「はい」

 アントネッラは周年祭直前の出来事から一連の流れを説明した。聞き終えたキエーザは何度か小さく頷いた。

「あなたは事情を知らなかった? 本当に?」

「本当に、何も知らなかった。お兄様から聞いてびっくりした。私だけ、除け者だった。もし知っていたら、そもそもマイヨと……」

「マイヨと?」

「私、マイヨに助けてもらいながら、街を再建しようとしていました。再会したお兄様はそのことを嫌がっていました」

「ひとつ、聞いて良いかな?」

「何ですか」

「お兄さんと、その、マイヨ。究極の選択になったとき、どちらを信じるつもりでいる?」

「正直私、確信持てません。少なくとも、今の兄は、文明を発展させるためなら何でもやりそうな感じで、それこそ、その、取り残される人が出ても構わない的な距離感だし」

「あなたは街のためなら何でもできる?」

「それは、どういう意味ですか?」

「言葉の通りです」

「できる限りのことは」

「死に物狂いになれるか、ってことです」

 キエーザが問うたときだった。

 突然、ふたりの耳に外からガサガサとも聞こえる音が飛び込んだ。

「な、何?」

 アントネッラはドキッとして立ち上がった。キエーザも立ち上がると、カーテンで覆った窓の隙間から外を見る。

「どうしてそうなる!?」

「どうしたんですか?」

「入口を取り囲まれた……」

 キエーザの呟きに、アントネッラはぎくりとする。そして彼女も窓際に近寄ってちらっと見る。

「何あれ……!」

「小さいけど、あれアオオオカミですね」

「ええっ!?」

「1,2,3……6頭いる。そこから動かないで」

 アントネッラに支持してから、キエーザは別の部屋へ行き、そちらの窓からも外の様子を覗き見るとすぐに戻った。

「裏口も囲まれている。ざっくりでも12頭いる。だが、おかしいな」

 アオオオカミ12頭。だが、キエーザは疑念を抱く。

「逃げられないじゃないですか。なのに何がおかしいんですか?」

「あの数のアオオオカミが走ってくるなら、普通に考えたら街はパニックになりますよ? ましてフランチェスコは少し前、派手にやられていますからね」

 キエーザからの指摘で、アントネッラはハッとした。確かにその通りだ。

 これから一体何が起こるのか。身構えつつも冷静に構えようとアントネッラは何度も深呼吸をした。

 6つ目の獣、12頭のアオオオカミに取り囲まれた隠れ家で、アントネッラとキエーザは追い詰められていた。

「キエーザさん」

「差し迫った状況です。キエーザで」

 呼び捨てて良いと言われたアントネッラは、小さく頷く。

「キエーザ。あなた、あのオオカミたちが『飼い慣らされている』って言いたいのよね?」

 キエーザが黙って頷く。

「飼い慣らされたオオカミってことは、飼い主の意向で動いているってこった」

 その言葉でアントネッラはハッとする。

(あの六つ目のオオカミって、髭面のペットみたいなものってこと!)

 自分で考えて、2、3頭程度ならいざ知らず、あんな数が恐ろしいほどの統率が取れた状態で現れるなど普通ではないと思い直す。

(いいえっ!)

 今は、自分が理解できる常識で考えることこそ危険だ。アントネッラは首を軽く横に振った。ピルロでのことがいくつも記憶をよぎる。毎週のように氷があんなに都合良く四角い綺麗な状態で地下倉庫に届けられた。山の中腹にあった『魔法の泉』と称する場所から、燃え出す霧を裏地を漆で縫った麻袋に詰めて何重にもしばって届けられたことでランタンを使わない街灯があった。何よりも、冷凍することもなく人間の死体を腐らせることなく保存する技術だってあった。そして人を生きたまま紙に貼り付けたよう写真フォトグラフ──。

(もう、何でもアリだと思わないと! お兄様だって生きていたのよ!!)

 あらゆる災いのもとになる『何かが詰められた箱』があったとして、それが開いてしまったとするのなら──。

 アントネッラはここまで考えが及ぶと、今度は自分自身を納得させるように首を縦に何度か振った。


258:【OPERA】錯綜し混乱する情報、人はそれをカオスという2023/05/01 20:00

258:【OPERA】錯綜し混乱する情報、人はそれをカオスという2023/07/27 13:59


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