253:【OPERA】舞台の裏で、淡々と準備する者
前回までの「DYRA」----------
心の整理を少しずつ始めたRAAZ。DYRAは彼を襲った悲劇と、その心の痛みとを理解しする。だが、マイヨが手に入れてきた手掛かりはふたりに相互理解への時間を与えない。ハーランがかつての文明を再興するべく、RAAZの目を盗み、恐ろしく深いところで静かに、入念に準備していた──。
アンジェリカとキリアンと共にマロッタを出発したロゼッタは、メレトで1泊し、無事に西の都アニェッリへ到着していた。
「大公。執務邸の前までお送りすればよろしいですか?」
馬車が都の外側にある東門から無事に中へ入ったところで一度馬車を止め、ロゼッタが客室内のアンジェリカたちへ尋ねた。
「ええ。ここから少しいったところで東地区の役場があるから、そこへ行ってもらえるかしら」
「わかりました」
アンジェリカから行き先を指定されると、ロゼッタは再び馬車を走らせた。もう都へ入ったので、急ぎ足で走らせる必要はない。
アンジェリカの言った役場は2区画ほど進んだところにあった。平屋の建物はレンガ造りの建物だった。ただ、何かを混ぜてレンガを焼いているからか、普通のレンガより色が気持ち白っぽいのが印象的だ。
ロゼッタは馬車を止め、アンジェリカとキリアンを下ろす。
「2日間、ありがとう。ロゼッタさん? よね」
「はい」
「これからサルヴァトーレのお店へ?」
「はい。皆様のご連絡役をと仰せつかっておりますので」
「わかったわ。私との連絡役にはキリアンを」
アンジェリカが告げると、キリアンが自分の胸の高さに軽く手を挙げた。
「本当にありがとう。ちょっと待ってて。すぐだから」
そう言って、アンジェリカが足早に建物へと入った。入口のそばにいた受付担当らしき男性は、彼女の姿を見るなり驚き、奧へと走り出した。
(早速、わかる人間が出たのか?)
ロゼッタはそんな様子を見ながら、彼女のことを知っている人間がこの施設にいるのだと理解した。キリアンと共に待っていると、ほどなくアンジェリカがふたりの役場職員らしき男性を伴って出てきた。男性のひとりは小さな麻袋を持っている。
「このたびは、大公様を送り届けて下さったとのこと。ありがとうございました」
「サルヴァトーレさんのご厚意とのこと。いつもながらのお気遣いに感謝しております。こちら、どうぞ今日のお食事代と、車馬賃の足しにお使い下さい」
男が手にした麻袋をロゼッタへ差し出した。大きさから金貨10枚前後だろうとわかる。
「いえ。私はサルヴァトーレ様より頼まれたからこそ行ったのです。どうぞお気遣いはご無用に」
ロゼッタは言いながら返そうとするができなかった。
「お受け取り下さい。正式な御礼は明日、カンボン通りのお店へ伺った上で」
男たちと押し問答をしているときだった。
「ロゼッタさん。御礼と言うより、移動中の食事代や泊まりの実費だと思ってちょうだい。助けてもらって、サルヴァトーレに自腹切らせた、なんて噂が立つのはどちらも立場上、良くないから」
「お気持ちは有り難いのですが、困ります。どうしてもということでしたら、どうかサルヴァトーレ様へ直接お願いいたします。私は立場上、受け取るわけにいかないのです」
丁寧に辞退の挨拶をすると、ロゼッタは足早に馬車の御者席へ乗り込んだ。
「ロゼッタさん! お、俺も」
キリアンが言いながら動き出した馬車に飛び乗り、ロゼッタの隣に座った。
ロゼッタとキリアンが乗った馬車は、市内中心部へ向かってゆっくりと移動し、カンボン通りと呼ばれる高級商業地区へ到着した。そのまま通りの外れにある馬車停めへ向かった。
「どうして一緒に来た?」
指定された場所に馬車を停めると、ロゼッタは馬の1頭を外した。併設された厩舎への係員に預けながら、もう1頭を同じように外したキリアンへ尋ねた。
「大公がいるところはでっかいお城みたいなトコやろからだいたい想像つくけど、そっちの店は場所を確認しないとなー。当然だろ。オレが走るときもあればロゼッタさんが走るときもあるんだから」
「店まで来ると?」
「とーぜん」
キリアンがニッコリ笑って胸を張った。ロゼッタは少し呆れた顔をした。
馬を預けると、ふたりは通りの一等地にある、ガラス張りの店へと向かった。そこは、レンガや石造りの店が並ぶ中で、ひときわ目立つ。ガラスの向こうに見える店内には見本らしき服が何着も見える。どれも案山子を使って飾っており、服装のイメージがわかりやすい。男物、女物色々あるが、キリアンでもわかるのは、どれも仕立てが良いもののドレスの類ではない。どちらかと言えばおしゃれ着であることくらいだ。
「うわぁ! 泥棒に入られたらどうするん、こんなん!」
「お店は昼間しかやりませんから」
「夜はあぶないだろ?」
「洋服屋だからか、そう言った輩も不思議と来なくって」
ロゼッタは聞き流すような素振りをしてそう返した。
「それでは。こちらで失礼します。何かございましたら、私も大公がいらっしゃる建物へ出向きますので」
キリアンへ丁寧に挨拶をしてから、ロゼッタはスタスタと店へ入った。
(あの女、油断も隙もないなぁ。大公も無茶を言ってくれる)
店内へと消えたロゼッタの後ろ姿を見てからキリアンは難しい顔をして店から離れると、広場が見える方へと歩き出した。
(オレとしちゃカネをもらっているからアレだが、あの人も何考えているんだか、さっぱりわからん)
広場が近くなるとキリアンはざっと見回した。中央の噴水から少し離れたところでいくつか等間隔で置かれたベンチが見える。さらに小洒落た屋台らしきものも見える。屋台のまわりには3組ほどの簡易テラス席まである。
(お、メシとかあるかな)
キリアンはそちらへ走った。
「ねぇ聞きまして」
「ええ。時代が変わりましたわねぇ」
屋台でコーヒーとパンを買ったキリアンは、広場でのどかに過ごす人々の会話に耳を傾ける。なお、コーヒーのカップは木でできている。
「錬金協会のあのディミトリさん、若いだけでと思ったけど、やり手だったってことかしら?」
「だと良いんですけどねぇ。ピルロもようやく、錬金協会と大公様に逆らうのを止めたんだから、ねぇ。ほほほ」
人々のたわいない会話。その中から聞こえてくる興味深い話。キリアンは広場にいる人々の身なりや振る舞いに注目した。
(デシリオじゃ少なくともこんな連中見かけない)
この広場にいる人たちは恐らく、金持ちや知識人と言われる層だと理解する。少なくとも、生活に追われてあくせくしているそれには見えない。
(生活のことより、錬金協会がとか、他人の街がとか言えるとはな。さすが都の人ってことかよ)
キリアンは少しだけ不快感を抱きながら、広場の片隅でパンをかじり、コーヒーを飲み始めた。
(オレは仕事だからな)
軽食を取り終えると、屋台へコーヒーカップを返し、紙ゴミをゴミ箱に捨てた。
(大公のトコいくか。段取りの確認があるからな)
キリアンが広場をでたとき、時計台の時計は4時をさしていた。
キリアンと別れたロゼッタは、店にいる店員たちに気づかれることなく奧の部屋へ入った。扉に鍵を掛けてから、部屋の壁沿いにある本棚から一冊の本を取った。本があった場所の奧に小さな取っ手が見える。
彼女は手を入れて、それを掴み、引いた。すると、本棚自体がゆっくりと横にずれていき、隠し扉が現れた。
ロゼッタが本を持ったまま隠し扉の向こう側へ行くと、扉がひとりでに閉じ、本棚もそれまでと変わらぬ壁沿いのそれへと戻る。
隠し扉の向こうは人ひとりが通れる程度の、床、壁、天井が大理石できた通路だった。ロゼッタはそこを通り、突き当たりの壁にたどり着く。
(急がないと!)
ロゼッタは床と壁の境目にある、意識しなければ見つけられないであろう、ごく小さなくぼみに触れた。
少し待つと、背後からゴゴゴと音がなり、床から壁が突き上げるように現れた。これでもう、先ほどの部屋へは戻れない。
そこから先も、隠し扉や隠し階段をいくつもくぐり抜け、ようやく古びたぶ厚い鉄の扉がある場所までたどり着いた。ロゼッタは持ってきた本を開く。本は、ページをくりぬいて鍵が埋められていた。それを使って解錠した。扉の向こうにはまた壁にカムフラージュした扉。それを何枚もくぐり抜ける。
(ここは……)
登ったり下りたりを繰り返したので、地下何階なのか、それとも地上何階なのか想像もできなかった。だが、入った部屋には窓があるではないか。隅にカーテンがまとめられている。ロゼッタが窓へ地下より、外をちらりと見る。高さがあり、2階建てだとわかった。
周囲は森に囲まれており、人の気配は見えない。森の向こう側には、見たことがあるような建物がチラリと見える。
(あれは……大公の執務邸?)
ロゼッタは意外な場所に出たことを理解した。次に空を見上げる。空はすでにシトリン色が混じり始めていた。
(大公邸の北側、か)
位置関係を何となく把握すると、次に部屋を見回す。調度品はどれも上質なものばかりだった。家具は桃花心木製。テーブルに置かれたポットやカップ類、ガラスの棚に収められた食器類はすべて純白の陶磁器だ。部屋の反対側には暖炉もある。天井を見るとシャンデリアが美しい。部屋の片隅にひとり、立っている。
「お疲れ様」
部屋の隅にいた人物がロゼッタへ声をかけた。彼女はそれがすぐにRAAZだとわかった。
「遅くなりました」
「大丈夫。むしろ、大公や用心棒がキミへ怪しい素振りを見せなかったかが心配だった」
「お気遣い痛み入ります」
挨拶を終えると、RAAZが部屋の壁の一角を占める本棚へ行くと、薄い真鍮の箱を取り出した。それをテーブルに置くと、次に紅茶を用意し、ロゼッタに着席を促した。
「ロゼッタ。頼みごとをするたび、二転三転してすまない。よもやここまで情勢が一気に変わるとはこちらも思っていなかった。こんなことにならなければガキに張りついてもらいつつ、ガキの親父を始末した後、フォローしてもらうだけのはずだった」
「会長の責ではございません。ご安心を」
「そう言ってもらえるのが救いだ」
(会長は何だかんだで縁あった方へはお気遣いを怠らない)
当初、最後はタヌを殺すのではないかと心のどこかで気にしていたが、それは杞憂だった。自分の主がこの男で良かった。ロゼッタは心底から感謝した。
「キミは私にあまり意見を言わない。でも今は、いくつかのことで、キミが何を思うか率直な言葉や印象、意見を聞きたい」
「おっしゃって下さい」
「まずはピルロだ。キミは2度、あそこへ行った。2度目に行ったとき、どんな些末なことでも良い。不審な様子はなかったか? 具体的には双子まわりだ」
「容器に入れられ、液体に漬けられた死体のことでしょうか?」
「それも含めて」
「ひとつの街の大半が燃えたからこそ故で、確証はありません。それを踏まえてなおとのことなら」
問いに、ロゼッタは2度目にピルロへ行ったときのことを思い出しながら、言葉を探す。そんな彼女を視線の動きも逃さないとばかりにRAAZがじっと見る。
「被災してかなりの人間が亡くなったと思われます。辛うじて無事だった決して多くない人たちは広場に集まっていました。集会場のような場所です。そのときは被災した人々に余裕がなかったのだろうと思った程度でしたが。敢えて言うなら……言うなら……」
「私はキミが率直に感じたことを受け止める。なので、子どもじみた妄言まがいのことでも言ってくれて構わない。キミも、キミ自身の感覚を信じろ」
優しく諭すRAAZに、ロゼッタは2度頷き、喉の奥から引っ張り出すように言葉を紡ぐ。
「あの街は、周年祭のときに施政者ルカレッリが殺された。アントネッラがルカレッリに入れ替わった。街は焼かれ、残ったのはアントネッラと行政官アレッポ。アントネッラは彼女なりに被災者を助けようと奔走。そしてあの騒ぎが起こり、行政官が死に、山崩れ騒ぎになった……」
これを言って良いのだろうか。だが、聞かれている以上は自信を持って言わなければ。ロゼッタは一呼吸置いて、紅茶を口にしてから告げる。
「『ルカレッリを殺したのはアレッポだ』と騒ぎになった割に、彼が死んだことを悲しんでいる様子がないのです」
被災者にとっては自分や家族が安全であり生活再建が第一。そう考えれば不自然でも何でもない。しかし、そのことを差し引いてもである。愛されていた若い市長、施政者という評判が立っていたはずだ。ロゼッタが違和感を抱いたのはそれだけではない。
「街の人々を見る限り、求心力があったのは役所で働く現場の管理職と、実際に外へ出たアントネッラです。ルカレッリの名前はほとんど出てこなかった」
報告を聞いたRAAZは何とも言葉で言い表せぬ表情をする。一番近い表現があるならどう判断すれば良いか即答できないそれ、だ。
(そこまでで考えられるのは……)
RAAZがここでひとつ、考え得る可能性を思い浮かべた。だが、口にはしなかった。
「ロゼッタ。ありがとう。その話、参考にする」
「はい」
ロゼッタは、RAAZに役に立つ情報だったなら良かったと安堵した。
「それからもうひとつ。頼みたいことがある」
RAAZがそう言って、持ってきた真鍮の箱を開いた。
「何なりと」
「面倒なことを頼みたい」
RAAZが改まった口調で切り出したことに、ロゼッタはほんの少し、身を乗りだす。テーブルには箱から出された中身が並んでいた。何枚かの符合らしき板、折りたたまれた地図、やや大きさがある宝石箱、そして見たこともない、手のひらと同じくらいの大きさをした金色の四角い薄い板。ただし、板は切り取り箇所があり、それに沿って切ると、小指の爪ほどの大きさにくりぬけるようになっている。
「知っての通り、錬金協会は乗っ取られるし、街にその周知が急激に広がっている。それだけでも面白くないが、この騒ぎにガキの親父の件も絡まっていてな。それで、キミに行ってもらいたいところがある」
「かしこまりました。私はどこで、何を?」
「これから説明するが、先に言っておく。これは厳秘だ。明らかに味方とわかる顔ぶれであっても口外無用だ。良いな」
RAAZがそう言いながら、ティーセットを退かして地図を真ん中に広げる。
「これは……」
ロゼッタは、地図を見て驚いた。2枚重ねになっており、薄い灰色で描かれた地図は勝手知ったるものだが、上に重なった青で描かれた地図は知らないものだ。特に、西の都からさらに西や、レアリ村より東、そしてデシリオから海に出た南側が詳細に描かれている。
(都より西は、こんな風になっているのか)
「ロゼッタ。今から行く場所を正確に暗記しろよ? 地図はこれしかないからな」
「はい」
「キミに向かってほしいのは、ここだ」
RAAZが指差した先は、青の地図だけに描かれている。西の果ての海岸線だった。ロゼッタは地図を指差しながらルートを確認しながら、頭にたたき込む。知っている地図には何も書いていない。
「この西の果てを海岸線沿いに歩いて行くと洞窟がある。そこの奧に、アメシストに似たガラスでできた花に見えるものがある。そこでこの板をくりぬいて、小さいものだけ差し込んできてほしい」
依頼内容を見ると、行き先に土地勘がないことこそ若干難易度を上げるものの、やることそのものは極めて単純でわかりやすい。
「わかりました。このあたりは人も船も通らない、この認識で間違いございませんか?」
「アニェッリから西に出て、港から海沿いに西へ行けばカモラネージ村がある。この漁村が海沿いではここが一番端だ」
「わかりました。そこからはどのくらいの距離で?」
「馬は使えない。大きな船も使えない。徒歩でいくなら足場が良くない。カモラネージ村から休み休みで歩いて半日は掛かる。ただ、地図のない場所だ。夜盗に遭遇する心配がない」
「夜盗はもちろん、人に遭遇する心配がないと」
「そうなる。オオカミ共についてはキミの場合は心配ない」
ロゼッタは護符の存在を思い出す。
「それで完了後だが、戻る頃にはアニェッリも一波乱起きているだろうからな。マロッタで息子と合流して、安全な場所へ移動しろ。必要な資金も用意してある」
RAAZはそう言って、符合をロゼッタの前に置いた。
「キミの名前で両替所や預かり所に作った口座だ。自由に使って良い」
「ありがとうございます」
「最後になるが、キミの息子エルモは必ず守らせる。店長もあの店で面倒を見ることになった日からずっとそのつもりでいるから心配するな」
最後に、RAAZが薄い宝石箱を差し出した。ベルベットで覆われた薄い箱で、指輪が数個収まっていそうなものだ。
「キミは危険を顧みず、長く私に尽くしてくれた。ささやかだが、その謝礼だ。全部終わってゴタゴタが収まったら次の冒険を考えるも良し、安住も良し、だ」
この言葉で、ロゼッタは今回の役目が今まででもっとも大きく、大切なものであり、絶対に失敗が許されないこと。そして最後の役目になると理解した。わき上がる緊張感を何度かの深呼吸で鎮めた。
「ロゼッタ。夜、極力誰にも見つからないように港へいけ。埠頭の一角に船で輸送するときに使う大型箱に偽装した隠し滞在所があるからそこで休める。夜明け前に動き出すんだ」
「わかりました」
「最後にもう一度。他言は無用だ。誰にも何も絶対に行き先も目的も明かさないこと」
「はい」
「頼んだ。この先、世界がこのまま何事もなく日々を過ごせるか、『文明の遺産』に振り回される騒乱を迎えるかは、キミに掛かっている」
RAAZは地図だけを持って、ロゼッタが入ってきたのとは違う扉から部屋を出た。
部屋に残ったロゼッタは、慌ただしく準備を始めた。
1時間ほど使って準備を済ませると、ロゼッタは顔はもちろん、ボディースーツ姿を隠すように頭から爪先まで黒の長い外套で覆い、建物の外へ出た。大邸宅への用事を済ませた風に素知らぬ顔で森を思わせるようなデザインの庭を蛇行する石畳の道を歩き、敷地の外へ出て、街へと向かった。
道中、誰かに怪しまれたり尾行されたりすることもなく、街中へ戻り、雑踏へと溶け込んでいったロゼッタは、瓦版配りの少年が通り行く人々へ熱心に声を掛けていることに気づいた。
「最新情報だ! 大変だ! ピルロが和解した速報だよ!」
ロゼッタも少年の前を通り、瓦版を受け取ると、そのまま通り過ぎ、手近な四つ角で足を止めて見出しに目を通す。
(えっ……!)
思わぬ見出しに、ロゼッタは目を疑った。
アニェッリ大公と錬金協会、ピルロと和解!
見出しのすぐ下には、アンジェリカとディミトリ、それにアントネッラが3人並んで手を重ね合い、和解を象徴するような写真が掲載されていた。
(大公と、会長を裏切った錬金協会と、ピルロ)
またしてもロゼッタたちにはまったく馴染みのないオンデマンド印刷。白黒とは言え、ご丁寧に例の、写真まで掲載されている。だが、そこへ興味を示す余裕はなかった。
(あのときのマロッタで……)
サルヴァトーレとアンジェリカが話していたあのとき、ロゼッタは直感的に会長へ面倒を起こすと確信めいた気持ちを抱いた。
(でも、アントネッラさんは)
彼女が累を及ぼす存在になるとは思えない。これは一体どういうことなのか。脅されたりしているのではないか。ロゼッタはアントネッラの身を案じながら、夜の港へと向かった。
253:【OPERA】舞台の裏で、たったひとりで準備する者2023/03/27 23:06
253:【OPERA】舞台の裏で、淡々と準備する者2023/07/27 13:15