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250:【OPERA】悲劇の舞台で聞く凶報、DYRAは心境の変化を知る

前回までの「DYRA」----------

 ペッレの宿屋にも間者がいるのか? いや、何か違う。全体的な雰囲気が違うのだ。この文明すべてがもう敵。マイヨはついに決断、RAAZへひとつの質問をぶつけた。「俺をまだ疑っているか」と。


 マイヨが声を掛けると、RAAZは黙って頷いた。

「寄るだろ?」

 もう一度。無言のまま頷く。

「わかった」

 入った部屋は、部屋の真ん中に6人用のテーブル、椅子が4脚置かれた小会議室だった。他に目につくのは空気清浄機くらいだ。

(ミレディアの……)

 RAAZは部屋を見回しながら、懐かしむ。仕事部屋に人を入れたくないと常日頃愚痴をこぼしていたミレディアが、打ち合わせのときに使っていた場所だった。

 テーブルには|ガラス板状の薄型情報端末タブレットが2台と、小指の爪より小さな板きれ、そして古びた本が2冊置かれていた。

「マイヨ。これは?」

「見ての通り、日記帳だよ。1冊はタヌ君の鞄から借りてきたものね」

 その言葉を聞きながら、RAAZは変装するために前髪を留めていたヘアピンを外したり、ハーフアップの髪を解いたりしつつ、テーブルにある小さな板きれに目を留めた。それは自分たちの文明下でごく普通に使われていた記憶媒体(メモリ)だと一目でわかった。

「で、誰にも聞かれず、急いで話したいこととは何だ?」

「俺は2回、ハーランのヤサに忍び込んだ。2回になったのは、アンタのとこの密偵さんを連れ戻したり何だかんだあったからだけどさ」

 RAAZはロゼッタを連れ戻してほしいと言ったときのことを思い出す。同時に、彼女の安否も気に掛けるが、いったん、思考から追い出す。

「ご足労いただいたのは、外で話せない、最悪の大収穫を報告するためだ」

 最悪と大収穫は、普通に考えればおかしな組み合わせだ。DYRAは怪訝な表情を浮かべた。

「RAAZ。ハーランのヤサに、俺の生体端末(バイオ・ターミナル)、ケースが4基あったこと、言ったよな?」

「ああ。マロッタで聞いたな?」

「実はあの時点でこの記憶媒体を入手していた」

「何だと?」

 何故そのことをもっと早く言わなかったんだ。RAAZがそう言いたげなことくらい想像がつく。マイヨは淡々と続ける。

「アンタの密偵さんを送ったり、大公サンやらキエーザの件やらで時間が取れなくてね。それで報告が遅れた。要するに『人手が足りない』ってヤツだ。焦って調べてウィルスだのバックドアだの喰らいたくない」

 焦って云々のくだりはその通りだ。RAAZは納得した。

「解析したのか?」

「集落に行く直前、捨てても良いスタンドアローンのタブレットに差し込んでざっと調べた」

 テーブルにあるタブレットの一台を指しつつ、マイヨはさらに続ける。

「1回目の潜入ではその媒体、そして仕切り直しで潜入したときには思わぬ発見があった」

 RAAZもDYRAもマイヨを見る。

「まず軍の施設、つまりこっち側へ潜入できる秘密の通路がやっぱりあったんだ」

 RAAZの眦が僅かに上がる。DYRAは詳しいことはともかく、今いる場所への隠し通路があったと理解すると、まずいのではと言いたげな顔でふたりを見る。

「どうして秘密の通路があったかなんて、作られた経緯も含め、今となってはもう調べようがないし、いつぞやタヌ君のお父さんたちに入られた時点で外部へのルートはすべて遮断済み。だから、この部分はいったんそこまで。大収穫はこれとは別で、割と最近作った秘密トンネルがあったってことだ」

「割と最近、だと?」

 RAAZの表情が一気に硬くなった。DYRAも我が耳を疑う。

「ああ。ハーランのヤサから繋がるよう、こっちの文明の連中の手で作ったものってことだ」

「本当か!?」

「事実、俺はそこを通って地上へ脱出した。どこへ出たと思う?」

「どこだ?」

 全員が固唾を呑む。

「ピルロ。よりにもよって、植物園の隠し部屋だ」

「植物園? 隠し部屋?」

 RAAZが思わず口にした。マイヨは驚くその様子に無理もないと言いたげに頷いた。

「俺もその存在とだいたいの場所は知っていたけど、実際中に入ったことはなかった」

「お前ならあの小娘を誑かせばどうとでもできただろう?」

「誑かすなんて人聞きの悪い。入口を探そうとするときに限って、アントネッラが飼っている子犬君が来ちゃうんだよ。それでできなかった」

「隠し部屋とハーランのアジト。繋がっていた時点でグルと見て妥当だな。私がピルロを燃やしたとき、あのタイミングで都合良く出てこられたのも納得だ。それに、人捜し屋とかいう胡散臭い商売。……あとはどの程度繋がっていたか次第か」

 その情報は確かに収穫だ。錬金協会と距離を取っていたピルロが実はハーランと繋がっていた。これまでの出来事と辻褄が合う一方、そんな単純か、とRAAZの中で次の疑問が浮かぶ。

「ああ。で、もうひとつ、これだ」

 マイヨはここで、2冊の古びた日記帳を指差した。

「この日記によると20年以上前から繋がっていたんだ」

「待て」

 RAAZはカッと目を見開いた。これにはマイヨはもちろん、DYRAもRAAZの声や表情から怒りの色が滲んでいることに気づく。

「20年以上前だと? ハーランは起きるなりすぐに動いていたってことか!?」

 そんな気配はまったくなかった。RAAZは見抜けなかった自分の甘さに毒づいた。一方、DYRAは話の内容を頭で処理しきれず、視線を泳がせる。マイヨは持ち帰った方の日記帳を指でトントンと叩きながらも事務的な調子で淡々と報告を続ける。

「だが、ヤツはほとんど直接動いていない。触媒役になったのは別のヤツだ」

 触媒役。DYRAとRAAZは誰なのだと視線でマイヨへ問う。

「目を覚まして早い段階でアンタがいるとわかったハーランは表立って動けない。見つかればアンタに即、殺されるし。そこで最初に顔を合わせたヤツを利用したんだ」

 マイヨはマロッタで錬金協会の副会長と話したときのことを思い出しながら、続ける。

「タヌ君のお父さ……いや、ピッポだ」

「ガキの親父がハーランを覚醒させ、手足になった、か」

「そしてハーランはピルロを押さえようと、当時のピルロのエラいさんへ接触した」

 DYRAはタヌの代わりにしっかり聞かなければと、意識して耳を傾ける。

「マッシミリアーノか。それとも、その前のレンツィか」

「レンツィは2代、いや、3代掛かりで協力している。ジイサン、親父さん、そして……」

 ここでRAAZは「全員、敵」の意味が完全に腹に落ちたからか、忌々しげに舌打ちした。それでもマイヨは構わず話す。

「恐らく数年前、ハーランは秘密の通路をピッポへ教えて、俺がいる部屋のそばまで行かせた。ハーランが自分で行かなかったのは、アンタに存在を察知させないためだろう。目当てはもちろん、3つの『鍵』だ。でも、見つけられなかった」

「3つの『鍵』。強欲な奴らめ」

「けれど実際、そのうちのひとつをハーランの目を盗み、ピッポはくすねた」

「はぁん。で、……その後でハーランから姿をくらましたピッポは、次に私を嗅ぎ回ってふたつ目の『鍵』を盗んだわけか。一瞬とは言え、ふたつの『鍵』が同じ場所に集まっていたとはな。良く奪われずに済んだものだ」

「ピッポもアンタも、悪運が強かったってことだ」

 どこかおどけた口調でマイヨが呟いたときだった。

「RAAZ、マイヨ」

 DYRAが小さく挙手した。

「確認したい。今の話で行けば、ピルロとハーランはグル。この認識で良いのか?」

「最初だけはね。今の距離感は正直、見えないんだよ」

「もう一つ。ハーランはどうしてピルロを選んだ?」

「自分の陣地からすぐ近くだったってのがタテマエ。あとはちょうど真下がここに繋がっていると思っていたからだよ。言い方を変えれば……」

 答えを聞いたところで、DYRAはRAAZを見た。それを口にするなとばかりに厳しい表情だった。


250:【OPERA】悲劇の舞台で聞く凶報、DYRAは心境の変化を知る2023/03/06 20:00

250:【OPERA】悲劇の舞台で聞く凶報、DYRAは心境の変化を知る2023/07/27 13:00

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