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244:【VERITA】マイヨが見た、毒々しい真実

前回までの「DYRA」----------

DYRAへの性的暴行など論外だ。RAAZは不逞の輩をさっさと始末したが、それはDYRA自身を思っての行動ではなかった。タヌはそのやりとりを目の当たりにしてDYRAが可哀想だと思わずにいられない。DYRAもまた、失望を喉の奥に押し込めた。

 キエーザと会った後、RAAZと別れたマイヨは再びハーランがアジトのように使っている施設へ潜入した。もちろん、暢気に山歩きなどしていない。前回同様、目印をつけたところまではすぐに移動した。前回はロゼッタを連れ戻してほしいと頼まれていたので、潜入時、ハーランが外部を監視するために利用していたモニター部屋までしか見られなかった。今回はさらにその続きだ。

(ここを根倉にしているなら、もう少し何か手掛かりがあるはずなんだ)

 前回同様、爆発した大穴から潜入し、階段を下りていった。タヌたちが捕まっていたとおぼしき部屋を通り抜けさらに階段を下りる。前回進んだ方向とは反対に歩き出し、さらに下へ行かれる階段を見つけた。

(せっかくの機会だ。タヌ君のお父さんがハーランと出会った場所やら、電源やら、何やらかんやら、できることを全部やるのみ)

 反対側にあった長い階段を下りていくと、これまた施錠されていない扉があった。開いた扉の向こうに廊下が見える。マイヨはこちらの廊下へ足を踏み入れると、罠はもちろん、先ほどの画面で見たカメラの存在を意識しながら移動した。

 部屋の奥に隠し扉があった。現在はもう隠す理由もないとばかりに開いていたので、その役をまったく果たしていない。特に何か仕掛けられているわけではないのを確認すると、マイヨはそっと足を踏み入れた。部屋は寒く、厚手の外套がなければ、長時間の滞在はごめん被りたいところだ。そこは、前回潜入した際、モニター越しで見かけた部屋だった。

(なるほど……)

 マロッタの錬金協会で副会長から聞いたことを思い出す。

(ここで、『俺』を見つけた、か)

 01、03、04、15と表示された容器がそこにあった。

(以前、錬金協会であのジイサンから聞いた話を突き合わせると)

 部屋の奥、または奥側の出入口を通り、最下層に行かれるエレベーターがあるはずだ。マイヨは部屋をざっと見回す。

(あー。こっち側が隠しの入口、向こうが建前上の入口、と)

 監視カメラを上手く避けながら部屋の反対側へたどり着くと、そちらの扉から退出した。

 広く、長い廊下に出たマイヨは、腕を組み、合点がいったと言いたげに天井を見上げる。

(設計的に最初からここは、死刑囚の収監所名目に『多目的空間』として作っておいて、本当の目的が確定した段階で改装したのか)

 どう見ても収容所などではない。むしろ、政府側が軍施設を監視するための秘密基地だ。

(炭素繊維の床や壁、天井。さっき通ったあの区画が恐らく、見つかって良い場所とそうでない場所との境界線なわけか)

 今まで通ってきた場所の方がアリバイ施設(・・・・・・)だったとは。だとすると、評判とだいぶ違うではないか。政府の施設など、軍関係者がどこもかしこも見るわけではないのでそんなものかと思う一方、逆にそれを突かれたからこそのこの施設ではないのか。マイヨは内心、舌打ちした。

(境界線のこっち側は、軍が把握できていなかったエリアってことか)

 マイヨは奥まで歩き、やがてエレベーターホールまでたどり着いた。

(これか)

 エレベーターで下に下りたいが、動かせば記録に残ってしまい、潜入したことがバレてしまう。マイヨは手近に階段がないか探したが、下へ向かうそれはなかった。

(時間が惜しい。今できることをやるしかない。すぐにできることがあるとすれば、こっち側の出入口がどこに繋がっているかの確認くらいか)

 さらに周囲を歩き回り、上へ行かれる階段を見つけたマイヨは、困ったことになったと言いたげな顔をした。

(螺旋階段か。足音注意だな)

 それでも一気に駆け上がった。階上にはまたしても扉。扉の向こうから気配を感じないか、罠や監視カメラがないかを確認した後、僅かに扉を開いて向こう側を覗き見た。

(ない、な……)

 扉の向こうに広がる、今までのものがどれも短く感じられる長い廊下が現れた。廊下の先がまったく見えない。おまけに急勾配もある。

(何だよこれっ!?)

 レイアウトを見る限り、廊下という表現はまったく相応しくない。距離的な話だけならこれはトンネルか何かだ。行き着く先がどこなのか想像もつかない。

(行くしかないか)

 今更逆戻りするのも癪だ。マイヨは時計を取り出して時間を確認した。7時。しまうと、果てしなく続く廊下を全速力で走り出した。

 軍人としてはもちろん、情報将校としても、長距離を極力体力の消耗を抑えて移動する訓練を受けている。3日3晩走り続けたこともある。あれに比べれば、この廊下だかトンネルだかわからないような場所を走るなど、どうってことはないはずだ。景色が変わらないので時間の感覚がなくなりそうになるのが嫌なところではあるが。


 トップアスリート選手並のスピードでひたすら走り続けたので、相当な距離を移動したはずだ。言いたくないが、普通の人間ならその場に倒れ、最悪絶命しているほどに。

 ようやく、明らかに異なる空気感に満ちた場所まで来ると、マイヨはスピードを落とした。

(地上が、近いのか?)

 床のあちこちに微量ながらも細かく砂や土が付着している。それを見て、この近くに扉、もしくは出入りできる場所があるのではと直感する。

(山の方を走ったってことか? だが……)

 移動した時間はかなり長いはずだ。マイヨは時間を確かめる。

(おいおいおいおい)

 1時が迫っていた。

(6時間ノンストップか)

 厳しい訓練を受けていたことに加え、ナノマシンがもたらす再生や回復能力の恩恵があればこそできる無茶だった。ざっと考えても、ピーク時は時速30キロ近くで走った。どんなに少なく見積もっても数十キロは移動したはずだ。それでも、体内で自己生成させ続ける能力を持っているDYRAやRAAZのようにはいかない。無理無茶をするならその分の消耗は激しいし、早めのナノマシン充填が必要だ。

(タイムアウトになる前に、地上に戻ったら即、退散だな)

 土がこぼれた痕跡をたどって、マイヨは出入口を探した。しばらく歩くが、土は落ちているのに扉が見当たらないのだ。

(落ち着け。誰も、『壁に扉がある』とは一言も言っていない)

 床と天井へも視線をやると、何と、天井に手動式の機密扉を見つけた。どう見ても、後から付け足したようにしか見えない。腕ほどの直径があるバルブを回して開閉するタイプだ。腕を伸ばせばギリギリで届く。マイヨは早速これを回し、開いた。

 扉を開くとバルブを両手で掴み、逆上がりの要領で上へ移動してから扉を閉めた。たどり着いたのは真っ暗な、坑道にも似た地下道だった。

 アーチ型で、幅は人ひとりが辛うじて通れる程度。石の床が敷かれている。何よりこれは、本来の文明世界で使っていたものではない。後から作ったもの、場合によっては今の、この文明下で作られた可能性すらある。

 普通の人間ならランタンがなければ絶対に歩くことはできない。幸い、マイヨはある程度なら暗がりでも見ることができる。が、安全確保のため、ゆっくりと歩き始めた。

(ネズミ1匹いないってことは、それなりの使用頻度があって、かつ、逃げ道の隙間すらない)

 あれこれ考えながら進むうち、突き当たりになった。そこの壁には、鉄のU字型突起物が規則的に付けられている。

(タラップ?)

 ハシゴ代わりに設置しているものではないか。マイヨはすぐに上り始めた。それなりの高さを上ると、天井に当たった。そこだけ木でできていた。

(扉なわけね)

 木の一辺に蝶番がついている。押して開けるものだとわかると、マイヨはゆっくりと開いた。

(誰もいない、みたいだな)

 たどり着いた場所は書斎らしき部屋だった。そこかしこ書き損じた書類などが散らかっており、本棚からは本が落ちている。ちなみに窓はなく、空気は地下道の空気が流れ込んでくることを差し引いても、恐ろしく湿っぽい。

(えらい散らかりようで……)

 マイヨは机に目を留めた。やはりここも散らかっている。足下に散らばっている数多くの本に混じって、机の下に1冊のぶ厚い本を見つけた。それだけは、落ちているというより、隠しているとも取れる。それを手にする。と、早速中を見る。

(あれ? これ日記?)

 マイヨは最後のページからめくり、書いてある箇所を見つけた。

(『ピルロの周年祭まであと10日』……)

 書き出しを見るや、マイヨは食い入るように読んだ。

(……!)

 すぐに今度は日記の最初のページを見る。そこには20数年前の日付で何かが書かれており、筆跡も違った。マイヨは戻ってゆっくり調べようと、失敬することにした。

 長居しないに越したことはない。次に、外に出られる扉を探す。

(あれ?)

 マイヨは扉と、その足下あたりにある、猫程度なら通れそうな小さな隙間、そしてそこに落ちているものに目を留めた。

 白い、動物の毛だった。

 マイヨが面食らったような表情をしたときだった。

 隠し扉のあるあたりの小さな隙間から、白い何かがほんの少し、動いて見えた。

 翡翠のトップがついた首輪を付けている、毛足の長い、白い子犬だった。ぐっすりと眠っていた。

 見た瞬間、マイヨは一瞬、嘔吐感に襲われた。

(想定外どころか、想像外だった。RAAZを恨むつもりはないけど、最悪だ。最悪すぎる)

 マイヨは長居は無用とばかりに、扉をそっと開いた。

(やっぱり)

 見覚えのある、夜の植物園だった。

(誰が脚本を書いた? 誰と誰が知っている? 準備に何年使ったよ?)

 マイヨは自分の中で、ピルロに対してほんの僅かに抱いていた好意的な感情が綺麗さっぱり消えていることに気づいた。そして、それに対して何も感じない自分自身にも。

(場合によっては、文字通り、『世界は全部敵』って奴かもね)

 黒い花びらを舞わせながら、その場から姿を消した。


改訂の上、再掲

244:【en-ROUTE】タヌ、人生最大の選択 2022/10/03 20:00

244:【VERITA】マイヨが見た、毒々しい真実 2023/02/08 15:33


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