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242:【VERITA】居場所のない死神、再び

前回までの「DYRA」----------

DYRAとタヌ。RAAZ。ピッポ。一堂に会した。集落の人間たちはDYRAを売女呼ばわりした挙げ句、彼女が身体を捧げるのを止めたから自分の文明が滅びたと詰る。ワケがわからない言い分にDYRAは怒りを堪えきれなくなる。

 恐怖と絶望。それと同時に、完全に相反するギラついた輝きを放つ瞳でウーゴがDYRAを見つめる。よろめいた足取りで、ウーゴが手を伸ばせば彼女に届くところまで近寄ったときだった。

「まだ、言うか……!」

 DYRAは再びその手に青い花びらを舞わせた。細身の剣を顕現させると、そのままウーゴの心臓の高さへ振り上げた。

「もう一度、繁、栄、を……」

 ウーゴは貫いてくれて結構、却って都合が良いとばかりにそのまま一気に距離を詰めると、DYRAの腰に抱きつくと、そのまま彼女を下敷きにする形で倒れた。はずみでDYRAは剣を落としてしまった。

「!」

 それは身体の自由を取り戻そうと動き出すより、一瞬早かった。DYRAのスカートのスリット部が一気に破られ、下着の下腹部に指が入り、下着が引きずり下ろされた。

「……!」

 DYRAは覆い被さるウーゴを退けようと、精一杯の力を込めて両肩を押した。さらに膝を上げて、横に退かそうとも試みるが、男の臀部が太股から膝に掛けて重なっているためそれもままならない。

「ぐっ!」

 DYRAの下半身が露わになったとき、ウーゴは顔を引き攣らせ、目を見開いた。

「なっ……!」

 女の下腹部を見たとき、ウーゴは絶句した。

「そ、そん、な……」

「人違いと、今さらわかったとでも……?」

 DYRAも憔悴しながら呟く。そしてさっさと退けとばかりに馬乗りになっているウーゴの両肩をもう一度、強い力で押した。

「ふ……ふふ……」

 ウーゴの表情が変わるのを、DYRAはハッキリ見る。このままでは、まずい。これはマトモな表情ではない。獣が獲物を見つけて喜ぶそれだ。

「うああああああああっ!」

 DYRAは蛇腹剣を顕現させると、両手で直列状の剣を握りしめ、ウーゴの左側鎖骨付近に突き刺した。

「ぶふぉっ……!」

 ウーゴの動きが止まった。だが、それで重さがなくなったわけではないので、馬乗り状態から開放されたわけではない。剣身を伝って、DYRAの手にも血がつく。だが、それは赤い液体ではなく、むしろ、オイルではないかと思わせるほど赤黒い。

「な、何?」

 人間とは思えぬ色の血を見て、困惑の色が浮かんだとき、DYRAは足音が近づいてくるのを聞いた。

「ガキ! 来るなっ!」

 信じられいほど鋭く、大きなRAAZの怒声だった。

 続いて、DYRAの身体からウーゴが剥がされ、自由が戻る。RAAZがウーゴの後ろ襟を掴み、頬を殴りつけると一気に手近な地面に放った。

 DYRAは立ち上がろうとしたが、RAAZの姿が目に入ったとき、できなかった。

「や……止めろRAAZ! タヌの父親が逃げているっ! まだ殺すなっ」

 そう叫ぶのが精一杯だった。その声がRAAZに届くことはなかった。

「──!!」

 RAAZの激しい怒声、いや、獣にも似た叫びが響き渡るや、DYRAはRAAZにタヌがいる方へ軽く突き飛ばされた。続いて、周囲に赤い花びらの嵐が沸き起こる。

「やかましい──!」

 RAAZから突き飛ばされたタヌは、今まさに起きている出来事を目にした瞬間、恐怖のあまり力一杯目を瞑り、耳を塞ぎ、全身の筋肉を強ばらせた。だが、撒き散らされる臭いだけは消せないからか、吐き気を催してしまう。DYRAはその壮絶な模様をタヌに見せまいと、自らのあられもない姿のことなど気にもせず、壁の役になる。


「楽に死なせるかあああああああっ!」

 怒りにまかせ、RAAZは赤い花びらを舞わせながら、諸刃の大剣でウーゴを滅多刺しにした。

 雲間から日が差し始め、海が輝く。だが、そんなものは誰の目にも入らなかった。

「よくもおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 刺し続けている間ずっと、RAAZの脳裏にあの日(・・・)あの瞬間(・・・・)が掠めていた。

 感情を暴発させるRAAZは死体を刺し続けるのを止めなかった。もはや、すでに原型どころか人の形すらも留めておらず、ミンチ同然だ。

「ぁぁぁぁぁ──!!」

 赤い花びらが無数に舞い上がり、RAAZが手にした剣がその形を変えていく。ルビー色の刃を持つ諸刃の大剣から、刃の部分から雷のような閃光を放つそれに。そして、その剣で無残な肉片を刺したとき、炎が上がった。

「その腐り果てた根性諸共……滅びろおぉぉぉぉ──!!」

 叫びと共に、赤い花びらと金色の輝きが混ざった、爆風にも似た圧がRAAZのいる場所を中心に広がった。

「!」

 DYRAが爆風のような圧はもちろん、RAAZから広がる念にも似た圧からタヌを守ろうと、覆い被さるように抱きしめた。

 ほどなくRAAZの周囲に広がる赤い花びらの嵐が収まっていき、その手にあった剣も霧散した。DYRAはタヌからそっと離れ、地面に残った灰が風に乗って綺麗になくなっていくのを見ると、立ち上がり、肩で息をするRAAZの側に立った。

「……怖かっただろうに……」

 RAAZの呟きが聞こえた。DYRAは謝意を伝えようとした。が、その言葉は喉のところで止まった。もう、その言葉を発する必要もないし、その価値もない。

「……悲鳴も上げられず、助けも求められず……キミは、恐怖と絶望の中で……本当に……ごめんよ……」

 RAAZが瞳を僅かに潤ませ、手をブルブルと震わせている。それを見たDYRAは失望にも似た感情を抱え、そっと離れた。

 タヌはおそるおそるDYRAとRAAZの方へ近寄ると、DYRAがあまりにも深い溜息を漏らした瞬間を、その表情を、まともに見てしまった。

(DYRAにひどいことをされたから、じゃなかったの……?)

 DYRAが今、どんな感情を抱いているのか、タヌでさえ手に取るようにわかる。

「……」

 RAAZが何かを呟いた。タヌはそれを聞き取れなかった。

 DYRAは黙ってRAAZを見るだけだった。しばらく肩で息をしているなど興奮状態だったが、少しずつ落ち着きを取り戻していくのがわかる。同時に、DYRAの心に何かが音を立てた気がした。何かにヒビが入るような、ピシッとした音にも似ていた。

(結局……死んだ女か)

 DYRAは地獄絵図そのものと化した集落の方へ踵を返すと、よろよろと歩き出した。タヌはすぐに追い掛けようとしたが、止めた。その背中から、あまりにも悲しい何かが伝わってくるからだ。

「ミレディア……怖かっただろう。悲しかっただろう。私が守れなかったばっかりに……」

(奥さん!)

 タヌは、こんな状況でも亡くなった奥さんのことを口にするRAAZに、DYRAが感じた悲しさがそのまま自分の心に突き刺さった気がした。

 タヌは意を決して、口を開く。

「RAAZさん。今、守ったのは、DYRAですか? それとも……」

 言葉を最後まで紡げなかった。

「ミレディアの、無残な姿がそこにあった」

 RAAZからの返答を聞いたとき、タヌは目に涙を浮かべた。

「あの、DYRAが、奥さんとそっくりじゃなかったら、助けなかったかもって……?」

「そこまで考えが及ばなかった」

 タヌは何も言えなかった。それでも、ここで引き下がってはいけない気がした。

「ボク、父さんがまだこの辺にいないか、見てきます。だ、だから、だからDYRAのそばに行って下さい」

 そう告げるのが精一杯だった。

 タヌがその場から離れ、RAAZが一人になる。

「DYRAが……?」

 タヌの姿が少し遠くなったところで、RAAZはゆっくりと歩き出した。


改訂の上、再掲

242:【en-ROUTE】居場所のない死神、再び 2022/09/19 23:00

242:【VERITA】居場所のない死神、再び 2023/02/08 15:26



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